園庭ではどのような育ちがある? 4:築山や斜面・植栽 | 心と体と学びをはぐくむ園庭を

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こんにちは。園庭研究所の石田です。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

前記事の続きで、園庭の各物理的環境でどのような子どもの育ちが見られるのかについて、先行研究で明らかにされていることをご紹介します。前記事→園庭環境と子どもの育ち一覧

 

まずは、築山や斜面、植栽(樹木,花壇,雑草,菜園,芝生)について、ご紹介しますね。

 

【築山や斜面(トンネル)】

・築山や裏山など立体的地形環境が幼児の活動量を高め、バランス能力や筋持久力の向上に影響を与えて

いることが示唆されている。

・築山では,幼児は体の様々な部位や向き,方法で登り降りしたり,手足で斜面や地面を感じたりする姿が見られる。

・竹馬やサッカーなど平地でできるようになった活動を,斜面という難易度の高い場で試そうとする姿や仲間と挑戦し合う姿が見られる。

・築山では仲間との協力や助け合いが生じたり,挑戦し合ううちにいざこざが生じたりするなど,豊かなかかわりと社会性の獲得の場となる。

・高さによる視点の変化が幼児の空想をかき立て,ステージのような場として築山を活用し表現したり、泥団子を転がしたりするなど斜面を活かした遊びが生まれている。

 

以上より、築山や斜面に特有の育ちとしては,傾斜や高さという特性を活かして,全身の多様な動きによ

る体の発達や,挑戦する力や達成感,自己効力感であることが示唆されています。

 

<参考文献>藤井翔太・田中俊太郎・国広ジョージ・仙田満・中山豊・臼井永男 2016.「保育環境が幼児の運動能力に与える影響に関する研究運動を促進する,庭環境要素の抽出について」/當銀玲子・槇英子・高梨智子 2002.「園庭環境を豊かにする試み : 土山から生まれる幼児の活動」/横山勉 2002.「園庭における幼児の遊び空間に関する研究」/木村歩 2004.「園庭の築山に関する研究 : 子どもにとって魅力的な遊び環境を創造する試み その1

 

 

【植栽(樹木,花壇,雑草,菜園,芝生)】

・樹木や草花などの植物環境が生理的心理的にストレスを緩和する。

・植物環境を五感で感じることで,自律神経(交感神経・副交感神経)のバランスが整う。その結果,血圧と脈拍が適度な値に安定しリラックス効果が生じ,緊張や不安,抑うつ,落ち込み,敵意や怒り,混乱,疲労の症状を軽減する。

・植物から放出される揮発性物質(フィトンチッド)が内分泌系に作用しストレスホルモンを減少させ,結果,ストレスによる免疫抑制が解除され免疫細胞が活性化する。

・緑化された屋外スペースで休憩する方が,室内よりも,ストレス緩和効果が長時間持続する。

・心理指標による評価では,芝生地に対しては「癒し」「リラックス」が,ラベンダー畑に対しては「面白い・興味深い」「綺麗な」が高評価であるなど,同じ緑地であってもどのような植栽かによって心理的効果が異なる。

・健康に関連する生活の質(健康関連QOL)を高めるためには,「樹木の量」など物理的な緑地環境を整えることに加え,利用行動も合わせて検討する重要性が示されている。

・健康関係QOLには,①「景色が良い」「心が安らぐ」などストレス軽減に関わる生理的健康,②「新たな発見や気付き」「自然と触れ合える」「緑を育てる楽しみ・喜び」「身体を動かせ健康に良い」など人間として本能が満たされることによる情緒的健康,③「仲間づくりや人との交流」などの社会的健康の3因子が関係し,生理的健康よりも情緒的健康の方が健康関連QOLとの相関が強い。 →園庭に植物環境があることで,園児や職員,保護者,近隣住民にとってのストレス緩和効果や健康関連QOLの向上につながる可能性。

・植物遊びに関する書籍の調査:日本で植物を使った遊びが非常に豊富である。その理由として研究をした佐藤は,幅広い気候帯を持ち植生が豊富であること,自然の恵みにあずかる生活の中で遊び文化を育くんできたこと,つい最近まで多くの遊びが各地で伝承され記録として残されてきたことを挙げている。また,植物遊びは伝統的なものからその場限りのものまで無限と言ってよい広がりを持っていることも指摘している。

・植物とかかわる中で幼児が,その変化や成長に気付いたり,植物やそこにやってくる動物の状態や関係に興味や疑問を持ち探索したりする姿が見られる。

・葉の数を数える,茎や種など植物が有する図形を活かして遊ぶ,植物の成長を通して大きさや長さを知るといった姿が報告されており,植物には幼児が数量や図形に出会う機会が多く存在することが示されている。

加えて,園庭での取り組み自由記述(石田他, 2018)では,季節を感じる,樹木を種や苗木から育てる,樹木を訪れる虫や鳥とふれあうといった活用も挙げられており,そこから得られる育ちも検討していく必要がある。

 

以上より,植物環境に特有の育ちとしては,ストレス緩和や健康関連QOLといった心身の健康であることが示されています。

加えて,植物の生態や形の多様さや訪れる動物が刺激となって,創造力や思考力,数量や図形への関心がはぐくまれていることが示唆されています。

 

<参考文献>李卿・川田智之 2011.「森林セラピーによる.精神心理・神経系―内分泌系―免疫系,ネットワークへの影響」/岩崎寛・山本聡・石井麻有子・渡邉幹夫 2007.「都市公園内の芝生地およびラベンダー畑が保有する生理・心理的効果に関する研究」/岩崎寛 2007.「高速道路休憩施設における緑地空間が利用者のストレス緩和に与える効果検証」/那須守・岩崎寛・高岡由紀子・金侑映・石田都 2012.「都市域における緑地とその利用行動が居住者の健康関連QOLに与える影響」/佐藤英文 2018.「保育者に必要な自然とのかかわり : そのⅡ東京家政大学キャンパスにおける植物資源と遊びへの活用」/出原大 2007.「幼児教育における植物環境の考察-子どもの成長と植物環境との関係の基礎的研究-」/石田佳織・秋田喜代美・辻谷真知子・宮本雄太・宮田まり子2018.「園庭における環境構成と使い方の実態」

写真:愛知県 井上幼稚園さま

 

上記は、秋田喜代美, 辻谷真知子, 宮田まり子, 宮本雄太, 石田佳織 2019. 「園庭環境に関する研究の展望」『東京大学大学院教育研究科紀要』第58巻のⅤ章でまとめています。以下東京大学CedepHPからのダウンロード頂けます。http://www.cedep.p.u-tokyo.ac.jp//projects_ongoing/entei/

 

園庭研究所 代表 石田佳織

お問い合わせ: 電話:080-2381-8611  /  メールを送る

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