少し前に書いた記事「浮力モデル実験のホントとウソ」が話題を呼び、理科教育のメーリングリストでさまざまな意見がでました。
今回は、その一連のメールをまとめてみました。(メールを書いた方たちには、転載の許可を得てあります)
最初はある程度まとめて記事にしようかとも思いましたが、そのままの形で再録した方が意味があるかなと思い、加工せずにそのまままとめました。
特に物理教育に感心のある方には、非常に興味深い内容だと思います。
文中に出てくる「奥村」はぼくのことです。なお、他の方々の個人名は全部イニシャルにしてあります。(本名でも問題ないと思いますが、議論の内容が重要だと考え、個人名はイニシャルにしました)
では、ご覧ください。
*** 浮力モデルについて、メーリングリストの意見交換のまとめ ***
【ひろじ】
職場の自然科学部の研究と関連して、顧問や生徒と少し話したことを、ブログ「ミオくんと科探隊」に書きました。
有名な浮力モデル実験(砂粒などをバイブレーターで振動させてピンポン球が浮かんでくる実験)についての話です。
『いきいき物理わくわく実験』にも載っていますが、ぼくは浮力の正しいモデルとは思っていません。
それを、少し書きました。
興味のある方は、ご覧ください。以下のリンクです。(以下、記事「浮力モデルのホントとウソ」へのリンクURL:省略)
【HHさん】
奥村さんの記事に賛同します。
私も昔「つぶつぶ論」で生徒達に得意になって流体を話していた時期がありました。
『浮力を米粒やガラスビーズの振動によるモデル実験で説明するのは問題だ!』という指摘をSNさんと話している時に言われた記憶があります。私がまだ現役の頃でしたから、もう15年以上前ではなかったかと思います。
「流体」を「つぶつぶ論」で説明すると破綻が出ることは、自分が興味ある「揚力の問題」で顕著に出ます。
「いきいき物理わくわく実験」にあるように電球やペットボトルや巨大風船がブロワーの噴流で浮かぶのは「コアンダー効果」による揚力によることがわかり、(菓子缶のような角型のものが浮かぶ時は渦も大きく影響していると思う)流体をつぶつぶ論で説明してはいけないことを実感しました。
20年以上前になりますが、輝いている電球が空中に浮かんでいる映像のビデオテープをベルヌーの定理では説明しにくい旨を付けて東京三鷹にあった東大付属の「航空研究所」の教授(水ロケットで繋がりができた)のところに送ったところ、「電球を浮かしている力はベルヌーイの定理ではなく、「コアンダー効果」による力で、私たちが研究している短距離離陸飛行機『飛鳥』に用いている原理です」『面白い映像なので授業にも使わせてもらいます』と返事をもらいました)
(「コアンダー効果」という言葉は愛知物理サークルでは十数年受け入れてもらえなかったように思います。揚力は「ベルヌーの定理」という方が主流だったように思います)
電気抵抗のパチンコ台モデルと同じようにモデルを使うときはそのモデルの限界を常に知っておく必要があることを奥村さんの記事で再認識しました。
【TTさん】
私は浮力のモデルとして使ってもいいと思います。
ただし、どんなふうに使うかが問題ではないでしょうか。
水の流動性も分子運動がなければ生じません。
したがって浮力も生まれないのではありませんか。
奥村さんが指摘しているようにこのモデルを利用して浮力の値を求めるようなことをしても無意味だと思います。
私もずいぶん昔のことですが、SNさんからこのモデルに関して意見をもらったことがあります。
同じ比重でも砂粒が大きなものと小さなもので浮き沈みも違ってくるというのです。
そのとき言われたように確かに振動により大きな粒と小さな粒は異なる動きをすることになるでしょう。
またこのモデルでの米粒の動きを見ていると静止などしていません。
対流も起こしています。
当然どんなモデルでも使えるときと使えないときがあるのです。
分子運動をイメージいやすくするようにこのモデルを使ってもいいのではありませんか。
これを用いればブラウン運動も想像できるのではありませんか。
これを使ってはいけないとするならばどのように分子運動をイメージすればいいのでしょうか。
またモデルはどのような場合に使えるのでしょうか。
今回愛知科教協で私が発表した細胞膜を作る物質の分子模型は使ってはいけないのでしょうか。
リン脂質の分子は発泡スチロールで使った分子模型とは性質は全然違います。
部分的には熱振動をしていたり、回転の自由度もあるはずなのに発泡スチロールの模型はそれを表しません。単結合と二重結合の違いもあまり表現できていません。
部分的に欠点のあるモデルを使ってはいけないのでしょうか。
モデルの限界を知りつつ使えばいいように思います。
子どもたちが飛び回る分子の考え方ができ創造性豊かになってもらえるようにするきっかけになればいいのではないでしょうか。
【YHさん】
この実験の位置づけが、「浮力のモデル・類似実験」というよりも、「流体(液体・気体)の特徴は〈動き回る粒子の存在〉であることの可視化」だと思います。
水分を含んだ砂浜は固いが、その砂に振動を与えると剪断応力(摩擦力)が小さくなり、液体のように振る舞う。
すなわち〈液状化現象〉で、ビルが沈み込み、傾き、土管が浮き上がる。
そういったモデルとして最適であって、浮力の大きさまでは求められないと思います。
参照:『いきわく3』p118の「ペットふりふり“液ジョーカー”」。
問題の『いきわく1』の〈図2〉〈図4〉の実験を僕はやったことがないのですが、〈図1〉の実験で、バイブレーターをペットボトルのどの部分に接触するかによって、粒子の動きも違ってくることも含めて、奥村さんの実験結果は、当然だと思います。
しかし、「この実験は浮力の導入として不適当」とまでは言えないと思います。
取り扱い注意!ということでは・・・・?
【ひろじ】
YHさんへ
>しかし、「この実験は浮力の導入として不適当」とまでは言えないと思います。
ええと、「 」の中の文章は、引用のように見えますが、ぼくはどこにも書いていません。どこからこの文章が現れたのでしょうか。困惑しています。
メールでは、「ぼくは浮力の正しいモデルとは思っていません」としか書いていません。
また、ブログの記事でも、そのような表現はいっさいしていないと思います。もう一度、読んでいただければと思います。
ブログの記事では、「水分子が物体に衝突することで圧力を与え、それが浮力の原因になっているという浮力の原理を、このモデルで説明することは控えています」「水平面や浮力といった、水の様々な性質が、水分子の運動で見えてくるというイメージ実験として位置づけています」と書いています。
TTさんへ
>分子運動をイメージいやすくするようにこのモデルを使ってもいいのではありませんか。
>これを用いればブラウン運動も想像できるのではありませんか。
>これを使ってはいけないとするならばどのように分子運動をイメージすればいいのでしょうか。
ブログの記事を読んでいただければわかると思いますが、ぼくがこの記事で指摘しているのは、この実験が分子の衝突による圧力差により浮力が生じるというモデルにはなっていないということです。さきほどのYHさんへのコメントで書いたとおり、イメージ実験(分子の動きによって流体のさまざまな性質が表れる)として使う分には問題がないと思っています。でも、それをそのまま、実際に起きている浮力の原理として教えるのはどうか、という問題提起です。
物理教育実験と、本当の物理の理論の違いを押さえておくのは、必要なことだと思っています。
ところで、もしよろしければ、YHさん、TTさんのご意見も、ぼくのブログで紹介したいのですが、いかがでしょうか。HHさんからは快諾をいただいているので、対立する意見として紹介したいと思っています。
【YHさん】
奥村さんが指摘されたように、「 」は誰かの引用ではなく、単に強調したかったので、誤解をまねく表現だったことを、訂正しお詫びいたします。
議論の方向が、「 」の内容で進みそうな懸念をかってに私が抱いたので、このようになってしまいました。
実験の持つ意味と、位置づけは、奥村さんと全く同じです。
そのように訂正の上、「対立する意見」と言うよりも、異なる意見ということで、活用をお願いします。
【TTさん】
私の意見もブログでそのままでもいいし、脚色して紹介していただいても結構です。
このままメールで議論を続けることですれ違いが起こらないか心配です。
まだよくまとまっていないけれど次のようなことも気になります。
ここでの議論と全く関係がないことなのかもしれませんが、気になることを書きます、
1.アルキメデスの原理をこれで数量的に説明するのはできないと思いますが、利用するモデルに使うものに流動性があれば定性的にならば分子の衝突による圧力差でも考えられるのではないでしょうか。
2.地震のときにガソリンスタンドのタンクやマンホールが浮き上がるのはなぜでしょうか。
3.地震がなくても地面に穴を掘ったときには土圧が問題になるが関係ないのでしょうか。
4.私は摩擦が少ない方がいいのではないかと思い、ガラスビーズを使いました。BB弾では摩擦が大きく効くのではないでしょうか。
5.私も地震の話をするときにこのモデルを使って液状化の話をしたこともありましたが、YHさんの挙げている液状化の場合には水の存在が重要で似ているところがあるけれど、全く違う現象だと思います。
【IYさん】
奥村さんの実験に大変興味を持ちました。
添付ファイルのような実験をやってみました。
ご意見を!
次の物理サークルで実験を紹介できたらと思います。
【YYさん】
IHさんの実験を見ていて、ブラジルナッツ効果なのかなとも思いました。
大きさの違う様々なナッツ(ピーナッツとかくるみとかいろいろなナッツ)が入った缶を揺すると、粒の大きなものが上に浮いてくるというものです。
なんの理論検証もしていません、ただ思っただけですが。
【SNさん】
盛り上がってますね。実験を見られないのが残念です。
浮かぶピンポン玉は私自身は面白いので使っています。ただし、”本当は”という注釈付きでです。
この現象が浮力のためではないことはずっと以前(10年以上前)に物理教育研究会で議論していました。やはり、摩擦があるから浮力以外の効果で浮くというものでした。詳しい話は物理教育研究会の会報をチェックするか、Uさんあたりの先生に聞くといいかも知れません。
ついでながら、その後、サイエンスショップで容器内の砂の中の鉄球が容器を振ると表面に移動するというおもちゃが売っていました。
【ひろじ】
みなさんの意見もブログで紹介したいのですが、よろしいでしょうか。
また、TTさん、YHさんの追加のメールも紹介したいと思いますが、よろしいでしょうか。
IYさんのPDFファイルは(もしできたら)JPEGにするとぼくのブログにも絵として載せられるので、可能なら紹介したいと思っています。
みなさんの意見の紹介は、メーリングリストのメールをそのまま紹介する形で、意見交換の記録をまとめるページみたいにしたいと思っています。
ぜんぶまとめて並べると、浮力モデルについての議論の俯瞰図のようなものができると思っています。
*** 以上 ***
いかがだったでしょうか。
この浮力モデルは歴史が長く、愛着の深い先生方も多い物理教育実験です。
YYさんの書いた「ブラジルナッツ効果」という名称は、ぼくは知りませんでしたが、この実験についてのぼくの解釈は、まさにこれです。詳しくは「浮力モデル実験のホントとウソ」をご覧ください。
もとになった記事「浮力モデル実験のホントとウソ」および、関連する記事「ゴム磁石の浮力モデル、今と昔」は、次の関連記事のリンク先をご参照ください。
では、きょうは、このへんで。
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