Battle Day232-Day246までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)

 

 ある日、夜中に電話が鳴る。遼吾を待つコオだったが、期待に反して電話は、T大学病院。コオの同僚ソフィ李が事故を起こし、救急車で運ばれた連絡だった。命に別状はなかったが、翌日に病院に迎えに来るように、病院側に頼まれる。不便な場所にある病院とけが人のため、コオは別れた夫遼吾に車を借り, ソフィのもとに向かい、彼女の大けがを目の当たりにする。検査結果が出るまで4時間待たされることになり、コオは、一度職場に戻り、ソフィの着替えを購入し、上司に事故の報告をした。ソフィのところに戻るが、彼女は朝コオに会ったことを覚えていなかった。コオは記憶が抜け落ちていくソフィに不安を感じながらも退院を手伝い、車で帰路に就いた。以降、ソフィの事故後処理に忙殺されるコオは、仕事を同僚たちに少しずつ分散させるようになる。しかし父・妹莉子・遼吾との離婚というプライベートが重くのしかかった上に、ソフィの事故後処理は、コオの精神を限界に近づかせていた。

 そんな時にコオは父に頼まれて探した老人ホームを、最終的に父に見学してもらうことにした。コオが気に入った1件目より、父は2件目が気に入ったように見えた。この施設でコオは再び、支払いなどの説明を受け、自分はキーパーソンではないことの説明もする。

 あとは、莉子の決断を待つだけとなるが、コオは自分の名前を出さずにことを進めるため、父の担当ケースワーカー浅見、高齢者紹介業者の藤堂と相談をし、『父に頼まれて、老人ホーム探しを浅見が藤堂に依頼、藤堂から情報が届けられた』というかたちにすることにした。コオは話し合いの際、莉子が何故か現在の北寿老健の費用を、窓口で現金払いをし、口座振替にしていないことを知り、違和感を覚える。

 それから、コオは莉子からの反応を待つが、結局何の連絡が来ることもなく、北寿老健での3か月が過ぎる

 

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Battle Day0-Day262までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)

 

 『BattleDay232-Day262 あらすじ』Battle Day232-Day262までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)  ある日、夜中に電話が鳴る。遼吾を待つコオだったが…リンクameblo.jp

 

 

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 父は自宅ではなく、施設に入ることを望んだ。

 コオは、幸い脳出血後も、尿道カテーテル以外は問題なく過ごせている父が、このまま穏やかに暮らしていけるような施設を選び、あとは莉子の決定を待つだけになっていた。

 色々考えれば、施設の方がいいに違いない。父が本心では自宅に戻りたいとしても、コオは仕事上介護は無理だし、莉子は・・・よくわからない。少なくとも、父が穏やかに暮らせるように面倒を看つつ、仕事をするには無理であるように思える。・・・あくまでそれは父サイドから聞いた話だが。

 今考えても、いったいどういうタイミングで莉子がアルバイトを辞めたのか全くコオにはわからない。父の話によれば、莉子は父が1回目の入院から退院した時は、毎日ではないが仕事に行っていたようなことを言っていたが、この時莉子がどうしていたのか、コオには今もわからない。

 ともかく、コオは父と永住型施設を見学に行ってから、莉子がどう反応してくるのか、いつ入居をするのかじりじりしながら北寿老健の浅見ケースワーカー、あるいは藤堂からの、連絡を待っていた。

 

 「浅見さん、妹と連絡取れました?」

 「パンフレットはお渡ししました。莉子さんから、施設に、という話はお父様にはなかなかお話ししづらかったそうですが、お父様の希望ならその方がありがたいとはおっしゃってました。」

 

 それが莉子のいう『介護の覚悟』なのか?

 コオは苦々しく思った。4か月前に、コオが自分の家族を失うきっかけになったあの日、莉子はコオに向かって叫んだではないか。

 

 『私はね、お姉ちゃんとは覚悟が違うの!!介護の覚悟もない人に関わってほしくないっ!!』

 

 それでも、父のために、コオは動いたつもりだった。たのまれるままに、コオは動いた。

 そして、父に施設の選定を頼まれた時に、コオは年金額を知る必要がある、といったが、未だにその情報は手に入っていない。

 浅見ケースワーカーのいる前で莉子に頼むように言ったが、3か月もたとういう今も、手に入っていないのだ。

 コオは少し焦り始めていた。

 週末ごとに、コオは父と同じ会話を繰り返した。

 

 「パパ、年金の額の事莉子に、聞いてくれた?年金振込口座の通帳コピーでいいんだけど?」

 「うん、それが言っても、心配しなくていい、とかっていうばかっかりなんだよ。」

 「ホームの前金は、私が用意するんだからね?それもちゃんと莉子に言ってよ?」

 「ゆっくり話をしたいんだけど、いつも来たと思うと洗濯物してきた服をを引き出しにしまってさ、あとは洗濯物もって、さーっと帰っちゃうんだよ・・・だからなかなか話ができないんだ。」

 「それでも話してもらわないと。」

 

 莉子がほとんど父のところにいない、というのは入院していた時から同じだった。紅病院で偶然かち合った時も、コオは離れたところから、莉子がまくしたてるのを聞いていた。『私ね、すごく忙しいから5分くらいしかいられないの。』 それは看護師からも聞いていた。今の北寿老健に移ってからは、入り口で、面会に来た時と帰る時に名前と時刻を記入するようになっている。ごくまれに、コオが入る時にそのリストに莉子の名前が見られることがあったが、いつも15分もいれば長い方だった。

 

 まだ、余裕はあると思っていたのに、

 あっという間に北寿老健での当初の予定、3か月目は近づいていった。

 

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Battle Day0-Day231までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)

 

 

Day232-これまでのあらすじ

 ある日、夜中に電話が鳴る。遼吾を待つコオだったが、期待に反して電話は、T大学病院。コオの同僚ソフィ李が事故を起こし、救急車で運ばれた連絡だった。命に別状はなかったが、翌日に病院に迎えに来るように、病院側に頼まれる。不便な場所にある病院とけが人のため、コオは別れた夫遼吾に車を借り, ソフィのもとに向かい、彼女の大けがを目の当たりにする。検査結果が出るまで4時間待たされることになり、コオは、一度職場に戻り、ソフィの着替えを購入し、上司に事故の報告をした。ソフィのところに戻るが、彼女は朝コオに会ったことを覚えていなかった。コオは記憶が抜け落ちていくソフィに不安を感じながらも退院を手伝い、車で帰路に就いた。以降、ソフィの事故後処理に忙殺されるコオは、仕事を同僚たちに少しずつ分散させるようになる。しかし父・妹莉子・遼吾との離婚というプライベートが重くのしかかった上に、ソフィの事故後処理は、コオの精神を限界に近づかせていた。

 そんな時にコオは父に頼まれて探した老人ホームを、最終的に父に見学してもらうことにした。コオが気に入った1件目より、父は2件目が気に入ったように見えた。この施設でコオは再び、支払いなどの説明を受け、自分はキーパーソンではないことの説明もする。

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 コオは、父を再び施設に送り届けた後、藤堂を北寿老健の父の担当ケースワーカー浅見に紹介をした。今後どう事を進めていくかの相談つまりは作戦会議をするためだ。

 

 父の老人ホームの見学も終わり、コオが一番気に入った施設ではなかったが、2番めの施設は父も概ね気に入ってくれた、これで後は、莉子次第ということになる。

 莉子がイエスといえば、すぐにでも施設に入れる。でもすぐ返事がなかった場合、埋まってしまって待つことになってしまうかもしれない。なんといっても今空きはたった一室なのだ。その場合は順番待ちに入れてもらい、北寿老健で秋を待つことになる・・・

 

 「その待ちになった場合、その間に北寿老健の期限の入所期限、3ヶ月が過ぎてしまったらどうなってしまうんでしょう。」

 

 コオは尋ねた。

 

 「ええ、原則的には3ヶ月期限ですが、いきなり行き先もないのに、さぁ、でてください、ってならないから大丈夫ですよ。お父様が以前一度自宅に戻られた後、具合が悪くなったということが実際にあったわけですから。もう、移られる先を考えておられるわけですし、大丈夫ですよ。」

 

 浅見ケースワーカーが言った。

 

 「それは、助かります。ただ、前もお話しした通り、私と妹は折り合いがよくありません。私が探した、というだけで彼女は拒否反応を示すでしょう。ですから、できれば浅見さんが父から頼まれて、業者に、つまり藤堂さんに頼んで探してもらった、という形にしてもらえませんか?それで、このパンフレットを渡してほしいんです。」

「・・・。パンフレットをお渡しするだけでいいんですかね?」

「ええ、必要な情報は藤堂さんが入れてくださってますから・・・私の名前は基本的に出さないでほしい、というのが私の希望です。」

「私の名刺を入れておきます。ご連絡いただけるように、一筆書いて。」

 

 藤堂がそういって言ってくれた。

 

 「そして、見学もさせてもらえる、ということを一言浅見さんから添えていただけると助かります。」

 

 浅見はうなずき、コオは、これでいったんこの件は私の手を離れるな、と考えていた。

次は、支払いについて詰めていくときが自分がまた出るときになるだろう。その際は莉子はコオに連絡を取らざるを得ないはずだ。前金はコオが払うことになってるのだから。そこさえクリアすれば・・・父の件はある意味解決だ。

 

 「いずれにしても、妹さんにご連絡しなければいけないですねぇ。」

 「いま、どんな感じですか?連絡は。」

 「お父様のお洗濯ものを取りに来るときと…支払いの時はいらしてるみたいですが、電話での連絡はあまりとってないんです。」

 「え?支払い?口座引き落としじゃないんですか?」

 

 この半年、莉子は、父の事を基本なにもやりたがらない、としかコオは思わなかったのに。わざわざ支払いをしに来る?洗濯物でさえ、きちんと週に1回来ているわけではない。そもそも、いつもそれで父は軽く文句を言っていた。先に入院していた紅病院でも、時折コオは看護師に、『もう2週間きていなくて、今週こなかったらお姉さんお願いします』と言われてたことさえあった。その莉子がわざわざ、支払いを窓口にくる?

 

 「ええ、現金払いされるんです。窓口で。引き落としでもいいって言ったんですけど。ですからいらっしゃるときに、うまくタイミングが合えば一番いいんですけどねぇ。」

 

 浅見ののんびりとした口調とは逆に、コオはなぜかふっと冷たいものが背中を走っていったような気がしていた。

 そして、この件は自分の手を離れる、と思ったのとは逆に、コオは父との穏やかだった時間も徐々に失っていくことになる、このとき感じた悪寒は直感のようなものだったのかもしれなかった。

 

 

申し訳ありません。
ここ3回の記事、過去記事のコピーが、末端に全部残ってる形で投稿してしまいました、。
こんな読みにくい(かつ醜い)投稿してしまって、すみません。
立ち寄ってくださった方皆さんに
お詫びと、立ち寄ってくださったお礼を。
すみません、そしてありがとうございます。

 こんにちは、Greerです。

 すみません、タイトルのDay・・・が一番最近のやつ超間違ってたので、正しいものに戻しました。

 Day234ーDay1326!?とか、なんか3年位飛んでた(;^_^A

 後半部分だけリアルタイムと間違えてしまったみたいです。すみません直しました。

 

改めてですが・・・

 このブログ友人Kの身に実際起こったことをもとに、

 ・ 人物名・地名・などの固有名詞は基本、仮名です

 ・ 起こったことはほぼすべて現実ベースです

 ・ 登場人物の仕事・人間関係は身バレを防ぐための脚色あり

 

で他の皆さんのブログと同じく現実ベースのフィクション小説形態で書かせてもらっています。

 

方針としてしては

 ・ 情報的な部分はできる限り正確に(老人ホームの料金プランとか)

 ・ コオのサイドから書いているので、小説の形態はとっているが、コオ以外の人物の感情は極力描写しない

 

・・・です。

 

 今日はKの誕生日。先週リアルタイムで色々あってお疲れモードの様ですが、

ケーキでも焼いて励ましてあげたいと思っています。

それにしても、Kの報われない、という悲鳴のような言葉は結構重みがあって聞いている方も

時折辛くなります。高齢者介護も、精神疾患者の介護も、病人本人は自分が病気だとわかっていない場合は、

まだ周りの家族よりましな状態なのかもしれない、と思うことがしばしばあります。

 必死に働いて、

 ちゃんと税金も払って、

 自活して、

 そして現実に縛られている家族の辛さ。

 家族は救ってもらえないないのだという辛さ。

 医療も、行政も、現実から結果的に向き合わずに済んでいる病人に対してのものであって(しかもたいてい手遅れになってから)、

 家族に寄り添うものとは言い難い。

 そう思います

 

 

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Battle Day0-Day231までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)

 

 

Day232-これまでのあらすじ

 ある日、夜中に電話が鳴る。遼吾を待つコオだったが、期待に反して電話は、T大学病院。コオの同僚ソフィ李が事故を起こし、救急車で運ばれた連絡だった。命に別状はなかったが、翌日に病院に迎えに来るように、病院側に頼まれる。不便な場所にある病院とけが人のため、コオは別れた夫遼吾に車を借り, ソフィのもとに向かい、彼女の大けがを目の当たりにする。検査結果が出るまで4時間待たされることになり、コオは、一度職場に戻り、ソフィの着替えを購入し、上司に事故の報告をした。ソフィのところに戻るが、彼女は朝コオに会ったことを覚えていなかった。コオは記憶が抜け落ちていくソフィに不安を感じながらも退院を手伝い、車で帰路に就いた。以降、ソフィの事故後処理に忙殺されるコオは、仕事を同僚たちに少しずつ分散させるようになる。しかし父・妹莉子・遼吾との離婚というプライベートが重くのしかかった上に、ソフィの事故後処理は、コオの精神を限界に近づかせていた。

 そんな時にコオは父に頼まれて探した老人ホームを、最終的に父に見学してもらうことにした。コオが気に入った1件目より、父は2件目が気に入ったように見えた。

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  一通り見学した後、事務的なことの説明をされるために、面談部屋のような小さな部屋に通されたのは、いままでどこのホームを見学してもも同じだ。違うのは今回父がいること。コオは、妹・莉子との確執を口にしないように気を付けながら話をした。

 なんといってもここに父が入る可能性が高いのだ。丁寧に話をしなければ。

 

 「私が探して見学したりしてますが、私はキーパーソンではないんです。」

 

 コオは言った。父が倒れてからまだ1年にもならないが、いったい何度この言葉を繰り返しただろう。コオは録音を再生しているような気持になりながら、いや、ここには父がいるのだ、と自分に言い聞かせた。

 

 「私は・・・妹より、情報を集めたりするのが得意ですし、父にも頼まれたのでこうして一緒にきていますが、実際に父が入院するまで同居していたのは妹なので、前金だけは、私がお支払する予定ではいますが、月々のお支払いは妹になると思います。…父の年金管理をしているのも、今のところ妹なので。」

 「ああ、そうなんですね?では妹さんもご見学されたいですよね?」

 「ええ、そうだと思います、あ、もちろん、父が決めたらなら、もうそれでいいっていう可能性もあるんですが。・・・もし見学させてほしい、と話があった場合は、見学させてやってほしいんです。それで…藤堂さんにまた案内お願いしたりできますか?何度ももうしわけないんですが・・・」

 「そうだなぁ、最終的には、下の娘にね話して了解をもらわないといかんと思うのですよ。」

 

 父も、言った。

 たった一つの家族のために、コオ、父、莉子の三回も案内するのは大変だろうに、藤堂はにっこりとした。

 

 「もちろん私の方は、全く構いませんよ。こちらの施設さんに直接連絡されても構いませんし。」

 「それでは詳しいお支払額の事も、今ご説明させていただきます…」

 

 施設のスタッフが、パンフレットを机に広げ話始めようとしたが、父はそれを遮った。 

 

 「ああ、それは僕はもう、脳がイカレてて理解できないんで、娘に話してもらえますか?」

 

 子供のころは、こういう事務手続きすべて父に任せておけば、安心だった。

 今は私がやらなければならない。得意ではないけれど、子供を二人育てていく中で、コオは自分がこういう日常的に起こる苦手なことをどうさばいていくかを学んできたと思っている。

 

 「うん、大丈夫だよ。聞いておく。・・・では、よろしくお願いします。」

 

 コオは頭を下げた。

 莉子は、父に任せていたのだな、ずっと、大人になってからも。

 コオは思った。

 

 

 

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Battle Day0-Day231までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)

 

 

Day232-これまでのあらすじ

 ある日、夜中に電話が鳴る。遼吾を待つコオだったが、期待に反して電話は、T大学病院。コオの同僚ソフィ李が事故を起こし、救急車で運ばれた連絡だった。命に別状はなかったが、翌日に病院に迎えに来るように、病院側に頼まれる。不便な場所にある病院とけが人のため、コオは別れた夫遼吾に車を借り, ソフィのもとに向かい、彼女の大けがを目の当たりにする。検査結果が出るまで4時間待たされることになり、コオは、一度職場に戻り、ソフィの着替えを購入し、上司に事故の報告をした。ソフィのところに戻るが、彼女は朝コオに会ったことを覚えていなかった。コオは記憶が抜け落ちていくソフィに不安を感じながらも退院を手伝い、車で帰路に就いた。以降、ソフィの事故後処理に忙殺されるコオは、仕事を同僚たちに少しずつ分散させるようになる。しかし父・妹莉子・遼吾との離婚というプライベートが重くのしかかった上に、ソフィの事故後処理は、コオの精神を限界に近づかせていた。

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  「おお、清々するなぁ、ここは!!」

 

 2件目の新しい方の施設を見学。最初に案内された食堂で、父は声を上げた。

 言われてみれば、同じ経営母体の施設ではあるが、新しい建物のここの施設は天井が高い。古い方の、最初に見学した施設は住宅地にあった。そこで確か建築の規制のためだったと思うが、建物の全体としての高さが低かった。ここと同じ3階建てだがも各フロアの縦方向が短い、つまり天井が若干低いことになる。

 それに対してここは、開発の遅れた地域だ。交通も若干不便で建築規制が異なるせいか、確かに天井が高く、解放感はある。更に周辺に建物があまりなく、南に面した食堂は日当たりがよかった。

 

 「いや、ここはいいなぁ。」

 

 父はいたく気に入った様子で繰り返した。

 ああ、そうだった、とコオは思った。

 父は・・・ともかく、広いところ、そして大きなものが好きだったのだ。家具も大きくてゆったりして重厚なもの。どちらかと言うと、日本のコンパクトな住宅にはあまりそぐわないものが。 

 父は、昭和の生まれだけれど、同じ年代の男性よりかなり背が高い。だから、天井が高いのを好んだ。田舎の父の実家が、広かったのもあるのかもしれない。家具の好みは、完全にアメリカでの生活の影響だった。父も母もアメリカ北部に5年ほど住んだことがあるのだが、当時は日本とアメリカの生活の格差は大きかった。衝撃的でもあったろうし、なによりいい時代のアメリカに自分たち自身も若くていい時期を過ごした。そのせいか、父と母はずっとその時の生活スタイルをどこかに引きずっているところがあった。

 

 コオは少しだけ迷った。見学しただけでは会ったけれど、1件目の施設のほうがコオは気に入っていたし、藤堂も、スタッフの手厚さなどから良いところだと強調していたから。経営母体が一緒なのだから、雰囲気などが違うのは施設長の違いによるものだろう。 

 ただ、決まれば、そこに住むのは父だ。本人が気に入ったところが一番良いに違いない。多少の不安がないわけではないが・・・、今のところは些細な違い、という気もする。

 

 後は莉子に決めさせよう。

 どうせ私が選んだということは彼女には伝わらないことになっている。

 彼女が見学して、こちらが気に入ればそれでもいいし、莉子のことだから、1件目の施設のほうがいいと思えば、父にゴリ押しするかもしれない。それで父が受け入れるなら構わないしあくまで父が今のこの新しい方の施設を希望するなら、それもありだろう。

 

 コオは、そう考えていた。

 

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Battle Day0-Day231までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)

 

 

Day232-これまでのあらすじ

 ある日、夜中に電話が鳴る。遼吾を待つコオだったが、期待に反して電話は、T大学病院。コオの同僚ソフィ李が事故を起こし、救急車で運ばれた連絡だった。命に別状はなかったが、翌日に病院に迎えに来るように、病院側に頼まれる。不便な場所にある病院とけが人のため、コオは別れた夫遼吾に車を借り, ソフィのもとに向かい、彼女の大けがを目の当たりにする。検査結果が出るまで4時間待たされることになり、コオは、一度職場に戻り、ソフィの着替えを購入し、上司に事故の報告をした。ソフィのところに戻るが、彼女は朝コオに会ったことを覚えていなかった。コオは記憶が抜け落ちていくソフィに不安を感じながらも退院を手伝い、車で帰路に就いた。以降、ソフィの事故後処理に忙殺されるコオは、仕事を同僚たちに少しずつ分散させるようになる。しかし父・妹莉子・遼吾との離婚というプライベートが重くのしかかった上に、ソフィの事故後処理は、コオの精神を限界に近づかせていた。

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  少しずつ、季節は秋に変わろうとしていた。

 父が北寿老健に入所して、2か月が過ぎ、もうすぐ3か月。コオは、業者と選んだ2つの施設を、父を連れて見学に行くことにした。午前中に父を連れ出す。お昼は、最初に見学する施設で、お試しで1食分出してくれるらしい。

 疲れるだろうから夕飯前に帰れるようにしたい、とコオがいうと、紹介業者の藤堂は、

 

 「かしこまりました。それでは施設に連絡を取っておきます。」

 

 と、いつものように柔らかな口調で言った。

 

☆☆☆☆☆☆

 

  父は、当日外出用のシャツに着替えていた。スウェットも、少し外で見てもおかしくないような、もの。一応気を使っているらしい。靴が上履きなのは致し方ない。とりあえず、晴れてよかった。これで雨でも降っていたりしたらまた予定を組みなおさなければいけないところだ。とコオは思った。

 紹介業者の藤堂は、介護タクシーとは違うから、いつもの軽自動車だが、今まで以上に丁寧に運転してくれた。車の中で、今までコオが語った家の事情には全く触れず、父の体調を気遣い、施設の様子をはなした。必要以上に、コオの動きに対して言及することもなく、コオはその距離感が、とても心地いい、と思った。

 

 一つ目の施設。

 コオが気に入って、父がイエスといえば、すぐにでも決めたかった施設だ。少し古いけれど、温かみがある。藤堂も前回コオがそういうと、賛成していた。前と同じ女性の施設長がでてきて、施設内を案内してくれた。食事時間の少し前だったが、元気な女性たちが数名、食堂そばの

大部屋に集まって、おしゃべりをしていた。

 風呂場・リハビリ用の設備・食堂、そして個室。

 父は案内に、いちいちうなずきながら、ゆっくりと施設内を歩いた。個室は、この施設でいいな、とコオが思っていたのは洗浄式便座がついていることだ。2つ目の施設は、ついてないので、購入しなければならない。父には洗浄式の便座は必須だろう。

 

 一通りの見学を終え、食事もこの施設で試食ということで、施設の昼食を、藤堂と父の3人で、個室でたべさせてもらった

 

 「どう?私は割とおいしいと思うけど。」

 「うん、北寿老健より、うまいな。歯がまだないから・・・ちょっと噛みにくいけど。」

 

 父は綺麗に平らげ、コオは父の入れ歯を何とかしなければならないな、と考えていた