*********************
Battle Day0-Day262までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)
*********************
父は自宅ではなく、施設に入ることを望んだ。
コオは、幸い脳出血後も、尿道カテーテル以外は問題なく過ごせている父が、このまま穏やかに暮らしていけるような施設を選び、あとは莉子の決定を待つだけになっていた。
色々考えれば、施設の方がいいに違いない。父が本心では自宅に戻りたいとしても、コオは仕事上介護は無理だし、莉子は・・・よくわからない。少なくとも、父が穏やかに暮らせるように面倒を看つつ、仕事をするには無理であるように思える。・・・あくまでそれは父サイドから聞いた話だが。
今考えても、いったいどういうタイミングで莉子がアルバイトを辞めたのか全くコオにはわからない。父の話によれば、莉子は父が1回目の入院から退院した時は、毎日ではないが仕事に行っていたようなことを言っていたが、この時莉子がどうしていたのか、コオには今もわからない。
ともかく、コオは父と永住型施設を見学に行ってから、莉子がどう反応してくるのか、いつ入居をするのかじりじりしながら北寿老健の浅見ケースワーカー、あるいは藤堂からの、連絡を待っていた。
「浅見さん、妹と連絡取れました?」
「パンフレットはお渡ししました。莉子さんから、施設に、という話はお父様にはなかなかお話ししづらかったそうですが、お父様の希望ならその方がありがたいとはおっしゃってました。」
それが莉子のいう『介護の覚悟』なのか?
コオは苦々しく思った。4か月前に、コオが自分の家族を失うきっかけになったあの日、莉子はコオに向かって叫んだではないか。
『私はね、お姉ちゃんとは覚悟が違うの!!介護の覚悟もない人に関わってほしくないっ!!』
それでも、父のために、コオは動いたつもりだった。たのまれるままに、コオは動いた。
そして、父に施設の選定を頼まれた時に、コオは年金額を知る必要がある、といったが、未だにその情報は手に入っていない。
浅見ケースワーカーのいる前で莉子に頼むように言ったが、3か月もたとういう今も、手に入っていないのだ。
コオは少し焦り始めていた。
週末ごとに、コオは父と同じ会話を繰り返した。
「パパ、年金の額の事莉子に、聞いてくれた?年金振込口座の通帳コピーでいいんだけど?」
「うん、それが言っても、心配しなくていい、とかっていうばかっかりなんだよ。」
「ホームの前金は、私が用意するんだからね?それもちゃんと莉子に言ってよ?」
「ゆっくり話をしたいんだけど、いつも来たと思うと洗濯物してきた服をを引き出しにしまってさ、あとは洗濯物もって、さーっと帰っちゃうんだよ・・・だからなかなか話ができないんだ。」
「それでも話してもらわないと。」
莉子がほとんど父のところにいない、というのは入院していた時から同じだった。紅病院で偶然かち合った時も、コオは離れたところから、莉子がまくしたてるのを聞いていた。『私ね、すごく忙しいから5分くらいしかいられないの。』 それは看護師からも聞いていた。今の北寿老健に移ってからは、入り口で、面会に来た時と帰る時に名前と時刻を記入するようになっている。ごくまれに、コオが入る時にそのリストに莉子の名前が見られることがあったが、いつも15分もいれば長い方だった。
まだ、余裕はあると思っていたのに、
あっという間に北寿老健での当初の予定、3か月目は近づいていった。

