エントロピーの実験 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 ぼくが長年勤めている高校では、1年の授業は、毎年この時期になると、熱がテーマ。

 

 物理基礎では、熱力学第二法則は「不可逆変化」として扱い、熱力学第二法則については欄外でちょっと触れる程度。

 

 このへんは、時代により教科書の構成が変わります。物理1で熱力学第二法則を扱い、物理2には触れていないことも。

 

 そもそも、物理を2つにむりやりわけることが、矛盾の始まりですが、選択制が普通になった今では、やむを得ないカリキュラムですね。

 

 ぼくは、昔から、「お上」のカリキュラムには関わりなく、「高校物理で教えるべき内容はここからここまで」というプログラムを組んでいますので、10年ごとのいきあたりばったりの指導要領の変化にも、あまり影響をうけずに授業をしてこられました。(どっちにせよ、必要な内容をきちんとやっておかないと、大学受験に対応できない)

 

 エントロピーは、そのまま直接大学入試に出題されることはありませんが、環境問題が重要な課題となった現代では、むしろ、物理基礎でこそ教えるべき基本知識だと思います。

 

 エントロピー増大法則を知らないで環境問題を論じても、とんちんかんな結果にしかなりませんから。(このあたりのことは、また別の機会に書こうと思います)

 

 今回は、エントロピー増大法則(熱力学第二法則)を簡単にしめすことができる演示実験(教室でのかんたんな生徒実験として行うこともできます)を紹介します。

 

 

 

 こちらは手作りの装置。

 

 100円ショップの透明ケース(小物入れ)に、白、黒の碁石をそれぞれ8個ずつ、左右にわけて入れてあります。

 

 この状態を見せてから・・・

 

 ケースを何度か振ると・・・

 

 

 左右それぞれ、白黒が混ざり合います。

 

 碁石ひとつひとつの動きは、右から左へ、また右へと、可逆的ですが、碁石の数が増えると、不可逆になります。

 

 不可逆変化は熱力学第二法則による現象、つまりエントロピー増大法則による現象です。

 

 孤立系のエントロピー(でたらめさ・無秩序さ)は増大していく、という法則です。

 

 このあと、いくらケースを振っても、最初の状態には戻りません。

 

 でも、この実験、碁石の数をたとえば、白黒2個ずつで行うと、何回か振るともとの状態に戻るんですね。

 

 つまり、熱力学第二法則は「多数の粒子がかかわる現象」に特有な法則なのです。

 

 この数をもっと増やしたものが、100円ショップに子供用のおもちゃとして売られています。

 

 

 オレンジと青の球が、透明ケースにいれてあります。

 

 普通に振っても(つまり、自然な物理現象ですね)、2色の球が混じり合った状態は解消できません。

 

 片方をオレンジだけ、片方を青だけにするためには、人工的な作業をする必要があります。

 

 すべての球を片側によせ、そこから片方へ、青なら青の球だけがうつるようにします。(ちょっとやってみれば、比較的簡単な手順で青だけをうつす方法がわかります。根気はいりますが)

 

 こういった例も見せると、エントロピーと生物の関係もわかります。

 

 生物を物理で見る研究分野(生物物理など)では、生物の物理学的な定義のひとつは「エントロピーを食べるもの」になります。

 

 生命活動は、自然環境のエントロピーを減少させます。一番かんたんな例として、ぼくはいつもこんな例をあげています。

 

 きみたちがいつも使っている家の机の上は、どんどんちらかる。これは、自然の法則にのっとって、エントロピーが増えているだけだ。でも、ある日、突然、机の上がきれいになっていることがある。それは、たぶん、きみたちのおうちの人(例えばお母さん)がきみたちの机の上を片づけてくれたんだろう。おうちの人の活動つまり生命活動は、まわりのでたらめさを減らすことができる。だから、生物は宇宙の法則にさからって、エントロピーを減らしているといってもいい・・・

 

 つまり、生物はマクスウェルの悪魔(でたらめの国のミオくん)によく似た活動をするわけです。

 

 でも、「でたらめの国のミオくん」(もしくは、『いきいき物理マンガで冒険』の「でたらめの国」)では、万能に見えるミオくんでも、まわりのエントロピーを減らす作業をするとき、ミオくんの体内でエントロピーがそれ以上に増えてしまうことを書きました。

 

 これは、レオ・シラードが計算したマクスウェルの悪魔についてのエントロピー計算にならったものです。

 

 生命活動も、一見、まわりのエントロピーを減らしているように見えます。例えば人間が家を作る場合、あちこちにある材料を集めてきて非常に整理された一件の家屋を造りますから、エントロピーがずいぶん減少しているように見えます。でも、家の材料を作るとき大量のゴミがでますし、材料をトラックなどで運搬する家庭でも排気ガスや熱が発生しますから、すべてを合計すれば、エントロピーはやっぱり増えてしまうんですね。

 

 さきほどのおうちの人が机の上を片付ける例も、机の上だけ見ればエントロピーは減少していますが、作業にあたったおうちの人のエントロピーはそれ以上に増えますから、やはり全体のエントロピーは増えることになります。

 

 宇宙の法則は、そんなにかんたんには破られませんね。

 

 では、このへんで、ひとまずさようなら。

 

 

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