今日はラヴェルの作品で、結構聴きこんでいる音盤を紹介する。
今はベルリン・フィルのシェフとして活躍するラトルが、バーミンガム時代の全盛期に録音したもので、数ある彼の録音の中でも色鮮やかに描き上げられ、躍動感に溢れた録音といえる。
そもそも『ダフニスとクロエ』はバレエ音楽であるが、合唱を伴い打楽器も豊富で実に音響的にも絢爛な作品である。前半で登場する5つの動機を基に、全体は構築され、音楽的統一が図られており、ラヴェル自身、この作品を自伝の中で「舞踏交響曲」とも形容している。
組曲で演奏される機会も多いこの曲だが、全曲で聴くことにより、深く曲の構造を理解することが容易くできる楽曲といえ、お薦めできる。
因みに併録されている「ボレロ」も秀演だ。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
サイモン・ラトル/バーミンガム市交響合唱団/バーミンガム市交響楽団[1990年12月録音]
【EMI:CDC 7 54303 2(輸)】
エーリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトは、 20世紀初頭のウィーンで神童と称された天才作曲家である。今日では、ハリウッドでの活躍ばかりで名を馳せてしまっているものの、交響曲やヴァイオリン協奏曲などの作品も残している。その彼がハリウッドの映画界での活躍のきっかけとなった作品がここで紹介する『夏の夜の夢』である。メンデルスゾーンの同名の劇音楽を基本に編曲されたもので、その編曲の素晴らしさをハリウッドの映画関係者は放っておかず、一気にハリウッドでの仕事が舞い込み始め、ハリウッド映画界を席巻したといわれている。
実際、この映画音楽を聴くと素直に楽しい。突然、スコットランド交響曲や『歌の翼に』の旋律が登場したり、合唱が加わったりと、初めて聞くと意表をつかれる。ただ、その「意表」は突拍子のないことではなく、実に自然な中で生まれた産物であることに、この曲を聴き続けると理解できる。聞き慣れたメンデルスゾーンの響きとは微妙にオーケストレーションを変えているため、常に発見に満ちた時間を過ごせる音盤といえるだろう。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
ゲルト・アルブレヒト/ベルリン放送合唱団/ベルリン・ドイツ交響楽団/他[1997年5月録音]
【CPO:999 449-2(輸)】
オーストラリアに生まれ、アメリカで没したパーシー・グレインジャーが弦楽合奏の為に残した名曲を紹介する。

ロドンデリーの歌(ダニー・ボーイ)である。だれもが知るアイルランド民謡であり、その旋律は聴く者の心を打つ親しみやすくもかつ、ここぞとばかりに抒情的である。グレインジャーの編曲もまた、感動的だ。ゆったりとしたテンポの中、チェロが奏でる主旋律が浮かび上がり、ひたすら弦楽器群が情感豊かに歌い上げるのである。アンコールピースとしてもよく取り上げられるこの編曲。5分ばかしの曲だが演奏効果は絶大だ。「コバケン(小林研一郎)/日フィル」の定番でもあるこの編曲版。感傷に耽り過ぎないスラットキン盤が個人的にはお薦めだ。


【推奨盤】

レナート・スラットキン:セントルイス交響楽団[1981年録音]


【TELARC:CDー80059(輸)】

日本中央競馬会の発走合図(以下、ファンファーレ)は何人かの作曲家が手がけている。

例えば、東京・中山開催はすぎやまこういち、京都・阪神開催は宮川泰、福島・新潟は服部克久といった錚々たる顔ぶれである。これらのファンファーレは1987年に中央競馬会が『JRA』という略称にしたのを契機に作られたものであり。障害競走についても当時はそれぞれの開催競馬場に併せたファンファーレが使われていた。しかし、1999年に障害競走にもグレード制が導入されたことを契機に、障害競走専用のファンファーレが作られた。それを手掛けたのが三枝成彰である。中山グランド・ジャンプと中山大障害というJ・GⅠ競走で使われるファンファーレと、それ以外のレースで使われるファンファーレの2曲があるが、どれも特徴的。J・GⅠ競走のファンファーレでは、ホルンの軽快な三連符から始まるが、トランペットが登場する途中の1章節だけ5拍子になる。なので、譜面を見たことがない人はリズムに乗り切れないのだ。ちなみに、JRAが三枝に作曲を依頼した際に「手拍子がしづらいもの」というコンセプトをあげたらしいが…この曲では手拍子は困難を極める。納得である。
…で、もうひとつのファンファーレだが、冒頭がスネアドラムのロールから始まるのが特徴。
どれも三枝らしいといえばそれまでだが、他のファンファーレよりも重厚かつ荘重な雰囲気のファンファーレとなっている2曲である。競馬愛好家の方もそうでない方も楽しめる一枚といえる。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
津堅直弘ブラス・アンサンブル[1998年2月録音]

【UM[SVWC 7248】

子供のための作品としてたびたび紹介されるプロコフィエフの名作『ピーターと狼』だが、この音盤のキャストは実に興味深く感じる。

1990年代のアメリカのセックスシンボルといえるシャローン・ストーンをナレーターに迎え、ジェイムズ・レヴァインがオーケストラを指揮している。映画に対してかなり浅薄な知識の自分なため、『シャローン・ストーン=氷の微笑』のイメージが強く頭から離れないのである。しかし、この録音ではそんなイメージとはまったく違う、女優・シャローンストーンの本領が存分に発揮されている。子供に語りかけるかのように「優しさ」に満ち溢れたナレーションはこの作品の他の録音にはない最大の魅力といえる。ジェイムズ・レヴァインが奏でるオーケストラも好演といえる。個人的な名盤である


【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
ジェイムズ・レヴァイン/シャローン・ストーン(朗読)/聖ルカ管弦楽団[2000年9月録音]

【DG:471 371-2(輸)】

20年以上も前に録音され、今となっては廃盤となってしまっている名盤を紹介する。カステルヌオーヴォ=テデスコが残した《プラテーロと私》である。ギターとナレーションによって繰り広げられるその世界は、そのナレーターの手腕にかかる力は大きい。ここで紹介する録音もそのナレーションの凄みを体験できる数少ない録音といえる。江守徹と福田進一の組み合わせだ。20年前の福田は、まだ30歳そこそこの若さ迸る勢いが特徴といえたが、この録音でも江守徹が刺激を与えたのか定かではないが(恐らくギターとナレーションは別収録)、福田のギターの熱の帯び方はちょっと尋常ではないと感じる自分。そこが必聴である。

なかなか入手困難な録音だが、どこかで見つけたら迷わず「買い」である。



【推奨盤】

福田進一(G)/江守徹(朗読)/谷めぐみ(S)[1988年7月録音]

【Victor:VDC-1336】

日本の合唱曲の中でも名曲といわれると、この曲を挙げずには語れないだろう。佐藤眞のカンタータ『土の歌』である。


全部で7つの楽章からなり、それぞれ順に「農夫と土」「祖国の土」「死の灰」「もぐらもち」「天地の怒り」「地上の祈り」「大地讃頌」といった題名がついている。昭和37年に作曲されたこの曲のテーマは「土」。その年の歌会始の御題だったという。詩人・大木惇夫が作詩し、佐藤眞の親しみやすくも森羅万象を豊かな表現力で書き上げたこの曲は、どの部分を聞いても、実に美しい。クリスチャンである作詩家ならではの詩もあいまって、日本語の美しさを実感できる作品で、オーケストラとの演奏で聞くと壮大なる音響パノラマが繰り広げられる、至極のハーモニーで、聴き手に迫ってくる。終楽章の「大地讃頌」は特に、中学や高校の音楽の授業や合唱コンクールで歌ったことがある方も多いかと思う。これからも是非とも歌い継いでいっていただきたい名曲だろう。


ここで紹介するのは、岩城宏之と山田和樹の二人の録音だ。岩城盤は、この曲のお手本といえるような、過度な脚色をしていない録音であり、全体的なバランス感覚にも優れている燻し銀の演奏だ。山田盤は、熱過ぎるほどに漲るパッションが印象的で、起伏に富んだ描写が特徴といえる。日本のクラシック音楽の礎を築いた岩城盤と、未来を担う若手の山田盤、どちらも名演だ。


【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
岩城宏之/東京混声合唱団/東京交響楽団[1986年9月録音]

【Victor:VZCC-12】



【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
山田和樹/東京混声合唱団/東京交響楽団[2010年3月録音]
【EXTON:OVCL-00425】

合唱大国といえるスウェーデンを代表する作曲家、ステンハンマルが残した合唱曲の名作を紹介する。


『9月』『後宮の庭にて』『私に天使が訪れたなら』と題された3つの曲から成り、北欧の無伴奏合唱曲の白眉ともいえる、澄み渡る美しさに満ち溢れている。特に『後宮の庭にて』は古今の合唱曲の最高傑作ともいえるだろうし、アンコールピースとしても海外の合唱団の来日公演でもよく耳にする。いつもこの曲を聴くたびに思うことだが、単純にして洗練されたハーモニーは音符の数を遥かに超越した世界がそこにある。劇場内がまるでキューポラの中のような空間と化す瞬間がどうにもたまらなく好きで、心に染み入ってくる。


3曲で6分にも満たない小品だが、そこに凝縮された北欧の合唱の極みは格別である。


【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
ステファン・パークマン/デンマーク国立放送合唱団[1995年8月録音]

【CHANDOS:CHAN 9464(輸)】

サン=サーンスの交響曲といえば第3番の『オルガン付き』があまりにも有名すぎて他の作品の存在は全くと言っていいほどに話題にものぼらない。しかし、彼は全部で5曲もの交響曲を残している。今日ここで紹介する第2番の交響曲だが、全体で20分強という、コンパクトな交響曲となっている。内容はというと、パーツだけで語るとなると、第1楽章はヴァイオリンのソロに始まり、木管楽器の各ソロが特徴的で今後の展開に期待を孕ませるイントロといえる。第4楽章は常に軽快で、サルタレロ調の雰囲気に溢れた楽しい楽章といえる。しかし、どうにもメロディが口ずさむ事ができないにもかかわらず、どこか全体的に古臭い。これこそ、演奏される機会に恵まれない彼の4つの交響曲に共通して言えることかもしれない。マルティノンの演奏も熱を帯びてはいるものの、どうにも釈然としないのは、彼の演奏如何ではなく曲自体の問題ではないかと改めて思う次第である。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床

ジャン・マルティノン/フランス国立放送管弦楽団[1972年録音]
【EMI:CZS 7 62643 2(輸)】

山本直純といえば、日本のクラシック音楽の普及に努めた功労者といえる指揮者であり、作曲家でもある。指揮者としての印象が大変強く、その独特の指揮振りと風貌と語り口で人気を博した。そんな彼が作曲した作品は、オーケストラから放送音楽や童謡まで多岐に亘る。代表作には童謡『一年生になったら』『歌えバンバン』や映画『男はつらいよ』が挙げられるが、個人的には「この『白銀の栄光』を語らずして、山本直純を語ってはいけない!!」と声高に主張したい。これは戦後日本の行進曲を語るには忘れてはならない傑作である。


この「白銀の栄光」は札幌冬季五輪の入場行進曲として作曲されたが、今までに日本で生まれた数々の「マーチ」とはちょっと毛色が違く感じる。今までの日本のマーチは、ドイツ的な力強く勇壮な曲調を連想させるが、この曲はなんともフランス的で、まるで水彩画を見ているかのような感覚を覚える。常に落ち着きを払い、しかしながら颯爽とし、溌剌とした空気も感じられる、正に「シンフォニック・マーチ」であり、彼の多才振りを実感できる作品といえる。


陸上自衛隊の中央音楽隊と東部方面音楽隊の聴き比べはどちらも甲乙つけ難い演奏だ。中央音楽隊の演奏は、流麗なメロディーラインを際立たせるべく、優雅なマーチといった印象。対照的に、東部方面音楽隊の演奏は、打楽器群を効果的に際立たせており、いかにも軍楽隊といった印象を受ける。個人技が多少劣るのが玉に傷だが、中央音楽隊に負けず劣らずの力演だ。


【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
船山紘良/陸上自衛隊中央音楽隊[録音年不詳]
【KING RECORDS:KICW 3013】


【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
古荘浩四郎/陸上自衛隊東部方面音楽隊[2004年1月録音]
【UNIVERSAL:UCCS-1058】