フランクリンミントのレコード 9
ビーチャムのシェエラザード
曲目/
1. 海とシンドバッドの船 (10:03)
2. カランダール王子の物語 (12:02)
3. 若い王子と王女 (10:34)
4. バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲
(12:47)
ヴァイオリン:スティーブン・スターリク
指揮:サー・トーマス・ビーチャム
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1957/03/17-19,28 キングスウェイホール
P:ヴィクター・オロフ
E:クリストファー・パーカー
初出時のLP
ビーチャムは最後まで「偉大なマチュア」と言われた指揮者です。ビーチャム製薬という財閥の御曹司として生まれた彼は、生きるために指揮をする必要は全くありませんでした。それどころか、自前でオーケストラを作ってしまえるほどの財力まで持ち合わせていたのですから、そこには音楽をすることの楽しさがいつもあふれていました。
ビーチャムの「シェエラザード」はこの録音で初めて知りました。レコード時代には全く縁のなかった演奏です。ちなみに、過去にレコ芸のランキングにこの演奏が入っていたかと調べましたら、1977年版の「新編名曲名盤500」で出谷啓氏が評価していたのと、2010年発行の「究極のオーケストラ超名曲徹底解剖66」で芳岡正樹氏がこの曲の演奏のベストスリーの一枚にあげていました。あとはほぼ無視の演奏で、リストにすら登場していませんでした。その芳岡正樹氏の取り上げているCDは外盤で当時は国内盤CDも発売されていなかったのでしょう。データ的には2007年にセラフィムシリーズでCDかされていたはずですがすぐに廃盤になったんでしょうなぁ。
そういう国内での評価の事情ですが、この録音は欧米で高く評価されていて、このコレクションに採用されたのでしょう。芳岡氏の評価ではソロ・ヴァイオリンとしてクレジットされているジョルジュ・スターリクの演奏が清純でありながらボウイングも滑らかで芸風がノーブルとしていて、この曲の録音でソロを務めるオイストラフやコンドラシン盤のクレバースよりも上のランク付けをしています。フランクリンミントの選者もそういう点を考慮しているのでしょうか、こういう選定理由を述べています。
{{{しかし、少し離れたバランスで録られたこのEMIレコーディングのオーケストラは、コンサートホールの15列から20列目辺りでどのように聞こえるかという、より現実的な体験を与えてくれます。 ビーチャムの解釈は、このシェヘラザードでは決して大げさではなく常に繊細さをもって、感覚に訴えそれを喚起します。このLPは偉大なレコーディングの一つと言えるでしょう。}}}
このブログでも今までにムーティ、ズビン・メータ、ゴルコヴェンコ、モントゥー、シャルル・デュトワ、オーマンディ、シルヴェストリ、アントン・ナヌート、アルミン・ジョルダン、チェリビタッケ、チョン・ミュンフン、バリー・ワーズワースなどを取り上げています。そんな中でも、確かに上位に位置する演奏と言えます。
このシェエラザードの冒頭は2分音符=48のテンポが指定されていますが、ビーチャムのテンポはまさにそれです。上にあげた指揮者の中で、そのテンポで演奏しているのはメータ、オーマンディ、シルヴェストリというところで、取り上げていませんがカラヤンのテンポもここに含まれます。
第2楽章カレンダー王子の主題を演奏するファゴットがかなり自由に吹いているのが特徴で、続くオーボエもそれほどではないけれど個性的です。中間部の力強さも好ましく、さまざまな主題はそれぞれにふさわしく演奏されていき、飽きさせません。第3楽章の主題が弦で幾分クールで抒情的に歌われ、その温度感を好ましく思います。この楽章も木管楽器の独奏は個性的。王女の主題も明るく演奏されることが多いのですが、これは寂し気に奏でられ秀逸と言えます。第4楽章はシャリアール王の主題がかなり力強く演奏されます。スターリクの独奏も清楚で美しいものです。バグダッドの祭りは打楽器群が鮮やかで管弦共に燃焼度の高い演奏を繰り広げます。音楽が静まってからの寂寥感も素晴らしいものがあります。録音はさすがに古さを感じさせますが、この時代としては良好な部類と思います。
これは掘り出し物の演奏ですなぁ。