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Battle Day0-Day231までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)

 

 

Day232-これまでのあらすじ

 ある日、夜中に電話が鳴る。遼吾を待つコオだったが、期待に反して電話は、T大学病院。コオの同僚ソフィ李が事故を起こし、救急車で運ばれた連絡だった。命に別状はなかったが、翌日に病院に迎えに来るように、病院側に頼まれる。不便な場所にある病院とけが人のため、コオは別れた夫遼吾に車を借り, ソフィのもとに向かい、彼女の大けがを目の当たりにする。検査結果が出るまで4時間待たされることになり、コオは、一度職場に戻り、ソフィの着替えを購入し、上司に事故の報告をした。ソフィのところに戻るが、彼女は朝コオに会ったことを覚えていなかった。コオは記憶が抜け落ちていくソフィに不安を感じながらも退院を手伝い、車で帰路に就いた。以降、ソフィの事故後処理に忙殺されるコオは、仕事を同僚たちに少しずつ分散させるようになる。しかし父・妹莉子・遼吾との離婚というプライベートが重くのしかかった上に、ソフィの事故後処理は、コオの精神を限界に近づかせていた。

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  「おお、清々するなぁ、ここは!!」

 

 2件目の新しい方の施設を見学。最初に案内された食堂で、父は声を上げた。

 言われてみれば、同じ経営母体の施設ではあるが、新しい建物のここの施設は天井が高い。古い方の、最初に見学した施設は住宅地にあった。そこで確か建築の規制のためだったと思うが、建物の全体としての高さが低かった。ここと同じ3階建てだがも各フロアの縦方向が短い、つまり天井が若干低いことになる。

 それに対してここは、開発の遅れた地域だ。交通も若干不便で建築規制が異なるせいか、確かに天井が高く、解放感はある。更に周辺に建物があまりなく、南に面した食堂は日当たりがよかった。

 

 「いや、ここはいいなぁ。」

 

 父はいたく気に入った様子で繰り返した。

 ああ、そうだった、とコオは思った。

 父は・・・ともかく、広いところ、そして大きなものが好きだったのだ。家具も大きくてゆったりして重厚なもの。どちらかと言うと、日本のコンパクトな住宅にはあまりそぐわないものが。 

 父は、昭和の生まれだけれど、同じ年代の男性よりかなり背が高い。だから、天井が高いのを好んだ。田舎の父の実家が、広かったのもあるのかもしれない。家具の好みは、完全にアメリカでの生活の影響だった。父も母もアメリカ北部に5年ほど住んだことがあるのだが、当時は日本とアメリカの生活の格差は大きかった。衝撃的でもあったろうし、なによりいい時代のアメリカに自分たち自身も若くていい時期を過ごした。そのせいか、父と母はずっとその時の生活スタイルをどこかに引きずっているところがあった。

 

 コオは少しだけ迷った。見学しただけでは会ったけれど、1件目の施設のほうがコオは気に入っていたし、藤堂も、スタッフの手厚さなどから良いところだと強調していたから。経営母体が一緒なのだから、雰囲気などが違うのは施設長の違いによるものだろう。 

 ただ、決まれば、そこに住むのは父だ。本人が気に入ったところが一番良いに違いない。多少の不安がないわけではないが・・・、今のところは些細な違い、という気もする。

 

 後は莉子に決めさせよう。

 どうせ私が選んだということは彼女には伝わらないことになっている。

 彼女が見学して、こちらが気に入ればそれでもいいし、莉子のことだから、1件目の施設のほうがいいと思えば、父にゴリ押しするかもしれない。それで父が受け入れるなら構わないしあくまで父が今のこの新しい方の施設を希望するなら、それもありだろう。

 

 コオは、そう考えていた。