人間が生きる上で、常に付き纏う普遍的なテーマである「死」。それを如何にして受け入れていくのか。なかなか答えを見出すことが出来ない問題かもしれない。音楽によってそれを表現し、そのアンチテーゼを投げかけ、音楽によってその意味を訴えている作品、それがマーラーの交響曲第2番といえるかもしれない。そう感じる自分だ。マーラーの作品の中でも同時代の人々にいち早く受け容れられた作品でもあるこの第2交響曲。その理由としては、「死と浄化」を表現している説得力にあるといわれている。


「生まれしものは 消えゆくが定め!
消えゆくものは 必ずや蘇る!
おののくのを やめよ!
用意せよ 生を!」


クロプシュトックとマーラーによる詩が、人々の心と体を浄化するかのように、「生と死」を劇的にかつ素朴に表現し、音符に刻み込んでいる。これこそマーラーの全ての作品が内包する本質であり、常に孕んでいる生きるが故の叫びのように感じずにはいられない自分だ。


【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
クラウディオ・アバド/チェリル・ステューダー(S)/ヴァルトラウト・マイアー(A)/アーノルト・シェーンベルク合唱団/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団[1992年11月録音]
【DG:439 953-2(輸)】


【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
クラウディオ・アバド/エテリ・グヴァザヴァ(S)/アンナ・ラーション(A)/オルフェオン・ドノスティアルラ合唱団/ルツェルン祝祭管弦楽団[2003年8月録音]
【DG:00289 477 5082(輸)】

ムソルグスキーの歌曲集《死の歌と踊り》を今日は紹介する。

「死」というテーマで統一され、「子守歌」「セレナード」「トレパック」「司令官」と題された各曲。死神の不気味さを表現した、なんとも奇々怪々な作品と言える。とにかく不気味な重苦しい空気に曲は包まれ、その憂いに満ちた音楽は、ムソルグスキーの「展覧会の絵」のような作品では感じられない別の「顔」を垣間見ることができる。彼の作品の特徴でもあるが、他の作曲家が手を加えることによってその曲の魅力が何倍にも増幅する。この作品もショスタコーヴィチのオーケストレーションによるが、その重たくも不気味な空気を、的確にオーケストラで表現していると言える。
厶ソルグスキーに傾倒するアバドの音楽も、作曲家の音楽的魅力を熟知しているだけあり、短い作品の中にも劇的な音楽を作り上げている。


【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
クラウディオ・アバド/アナトリー・コチェルガ(B)/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団[1994年2月録音]
【SonyClassical:SICC10002】

今日は、サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番をパールマンの録音で紹介する。
サン=サーンスはサラサーテのために作品をいくつか書き上げており、この作品もサラサーテのために書かれている。その為、技巧的に華やかであり、ロマン香る、叙情的な雰囲気も併せ持っており、実にドラマティックに曲は構成されている。チャイコフフスキーやメンデルスゾーン、パガニーニのように人気のある協奏曲とは到底いえないが、何度も聴くうちにその魅力に気付くことができる佳品である。特に第2楽章のヴァイオリンのフラジオレットとクラリネットのデュオが奏でる美しさは絶品である。


【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
ダニエル・バレンボイム/イツァーク・パールマン(Vn)/パリ管弦楽団[1980年1月録音]
【DG:POCG-7115】
ヒゥーゴ・アルヴェーンの代表作である「夏至の徹夜祭」のオリジナル版である管弦楽による録音を紹介する。アルヴェーンはスウェーデンを代表する作曲家で、今日ではこのスウェーデン狂詩曲や数多くの合唱曲を残したことで知られている。合唱好きの方には、オルフェイ・ドレンガーの指揮者を務めていた、といえば少しはイメージが湧くかもしれない。彼の作風は正統的なロマン派の響きを踏襲しており、北欧独特の弦楽器の美しさにも溢れる佳品が多い。19世紀初頭の同時期に活躍していた作曲家に比べると、こじんまりとした雰囲気は否めないが、北欧独特の弦楽器の美しさを存分に堪能できるはずだ。
ここで紹介するデュトワ盤とヤルヴィ盤の聴き比べは、実に面白い。平易な表現ではあるが、デュトワ盤は色彩感覚に優れた演奏であり北欧的とは正直言い難い。ヤルヴィ盤は、正に北欧的な一種のモノクロームな演奏となっており、この曲の魅力を最大限に表現しているといえる。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
ネーメ・ヤルヴィ/ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団[1987年12月録音]
【BRILLIANT:897(輸)〔原盤:BIS〕】


【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
シャルル・デュトワ/モントリオール交響楽団[1995年録音]

【Decca:452 482-2(輸)】

ピアノを少しでも嗜んだ事のある方ならば、一度は弾いたことのある曲といえるかもしれないバダジェフスカの『乙女の祈り』を紹介する。1834年に生まれ、1861年にこの世を去った短命なテクラ・バダジェフスカは女流ピアニストとしても活躍し、サロン風のピアノ曲を34曲書いた作曲家でもある。

恋に憧れ結婚への祈りを描いたものとも言われているが、如何せん作曲者についてはあまり深くは知られておらず、諸説がゴロゴロしている。それらを抜きにして考えても、作品の持つ華やかでロマンティックな曲想は、何度聞いても色褪せない名曲である。


【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床

イエノー・ヤンド(Pf)[録音年不詳]

【DG:POCG-7048】

小学校の低学年で使用する音楽の教科書でも取り上げられている、フランスを代表する作曲家のジャック・イベールの『ディヴェルティメント』を紹介する。祝祭色が強く、イベールらしい情景描写に富んだカラフルなサウンドで室内オーケストラのレパートリーには欠かすことのできない作品といえる。もともと「イタリアの麦藁帽子」という舞台の付随音楽として作曲したものから、いくつかを抜粋して編まれたのがこのディヴェルティメントである。その劇のストーリーは「結婚式の日に麦藁帽子を取り戻そうとして起きるドタバタ」であり、実に荒唐無稽な内容である。しかしながら、そのテーマの滑稽さゆえに、曲は親しみやすく、情景を想起しやすいメロディにあふれている。イベール入門としてはお奨めの一曲である。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
佐渡裕/コンセール・ラムルー[1996年4月録音]
【Naxos:8.554222J】
全日本吹奏楽コンクールの課題曲としては初めてドラムセットを伴う作品となったこの『高度な技術への指標』。その名の通り、個人の技術とバンドのアンサンブル能力はかなり高度なレヴェルを要求される作品である。聞く側は実に楽しい作品であるが、演奏者は必死だ。ましてやコンクールでこの曲を演奏した方々にとっては苦しい思い出ばかりが甦ってしまうに違いないだろう。ジャズテイストにもあふれ、後の「ディスコ・キッド」が生まれる魁ともなったといっても過言ではないこの作品は、クラシックファンならずとも聞いていただきたい作品だ。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
佐渡裕/シエナ・ウインド・オーケストラ[2004年12月録音]
【avex:AVCL-25036】
一般的にはフランス語読みの《ガイーヌ》で知られているこのバレエ音楽を紹介する。
チェクナヴォリアンと言えば、ハチャトゥリアンの録音や、民族的な色調が色濃い作品の演奏に定評があり、アルメニアを代表する指揮者という印象が強い。特に、ハチャトゥリアンの最大の魅力でもある、リズミックなダンス・ミュージックは、チェクナヴォリアンがもっとも得意とする世界といえる。レズギンカや剣の舞でもそのタクトは冴え渡り、曲の魅力を十分に引き出している。時として、勢いに甘んじてアンサンブルがお座成りになってしまう事も散見される彼の演奏だが、この『ガヤネー』では、それらを感じることはあまりなく、素直に楽しむことができる演奏に仕上がっている。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
ロリス・チェクナヴォリアン/ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団[1981年5月録音]
【RCA:82876 65836 2(輸)】
エルンスト・ショーソンは1855年に生まれ、1899年に自転車事故でこの世を去った作曲家である。日本ではあまり紹介される機会の少ない作曲家といえ、ヴァイオリンと管弦楽のために書かれた『詩曲』だけが、演奏される機会に恵まれている。

今日はそんな彼が作曲した交響曲を紹介する。端的に『ショーソンの交響曲』を説明するならば、彼の師であるフランクの交響曲に似ているといえば、創造しやすいかもしれない。3楽章から成り、循環形式が用いられているのが特徴である。「詩曲」で感じられる詩情にも溢れており、叙情的な美しさにも事欠かない作品といえる。あまり取り上げられる機会が少ないが、ショーソンを知りたい方、フランクの交響曲が好きな方に是非、聞いていただきたい。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
シャルル・デュトワ/モントリオール交響楽団[1995年10月録音]
【Decca:458 010-2(輸)】
今日はベートーヴェンの交響曲第9番の録音を紹介する。といっても、かなり雰囲気の違う第九だ。
歌詞は日本語で、マルケヴィッチの編曲が施されているものだ。日本語の訳詩を「なかにし礼」が書いているのが実に面白い。冒頭の「Freude(フロイデ)」をなかにしは「愛(あ~い!)」と歌わせているのだ。・・・なんだか痒くなってくるものだが、訳詩者ならではといっていい表現方法が多用され、「痒くなる」箇所がいろんなところに登場してくる。マルケヴィッチの編曲版を録音で聞けるのも珍しく、資料的価値の高い録音といえるかもしれない。必聴である。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
堤俊作/秋山恵美子(S)/安念千恵子(Ms)/鈴木寛一(T)/宮原昭吾(Br)/栗友会/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団[1990年12月録音]
【RCA:TWCL-1006】