こんにちは。園庭研究所の石田です。
今回は、芝生、ビオトープ等自然に近い環境について、ご紹介しますね。
園庭の各物理的環境でどのような子どもの育ちが見られるのかについて、先行研究で明らかにされていることについて、先日よりご紹介します。→園庭環境と子どもの育ち一覧
【芝生】
・芝生化された園庭で見られる特有の遊び活動は,「寝転ぶ」「座り込む」「座っておしゃべりする」「ごろごろする」「裸足で駆け回る」と報告されており、穏やかな活動をしたり,裸足という足の感覚を働かせる場となっている。
・芝生化された園庭に通う幼児の方が,園庭が土である園より身体活動量(歩数とエネルギー消費量を考慮)が多い。また、脚力を中心とした運動能力を高めるとともに,両手と両足を連動させて身体をコントロールするという巧緻性を向上させる。:その理由として,芝生のクッション性による痛みの軽減と不安の低減,服などが汚れることに対する不安の減少によって,立位中心から身体を上肢で支える,転がる,回転するなど,活動の変化や多様化を生んだ可能性があると,研究者は考察している。
以上より芝生に特有の育ちは,穏やかな活動を通してリラックスできることや,足裏への刺激や下半身の動きの向上,両手両足の連動といった巧緻性の向上であることが示唆されています。
<参考文献>横山勉 2011.「芝生化園庭における幼児の遊び空間に関する研究(計画系) 」/中島弘毅・大窄貴史・張勇 2012.「園庭環境の違いが幼児の身体活動量と運動能力に及ぼす影響 : 園庭の芝生化に着目して」
【ビオトープ等、自然に近い環境】
ビオトープとは,生きものを意味する「Bios」と場所を意味する「Topos」を合成したギリシャ語語源のドイツ語で,「野生の動植物が生息生育する空間」のことであり,地域独特の性質が基盤となり,地域の中で守り育てていくことが原則となっています。(大澤他, 2004)。こうしたビオトープは,園庭にひとつのエリアとして取り入れている施設もあれば,園庭全体で自然に近い環境づくりを意識している施設もあります。また,ビオトープ等自然に近い環境では,前回・前々回でご紹介しました植物環境に加えて,虫や鳥などの動物,ミミズなどの分解者と触れ合うことのできる環境であり,水辺を取り入れた場合もあります。
このようなビオトープ等自然に近い環境では…
・ビオトープでは,様々な生き物が暮らすため,幼児が興味関心を持ちやすい。メダカの死に直面して疑問や悲しみを感じ,慈しみの気持ちから墓を作るなど,生き物に関わる中で様々な感情を抱いたり,多様な生き物の命を認めたりする姿が見られる。
・幼少期の自然体験量が多い人ほど,人間生活に問題を起こしうる生物(ススメバチやイノシシなど)に対する受容度が高い傾向がある。
・(小学生を対象とした調査)公園や森など近隣の自然地での直接的な関わり,本やTV,家族や友達との会話など自然を想像して感じる体験が,①生き物に対するマイナス感情を軽減すること,②生物多様性の保全に対する姿勢(その生物が好きか,親しくなりたいか,周りにいて幸せか)や,③自然を守る意志を高める。
・様々な生き物が関わり合って生きる様子を体験することができるため,生態学的知識を得ることができる。
・虫捕りなど自然との知恵比べが必要な状況で,仲間と生き物の情報を伝え合ったり,自分たちの暗黙のルールを教えたりする姿が見られる。
・虫に刺される植物のトゲが刺さる,ぬかるみで滑るなど自然の中には危険と出会う確率が高い。また木登りなど安全を意識して作られたわけではない環境での遊びもある。→こうした自然の中での遊びを通して,子どもは,こわい体験を繰り返すことで観察力を高め自己管理能力を育成する。さらに、体験した危険について子どもは保育者や他児と共有する姿が見られる。
以上より,ビオトープ等自然に近い環境に特有の育ちとしては,多様な生き物が暮らす中で,生命尊重の気持ちや生態的知識を深めることや,仲間との協同,自己管理能力や危険対応力であることが示唆されています。
<参考文献>大澤力・濱田彩希・菊池健夫・中村信也・越尾淑子・湯山隼之助・宮澤弘二・淺川真理・亀井裕幸 2004.「幼児教育における身近な自然作りの一考察-東京家政大学附属みどりヶ丘幼稚園におけるビオトープ作りの検討-」/Hosaka,H., Sugimoto, K. & Numata, S. 2017. “Effects of childhoodexperience with nature on tolerance of urban residents toward hornets and wild boars in Japan” /Soga, M., Kevin J. Gaston, Yamaura, Y. , Kiyo Kurisu, K. & Hanaki, K. 2016. “Both Direct and Vicarious Experiences of Nature Affect Children’s Willingness to Conserve Biodiversity” /木村学 2007.「学校ビオトープにおける子どもの自然探索行動:休み時間の虫捕り遊びはいかにして展開されるのか」/森下智子 2007.「自然環境における「こわい」体験が子どもの危険回避意識に及ぼす影響-木更津社会観保育園を事例として-」/北澤明子 2015.「自然とかかわるこどもを捉える視点 : 樹木ら広がる幼児のかかわりの分析を通して(1) 」
上記は、秋田喜代美, 辻谷真知子, 宮田まり子, 宮本雄太, 石田佳織 2019. 「園庭環境に関する研究の展望」『東京大学大学院教育研究科紀要』第58巻のⅤ章でまとめています。以下東京大学CedepHPからのダウンロード頂けます。http://www.cedep.p.u-tokyo.ac.jp//projects_ongoing/entei/
お問い合わせ: 電話:080-2381-8611 / メールを送る
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