自由俳句 「風薫」(ふうくん)

自由俳句 「風薫」(ふうくん)

宇都宮で自由俳句の会「風薫」を主宰している陽子です。自由な感覚で俳句を詠み合う句会を月に1回開催しています。俳句集もすでに10集集目を刊行しております。

自由俳句「風薫」定例句会を開催しました。悪天候が続いたこの頃、句会の帰り、久しぶりにみごとな夕景にめぐり逢うことができました。綺麗な夕焼けを見て、うわっと感動して、それを人と共有できることって倖せだなと思います。

 今回の句会の兼題(テーマ)は読書など本や書にまつわるものです。みなさんはこの秋どんな本を読まれるのでしょうか。
 

 

水野ゆうき
書を携へバスで向かふは秋遍路
憂ひあり進まぬページは秋蛙
ひもとくは一期一会の運と勘
秋時雨ふらりと寄りしカフェ読本
冴へ渡る夜半の月の朗読会
ひと休み失ひせしは蒔絵しおり



高崎志朗

集く夜本を開けば諭吉かな
三国志マンガを追ひて夜長かな
秋暑し知人に遇うも名前出ず
秋鴉テニスコートで餌を待つ



山 多華子

秋暑し久々の読書目は冴えて
エアコンやミシンも我も調子良し
残暑やゲリラ豪雨の帰り道
一献と雲間に眺む望月よ
彼岸花酷暑と聞いて里心



渡辺 健志

迷ひ風野分たゆたふ西の空
篠突く雨スマホ三台悲鳴あげ
雨音に読みかけの本置き走り
秋桜しとどに濡るる峠道



大竹 和音

短編のモデルは次男竹の春
朗読の声変はりして新松子
クレヨンの赤は短し夕紅葉
爪切れば人足のごと秋の蟻
居酒屋の斜のバス停秋刀魚の香
色彩の夢はあの世か天の川
蔦からむアンテナ高き空屋敷
ストローをしつこく啜る残暑かな



小林泰子

移動図書りょうていっぱい秋みつけ
秋の声み空見上げて風をみる
鬼灯や赤子の頬のごとぷくり
名月や幾年経ちてもまんまる



白石 洋一

黒の丸に黄色の花弁の一輪挿し
金子みすゞを思う時私に戻る
夕闇の始まる頃蝉が静かになる
死後八年父宛の郵便まだ届く
深く吸い暫く止めてゆっくりと吐く
年金を貯蓄する払った分取り戻す
ハバネロを干す手に残る辛味
千円札新旧混ざるATM
庭猫二匹耳はV字のマークなり
ミルを一一三回手で回す



刈谷 見南國

「ひととき」といふ文集やうろこ雲
文集に母のひとこと曼殊沙華
とんぼうの止まるくちびるピアスかな
次ページに続く小鳥の羽音かな
レモンスカッシュ指紋一致のスマホかな
沈みゆくそば茶のバック白露かな
館長の居合銀漢となり休館



福冨 陽子

母の本挟んだ落葉の厚みかな
子規の忌や頁に潜む小風来る
背表紙を小指で押せば秋嵐
庭仕事終わるのを待つツグミかな
「50-50」地球を駆けめぐる
鈴虫や雌はひたすら甘藍の上
鶉居た檻に鳴き声沁みてをり
うづらだま五滴簀立を垂らす飯
庄之助終に納める立行司
くさびらや日中に消ゆる秋湿り

久々 秋夕焼 9/22

 


 

 地震や台風、いろいろなことが起きたお盆休みでした。長い休みが取れた人、普段と変わらず仕事があった人、さまざまですが予期せぬ事象、とくに自然現象にはやはり普段から備えが必要だと改めて感じました。
 本日、8月の句会を開催しました。残暑がまだまだ続きそうです。立秋を過ぎたので本来であれば秋を詠うところですが、実際には真夏状態の中で生活していますので夏を詠んだ句もあります。兼題(テーマ)は機械や物の音。メンバーの作品を掲載いたします。

 

 

水野ゆうき

カラカラと回り生まれる夏の風

夏の夜爆ぜる光をカシャっとね

カンカンと電車が接近黄黒赤

暑すぎる部屋に帰ってピピっとオン

ガリガリガリ削れる夏のクリスタル

 

高崎志朗

午後三時定期ジェットは秋を往く

スマホ音残暑見舞い孫娘

乱打球衝突したり秋の風

練習のネットに休むオニヤンマ

盆の夕上弦の月現るる

 

山 多華子

エアコンの音より高くテレビ観る

秋疲れキャベツ炒めと梅干し

鳥起きる朝汗ぬい出社

サングラス心のままに余生往く

金メダル洗髪拭き貰い泣き

 

 

渡辺 健志

滝壺もぬる風漂ふ酷暑かな

一千の風鈴彩る石の道

夏茜麦わら帽子でひとやすみ

手花火やこぼす幼子涙跡

花火消ゑ闇の川面に月映り

電扇の羽音微かな夜静か

自販機に会議は踊る蟲の聲

 

大竹 和音

トラックの排ガスけぶき残暑かな

アニソンのソノシート透く星月夜

秋の蠅反応鈍き体温計

木の実落つリヤカーに乗り祖父の山

マダム憩ふ石蔵のカフエ蔦かづら

のびのびと揺るる軒先猫じやらし

洞穴の住人さらひ台風去る

 

小林泰子

ブロロロロ暑さ掻き乱すハーレー

炎昼やさつきロードの先ぼやぼや

超熱帯夜エアコンはゴオゴオオ

白ユリや水面を覗き己知る

御告げ来て祖母は小豆を用意する

初盆やあんこ煮つめ見つめる祖母

 

白石 洋一

合歓の花踏まぬ様にと避け歩く

朝4時39分蝉が一斉に鳴く

コンコンと耕運機吠え畑掘る

田植え機は割と静かに苗を刺す

耳に記憶の地蜂の羽音響く

パソコンは頭脳のスケッチブック

心の時は止まったままの母の死

百合の花終戦の日を忘れ去り

ゲリラ豪雨壮大な打ち水となり

ひだりー食べたいモノが食える幸せ

 

刈谷 見南國

製氷のゴロンと落ちて桃を剥く

午前六時コードチエンジして小鳥

星月夜弦のうらがは埃立つ

線香分けてもらふ少年とんぼ翔ぶ

月天心俎板のうら乾びけり

バレーコートに男子も女子も月天心

センスいいのにもつと頑張れギンヤンマ

 

福冨 陽子

スーダラと洗濯機まはる秋夜

駄々駄々と製氷堕ちる処暑の昼

タレ作るマシンの渦の秋にんにく

館長の入院部屋の無音かな

なにもなき日こそめでたし髪洗ふ

鈴虫やきやべつが好きと聞きつけて

秋あかね駅舎珈琲訪ぬれば

盆休み叶へたことを箇条書き

夜半の路地魚焼く佳き匂ひ

落鮎や串も焦げたり川の音

いわき市国魂神社の風鈴参道

 先日は定例句会の予定でしたが諸事情で開催は中止となりました。集まった作品を掲載します。兼題(テーマ)はオノマトペ。耳をすませばあちこちにオノマトペは存在します。気に留めるか留めないかのわずかな差違が「気づき」に遭遇できるものだと改めて思います。

 心に余裕!これが俳句作りの最強の秘訣でしょう。

 暑過ぎる日々はまだまだ続きそうですね。みなさま、どうぞご自愛ください。

 

 

高崎志朗

ガタゴトと夏風ドキドキ上野駅   

雷鳴に猫はおののく四畳半

停電や従兄弟と燥ぐ蚊帳ん中

初デート七夕飾りと涙雨

金入れの蛇の抜け殻夢を買う

 

 

疋田 勇

百合の花山の恋しき窓辺かな

コスモスに恙まれし駐在所

黙祷にザアザア雨の原爆碑

 

 

山 多華子

線状降水帯擬音に胸騒ぎ

梅雨出水地滑り多発リュック買う

紫陽花や運も天気も速変わり

梅雨晴間歯科医のジャズ足拍子

山開き頂きの尊厳抱く

 

 

渡辺健志

ざあざあと驟雨の駅に人集ひ

雨宿り猫の顔色曇りがち

カンカンのお日様恋しい涼雨かな

ぽつぽつと葉っぱの打楽器夏の雨

雨上がりポッチャンと語る潦

白靴や玄関の箱入り娘

梅雨寒や袖が恋しき古書店

 

 

大竹和音

ラヂオからサイケなシンセ蚊遣香

梅雨の朝やまぬ昨夜のジャズドラム

草笛を父のやうには吹けぬまま 

日焼けしたルンペンに祖母握る飯

片蔭やゾンビ群がる喫煙所

 

 

小林泰子

御神輿やうねりうねりと写真ぶれ

べべまとい抱かれて眠る囃子の音

ヨーヨーびょんびょんバチンバチンしぼむ

ラムネ瓶ビー玉に幼き目の吾

 

 

白石洋一

足の冷たさが今年は無い

畑の男爵と胡瓜とラッキョウでポテトサラダ

サッシのガラスに猫の足跡

長雨や壁越しに聞くぽたりぽちゃ

コーヒー紙フィルターをリンスする

ヤンチャな仔猫必死で咥える新米母

小チョロとチョロと二矢子

死んだらどうなるのですか?

除湿機フル稼働ジメジメジメ

歯茎ズキズキ歯はグラグラ

 

 

刈谷見南國

みずくらげ或ひはミシン踏む時間

プシユーツとパソコン果つる夜の秋

出棺のクラクシヨンふうわりと虹

薔薇ぐるぐる渦巻き遠くなる棺

薬刈り気づかないふりして一日

 

 

福冨陽子

神輿太鼓ライブの声をかつさらひ

曖昧な茄子の顔した鏡の吾

スズムシや生まれた箱が棲家なり

蟷螂の斧わたしは仕舞つたままだつた

入道雲たらふく闇を飲み込めば

カラカラと吊し瓢箪泣く夜半

 

 天王祭塙田みこし  

 

 六月も下旬となり、関東地方も梅雨入りに。これからしばらくは常に傘を携えているようですね。いずれにしても六月は一年の折り返し月。心に残る日常の景色をたくさん見ておきましょう。

先日、自由俳句「風薫」の定例句会を開催しました。兼題は「駅」。たまにはと電車に乗ってゆっくりと旅をしてみたいものです。

 

 

高崎志朗

二時間後目覚めてみれば同じ駅

七夕やフランス語聞く青森駅

浴衣の娘湯あがりビール酌くれる

青大将卵呑み込み青嵐

 

 

疋田 勇

冷麦茶露天でひと息また歩く

蛍道たどれば日没蛍筋

鮎釣や我慢比べの胴長長靴

足尾駅歴史刻みて半夏生

 

 

山 多華子

風薫る心地良きまま木々は揺れ

青時雨雫に映る緑深し

夏きざす水面は稲色に変わり

夏霧や北の地の花濡れ咲く

海霧の街四人で座る蕎麦屋なり

弱冷車乗り継ぎ駅も選び乗る

 

 

渡辺 健志

水馬や水遁術で潜水す

海見ゆる駅でぼんやり夏の星

人気なき峠の端のシャガの花

炎天や木陰に潜む鳩の群れ

空梅雨や死花堕つる紫落つる羽州街道

静寂や涼しさ沁みる夜半かな

 

 

 

大竹 和音

見納めの木造駅舎夕焼雲

梅雨入や野外ライヴの日の予報

花札と賽子出して梅雨に入る

渋滞を右へ左へ走り梅雨

芥子の花昭和の空き家かたむきて

あいみょんや生歌とちり夏満月

民宿の狭き風呂場や青蛙

分校はロケ地となりてホトトギス

 

 

小林泰子

緑陰に混じり混じりて吾の影も

万緑や父の三歩半前歩く

無音無風の無人駅の記憶は

蓮の葉や滴溜め込みめかし込む

蓮の花光に焦がれ凛と咲く

 

 

白石 洋一

サニーレタス葉を外側から千切って

梅もどきの花びら舞う小雪の様

墨を硯で擦る時間が好きだ

予定が決まると生きなきゃと思う

コジュケイと雉の声響く庭先

AIは偽物信じるに及ばぬ

ちょっとこォい と繰り返す声する朝

無人駅にも紫陽花の白しげれり

トマト詰め放題の道の駅

雨に紫陽花ジャガイモは枯れる

 

 

刈谷 見南國

帰る駅見つからぬ夢夏ひばり

セッターの対角にゐる雲の峰

短夜や先つぽの銀紙取つて

短夜やテープの中の変声期

青焼きの回路図めくり夏空へ

ほたるぶくろハグのかすかな隙間かな

ほたるぶくろ幼なじみといふ偶然

亡友の家の灯りやほととぎす

三味線の音途絶へたり夏至の雨

 

 

福冨 陽子

検札鋏もてあます駅員は日焼け

南宇都宮駅よ吾の思春期自動記録機

駅の大けやき消へみなしごハッチ

コスモスのひとつ咲ひたりフライング

身づくろひ猫の首根のもどかしさ

紫陽花や福だけ招き渋滞路

どうだんのてっぺんの蜥蜴の孤独

虫干しをしてくださいと本の声

カムイより新聞届く梅漬ける

三味線の稽古難し夏の雨

自分の葉に写るあじさいの花影

 

 先日、定例句会を開催しました。五月の風は心地よく窓を開けていて気持ちのいいものです。

私たち「風薫」の由来は五月にあります。結成が五月でしたので「風薫」とし、当初は「かぜかほる」と呼んでいましたが、人から「フウクン」と呼ばれることが多く、そのまま字名のようになりました。今では自分たちも「フウクン」と名乗っています。風薫季節、植物、生きものいろいろに生命力を感じます。人も健やかにすべからく生きよという季節だと思います。

 今月の兼題(テーマ)は、飛ぶ生きものや鳥などです。

 

 

高崎志朗

つがい飛ぶゆらりゆらりと甘き水

岩魚釣り腰のスプレー甲子高原

剣桂鎮まる森に夏光る

「熊注意」尚仁沢や夏木立

五月雨染みて染みてやふたり傘

相傘や吾が肩は濡れ五月雨

 

 

疋田 勇

母の日や洗濯板でデニム洗ふ

夏服の見切り発車の夜道かな

白玉を腹いつぱいに食べたきや

居合道甘味欲しかな水ようかん

 

 

山 多華子

五月闇鳥はかすみ森へいく

夏の雨葉っぱ揺らしてみずみずし

葉桜や川面の空も揺れており

ドクダミや開かずの扉群れて咲く

薄暑光浴衣と下駄を買い揃え

 

 

渡辺 健志

函館の桜見上ぐる先の塔ひとつ

歳三の生き様辿り星桜

吹き荒ぶ断崖泳ぐ鯉幟

天使の輪夕焼びたるつるし雲

駅前のホテルも見えぬ驟雨かな

夏の夕越後平野の田を染める

金色に溶ける夕陽の七変化

トビヘビや曲線描き空掴む

ひらひらとオーロラは揺れ蝦夷の夏

 

 

大竹 和音

てんとむしマイクロカメラ内蔵し

一人だけ作業着のまま鯉幟

怪獣の着ぐるみ重し生ビール

グリル板けづる深夜の氷水

前線の傭兵虚し流星群

燕の子迷子の羽田エアポート

囲まれたダチを遠目に青芒

 

 

小林  泰子

初夏やピヨピヨと啼く信号音

白鷺や空を切り裂き雲となり

蚊喰鳥8の字描いて夜を呼ぶ

 

 

白石 洋一

実らぬ花を愛でる人の浅はかさよ

猫庭先で死ぬ庭に葬る五年の命

蕨の味噌汁と玉ねぎの糠漬けと玄米

豆をミルで粉にし漉して啜る

波佐見焼人混みは観察日

平戸の教会人々の想いは

四月去り一升瓶八ワイン六ウイスキー三

トンビ舞う澄んだ空の滑り台

防火槽水面の湯気朝陽射す

プログレの音に過去の想い出響く

 

 

刈谷 見南國

甲へ乙へと母辿りけり時鳥

夏鶯ところ変へつつだべる旅

通学路小さくなりたり時鳥

スリッパあふるネカフェの廊下時鳥

編曲もやっぱ京平夏鶯

体育館と猪木の記憶時鳥

食べ忘る海苔ひと袋時鳥

缶余るチエツクアウトや夏燕

時鳥空港までのしづかな雨

 

 

福冨 陽子

鈴音のアオジ鳴く朝雲低し

あげは蝶産卵の葉々探し来る

尻尾なき蜥蜴敷居に横たはる

仙台や隅々までも夏人たち

干せぬまま箱に詰め込む絽紗着物

たまねぎの皮の虚しき薄帷子

夏薊雨降る朝に咲き始む

三味線の稽古終はれば夏の空

夏行より帰れぬ子らと思へば

じゃがいもの花

 あれよと思う間に晩春となり、もうすぐ立夏という頃になりました。俳句を詠むには題材が多いのはありがたいものです。それでも日常の忙しさにかまけ、見逃してしまう風景もあります。心落ち着いて毎日をよく見て味わっていきたいものです。

 今回の風薫の兼題は「動物や生き物の子ども」でした。

 

 

高崎  志朗

花弁の蝶と化してやテニスコート

配達の弁当守る春小雨

小雨来てテニス中止のメール来る

満金留男米寿のゴルフひばり鳴く

そよ風に小舟引き裂く花筏

 

 

疋田 勇

田楽の串ぐらぐらと八幡山

山登り這いつくばりて百千鳥

石鹸玉色変へながら雲となる

蕗の薹刻めば苦しさぞ苦し

 

 

山 多華子

初桜月光に観る横顔よ

夜桜や麗し子猫あらわれる

芝桜佇む女美しく

散る桜競輪選手くだりくる

 

 

渡辺 健志

酔ひどれの客に媚び売る子猫かな

散歩道桜吹雪に足停まり

春颯天守に続く花の道

水堀の桜着飾る逆さ城

二の丸も客間に変えし花筵

満開も三日見ぬ間に花筏

黄昏の伊豆湾に落つ桜かな

 

 

大竹 和音

兄の背を追ひて登校すゞめの子

春眠や妣の気配の奥座敷

朧月ねぼけよろめく吸血鬼

丸太橋おそるおそると春の沢

くず鉄も要塞となり燕の巣

約束の夜に駆け出す春嵐

退学し家を出た日の桜蕊

ネモフィラの青は悲恋の青ぢやなく

おしおきの納屋はまつくら子猫くる

 

 

小林  泰子

春コート靡かせて一段抜かし

菜の花やランドセルの列のまばら

猫の子や草木の影に伸びる手々

 

 

白石 洋一

弟より先に死ぬぞと誓います

遠雷や闇夜に慣れし視線かな

ゼンマイの盆栽を見た風呂上がり

メガネの子の神楽舞

釈迦木の花 鼻が酸っぱい

ホーホケキョチュンチュンチュンチッチッチ

見て貰えぬ桜花咲く畑脇

年輪を一つ重ねた事を思う日

蜘蛛の糸水を纏い宙の線

飛行機雲四筋空の道の下の

 

 

刈谷 見南國

水道工事人の雑談聞くや雀の子

十キロの巨猫身構へ雀の子

おばちやんの丁度来る頃雀の子

班長に戸惑ふ家に雀の子

蠅生まるぶるぶると翅ととのへて

ジェリーもペギーも歌謡史となり蠅生まる

原曲はポール・アンカか蝌蚪の紐

 

 

福冨 陽子

空清き返事さらはれ呼子鳥

もんしろちょうひらがなになりあたりまで

楓の花ヘリコプターを見てをり

茎立に鎌の手止める春陽ざし

花鳥の散らす径端は風の止み

うぐひすのひそかに鳴くを猫と聞く

一羽づつパン屑与ふ親雀

雨の宵耳に初蚊の邪音かな

御衣黄を見上ぐればこれ夏近し

八幡山、蒲生神社の御衣黄さくら

(花びらが緑黄色)

宇都宮市内にある八幡山公園に吟行に行きました。塙田トンネルの上に位置する雷神社、蒲生神社を経て八幡山へ。

800本の桜盛りには(つつじも700株)花見客がやってくる有名処です。花のころの少し前ではありましたが地元の山を歩いて吟行してきました。その時の作品を掲載いたします。

 

 

高崎志朗

学問の蒲生神社や桜咲く
桜まだ八幡山は人まばら
花曇屋台に群がる人ひと


疋田 勇

空高く色を変へたり石鹸玉
八幡山田楽の串やや細き
山裾のすみれ見上ぐる百千鳥
蕗の薹刻む厨に香り沁む


山 多華子

弥生月石段多き雷神社
春句詠む令和六年八幡山
春の花蕾満ちたり八幡山
春吟行赤飯卵焼きうまし
開花待つ八幡山の風強し
三月の句芋だんご食べながら


渡辺 健志

木漏れ日の夕陽煌く竹の秋
涙堕つ花粉光環春の風
花見客偶には枝見と強がりて
教会の周り騒がし菜種梅雨



大竹 和音

花の山廻る父子のゴーカート
花盛る蒲生神社の横綱像
さざ波のブルーシートや花筵
噛み切れぬ松坂牛の花見屋台
天井を巨木つらぬく花見茶屋
夜桜や父の手みやげ煮烏賊かな
崖つぷちのあばら家三棟花の山
ベビーカーそろりそろりと桜坂
綿菓子の叩き売り待つ夕桜



小林泰子

春光や亀の甲羅つややかなり
亀鳴くや卵焼きにもらう笑
春昼や蛍光ブルー駆け抜ける
吊り橋の隙間に住まう春の街



白石 洋一

蕗の薹雨を待ってる蕾かな
階段に射す光に舞うは埃クズ
白菜の古漬け祖母の味近し
気道を冷たい空気が入って行く
日々暖かくなるから畑耕す
車戻って運転は大切に
酒蔵を巡るイベント昼間から酔漢
手の甲に皺六十四年過ぎた時間
宇都宮のニュース浮かぶ人達
二ヶ月ぶりに玄米を炊く


刈谷 見南國

桜まだ咲かぬ横綱像の臍
ジャンボすべり台消へし高台冴返る
わたあめの機械音して初桜
花冷えの固定されたる双眼鏡
鉄塔の朽ちたメガホン桜騒


福冨陽子

志賀之助像初拝は花のころ
彼岸過ぎ花ある墓地の風靜か
花曇り展望台より目をこすり
陽春や池にあおさぎひとりぼち
吊り橋の一五〇メートルただ麗らか

風薫吟行(見えるのは宇都宮タワー)
 

二月も半ばを過ぎ温かかったり寒かったりの日々が続きます。三寒四温とはうまく言い得た言葉だと思います。

先日開催した自由俳句「風薫」句会の作品を掲載します。 兼題は「制服」でした。いよいよ卒業の季節になりますね。

私たちもここに至るまでにそれぞれいくつもの何がしかからの卒業を経てきたかと思うと感慨深いものです。

 

 

高崎志朗

制服のサイズ膨らむ春麗

節子さんメールで祝ふバースデー

鬼の面逃げ方忘る親父かな

東風吹かば水面踊りて早瀬かな

 

 

疋田 勇

バレンタイン見ただけのチョコうまかろな

春吹雪剪定の手の痺れかな

ホッカイロ昼の気温や春日向

隣家より目刺の香り飯二杯

稽古着の姿勢正して春一番

 

 

山 多華子

幼稚園制服着納め初桜

この春も行かむ白河小峰城

春の灯や御魂の温もりの如し

針納め着物姿の揃いたる

アルストロメリア四色それぞれ春きざす

 

 

 

渡辺 健志

銀世界右往左往の受験生

銀世界制服縒れし車掌かな

ポカポカのLRT降り冴返る

春浅し那須山の路輝けり 

 

 

大竹 和音

学ランの裏地の龍虎卒業す

三味線の小唄ゆかしき梅が香よ

借り手なきバラック十棟猫さかる

寅さんのやうな人ねと花衣

ブランコやママーと泣く児あやしたり

半凶の御神籤引けば春の雷

悪役の斬られてもまた竹の秋

 

 

小林泰子

スカーフの膨らみととのえ卒業式

春の空靴ひも軽やかにゆらす

友のふみ文字なぞり笑む春の星

名もなき小川ひっそりとクレソンの群れ

 

 

白石 洋一

六十四歳目前死なずに済んだだけでも

学ランは六年間の普段着だった

制服姿の君を今でも思い出す

平穏な生活は数秒で変わる

セーラー服の娘はもう思い出

制服が蟻列のごと坂下る

映画の様には生きられないけどね

時が流れただけか自分が老いただけか

ワールドロックナウ聴き逃しで

義母米寿ラーメン屋に集まり祝う

 

 

刈谷 見南國

直筆の行き交ふ時代うららけし

左四つ全盛時代冴返る

取りかへせない投函ひとつ春の宵

立春やズレて固まる切手かな

下級生来て卒業の羽根胸元に

バレンタインデー先に舟唄歌はれる

ビー玉の溜まる窪みや春浅し

下請けの下請け直に梅の花

濃密なとき経て疎遠朧かな

 

 

福冨 陽子

春の朝慣れぬ制服バスは揺る

三年間制服纏ひ孵化を待つ

春の雨そわかそわかと丑の刻

蕗の薹妖艶なる葉苦々し

小傘咲く玉砂利軋む春日和

花冷えや顔洗へば袖濡らす

春禽や工事止む昼鳴き交はし

春てんとう目覚むる朝はひとりぼち

薄紅梅「九十二歳になりました」

バレンタイン冷やかしに見る高級品

もうすぐ雛祭

 

 

2024年 1月 自由俳句「風薫」初句会

新しい年がはじまりました。このブログを読んでくださっている方々に感謝いたします。今年もよろしくお願いいたします。

 

 

 

高崎志朗

年明けの鐘も花火もなかりけり

恵比寿顔当り籤ひく初の夢

孫娘成長速し松の内

冬麗雑魚を咥へたり鷺一羽

 

 

疋田 勇

日陰の万両日陰の私

切片が耳に当たりし吹雪かな

屋根や木に氷柱光れば年明くる

元日に刀研いだり爪も研ぐ

 

 

山 多華子

初春や磨き過ぎたる窓越しに

正月や旨煮褒められ盛りあがる

節重隅まで洗う四日かな

蕾つくプラス一度の白すみれ

 

 

渡辺 健志

店仕舞知らずに並ぶ福来雀

寒晴や鯱鉾煌る烏城

冴る風ますます熱る耳の端

熱海桜避寒宿でもう一杯

初日の出白化粧なき山照し

直島の冬落暉撮り英会話

 

 

大竹 和音

初春や妣あつらへし吾の晴れ着

賽の目の弌朱きかな初日の出

砂利混じる満身創痍の雪達磨

和食屋の姉のノルマの節重ね

座敷童子指を咥へる年の餅

差し入れの雑煮一気に一発録り

母と観たドクター・コトー観る二日

初凧や糸買ひ足せば月までも

あばら二本折るも我慢の初仕事

レコードの帯もまとめて落葉焚

 

 

小林泰子

福袋今年の福を貰いけり

風花や子らを引き込み舞う刹那

初富士や遠くからでも富士であり

尼寺の猫じっと冬薔薇のごと

鍋白菜ひたひた沁みる雪催

 

 

白石 洋一

窓ガラス結露の氷結晶美

極寒や胎児に戻る布団中

初春の朝の寒さに指痺れ

先を行く仔猫道案内の散歩

霜降りて赤い花びらどす黒く

二十五年ローン終わった一人缶ビール

ローマ字の方が速いのです

上下の下着三着に靴下六足の洗濯物

家族一人増え正月は通販オセチでおもてなし

寝汗かく寝具干しながら暖かい日

 

 

刈谷 見南國

一柳慧の旋律千鳥来る

活版の文字をなでゐし去年今年

脱稿やラスト一行淑気満つ

地下のミラノ二階のロマン淑気満つ

元旦の炭酸水の蓋固し

元旦や揃はぬ人を思はるる

松過ぎて集金はじむ組合費

松過ぎのワインに浮かぶコルク屑

松過ぎてごはん食べなと猫に声

 

 

福冨 陽子

御籤結ぶもちぎれ破顔の娘

前髪切る脱皮したての小正月

初雪や泣ひたふりして窓を這ふ

春渡祭や控へる神輿に夕陽差す

大寒や佳きことだけを記すかな

裂々と笑ひか悲鳴か霜柱

冬の草踏まれたままに生きていく

立行司三十八代初の場所

 

 

二荒山春渡祭神輿の準備〈1月15日〉

 

 

 

 

 自由俳句「風薫」、2023年の詠み納め句会を開催しました。このところの寒さがこたえます。 いよいよ今年も終わっていく感じが日に日に実感となってきたところです。謹んで詠み納めたく思います。

兼題は「記念日」でした。 

 このブログを読んでいただいた皆々様、ありがとうございました。また新しき年もよろしくお願いいたします。

 

高崎志朗
大掃除妻指させば茶がらあり
寒烏母の訃報を教ヘたり
オアフ島日の丸戦隊幻影か
ライトレール初めて乗れば冬麗

 

疋田 勇
クリスマスローズその香り記念日に
壺の底動かぬ水の冬メダカ
北風や音も集めて吹き溜まり
春待てば草の子並ぶ石垣や
刃研ぐ居合魂春を待つ

 

山 多華子
デイ記念日厚着の夫婦見送られ
師走失恋記念日十七回忌
寒風や香灰舞いて墓前経
出世坂登る小春日験担ぎ
拡大鏡三つ編み極む冬日かな
葉牡丹や渦まく色は日に映えて

 

大竹 和音
聖誕祭一度に姪の誕生会
キャンドルの星屑集む聖夜の子
結ひ髪を膝まで垂らす雪女
焼杉の家ひとけなし枯芭蕉
ⅭⅮデビュー今年こそはとはや師走
禁煙のビストロ出れば寒の雨
はなむけの歌とかんざし寒三日月
もてあます寂しみもなき師走かな
野兎や歩を休むれば月は笑む
やもめ多き店にマドンナおでん酒

 

小林泰子
冬空に白雲描く工業団地
冬鷺や行く先の先みつめたり
凩や不浄のものを祓いけり
記念日や靴紐ぎゅっと締め上げる

 

白石 洋一
忘れ得ぬ日は産まれた娘の顔
霜降りて仔猫は畠駆け回る
便座を電気で温める此処で生きる
畠の韮の卵とじ玄米で食して
今年も肝臓は合格なり
独りごと言いながら床につく寒い
朝散歩仔猫ゾロゾロ引き連れて
あの世の扉を開けて覗きたい
息絶えてこの世はさよならさようなら
癌再発無し三年の月日乗り切って

 

刈谷 見南國
戦火と消へし映画フイルム年忘れ
寒椿庭師の大家また庭に
記念日のマフラーとぐろ巻ひて床
レコードの針飛ぶ海や千鳥来る
子より孫少なき父や寒卵
雪だるま一文字赤入れ脱稿
探梅や面影なにもない戸塚
自分を出しすぎて海鼠横たはる

 

福冨 陽子
記念日の過ぐれば凡日冬の星
忘れゆく記念日増へて饂飩煮る
記念日を作る人の言葉優し
寒風に葉を差し出して降参し
白菜や割れば初心(うぶ)なる野心かな
竹箒逆さ姿の影の伸ぶ
やや斜めケーキ予約の大ポスター
これやこのドレスの柄よ寒椿
南天や難を飲んでか赤赤し

万両の実