浮力モデル実験のホントとウソ | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 『いきいき物理わくわく実験1』の「動きまわる砂はまるで水」でも紹介された分子運動により浮力が生じるというのを見せるモデル実験。

 

 この実験は、もともと岩波映画『動きまわる粒』や『物理学入門』板倉・江沢著(国土社)などで紹介された実験です。『いきいき物理わくわく実験1』では参考文献として上の2つがあげられています。

 『いきいき物理わくわく実験1』ではガラスの粒が、水分子のかわりに使われています。『いきいき物理わくわく実験1』より前には、砂や米粒がよく使われていました。

 

 ぼくはお手軽に手に入るBB弾を利用しています。最近は100円ショップでも手に入れられますが、大量に必要なので、モデルガンのお店で買った方が割安かもしれません。(ぼくはモデルガンのお店で購入しました)

 

 この実験の起源はわかりません。板倉さんの仮説実験授業で紹介されたのが最初かもしれません。でも、板倉さんが仮説関連の本で紹介した実験には、それに先行する科教協(科学教育研究協議会)の発表から生まれたものがけっこう含まれているということが、知人のSさんの研究により、少しずつわかってきました。この実験も、本当の起源は科教協の研究かもしれません。

 

 ところで、この実験は『いきいき物理わくわく実験』のせいではないと思うのですが、わりと広く「浮力のモデル実験」として授業で紹介されています。

 

 ですが、本当にこの実験装置が浮力発生のしくみをモデル化しているかというと、あやしいところもあります。ぼくもこの実験を浮力のところで見せることもありますが、水分子が物体に衝突することで圧力を与え、それが浮力の原因になっているという浮力の原理を、このモデルで説明することは控えています。(水平面や浮力といった、水の様々な性質が、水分子の運動で見えてくるというイメージ実験として位置づけています)

 

 実際にこの実験をやってみるとわかるのですが、この装置でピンポン球が浮いてきたり、鉄球が沈んでいく現象は、水分子が物体に衝突することで与える圧力の合力である、という浮力の現象とは異なるメカニズムによるものです。

 

 たまたま、二ヶ月ほど前、自然科学部が研究しているテーマに関わるということで、顧問の先生からこの件に関連した相談を受けました。ぼくが「この実験はよく浮力モデルとして教育実験で使われているけど、じつは浮力モデルとしては正しくないんですよ」というと、顧問の先生はびっくり。

 

 ここで、『いきいき物理わくわく実験1』の記事「動きまわる砂はまるで水」に用いたイラストを見てみましょう。

 

 

 図1はよく見せる実験です。ピンポン球が浮いてくるのには、けっこうな時間がかかります。水の中ならあっというまに浮いてきます。これは水分子の速度に比べて、砂粒(ぼくの実験ではBB弾)の速度が非常に遅いためともいえます。

 

 ・・・が、実際にこのモデルで起きていることは、水分子の運動による圧力現象ではなく、振動すると砂粒とピンポン球の間の摩擦が減ることで、砂粒がピンポン球の周辺で重力によって下方へ動きやすくなり、その結果としてピンポン球が浮いてくるというものです。砂粒の衝突による圧力差が浮力として働いているわけではありません。

 

 『物理の散歩道』の「宇宙線とマッチ」にも、この装置のしくみについての記述が少しありますが、やはり、振動させることで摩擦が減るというしくみであると書かれていますね。

 

 それは図2の実験をすれば、すぐにわかります。

 

 砂を水に見立て、浮力を測る実験ですが、実際にこの実験をすると、鉄球が受ける浮力(?)はアルキメデスの原理には合いません。図2に「↑?」を追加したのは、それをハッキリさせるためです。

 

 

 まず、使用する重りの重さを測ります。200gwでした。

 

 

 この通り、200gwですね。

 

 浮力を調べるため、重りを水に浸します。

 

 

 はかりの読みを拡大すると・・・

 

 

 重さが20gwくらい減っています。(アルキメデスの原理によれば、この重りの体積は20ccくらいだということですね)

 

 さて、いよいよBB弾によるモデル実験です。

 

 

 BB弾を入れたペットボトルの中に重りを沈めてあります。振動を与えない状態では、はかりの読みはなんとでもなりました。0gwから200gwまで。(もっと大きな値にすることもできます)

 

 それは、重りがBB弾からの摩擦力や抗力を受けているからです。重りをどんな深さに沈めてもそのまま止まっているので、「浮力」は決まりません。

 

 マッサージ機でペットボトルのBB弾に振動を与えると、どうでしょうか。

 

 もし、このモデルが本当に水中の浮力を正しく再現したモデルなら、水に入れたときと同様に、押しのけた「液体」(この場合はBB弾の集団にあたる。正しくは流体でなく、粉体)の重さと同じ浮力を受けることになります。

 

 水とBB弾では簡単に比べられませんが、何gwかの浮力を安定して受けるようなら、浮力モデルとして機能しているはずです。

 

 しかし、実際にこの実験をしてみると、BB弾から受ける摩擦力はあまり減らず、振動を与える前の実験結果と同じになりました。つまり、「浮力」は測定不可能だったのです。

 

 BB弾のモデルの原理はさきほどちょっと述べた通りですが、もう少し詳しく書くと、次のようになります。

 

 例えば、BB弾をつめたペットボトルの「水面」に重りを置いて、振動を与えると、たしかにじわじわと鉄球は沈んでいきます。

 

 でも、それは、動くBB弾と重りの間にスキマが生じ、そのスキマに重りが少しずつ落ち込むことで起こる現象でしょう。この場合、沈みつつある重りが受ける力の大部分は、重りの底面にあるBB弾から受ける抗力です。したがって、この力は非常に大きく、重りの重さにつりあうほどになります。浮力モデルで考えたときの「押しのけたBB弾の重さ=浮力」の十倍以上の力です。

 

 逆に、この重りをもっと深い位置に押し込んでやると、はかりの示す値は200gwより大きくなってしまいます。

 

 このとき、重りがBB弾から受けている力は、重りの上面に乗っているBB弾の集団が摩擦力で一体化して重りを引くはかりの力に対抗していると考えられます。(摩擦が強いと、上に乗っているBB弾の重さより大きな力になるでしょう)

 

 ぼくはガラス粒や砂粒では実験したことがないので、全否定はしにくいのですが、粉体は流体とはずいぶん性質が違うので、少々運動を加えても、流体のモデルにはならないと思います。(なお、自然科学部が砂に空気を送って行った実験では、浮力が見られなかったという結果になったと、顧問の先生から聞きました)

 

 図3の例のように、粉体に運動を与えたとき、流体の性質の一部が現れる、というモデルとしては使えるでしょう。

 

 図3と似たような実験は、ぼくもよくやります。BB弾をざーっと透明な箱の中にこぼすと、砂山のような山ができます。箱にマッサージ機を当てて振動させると、山はさーっとくずれ、BB弾の「水平面」ができます。

 

 これも、粉体が運動することで流体の性質を示すようになるというデモンストレーションとしては優れていると思います。でも、これをそのまま流体のモデルとして扱うのはどうでしょうか。

 

 流体中の分子は、モデル化したBB弾の粒とはずいぶん違います。

 

 分子相互に働く力(分子間力)でお互いの距離が決まり、それによって全体の体積も決まりますが、BB弾相互に働く力はマクロな抗力や摩擦力で、それによって、お互いの距離が決まるわけでも、全体の体積が変化するわけでもありません。基本的な構造が違うものを、似たような現象が起こるからといってモデル化して扱うのは、よろしくないと思いますね。

 

 以上、反省を込めて、思うところを書きました。(ぼくも『いきいき物理わくわく実験』シリーズの執筆者の1人ですので)

 

 では、このへんで。

 

 

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