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自由俳句 「風薫」(ふうくん)

宇都宮で自由俳句の会「風薫」を主宰している陽子です。自由な感覚で俳句を詠み合う句会を月に1回開催しています。俳句集もすでに10集集目を刊行しております。

 先日、雨あがりのの日曜に町歩きの吟行をしました。見慣れている風景も実際に歩いてみるといろいろな発見があります。途中、384コーヒーショップでひと休みして、また歩き出し約2時間半をかけて歩きました。たまにはいいものです。とくに路地裏、小路、忘れられたような公園など。吟行に参加できなかったメンバーの作品も掲載しました。

 

 

 

高崎志朗

並んでも食べたし餃子秋の雨

秋雨のオリオン通りライブ音

雨の中あたり漂ふ金木犀

 

 

疋田 勇

秋虫のオーケストラに指揮者なく

ゴミ出しの距離は遠くも天高く

秋空に群れてトンボはより赤く

北上の風は落葉を山にする

 

 

山 多華子

秋の雨ほど良くあがり白芙蓉

秋の吟行ホットドッグほおばる

秋思宮のあばれ川昔を語る

新涼や雨もあがりて花美し

金木犀香る宮の小路闊歩

 

 

渡辺 健志

秋陰天底破る雨柱

車中泊引き戸を叩く秋時雨

中秋の月覆ふ雲いと黒し

黍嵐朱い波打つ墓の側

 

 

大竹 和音

聞き覚えある歌声や金木犀

ゆくりなくおしどり塚に小鳥二羽

路地裏の空き家傾き秋陰り

ゴミの日のギター持ち去り櫟の実

わだかまり洗い流せぬ生の河

星屑や釜川沿ひの石畳

二荒のおみくじ結びひごろも草

 

 

白石 洋一

五時二十九分起きて息をしています

夜明け空渡り鳥達通り道

刈草の青い匂いに深く息

酢の効いた苦瓜の佃煮が旨い

母猫無くした仔猫4匹育ちおり

村民死ぬ惜しまれぬ人の憐れ

エンリオモリコーネ脳に染み入る

長い髪の毛はトレードマークとなり

金木犀の花の絨毯車輪が踏み躙る

銀行から年金相談の葉書届く

 

 

刈谷見南國

釣瓶落しリュックしたまゝカフェにゐる

初時雨木匙の先の色褪せる

金木犀貌苔むした金次郎

秋の雨あがり日傘となりにけり

二人分傘持つ人に色なき風

図らずもアートな空き家秋しぐれ

薄野や自転車籠のアコーディオン

 

 

福冨陽子

金木犀往く人を振り向かせをり

雨あがりさやかなる街忘れ傘

駄菓子屋にカーディガンの親子ゐて

白風の煉瓦径くつ音愉し

席を詰めてくれる人あり喫茶店

日曜の小学校百葉箱も休み

楽器屋のガラスにチラシ秋ライブ

釜川の水嵩増へて金木犀

ホットドッグ千切キャベツ秋の空

二荒山砂利踏むごとに秋夕焼

蕪村句碑ふたりに譲る残菊

 自由俳句「風薫」の定例句会を開催しました。兼題は「星月夜」。月は出ていないのに秋の夜空いっぱいに星が出ている場面、最近は街のにぎやかな光で見えないことが多いのですが、ちょっと足を伸ばして自然豊かな場所へ行くとこの光景を満喫できそうです。

 まだ暑さが残りますが、たしかに日没の時間が早くなりました。

 

 

高崎志朗
 

土間の隅虫を照らすや星月夜
鈴虫や音色競へば星月夜
新月や夜道明るき人の声
唐黍のハモニカ喰ひの子ら五人
ペアルツク会話が止んで星月夜


疋田 勇
 

せわしなき身体やすめば星月夜
秋雨や終わりはいつか問うてみる
猛暑日にうれしうれしの通り雨


山 多華子
 

星月夜十五の登山十勝岳
望郷の想い届けよ星月夜
仏花水朝晩替える残暑かな
和塩ふる芋のサラダの旨さかな
憧れは今年もテレビ風の盆
ドライブや秋雨前線くぐり抜け


渡辺 健志
 

先客の蜻蛉の踊る露天風呂
ミンミンとカナカナ混ざる峠道
星月夜空喰らふ富士の山影
落蝉や黒影集ゐ無常也


大竹 和音
 

ウインクかまばたきなのか星月夜
スナフキンとムーミン谷の星月夜
塒とは逆方向へ夜這星
色恋の邪魔者来たる雨月かな
還暦を咲かせ咲かせと草の花
あれ今日はアベツクばかり星祭
紅葉の道なき谷に誘ふ古ナビ
居酒屋の客を待伏す秋の風
恩人を探し当てたる老織女
酷評を笑ひ飛ばせり南洲忌


小林泰子
 

久々に逢えば秋色友の髪
試し書きくるりくるくる紅芙蓉
揚げたてのポテトかかえて秋の星
鵙の贄ねずみの眼空蒼きかな


白石 洋一
 

遠花火記憶の奥は手を握り
ゴム銃を上手く撃ちたくて
秋の虫の声深夜便の声に重なり
遠雷や網戸の向こうの水の糸
片足のバッタ菊の葉にしがみつき
ノーシグナルそれが私の最期
息をする又息をして生きて行く
蝶の幼虫苦瓜の蔓にへばり付き
満月や子猫四匹鳴き競う
イノシシは朧月夜に芋盗む


刈谷 見南國
 

路線図に帰る駅なき星月夜
知り合つて罵り合つて星月夜
グラウンド人文字のここ星月夜
星月夜板塀越しの団欒に
深い深い友達が欲し星月夜
ばんもんに月とどろろと百鬼丸
ウルトラQのロゴがぐるぐる残暑かな
十三夜鳥の映画をもう一度
震災忌シーツを高く振りにけり


福冨 陽子
 

星月夜隠るる者たち禊受く
人以外反応してをり星月夜
駱駝乗り砂漠を往くなら星月夜
野分の夜ごふごふと窓一枚
野分雲鎮まる隙に零余子(むかご)採る
朝顔の雫は堕ちぬ朝ぼらけ
すずむしの棲家増えたり猫そぞろ
足早も宵の速さも白露かな
蟷螂や獲物を前に太公望
糸瓜忌や人が歩けば道となり

庭で見かけたイトトンボ

 残暑が続きます。

 さて、今回の自由俳句「風薫」の定例句会の兼題(テーマ)は「本」です。

 先の日曜、句会の前に文芸家協会主催の夏季講演会「松尾芭蕉の生涯」というテーマで黒羽の芭蕉の館の学芸員、新井敦史さんのお話しも聞かせていただくことができました。事務局長の三上様、ありがとうございました。芭蕉の俳諧が大成していく経緯を拝聴できてとても有意義でした。芭蕉の館は私たちも吟行を兼ねて訪れたことがあります。また訪れてみたくなりました。

 

 

高崎 志朗
秋暑し本読まぬまま返したる
盆休み脳が拒否するトルストイ
電柱に身を細めたる残暑かな

疋田 勇
台風に屋根飛ばされしヤギの声
満月や書棚の隅に武蔵伝
赤とんぼひらりひらりと夕の風

山 多華子
窓開けて夜半の読書稲光り
盆用意警戒レベル確かめつ
台風圏久々にカーテン開ける
猛威ふるう台風阻む里帰り
盆帰省肴は土産話かな   

渡辺 健志
旱魃やダムの水面に梢あり
まくなぎや高原の地に涼宿す
峠茶屋犬の散歩は避暑兼ねて
カンカンちりちりじりじり夏旱
後ろ手にアイス隠す子蟻の道
いいとこで頁飛ばさる扇風機

大竹 和音
学問の秋もラジヲとロック本
葡萄棚登場人物関係図
     ※牛久湖畔、住井すゑ文学館にて
雲魚亭の河童と遊ぶ真菰馬
    ※牛久湖畔、小川芋銭記念館にて
ひごろも草紐付き飴のスカ多き
夜明け前鹿の横切る御用邸

八月の護国の森はざはめきぬ
七夕や戻って来ないブーメラン
UFOの飛び出す絵本月の暈
悪餓鬼と競ふ𡚴の種飛ばし
施餓鬼会や饅頭ころげ禅問答

小林 泰子
燕の子ふちにとまってきょとん顔
墨文字の湾曲にとり憑かれし秋
秋晴れや今日の栞はチェック柄
歳時記をめくっては閉じ流星群
秋暑し刹那のケセランパサラン

白石 洋一
葉を巻いて虫を育ててペンペン草
長雨に草は茂ってズッキーニ腐る
reraを熟読する思わぬ展開に
干からびたミミズを囲む小蟻の大群
サッシ越しの風夕方の涼しさは荻
娘の挙式は10月それまでは生きていたい
姓が変わった記憶と記録にしか残らない白石千乃
rera読了それぞれのドラマの妙
蝉の腹網戸越しに見る朝よ
カボチャとスイカ雑草に負けてしまい

刈谷 見南國
文月の本抜き出した函へこむ
つるべおとし父は長らく無職です
初嵐本の山避け寝てをりぬ
新涼の本重なつてゆくベツド
金蛇の縞飛び出でる歯磨き粉
ひらけば興の乗る本ありや今日の秋
かまどうまレ点入れたるDOLBYオン
謝りたき人の名書いて終戦忌
母よりはクジ運良い子終戦忌
サンゴ店覗きし母の終戦忌

福冨 陽子
文章の句読の違和に秋の風
五色刷り夕焼けはけうも逃げてゆく
小飛蝗の赤紫蘇群れて風に耐ふ
線香を手向けぬ墓や秋茗荷
椅子のある本屋であれば金草鞋
盆の暮ヒカリ座休み知らぬまま
塩辛昆布より命名の蜻蛉


八月のユリ 
 

 夏祭が復活し、花火大会も今年は開催されます。私たちの住む町でも、ちょうど句会が開催された日に子ども神輿が窓の外を通っていきました。暑い日ではありましたが、伝統を受け継いでいくための貴重な行事です。

 さて、先日の日曜に開催した句会の兼題「汗」。汗の99.5%は水分ということですが、そうやって体温調整をしている身体の神秘的な仕組みに今さらながら驚きます。夏場、室内でじっとしていても3リットルの汗が出ると聞きました。

 名古屋場所も大詰めとなってきました。新大関は誰か、などなど楽しみです。        (7/21記)

 

 

 

高崎志朗
村雨や「拾円パン」は五百円
釜川をペットボトルの滝登り
田子倉ダム梅雨の恵みを湛へて蒼
流し麺うまく掴めぬ小暑かな
球追へば鼻頬からの玉の汗

 

加納弘志
道場にまばゆい汗が迸る
給料明細打ち込むテンキーに汗
金の汗共に流した友は今

 

疋田 勇
麦わら帽汗滴りて川掃除
玉の汗一心不乱居合道
朝焼けや鳥鳴き交はす木々の径
軒先の八重ドクダミの無垢の白

 

山 多華子
映像のパリ五輪の汗思う
雨上がりやや納涼くる窓の月
トマト五個洗う桶の水ぬるし
占いの最凶の日鰻食う
庭そうじ松葉牡丹の種散らす

 

渡辺 健志
冷汗や微風ひとつ揺れる橋
剣豪家草を刈る老婦人
炎昼の陰日向天国地獄
寝入端轟きは蚊雷のごと

 

大竹 和音
ロマンスは縁遠きこと夏の果
立ち漕ぎの坂を下れば汗に風
風呂敷をほどき形見の浴衣かな
カメラへとムササビのごと蠅一匹
また今日も溝川土手の茗荷汁
すゑめしに一人あたらぬ日のバイト
父の日や普段通りの花屋かな
古里にパーマ屋ひとつ紫陽花
銀鱗の竜神泳ぐ夜の川

 

小林泰子
雷雨止み闇に溶け込む滴の音
髪乱し手汗の滲むエコバック
四年振り囃子を待ちわびる
夏料理勝手口から囃風
炎天や坂道がなるトラクター

 

白石 洋一
パスタの玉ねぎ畑に掘りに行く
猪の食べ残した筍頂く
愛車見送り溢れた涙温か
ジャガタラやミミズが邪魔する土の中
矩形の端皮はブックエンド
radioから美空ひばり「人生ってえええ」
ヤサラとピカタ戸塚の夕飯アンダンテ
糠床を作り畑のキュウリ仕込む
曇り空水墨画のごと木っ葉たち
汗滲む朝から長風呂温泉屋

 

刈谷 見南國
汗拭ひさつきあらかた察しつく
眼鏡畳まる白南風に蔓向けて
会話ふと止まる白薔薇咲くやうに
梅雨雷キーホルダーがとれちやつた
海ほおづき芳一の耳落ちにけり
血のにじむやうな捜査や虹かかる

 

福冨 陽子
髪一本首に貼りつく雨づつみ
汗かひてなんぼと云つた父若し
糸蜻蛉飛んだあしたに雨やまぬ
洗ひ髪つつかけ履ひて風を待つ
甚平をずぶぬれの人に貸すも夫は
虫に好まれず赤紫蘇の葉は無事
土用の丑世間に耳塞ぎ過ぐ
納涼床まれびと来るもどかぬ猫
学生たちの声雪加の声止む

驟雨にも負けず名を知らぬ花咲く
 

  先日、定例句会を開催しました。夏日や寒ささえ感じる日々、それでも夏草は雨ごとに勢いが増してきました。夏至も過ぎ、これから梅雨が明ければきっと夏らしい夏が来るのでしょう。

 この夏は積極的にかき氷や線香花火など人の体験から成り立つ季語を追ってみたいと思います。今回の兼題は「白靴」です。句会での作品を掲載いたします。

 

 

■高崎志朗

 

白靴や思わずスキップ初デート 

ランドセル歩くやうなり白シューズ

あじさひやラジオ体操タワー下

出し抜けに魔女の一撃梅雨の朝

五月雨や海吼えてをり大鳴門

 

■加納弘志

 

白靴のあんごさ想い届けたい

白靴の汚れを見つけ日々の泡

梅雨空に託す願いや晴れの日を

 

■疋田 勇

 

上り坂下り坂にて白い靴

鮎の群れ流れに負けぬ登りかな

夏祭り行燈吹き消す匂いかな

干瓢を一玉頂き前途多難

 

 

■山 多華子

 

白靴や歩幅広げる雨あがり

万緑や小さき看板隠し居り

髪束ねとろろ昆布の冷やしランチ

梅もらい六月六日洗うなり

歳時記や苦節五年の夏来たる

 

 

■渡辺 健志

 

夏草の名前調べて見失ふ

焼け落ちた菓子屋跡地にしとしとと

地震気づかぬ雷雨の演奏会

傘ささずでんでん歌ふ園児かな

白靴や跳ねる子映す潦

 

 

■大竹 和音

 

入魂の野外演奏風変はる

悪ひこと云つちやつたかな梅雨の入り

打ち上げの炭火焼屋に音花火

泥水をかぶる白靴通学路

給食の牛乳残す白ズツク

千歳の地蔵真新な麻頭巾

戦争の傷痕映す梅雨の空

最期の夢コメディーであれ走馬灯

和菓子屋の喪の明けゆきて梅雨の晴

 

 

■小林泰子

 

白靴や歩道橋駆け上がりし日々

歩道橋錆はなくなり夏至の雨

ミチミチに弾け飛ぶごとゆすら梅

 

 

■白石 洋一

 

蕨折る万歩計は八千超

トタン屋根不意の夕立ドラミング

軒先に裸電球並ぶ露天風呂

湯に身体浮かべる羊水の記憶が

ブーンワーンと梅もどきの花虫の群

2000枚超える名刺何人覚えてるかな

畑に蝶の屍風に飛ばされて舞った

句集風薫届く生きた証の記録

かなかな蝉梅雨の朝に鳴き初めし

今年は蕗と茗荷が1メータは有る

 

 

 

■刈谷 見南國

 

図解入り密室推理読み梅雨入り

ヂヤムとバター混ざるピンクや桜桃忌

退屈はさせませんわよ白靴は

映画観たあとの大股白い靴

菖蒲引くお前もいつか母親を

かき氷すべての謎を解き明かす

巨き女子二人揃ひて山滴る

体のいいリストラを経てアマリリス



■福冨陽子
 

耳奥に猪木のテーマ夏の朝
外売りのキヤベツの濡れて薄緑
コリアンダ降らせばカレー驟雨来る
半夏生雨に落ちたか緑色
古簾蔓を集めて簾増す
柚の花の白き花弁に幸生まる
「午後の曳航」夢の続きや明易し
白靴とヘビーメタルは頭痛薬
雨の日の白靴の人詩人なり

庭先の半夏生





 

 風も心地よく日射しもちょうどいいとうれしいものです。本日は小満。万物の力が漲り、これからどんどん成長していくいい季節になりました。

 宇都宮市内でも音楽のイベント「宮ギグ」が二日間開催され、久しぶりに賑わっていました。大相撲の夏場所も声援が聞こえ活気が溢れ、うれしい限りです。

 本日開催しました句会は、句集第11集が刊行されたばかりで喜びもひとしおでした。

 

 

高崎 志朗

花風や石垣斑小峰城

夏鴨や合掌映えの田を揺らし

花見鳥声降りてきて白川郷

山藤の鏡田揺らす残り鷺

鏡田を夕陽に染めて風薫る

真夏日や白頭コートを駆ける

 

 

加納 弘志

五月晴れ心の中も晴れ模様

小満や鬼怒の流れはおだやかに

初夏の風感謝感激口ずさむ

 

 

疋田 勇

手術後や世の光あらた夏の立つ

雑踏の駅に西口東口

露店の風鈴猛暑を打ち消す

 

 

山 多華子

初夏の雨気まぐれに降り花愛でる

病葉をつぼみで隠す花ありて

友の文羊蹄の花なつかしく

 

 

渡辺 健志

花吹雪カメラ構へて帽子飛ぶ

北国のソメイと八重のツーショット

黄昏や尾鰭たゆたふ鯉幟

むらさきの絡む悲鳴か山の藤

朝露に魚眼の世界薔薇の花

みづすまし古代と出会ふ翡翠かな

大竹 和音

渦巻きの跡はあの日の蚊遺香

制服のブラウス透かす夕立かな

行きつけの店は満席蟬時雨

物干しの安心タオルこどもの日

副虹やついてなき日にケセラセラ

オッドアイの猫の亡骸埋める朱夏

鳥巣立ち還暦祝ふ腕時計

まこもぐさ芥とどまる沼の隅

でれすけと父に撫でられ氷菓子

妖怪の棲む沼深き夏の霧

 

 

小林 泰子

柏餅ほのかに香る空の皿

昼寝覚ゆめと今の狭間に居る

雨上がり澄んだ空に虹探すも

 

白石 洋一

コーヒー豆もう何度挽いたことだろう

ステージでアガッテ居る自分

蕨のトロミは初夏の味わい

草刈りの跡草の匂いの庭先は

猫四匹庭先に寝そべる午後の陽射し

山椒酢味噌でウドを湯がいてまぶして

中国ドラマにハマって奥深い筋書き

蕨山汗をかいては深呼吸

大漁の蕨捌けず途方に暮れ

インスタントの焼きそばを鍋のまま

 

 

刈谷 見南國

カーエアコンレバー一気に振つて夏

はつなつの筆すべりだす軽さかな

少女ゆふもんはつまらん夏は来ぬ

落ち度なくとも謝りて聖五月

翌日は色違ふだけのネルの襯衣

 

 

福冨 陽子

雨ごとに粛々生きる青葉風

物語いつたん終わり立夏くる

揚羽蝶いつもの柚を見つけ出し

やせ蚯蚓乾かぬうちに蟻は這ひ

鋏持つ吾にざはめく夏の庭

郭公の声ヘリコプターに黙る

いつのまに群れ占める紫蘭かな

初物や葛きりと割り箸揃へ

待ちに待つ十一集目届ひたり

つやつやと葉は光抱き夏椿

十五年句会は少年となりぬ

雨あがりのさつき

 先週の日曜に、黒羽から那須町、そして福島に入り白河関所跡、小峰城へと吟行のミニ旅をしてきました。天気にも恵まれ、句を詠むにはいい日和でした。今回の参加は五名でした。吟行で詠んだ作品を掲載いたします。
 

 

高崎志朗
黒羽の花びら舞ひ込む小窓かな
芦野宿古人は見たり古柳
小峰城乙女の涙花の塵
蕊散りて哀れ「おとめ」の小峰城

 

山多華子
風光るこんなところに遊行柳
春の雨白河の関越えたるか
桜蕊落ちたる道を詠みながら
石垣と乙女の桜小峰城

 

大竹和音
閉鎖した刑務所の塀春の雲
柳の風暖簾取り込む支那蕎麦屋
関寺の狛犬飾る落ち椿
城塞の弾痕桜蕊は涙(なだ)
花見人先祖は城の人柱
春三番賽銭箱の鈴鳴らす

 

刈谷見南國
知らぬ人にシャツター頼む四月かな
桜蕊踏み小峰城見上げけり
小峰城あつさり後に暮の春
晴れたのは行ひのせい桜蕊
ターザンロープしたき衝動蜃気楼

 

福冨陽子
石苔の白河神社に残り花
遅櫻白河の関苔の関
せせらぎ聴く遊行柳や土匂ふ
花守の留守見下ろせば小峰城
花曇りボート揃ひて南湖閉じ

 

 

白石洋一(自由句)

ホーホケキョ初鳴き聞いて昼ご飯

窓越しに満点の星欠伸する

水仙の花今年も咲いてくれたから

梅の花びらアスファルトに散らばって

こじんまりとこの山奥で生きる

闇を見る死んだらどの辺りへ向かうの?

色々有ってやっとニンニクの草むしる

水仙の花一輪の気の早いヤツ有り

昼間から酔っ払いイベントの再開

イベントの賑わい戻り桜舞う

小峰城からの眺め
 

 三寒四温の日々。それでもすぐ先に温かい季節が待っていると思うと心が軽くなります。愉しい会話、嬉しい出会いを大切にしていきたいものです。大相撲の大阪場所も中日となりました。高校野球も始まりました。努力が羽ばたく春ですね。

 自由俳句「風薫」の句会を開催いたしました。兼題(テーマ)は「ほっこり」。

 

 

高崎志朗

浅き夢いつも出会ふは若き君

梅の香や道案内のすずめたち

春の宵兄弟揃ふ義姉の通夜

居酒屋に朗々々と春の宵

中禅寺湖余寒の空を映しけり

駒込の踏切に立ち春うらら

 

 

疋田 勇

そこのけと春蟷螂に雀去る

刃振る道場の外花吹雪

春風や病院広場に陽は射しぬ

養護施設廃墟と化して春の雨

 

 

山 多華子

五人衆子どもに還る春合宿

草若葉雨しんしんと夢うつつ

絵羽織や惜別の式春の午後

 

 

渡辺 健志

老梅に生えし若枝艶々と

古行事消ゆる寂しさ春の風

廃屋の煙草売り場に梅かをる

高架下かをり辿りし隠れ梅

チュンチュンと話すパイプに耳澄ます

古墳山桜纏ひて色直し

紅梅や古民家に咲き大画なり

春の闇走る黒猫吸ゐ込みて

 

 

大竹 和音

長閑さや座蒲団猫の大欠伸

プラスチック工場にさへ梅の花

三無主義と呼ばれし世代卒業式

制服のディーヴァ春告鳥のごと

裏庭に雉のゐすはる武家屋敷

頭まで喰へと父いふ目刺かな

春雨や布団取り込む老夫婦

ホワイトデーリボンを付けて絹豆腐

返品の片付け終へて春茜

 

 

小林泰子

だんごむし丸まったまま春の昼

いぬふぐり大青空を写しけり

シャボン玉空に還るか土に還るか

 

 

白石 洋一

陽射し降る猫のアクビは無口なり

筆を持ち文字を書く時心無し

思う様には行かない人生春近し

ほんわかと犬が居た頃の記憶

猫二匹前足たたみ並んでる

雨音の聞こえる朝少し汗をかいて

雨音が合唱する朝腰が痛む

猫四匹餌を競ってフォグフォグ

生まれ変わった猫庭猫になりて

花嫁の父となりて梅の花

 

 

刈谷 見南國

洗い漏れのスプーンひとつ春寒し

同じ話幾十度きく朧かな

明易しプロレス雑誌一気読み

妻の肩越し版画を見遣る日永かな

蜃気楼志朗多津朗琳太朗

のどかさや泥棒呆れ帰る部屋

 

 

福冨 陽子

ホウホケチョ初音は倖を配りきて

鶯の聲に起こさる誕生日

一歩ずつ足尾の山に春けらし

突き出しに縒りをかけても春霞

大蛙手に乗せ娘デートらし

さもあらん愉し会話に福芽吹く

サクラサクあの電報は未然形

白椿の中にピンク椿が二輪

 私たちの住む宇都宮からはたいていどこからでも日光連山、とくに男体山が見えます。まだまだ寒い日は続き山には雪も降ることでしょう。それでも日に日に空が明るくなっているような気がします。もう少し暖かくなると春霞の中に日光連山、那須連山が幻想的に宙に浮かんで見えることもあります。

 2月19日に開催した自由俳句「風薫」句会での作品を掲載いたします。

 

 

高崎志朗

うたた寝や風邪を案じて(ひと)の声

舟を漕ぐひとりテレビの炬燵かな

学校の百葉箱と金次郎

大寒の畳硬しや合気道

へつぴり腰滑る孫らの息白し

晴れの日や布団干したる八度の日

大声でひとり蒔く部屋鬼やらひ

 

 

疋田 勇

霜焼けや痛みこらえて空手道

冬の田や入り日に染まる藁の山

墓地の径日溜まりの中福寿草

いつのまに寝床にたどる春日かな

 

 

山 多華子

春暖炉心身ともに居眠りす

百本針豆腐に刺して供養の日

決意の日北窓開く吾の部屋

ひとつ決めひとつ捨てたり牡丹の芽

梅香る前掛け新た朝支度

 

 

渡辺 健志

梅香や売店の客奪い取り

幼子の寝息聞きつつ春の夕

読み聞かせ読み手傾く目借時

春昼や商人の眼差し虚ろ

春の風欠伸連鎖の観光地

 

 

大竹 和音

春眠や最期の顔の穏やかな

行きつけをはしごしたのち涅槃の日

魂魄はまつすぐな道春の雲

雪解けや僮は跳ねる泥兎

検温と記名洩れあり春の宴

栄転の若人唄ひ雲雀東風

山笑ふ野次の飛び交ふ野外フェス

新曲の歌詞あれこれと石鹼玉

おすそ分けしたりされたり春三日月

種蒔や自給自足のアーミッシュ

 

 

白石 洋一

時は静かに過ぎてゆく息をする

やがては私も死に行く無を残して

酒魚安宿集いヤツ偲ぶ

死んだんだなと想う事が哀しい

長いローンは今年迄生き方変えよう

早朝や時の過ぎゆく音聞こゆ

眠れなかった頃もあったなぁ

眠りへと落ちる瞬間知りたくて

眠ってる隣の君は幸せね?

眠れぬ夜に句を紡いでおり

 

 

刈谷 見南國

雪しまきジェフ・ベック振り向かぬまま

冬銀河フリオは行方不明なり

ガリバーのカズオ小さくなり冬晴

教へ子に教はる人や石鹼玉

冴へ返る二段階段にも奈落

雷蔵の手描き看板に春雨

廃校に非常灯点き春の月

タツパーの蓋合はせては鳥帰る

平安の麻呂のやうなり大朝寝

 

 

福冨 陽子

あけぼのや悪夢はうつつを越へてゆく

春眠やへつりの順路に従ひて

羽虫群れ陽に輝けば雨水かな

芋の芽や起こされたのか起きたのか

桃色のジャケット華やぐ宵の口

バレンタインりんごショコラの甘酸さよ

春水や森羅万象輪廻する

春雪や大降り予報の休息日

独活剝けば無垢色深し揚げ油

どぶろくや野遊待ちて籠の中

南を向いた水仙の横顔

 

 

 小正月は花正月、女正月とも言いますね。地元神社の境内でどんど焼きで昼間は賑わいましたが、夕方からあいにくの雨。新年になり水たまりができるほど雨らしい雨が降りました。

 初句会の作品を掲載します。兼題(テーマ)は御守。初詣で私も健康守を求めました。今年もよろしくお願いいたします。

 

 

高崎志朗
二荒山合格祈願絵馬揺れる  
初詣石段の先大天狗
散髪の鏡に映るクリスマス
大輪をトンビ描ひて冬の空
スカイツリー大提灯の年の暮れ
冬ざれに鳥は群れたり田畑かな
初暦蒼天さなか俄雪
三日とろろ唇痒し白い飯
年の瀬の夕陽眩しき赤信号
白髪たちテニスコートに冴ゆる朝

 

疋田 勇
小寒や花の蕾の待ちきれず
初詣幸を願へば鳩の声
雪割草天下分け目の晴れ姿
蠟梅や羽黒の山を黄に変へる

 

山 多華子
新年の画面の雪や凛として
駒澤の箱根駅伝初三冠
年始め御守り袋縫いあげる

 

渡辺 健志
アルバムに挟めぬ想い古寫眞
主なき園を彩る寒椿
肉屋前ふくら雀の多きこと
新年の笠雲かかる那須岳や
幾万の白針纏ふ冬薔薇
走る子と擦れ違ふ後肩竦む
食べられる御守菓子の土産かな

 

大竹 和音
くやしさに負独楽すべて闇に投ぐ
鉄塔に絡むカイトは風まかせ
餅つきや子守りする子の大所帯
のらくろを買つてもたつた初詣
門松や餌に飛びつく錦鯉
山頂の木札求めし初筑波
糸通し祖母を手伝ひお年玉
風花の果つる命や能の舞

 

小林泰子
詰め放題小さき袋とにらめっこ
ポケットに守り忍ばせ冬の朝
黄昏や切り絵浮き立つ冬景色

 

白石 洋一
山茶花の白仏壇には似合うかな
杉の木を揺らす風の音が寒くする
畑の雪が溶けるとニラ苗植える
妻の癌は友のお守りに救われたよ
酒浸りの正月死んだヤツを想う
踵割れ歩けば痛む正月や
お守りに縋るしか無い事もある
南天の赤には静かさを感じる
霜柱踏み音は懐かしい耳の奥
穏やかな朝陽射しは埃の舞い


刈谷 見南國
年内に御礼かたがた心理学
四頁目から空白古日記
寒柝や母娘の会話興に乗り
ひとつだけジョッキ常温寒四郎
新玉や球形サプリに電球
出来事も次の事件も冬木立
笹鳴きやアンコールしませんしません
お守りの膨らんでゐる冬夕焼
お守りが鬱蒼として山眠る

 

福冨 陽子
風花や厄除祈願運びゆけ
初詣背中の会話無邪気なり
鉛筆で描いたやうなる枯欅
庭バケツ霰の堕ちる先となる
かじけ猫仲の悪さも中休み
着ぶくれの列粛々と大谷地下
医王寺の御朱印誤字に初笑
繭玉の枝木はなにと御猪口酒
三角の肩掛貰ひ続き編む

庭の初咲寒椿