自由俳句 「風薫」(ふうくん)

自由俳句 「風薫」(ふうくん)

宇都宮で自由俳句の会「風薫」を主宰している陽子です。自由な感覚で俳句を詠み合う句会を月に1回開催しています。俳句集もすでに10集集目を刊行しております。

 先日、定例句会を開催しました。五月の風は心地よく窓を開けていて気持ちのいいものです。

私たち「風薫」の由来は五月にあります。結成が五月でしたので「風薫」とし、当初は「かぜかほる」と呼んでいましたが、人から「フウクン」と呼ばれることが多く、そのまま字名のようになりました。今では自分たちも「フウクン」と名乗っています。風薫季節、植物、生きものいろいろに生命力を感じます。人も健やかにすべからく生きよという季節だと思います。

 今月の兼題(テーマ)は、飛ぶ生きものや鳥などです。

 

 

高崎志朗

つがい飛ぶゆらりゆらりと甘き水

岩魚釣り腰のスプレー甲子高原

剣桂鎮まる森に夏光る

「熊注意」尚仁沢や夏木立

五月雨染みて染みてやふたり傘

相傘や吾が肩は濡れ五月雨

 

 

疋田 勇

母の日や洗濯板でデニム洗ふ

夏服の見切り発車の夜道かな

白玉を腹いつぱいに食べたきや

居合道甘味欲しかな水ようかん

 

 

山 多華子

五月闇鳥はかすみ森へいく

夏の雨葉っぱ揺らしてみずみずし

葉桜や川面の空も揺れており

ドクダミや開かずの扉群れて咲く

薄暑光浴衣と下駄を買い揃え

 

 

渡辺 健志

函館の桜見上ぐる先の塔ひとつ

歳三の生き様辿り星桜

吹き荒ぶ断崖泳ぐ鯉幟

天使の輪夕焼びたるつるし雲

駅前のホテルも見えぬ驟雨かな

夏の夕越後平野の田を染める

金色に溶ける夕陽の七変化

トビヘビや曲線描き空掴む

ひらひらとオーロラは揺れ蝦夷の夏

 

 

大竹 和音

てんとむしマイクロカメラ内蔵し

一人だけ作業着のまま鯉幟

怪獣の着ぐるみ重し生ビール

グリル板けづる深夜の氷水

前線の傭兵虚し流星群

燕の子迷子の羽田エアポート

囲まれたダチを遠目に青芒

 

 

小林  泰子

初夏やピヨピヨと啼く信号音

白鷺や空を切り裂き雲となり

蚊喰鳥8の字描いて夜を呼ぶ

 

 

白石 洋一

実らぬ花を愛でる人の浅はかさよ

猫庭先で死ぬ庭に葬る五年の命

蕨の味噌汁と玉ねぎの糠漬けと玄米

豆をミルで粉にし漉して啜る

波佐見焼人混みは観察日

平戸の教会人々の想いは

四月去り一升瓶八ワイン六ウイスキー三

トンビ舞う澄んだ空の滑り台

防火槽水面の湯気朝陽射す

プログレの音に過去の想い出響く

 

 

刈谷 見南國

甲へ乙へと母辿りけり時鳥

夏鶯ところ変へつつだべる旅

通学路小さくなりたり時鳥

スリッパあふるネカフェの廊下時鳥

編曲もやっぱ京平夏鶯

体育館と猪木の記憶時鳥

食べ忘る海苔ひと袋時鳥

缶余るチエツクアウトや夏燕

時鳥空港までのしづかな雨

 

 

福冨 陽子

鈴音のアオジ鳴く朝雲低し

あげは蝶産卵の葉々探し来る

尻尾なき蜥蜴敷居に横たはる

仙台や隅々までも夏人たち

干せぬまま箱に詰め込む絽紗着物

たまねぎの皮の虚しき薄帷子

夏薊雨降る朝に咲き始む

三味線の稽古終はれば夏の空

夏行より帰れぬ子らと思へば

じゃがいもの花

 あれよと思う間に晩春となり、もうすぐ立夏という頃になりました。俳句を詠むには題材が多いのはありがたいものです。それでも日常の忙しさにかまけ、見逃してしまう風景もあります。心落ち着いて毎日をよく見て味わっていきたいものです。

 今回の風薫の兼題は「動物や生き物の子ども」でした。

 

 

高崎  志朗

花弁の蝶と化してやテニスコート

配達の弁当守る春小雨

小雨来てテニス中止のメール来る

満金留男米寿のゴルフひばり鳴く

そよ風に小舟引き裂く花筏

 

 

疋田 勇

田楽の串ぐらぐらと八幡山

山登り這いつくばりて百千鳥

石鹸玉色変へながら雲となる

蕗の薹刻めば苦しさぞ苦し

 

 

山 多華子

初桜月光に観る横顔よ

夜桜や麗し子猫あらわれる

芝桜佇む女美しく

散る桜競輪選手くだりくる

 

 

渡辺 健志

酔ひどれの客に媚び売る子猫かな

散歩道桜吹雪に足停まり

春颯天守に続く花の道

水堀の桜着飾る逆さ城

二の丸も客間に変えし花筵

満開も三日見ぬ間に花筏

黄昏の伊豆湾に落つ桜かな

 

 

大竹 和音

兄の背を追ひて登校すゞめの子

春眠や妣の気配の奥座敷

朧月ねぼけよろめく吸血鬼

丸太橋おそるおそると春の沢

くず鉄も要塞となり燕の巣

約束の夜に駆け出す春嵐

退学し家を出た日の桜蕊

ネモフィラの青は悲恋の青ぢやなく

おしおきの納屋はまつくら子猫くる

 

 

小林  泰子

春コート靡かせて一段抜かし

菜の花やランドセルの列のまばら

猫の子や草木の影に伸びる手々

 

 

白石 洋一

弟より先に死ぬぞと誓います

遠雷や闇夜に慣れし視線かな

ゼンマイの盆栽を見た風呂上がり

メガネの子の神楽舞

釈迦木の花 鼻が酸っぱい

ホーホケキョチュンチュンチュンチッチッチ

見て貰えぬ桜花咲く畑脇

年輪を一つ重ねた事を思う日

蜘蛛の糸水を纏い宙の線

飛行機雲四筋空の道の下の

 

 

刈谷 見南國

水道工事人の雑談聞くや雀の子

十キロの巨猫身構へ雀の子

おばちやんの丁度来る頃雀の子

班長に戸惑ふ家に雀の子

蠅生まるぶるぶると翅ととのへて

ジェリーもペギーも歌謡史となり蠅生まる

原曲はポール・アンカか蝌蚪の紐

 

 

福冨 陽子

空清き返事さらはれ呼子鳥

もんしろちょうひらがなになりあたりまで

楓の花ヘリコプターを見てをり

茎立に鎌の手止める春陽ざし

花鳥の散らす径端は風の止み

うぐひすのひそかに鳴くを猫と聞く

一羽づつパン屑与ふ親雀

雨の宵耳に初蚊の邪音かな

御衣黄を見上ぐればこれ夏近し

八幡山、蒲生神社の御衣黄さくら

(花びらが緑黄色)

宇都宮市内にある八幡山公園に吟行に行きました。塙田トンネルの上に位置する雷神社、蒲生神社を経て八幡山へ。

800本の桜盛りには(つつじも700株)花見客がやってくる有名処です。花のころの少し前ではありましたが地元の山を歩いて吟行してきました。その時の作品を掲載いたします。

 

 

高崎志朗

学問の蒲生神社や桜咲く
桜まだ八幡山は人まばら
花曇屋台に群がる人ひと


疋田 勇

空高く色を変へたり石鹸玉
八幡山田楽の串やや細き
山裾のすみれ見上ぐる百千鳥
蕗の薹刻む厨に香り沁む


山 多華子

弥生月石段多き雷神社
春句詠む令和六年八幡山
春の花蕾満ちたり八幡山
春吟行赤飯卵焼きうまし
開花待つ八幡山の風強し
三月の句芋だんご食べながら


渡辺 健志

木漏れ日の夕陽煌く竹の秋
涙堕つ花粉光環春の風
花見客偶には枝見と強がりて
教会の周り騒がし菜種梅雨



大竹 和音

花の山廻る父子のゴーカート
花盛る蒲生神社の横綱像
さざ波のブルーシートや花筵
噛み切れぬ松坂牛の花見屋台
天井を巨木つらぬく花見茶屋
夜桜や父の手みやげ煮烏賊かな
崖つぷちのあばら家三棟花の山
ベビーカーそろりそろりと桜坂
綿菓子の叩き売り待つ夕桜



小林泰子

春光や亀の甲羅つややかなり
亀鳴くや卵焼きにもらう笑
春昼や蛍光ブルー駆け抜ける
吊り橋の隙間に住まう春の街



白石 洋一

蕗の薹雨を待ってる蕾かな
階段に射す光に舞うは埃クズ
白菜の古漬け祖母の味近し
気道を冷たい空気が入って行く
日々暖かくなるから畑耕す
車戻って運転は大切に
酒蔵を巡るイベント昼間から酔漢
手の甲に皺六十四年過ぎた時間
宇都宮のニュース浮かぶ人達
二ヶ月ぶりに玄米を炊く


刈谷 見南國

桜まだ咲かぬ横綱像の臍
ジャンボすべり台消へし高台冴返る
わたあめの機械音して初桜
花冷えの固定されたる双眼鏡
鉄塔の朽ちたメガホン桜騒


福冨陽子

志賀之助像初拝は花のころ
彼岸過ぎ花ある墓地の風靜か
花曇り展望台より目をこすり
陽春や池にあおさぎひとりぼち
吊り橋の一五〇メートルただ麗らか

風薫吟行(見えるのは宇都宮タワー)
 

二月も半ばを過ぎ温かかったり寒かったりの日々が続きます。三寒四温とはうまく言い得た言葉だと思います。

先日開催した自由俳句「風薫」句会の作品を掲載します。 兼題は「制服」でした。いよいよ卒業の季節になりますね。

私たちもここに至るまでにそれぞれいくつもの何がしかからの卒業を経てきたかと思うと感慨深いものです。

 

 

高崎志朗

制服のサイズ膨らむ春麗

節子さんメールで祝ふバースデー

鬼の面逃げ方忘る親父かな

東風吹かば水面踊りて早瀬かな

 

 

疋田 勇

バレンタイン見ただけのチョコうまかろな

春吹雪剪定の手の痺れかな

ホッカイロ昼の気温や春日向

隣家より目刺の香り飯二杯

稽古着の姿勢正して春一番

 

 

山 多華子

幼稚園制服着納め初桜

この春も行かむ白河小峰城

春の灯や御魂の温もりの如し

針納め着物姿の揃いたる

アルストロメリア四色それぞれ春きざす

 

 

 

渡辺 健志

銀世界右往左往の受験生

銀世界制服縒れし車掌かな

ポカポカのLRT降り冴返る

春浅し那須山の路輝けり 

 

 

大竹 和音

学ランの裏地の龍虎卒業す

三味線の小唄ゆかしき梅が香よ

借り手なきバラック十棟猫さかる

寅さんのやうな人ねと花衣

ブランコやママーと泣く児あやしたり

半凶の御神籤引けば春の雷

悪役の斬られてもまた竹の秋

 

 

小林泰子

スカーフの膨らみととのえ卒業式

春の空靴ひも軽やかにゆらす

友のふみ文字なぞり笑む春の星

名もなき小川ひっそりとクレソンの群れ

 

 

白石 洋一

六十四歳目前死なずに済んだだけでも

学ランは六年間の普段着だった

制服姿の君を今でも思い出す

平穏な生活は数秒で変わる

セーラー服の娘はもう思い出

制服が蟻列のごと坂下る

映画の様には生きられないけどね

時が流れただけか自分が老いただけか

ワールドロックナウ聴き逃しで

義母米寿ラーメン屋に集まり祝う

 

 

刈谷 見南國

直筆の行き交ふ時代うららけし

左四つ全盛時代冴返る

取りかへせない投函ひとつ春の宵

立春やズレて固まる切手かな

下級生来て卒業の羽根胸元に

バレンタインデー先に舟唄歌はれる

ビー玉の溜まる窪みや春浅し

下請けの下請け直に梅の花

濃密なとき経て疎遠朧かな

 

 

福冨 陽子

春の朝慣れぬ制服バスは揺る

三年間制服纏ひ孵化を待つ

春の雨そわかそわかと丑の刻

蕗の薹妖艶なる葉苦々し

小傘咲く玉砂利軋む春日和

花冷えや顔洗へば袖濡らす

春禽や工事止む昼鳴き交はし

春てんとう目覚むる朝はひとりぼち

薄紅梅「九十二歳になりました」

バレンタイン冷やかしに見る高級品

もうすぐ雛祭

 

 

2024年 1月 自由俳句「風薫」初句会

新しい年がはじまりました。このブログを読んでくださっている方々に感謝いたします。今年もよろしくお願いいたします。

 

 

 

高崎志朗

年明けの鐘も花火もなかりけり

恵比寿顔当り籤ひく初の夢

孫娘成長速し松の内

冬麗雑魚を咥へたり鷺一羽

 

 

疋田 勇

日陰の万両日陰の私

切片が耳に当たりし吹雪かな

屋根や木に氷柱光れば年明くる

元日に刀研いだり爪も研ぐ

 

 

山 多華子

初春や磨き過ぎたる窓越しに

正月や旨煮褒められ盛りあがる

節重隅まで洗う四日かな

蕾つくプラス一度の白すみれ

 

 

渡辺 健志

店仕舞知らずに並ぶ福来雀

寒晴や鯱鉾煌る烏城

冴る風ますます熱る耳の端

熱海桜避寒宿でもう一杯

初日の出白化粧なき山照し

直島の冬落暉撮り英会話

 

 

大竹 和音

初春や妣あつらへし吾の晴れ着

賽の目の弌朱きかな初日の出

砂利混じる満身創痍の雪達磨

和食屋の姉のノルマの節重ね

座敷童子指を咥へる年の餅

差し入れの雑煮一気に一発録り

母と観たドクター・コトー観る二日

初凧や糸買ひ足せば月までも

あばら二本折るも我慢の初仕事

レコードの帯もまとめて落葉焚

 

 

小林泰子

福袋今年の福を貰いけり

風花や子らを引き込み舞う刹那

初富士や遠くからでも富士であり

尼寺の猫じっと冬薔薇のごと

鍋白菜ひたひた沁みる雪催

 

 

白石 洋一

窓ガラス結露の氷結晶美

極寒や胎児に戻る布団中

初春の朝の寒さに指痺れ

先を行く仔猫道案内の散歩

霜降りて赤い花びらどす黒く

二十五年ローン終わった一人缶ビール

ローマ字の方が速いのです

上下の下着三着に靴下六足の洗濯物

家族一人増え正月は通販オセチでおもてなし

寝汗かく寝具干しながら暖かい日

 

 

刈谷 見南國

一柳慧の旋律千鳥来る

活版の文字をなでゐし去年今年

脱稿やラスト一行淑気満つ

地下のミラノ二階のロマン淑気満つ

元旦の炭酸水の蓋固し

元旦や揃はぬ人を思はるる

松過ぎて集金はじむ組合費

松過ぎのワインに浮かぶコルク屑

松過ぎてごはん食べなと猫に声

 

 

福冨 陽子

御籤結ぶもちぎれ破顔の娘

前髪切る脱皮したての小正月

初雪や泣ひたふりして窓を這ふ

春渡祭や控へる神輿に夕陽差す

大寒や佳きことだけを記すかな

裂々と笑ひか悲鳴か霜柱

冬の草踏まれたままに生きていく

立行司三十八代初の場所

 

 

二荒山春渡祭神輿の準備〈1月15日〉

 

 

 

 

 自由俳句「風薫」、2023年の詠み納め句会を開催しました。このところの寒さがこたえます。 いよいよ今年も終わっていく感じが日に日に実感となってきたところです。謹んで詠み納めたく思います。

兼題は「記念日」でした。 

 このブログを読んでいただいた皆々様、ありがとうございました。また新しき年もよろしくお願いいたします。

 

高崎志朗
大掃除妻指させば茶がらあり
寒烏母の訃報を教ヘたり
オアフ島日の丸戦隊幻影か
ライトレール初めて乗れば冬麗

 

疋田 勇
クリスマスローズその香り記念日に
壺の底動かぬ水の冬メダカ
北風や音も集めて吹き溜まり
春待てば草の子並ぶ石垣や
刃研ぐ居合魂春を待つ

 

山 多華子
デイ記念日厚着の夫婦見送られ
師走失恋記念日十七回忌
寒風や香灰舞いて墓前経
出世坂登る小春日験担ぎ
拡大鏡三つ編み極む冬日かな
葉牡丹や渦まく色は日に映えて

 

大竹 和音
聖誕祭一度に姪の誕生会
キャンドルの星屑集む聖夜の子
結ひ髪を膝まで垂らす雪女
焼杉の家ひとけなし枯芭蕉
ⅭⅮデビュー今年こそはとはや師走
禁煙のビストロ出れば寒の雨
はなむけの歌とかんざし寒三日月
もてあます寂しみもなき師走かな
野兎や歩を休むれば月は笑む
やもめ多き店にマドンナおでん酒

 

小林泰子
冬空に白雲描く工業団地
冬鷺や行く先の先みつめたり
凩や不浄のものを祓いけり
記念日や靴紐ぎゅっと締め上げる

 

白石 洋一
忘れ得ぬ日は産まれた娘の顔
霜降りて仔猫は畠駆け回る
便座を電気で温める此処で生きる
畠の韮の卵とじ玄米で食して
今年も肝臓は合格なり
独りごと言いながら床につく寒い
朝散歩仔猫ゾロゾロ引き連れて
あの世の扉を開けて覗きたい
息絶えてこの世はさよならさようなら
癌再発無し三年の月日乗り切って

 

刈谷 見南國
戦火と消へし映画フイルム年忘れ
寒椿庭師の大家また庭に
記念日のマフラーとぐろ巻ひて床
レコードの針飛ぶ海や千鳥来る
子より孫少なき父や寒卵
雪だるま一文字赤入れ脱稿
探梅や面影なにもない戸塚
自分を出しすぎて海鼠横たはる

 

福冨 陽子
記念日の過ぐれば凡日冬の星
忘れゆく記念日増へて饂飩煮る
記念日を作る人の言葉優し
寒風に葉を差し出して降参し
白菜や割れば初心(うぶ)なる野心かな
竹箒逆さ姿の影の伸ぶ
やや斜めケーキ予約の大ポスター
これやこのドレスの柄よ寒椿
南天や難を飲んでか赤赤し

万両の実
 

 立冬を過ぎ、さすがに寒くなりました。北風も冷たくなり、昨夜は天気予報ではくもりでしたが句会の後に一杯飲もうということで出かけ、帰りは時雨に濡れながら歩いて帰ってきました。つい先日まで暑い日があったせいか、街行く人も軽装が多かったですね。風邪をひかないよう、私たちも冬めいていきましょう。今回は兼題無しの句会でした。

 

 

高崎志朗

 

警戒の堀三十七人ダイブする

霜月や百年振りの夏日とは

寒風やテニスコートの葉を集む

冬耕や牛を操る頬被り

冬三日月弓矢番へるキューピッド

 

 

疋田 勇

 

光徳牧場朝日は射して霜溶ける

風邪の神ゆずを頼りに追払ひ

冬将軍日光連山の道ふさぎ

鼻水を垂らす子どもら朝げいこ

 

 

山 多華子

 

干氷下魚むしる棲家は宇都宮

篝火や星空霞むイオマンテ

空也忌や句をもって念仏とす

夜鳴蕎麦せつなき由来一味振る

 

 

渡辺 健志

 

芒の舞観賞するもあぁ渋滞

凩や御洒落着のみをさらひゆく

落葉添へ白冠かぶる逆富士

藁葺の古民家隠す散紅葉

富士の笠雲駿府の空は晴れてゐる

 

 

大竹 和音

 

弾き語る前座三組ぬくき冬

帰国した兄と銭湯デカジャンパー

過激派に焼かれた寺の落葉風

フィルのギターアヴァンギャルドに狂ひ咲く

冬の花カルト映画は客三人

冷酷な目覚ましの声雪女

オリオン座息子と遊ぶ浅き夢

転勤の美女見送れば冬銀漢

 

 

小林泰子

 

本読みてかさつく指をすり合わす

小春日や空いた和室に祖父のMD

 

 

白石 洋一

 

ひんやりした朝こたつを予熱する

初穂つむ嫁いだ娘よ寂しさよ

大蒜植える上空をオスプレイ二機

十割そば啜り良く噛んで味わう

ローマ字からあいうえ配列に変えてみた

梅もどき真っ赤な実だけが賑やかし

ステージからの景色が蘇る

陽だまり庭先仔猫四匹戯れ

断酒は健康診断前の一週間

土を均して分葱を植えたのは一昨日

 

 

刈谷 見南國

 

笹鳴きやひらがなツメるピンセツト

かわらぬ顔とわからぬ顔や石蕗の花

綿虫や喪主自転車で来てゐたり

白髭の左右均等桜桃忌

十一月屋根づれてると若ひ人

湯冷めして廊下のスタア写真展

 

 

福冨 陽子

 

つわぶきや月の色して月を見る

雨降れば雨の味濃しハヤトウリ

堕とされた枝恋しひや冬羽虫

無口人呑めば呂律の(ほた)火かな

寒風や骸らを転がしていく

立冬や五百円玉洗ふ洗濯機

小夜時雨夢は夢を重ね着し

オリオン座傾きすぎて首痛し

短日や毛布を知らぬ仔猫逃ぐ

つわぶき

 

 

 先日、雨あがりのの日曜に町歩きの吟行をしました。見慣れている風景も実際に歩いてみるといろいろな発見があります。途中、384コーヒーショップでひと休みして、また歩き出し約2時間半をかけて歩きました。たまにはいいものです。とくに路地裏、小路、忘れられたような公園など。吟行に参加できなかったメンバーの作品も掲載しました。

 

 

 

高崎志朗

並んでも食べたし餃子秋の雨

秋雨のオリオン通りライブ音

雨の中あたり漂ふ金木犀

 

 

疋田 勇

秋虫のオーケストラに指揮者なく

ゴミ出しの距離は遠くも天高く

秋空に群れてトンボはより赤く

北上の風は落葉を山にする

 

 

山 多華子

秋の雨ほど良くあがり白芙蓉

秋の吟行ホットドッグほおばる

秋思宮のあばれ川昔を語る

新涼や雨もあがりて花美し

金木犀香る宮の小路闊歩

 

 

渡辺 健志

秋陰天底破る雨柱

車中泊引き戸を叩く秋時雨

中秋の月覆ふ雲いと黒し

黍嵐朱い波打つ墓の側

 

 

大竹 和音

聞き覚えある歌声や金木犀

ゆくりなくおしどり塚に小鳥二羽

路地裏の空き家傾き秋陰り

ゴミの日のギター持ち去り櫟の実

わだかまり洗い流せぬ生の河

星屑や釜川沿ひの石畳

二荒のおみくじ結びひごろも草

 

 

白石 洋一

五時二十九分起きて息をしています

夜明け空渡り鳥達通り道

刈草の青い匂いに深く息

酢の効いた苦瓜の佃煮が旨い

母猫無くした仔猫4匹育ちおり

村民死ぬ惜しまれぬ人の憐れ

エンリオモリコーネ脳に染み入る

長い髪の毛はトレードマークとなり

金木犀の花の絨毯車輪が踏み躙る

銀行から年金相談の葉書届く

 

 

刈谷見南國

釣瓶落しリュックしたまゝカフェにゐる

初時雨木匙の先の色褪せる

金木犀貌苔むした金次郎

秋の雨あがり日傘となりにけり

二人分傘持つ人に色なき風

図らずもアートな空き家秋しぐれ

薄野や自転車籠のアコーディオン

 

 

福冨陽子

金木犀往く人を振り向かせをり

雨あがりさやかなる街忘れ傘

駄菓子屋にカーディガンの親子ゐて

白風の煉瓦径くつ音愉し

席を詰めてくれる人あり喫茶店

日曜の小学校百葉箱も休み

楽器屋のガラスにチラシ秋ライブ

釜川の水嵩増へて金木犀

ホットドッグ千切キャベツ秋の空

二荒山砂利踏むごとに秋夕焼

蕪村句碑ふたりに譲る残菊

 自由俳句「風薫」の定例句会を開催しました。兼題は「星月夜」。月は出ていないのに秋の夜空いっぱいに星が出ている場面、最近は街のにぎやかな光で見えないことが多いのですが、ちょっと足を伸ばして自然豊かな場所へ行くとこの光景を満喫できそうです。

 まだ暑さが残りますが、たしかに日没の時間が早くなりました。

 

 

高崎志朗
 

土間の隅虫を照らすや星月夜
鈴虫や音色競へば星月夜
新月や夜道明るき人の声
唐黍のハモニカ喰ひの子ら五人
ペアルツク会話が止んで星月夜


疋田 勇
 

せわしなき身体やすめば星月夜
秋雨や終わりはいつか問うてみる
猛暑日にうれしうれしの通り雨


山 多華子
 

星月夜十五の登山十勝岳
望郷の想い届けよ星月夜
仏花水朝晩替える残暑かな
和塩ふる芋のサラダの旨さかな
憧れは今年もテレビ風の盆
ドライブや秋雨前線くぐり抜け


渡辺 健志
 

先客の蜻蛉の踊る露天風呂
ミンミンとカナカナ混ざる峠道
星月夜空喰らふ富士の山影
落蝉や黒影集ゐ無常也


大竹 和音
 

ウインクかまばたきなのか星月夜
スナフキンとムーミン谷の星月夜
塒とは逆方向へ夜這星
色恋の邪魔者来たる雨月かな
還暦を咲かせ咲かせと草の花
あれ今日はアベツクばかり星祭
紅葉の道なき谷に誘ふ古ナビ
居酒屋の客を待伏す秋の風
恩人を探し当てたる老織女
酷評を笑ひ飛ばせり南洲忌


小林泰子
 

久々に逢えば秋色友の髪
試し書きくるりくるくる紅芙蓉
揚げたてのポテトかかえて秋の星
鵙の贄ねずみの眼空蒼きかな


白石 洋一
 

遠花火記憶の奥は手を握り
ゴム銃を上手く撃ちたくて
秋の虫の声深夜便の声に重なり
遠雷や網戸の向こうの水の糸
片足のバッタ菊の葉にしがみつき
ノーシグナルそれが私の最期
息をする又息をして生きて行く
蝶の幼虫苦瓜の蔓にへばり付き
満月や子猫四匹鳴き競う
イノシシは朧月夜に芋盗む


刈谷 見南國
 

路線図に帰る駅なき星月夜
知り合つて罵り合つて星月夜
グラウンド人文字のここ星月夜
星月夜板塀越しの団欒に
深い深い友達が欲し星月夜
ばんもんに月とどろろと百鬼丸
ウルトラQのロゴがぐるぐる残暑かな
十三夜鳥の映画をもう一度
震災忌シーツを高く振りにけり


福冨 陽子
 

星月夜隠るる者たち禊受く
人以外反応してをり星月夜
駱駝乗り砂漠を往くなら星月夜
野分の夜ごふごふと窓一枚
野分雲鎮まる隙に零余子(むかご)採る
朝顔の雫は堕ちぬ朝ぼらけ
すずむしの棲家増えたり猫そぞろ
足早も宵の速さも白露かな
蟷螂や獲物を前に太公望
糸瓜忌や人が歩けば道となり

庭で見かけたイトトンボ

 残暑が続きます。

 さて、今回の自由俳句「風薫」の定例句会の兼題(テーマ)は「本」です。

 先の日曜、句会の前に文芸家協会主催の夏季講演会「松尾芭蕉の生涯」というテーマで黒羽の芭蕉の館の学芸員、新井敦史さんのお話しも聞かせていただくことができました。事務局長の三上様、ありがとうございました。芭蕉の俳諧が大成していく経緯を拝聴できてとても有意義でした。芭蕉の館は私たちも吟行を兼ねて訪れたことがあります。また訪れてみたくなりました。

 

 

高崎 志朗
秋暑し本読まぬまま返したる
盆休み脳が拒否するトルストイ
電柱に身を細めたる残暑かな

疋田 勇
台風に屋根飛ばされしヤギの声
満月や書棚の隅に武蔵伝
赤とんぼひらりひらりと夕の風

山 多華子
窓開けて夜半の読書稲光り
盆用意警戒レベル確かめつ
台風圏久々にカーテン開ける
猛威ふるう台風阻む里帰り
盆帰省肴は土産話かな   

渡辺 健志
旱魃やダムの水面に梢あり
まくなぎや高原の地に涼宿す
峠茶屋犬の散歩は避暑兼ねて
カンカンちりちりじりじり夏旱
後ろ手にアイス隠す子蟻の道
いいとこで頁飛ばさる扇風機

大竹 和音
学問の秋もラジヲとロック本
葡萄棚登場人物関係図
     ※牛久湖畔、住井すゑ文学館にて
雲魚亭の河童と遊ぶ真菰馬
    ※牛久湖畔、小川芋銭記念館にて
ひごろも草紐付き飴のスカ多き
夜明け前鹿の横切る御用邸

八月の護国の森はざはめきぬ
七夕や戻って来ないブーメラン
UFOの飛び出す絵本月の暈
悪餓鬼と競ふ𡚴の種飛ばし
施餓鬼会や饅頭ころげ禅問答

小林 泰子
燕の子ふちにとまってきょとん顔
墨文字の湾曲にとり憑かれし秋
秋晴れや今日の栞はチェック柄
歳時記をめくっては閉じ流星群
秋暑し刹那のケセランパサラン

白石 洋一
葉を巻いて虫を育ててペンペン草
長雨に草は茂ってズッキーニ腐る
reraを熟読する思わぬ展開に
干からびたミミズを囲む小蟻の大群
サッシ越しの風夕方の涼しさは荻
娘の挙式は10月それまでは生きていたい
姓が変わった記憶と記録にしか残らない白石千乃
rera読了それぞれのドラマの妙
蝉の腹網戸越しに見る朝よ
カボチャとスイカ雑草に負けてしまい

刈谷 見南國
文月の本抜き出した函へこむ
つるべおとし父は長らく無職です
初嵐本の山避け寝てをりぬ
新涼の本重なつてゆくベツド
金蛇の縞飛び出でる歯磨き粉
ひらけば興の乗る本ありや今日の秋
かまどうまレ点入れたるDOLBYオン
謝りたき人の名書いて終戦忌
母よりはクジ運良い子終戦忌
サンゴ店覗きし母の終戦忌

福冨 陽子
文章の句読の違和に秋の風
五色刷り夕焼けはけうも逃げてゆく
小飛蝗の赤紫蘇群れて風に耐ふ
線香を手向けぬ墓や秋茗荷
椅子のある本屋であれば金草鞋
盆の暮ヒカリ座休み知らぬまま
塩辛昆布より命名の蜻蛉


八月のユリ