上のイラストは、『いきいき物理わくわく実験1』の「ゴム磁石の浮力モデル」の記事用に描いたものの一部。
イラストに活字で書き加えましたが、この実験、すごく面白いのに、今はかんたんにやれなくなってしまいました。その理由は、のちほど書くことにして、まず、この実験の原理から。
この実験が開発された当時、市販のゴム磁石はまだ登場したばかりで、ゴム磁石の表面と裏面がそれぞれ単純にN極、S極に磁化された単純なものでした。
そこで、ゴム磁石にハサミを入れ、細切れにすると、その一つ一つの破片もN極とS極を1つずつもつ、小さな磁石になりました。
それを容器に入れ、そこに60Hzの変動磁場をかけると、磁石の破片がおどるように跳ね回ります。
これを、熱運動する分子のモデルとして扱ったのが、この実験でした。
こちらは、少し前に紹介したBB弾をマッサージ機で揺らす浮力モデルとは違い、分子運動による浮力が生じるメカニズムの再現性が高いモデルです。
ゴム磁石の破片が水や空気の分子に当たりますが、ちゃんと重力による密度分布の違い(高いところほど密度が小さく、低いところほど密度が大きい)が見えます。
実際の浮力も、分子の密度が重力により異なることで生じていますので、ゴム磁石実験のほうは、かなりよい浮力モデルとして紹介できます。見た目の面白さもじゅうぶんですね。
・・・
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・・・
・・・ところが。
イラストに書いたように、現在売られているゴム磁石は、鉄への吸着力を高めるために、縞模様状にN極とS極が並んだ構造をしています。
これを細かく切ると、破片は複数のN極とS極をもつ多極磁石になってしまいます。
変動磁場をかけても、いきおいよく跳ね回るということはありません。ぶるぶる震えながら、容器の底を徘徊する程度です。浮力モデルとしては、まったく使えません。
ぼく自身も、かなり前のことになりますが、この実験が突然うまくいかなくなったことを覚えています。そのときはなぜかわからなかったのですが、原因はもちろん、市販されているゴム磁石が多極タイプに切り変わったことでした。
今の職場の自然科学部が、実験テーマに関連して、浮力のモデル実験を使いたいといってきた話は前に書きましたが、そのときにこの実験も紹介しました。ゴム磁石の多極化の話もして、昔のような単純なゴム磁石が手に入れば、すぐにできる実験だと。
100円ショップの安物ならひょっとしてと、ぼくも購入して試してみたのですが、やはり多極タイプでした。
ところが、自然科学部の顧問のIさんは、あきらめませんでした。
高校生の発表会用の特別な予算があったので、それを利用して、理科業者に昔のようなゴム磁石が手に入らないかと相談。業者が知っている磁石工場で、特注品として作ってもらったというのです。
厚さ1ミリ、20センチ×30センチのゴム磁石で、3,000円だったそうです。
それでやってみた結果が、こちら。
まず、装置の概略から。
容器はぼくがそのへんにあったものを探してきて使いました。100円ショップの綿棒がはいっていた容器です。
そこに、特注のゴム磁石を細かく切った破片を入れ、変圧器の演示装置の鉄心に250巻きのコイルを入れ、変圧器につなぎました。
変圧器の電圧が0のとき。ゴム磁石の破片は互いにくっつきあって、砂鉄のようにひとまとまりになっています。白いのは、やはり他の実験用に使っていた発泡スチロール球です。
変圧器の電圧を上げると・・・
破片の動きが速くて、写真に捕らえ切れていませんが、飛び交う破片が球に当たって、球が空中に浮いています。
さしあたっての動画(加工も何もしていません)をYouTubeにあげましたので、下記のリンクでご覧ください。
では、また。
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