園庭ではどのような育ちがある? 5:樹木・草花・菜園 | 心と体と学びをはぐくむ園庭を

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こんにちは。園庭研究所の石田です。

今回は植栽の中でも、樹木、雑草や花壇等の草花について、ご紹介しますね。

園庭の各物理的環境でどのような子どもの育ちが見られるのかについて、先行研究で明らかにされていることについて、先日よりご紹介します。→園庭環境と子どもの育ち一覧

 

【樹木】

・木登りやロープブランコなど樹木を活かした遊びで,高さや空間的多様性といった樹木の特性によって,幼児が高度感やスピード感を味わいながらも落下しないよう集中し,身体の保持など上手な身体の使い方を身に付けている。また,多様な分枝といった樹木特性によって,幼児が試行錯誤して自分なりの登り方をマスターしている。

・木(細木)の弾力性や形状が幼児の行為を引き出し,その行為によって生じた音や形状変形などの結果が幼児に,試行錯誤や反復などさらなる行為の継続をうながす。

・幼児の行為のほとんどが「曲げる」「揺らす」といった単純なものであるが,様々なバリエーションがあり,遊びが次々と展開している。

・落ち葉とかかわる遊びでは,落ち葉の山に飛び込む,踏んで音を楽しむ,すくって投げては舞い落ちる様を楽しむなど,五感や体を大きく体を使っている。

・幼児が森の中で特によく触れる自然物は枝や木の根であり,幼児が枝とかかわる際には,①触覚器官を用いて枝を「受容」し,②枝の特徴を「探索」,③持った枝にふさわしい動きや遊びがはじまり(「発祥」),④行為から生まれる発想を形状化し意味付けられ展開が生じる(「創造」)。これについて研究者は,大人が作った玩具について「玩具の主たる選択の権利や制作過程の手順も大人にあり,遊びの方法も限られている」一方で,枝については「選ぶ決定権は幼児自身にあり,その遊び方も幼児が決定できる」と指摘している。

 

以上より,樹木に特有の育ちとしては,集中力や身体を保持する運動能力,試行錯誤を通した身体の使い方の体得,自己決定や遊びを生み出す創造力であることが示唆されています。

 

<参考文献> 遠藤知里 2018.「幼児教育における子どもと森: 安心と挑戦をもたらす環境としての樹木」/中坪史典・久原有貴・中西さやか・境愛一郎・山元隆春・林よし恵・松本信吾・日切慶子・落合さゆり 2010.「アフォーダンスの視点から探る.森の幼稚園,カリキュラム-素朴な自然環境は保育実践に何をもたらすのか」/梶浦恭子・今村光章 2015.「なぜ幼児は「森のようちえん」で枝を拾うのか : 幼児の行動記録を手がかりに

(写真:我が家)

 

【雑草や花壇等の草花】

・幼児は手先を使って遊ぶ中で草花の感触を楽しんだり,見立ててごっこ遊びに用いたり,実や種の形や数に興味を持つ姿が見られる。

・色水遊びからにおいに気づき,においから園庭や地域の植物を探したり,日常生活の中の事物と関連づけて考えたりする姿が見られる。研究者は「子どもたちが自分の手 で植物を摘む経験は,目的を持って考え,選択する力を育てる」と指摘している。

・草花は樹木などに比べて容易に育てられ,大量に遊びに用いることができ,何より子どもたちが大いに五感を使って遊ぶ魅力的な素材である。

 

以上より研究自体はまだ少ないが、雑草や花壇等の草花に特有の育ちとしては,手先の微細な動きや五感,形や数への関心、自らの発想で自由に遊ぶ力であることが示唆されています。

 

<参考文献> 湯浅優典 2017.「保育における草花あそびの一考察―自主的に草木にふれて遊ぶ子どもたちの姿から―」/貞方聖恵・野見山萌・川里智子・船越美穂 2018.「幼児のにおいへの気づき-色水あそびを通して-」

 

 

【菜園】

・穀物や野菜などの菜園活動を通して,栽培している食べ物ついて子どもが家庭 で積極的に話すようになる。

・(中学生を対象とした調査ですが)栽培体験が食べ物を大切にする意識や行動に影響を及ぼす。

・植物を気遣って世話をする姿が見られる。

・(中学生を対象とした調査ですが)「食べ物はいのちである」という認識が,栽培,加工度が低く原材料に近い食品の加工や調理といった生産体験を通して形成される可能性が示されている。

・さらに,幼児への調査では「何のためにマ メはマメを作るのか」という問いに対して,「人が食べるため」といった人間の利用に供する目的(社会的目的論)で回答した幼児が多かった一方で,「もう一度おまめさんを作るため」「また咲くために」など植 物そのものの目的(自己利益的目的論)に言及した幼児も見られた。後者の幼児の行動観察から,「飼育栽培し触れ合うこと・小動物が自己繁殖する姿を経験したこと・よく観るこ と・試すこと・調べることを自分からすることによって,科学的な見方や考え方,表現の仕方をより体得し ていった」と考察し,自己利益的目的論が「人間の利 益のための自然という概念ではなく,自然と人間との 共存についての概念」であると研究者は述べている。

・植物への思いやりを元に,水遣り等自分 がやるべきことを責任を持って果たそうとする姿,籾 摺りなど一見難しい作業においてもプラスの感情で受け止め積極的に取り組む姿が見られる。

・菜園活動の中で植物 の「発生」や「成長」を手がかりとして,幼児が植物 の生命認識を培う(栄養摂取や呼吸,発生や成長,死 を判断理由として「生きている」かどうかを判断する。

・植物画においても,栽培経験前で は葉や花だけなど局所的表現が多くを占めたが,事後 には半数近くの幼児が描く要素が増えるなど植物を複雑な表現で描く。

・学びの連続性として,幼児期には体を使って学び,行動的映像的レベルでの認識定着を意識し,小中学校教育での言語的レベルでの科学概念の学びにつなげていく必要性。→ 栽培活動は,果実の状態や成長条件などを幼児が体を動かし行動的に考え,映像的に学習する機会であると研究者は指摘している。

・実綿から種子と綿を分離して栽培し,綿毛を遊びに用いたり綿から糸を撚る活動など,「人間も自然の一部 であり,その一部を利用し,生活し暮らしていく経験」 の重要性 = 食べ物に限らず,幼児自ら生活とかかわる植物を育てる意義。

 

以上より,菜園や花壇に特有の育ちとしては,食への関心や,生き物を育てる上での責任感や生命尊重, 植物と日々関わる中で深められる科学的思考や生物概念,さらにはこうした一連の関わりから人と自然との共生についての考え方を身につけていくことが示唆されています。

さらに,保護者にとっての意義も明らかにされており、園庭の畑やプランターを用いて親子での栽培活動を3年継続して行なった調査からは,子どもの姿を捉える視点が深まることや,子ども・保護者・他児やその家族・保育者の間でのやりとりや共感が生まれること,保護者と保育者が協力し合って子どもを育てる意識を高めることが明らかにされています。

 

<参考文献> 新堀左智・日高文子・上地由朗 2015 .「イネ栽培学習が幼児教育にもたらす影響と役割に関する検証」/野田知子・大竹美登利 2003.「生産体験が食意識・食行動に及ぼす影響 : 食べ物のいのちに対する中学生の認識とのかかわりで」/松本ゆめか・松本謙一 2014.「附属幼稚園「親子栽培活動」の効果と学校教育への可能性,教育実践研究」/吉村庸・沢本美起・繁野由香・曽我京子・滝川明美 1983.「高知市及びその周辺地域における幼稚園ならびに保育園での生物の飼育・栽培の状況」/大谷修司・椙原泉・高井弘弥 2007.「幼児の植物概念と目的論的思考 : 食用植物の栽培を通して」/日下正一・長谷川孝子・風間節子 1997.「幼児における植物の成長プロセスと生命に関する認識の変化 : エダマメの栽培経験の効果」/小林孝子・日下正一・須々木百合子・青木倫子・坂口やちよ・千村直子 1992.「幼児における植物の生命認識の発達について」/研攻一・佐々木美紗子・大滝 成美 2017.「植物概念の形成を育む保育の試み-イチゴの種の発芽と生長に関わって-」/笠間浩幸 1986.「保育教材としての木綿の研究:領域“自然”とのかかわりから」

写真:千葉県小糸保育園さま

 

 

上記は、秋田喜代美, 辻谷真知子, 宮田まり子, 宮本雄太, 石田佳織 2019. 「園庭環境に関する研究の展望」『東京大学大学院教育研究科紀要』第58巻のⅤ章でまとめています。以下東京大学CedepHPからのダウンロード頂けます。http://www.cedep.p.u-tokyo.ac.jp//projects_ongoing/entei/

 

園庭研究所 代表 石田佳織

お問い合わせ: 電話:080-2381-8611  /  メールを送る

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