オーマンディのシェエラザード | geezenstacの森

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オーマンディのシェエラザード

曲目/
リムスキー・コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」Op.35
1.第1楽章 10:18
2.第2楽章 11:43
3.第3楽章 9:50
4.第4楽章 12:27
5.リムスキー・コルサコフ/「スペイン奇想曲」Op.34* 16:21
6.シベリウス/フィンランディア** 8:25

 

指揮/ユージン・オーマンディ
演奏/フィラデルフィア管弦楽団
ヴァイオリン/アンシェル・ブルシロウ

 

録音/1962/02/11 
1965/02/17*
1968/02/24** タウン・ホール、フィラデルフィア
P:トマス・フロスト
E:バド・グラハム

 

ソニークラシカル FDCA548

 

イメージ 1

 

 これは1988年に発売されたソニーの「ザ・グレイト・コレクション・クラシカル・ミュージック」に含まれるオーマンディの「シェエラザード」です。LP時代はこれ1曲だけで発売されていました。また、この組み合わせはこのコレクションシリーズのみの発売のようです。リムスキー・コルサコフにシベリウスの組み合わせなんてあんまり記憶がありません。オーマンディはディスコグラフィで確認すると、この曲をセッションで4回録音しています。これはステレオでは初めての録音で、ヴァイオリン独奏はアンシェル・ブルシロウです。個人的にはこの時代のフィラデルフィアの音が一番好きです。まさにフィラデルフィア・サウンドといった音がします。金管は馬力のある音がするし、弦は極上のブリリアントな響きです。しかし、今回改めて聴いてみるとこれは凄く個性的な演奏なんだなぁということが解りました。

 

 まず、ソロヴァイオリンのブルシロウのヴァイオリンの響きがチャーミングでありながら、線は太く凄い自己主張があります。シェエラザードは物語を語っているのですから、これぐらい主張が無いと意味をなしません。そんな訳で、響きとしてはややゴージャスすぎて東洋的な神秘性は影が薄いのですが、ドラマチックな表現がそれを上回り聴き手を「千一夜物語」の世界に魅き込んでいきます。奇しくもこのブログで一番最初に取り上げたのは、同じフィラデルフィア管弦楽団の「シェエラザード」でした。そちらはシェフがムーティに替わってからのもので、ヴァイオリン独奏は当時のコンマスのキャロル・リード。どちらかと言えばオーソドックスな演奏で、ムーティは流麗にオペラティックにこの曲を仕上げていました。ところが、このオーマンディ、ティンパニの響かせ方も独自ですし、金管の歌い回しも独特の音がします。第1楽章の最後なんかトランペットがビックリするようなトレモロで盛り上げています。けっこうオーマンディは楽譜をいじっているようです。

 

 そして、この録音のもうひとつの特徴は第1楽章と第2楽章が続けて演奏されているということです。CD上は各楽章きちっとトラックが打ってありますが、パソコンのリッピングソフトで曲間のポーズタイムを計測すると、通常は2秒あるものがこの部分だけ0秒、つまり曲間がなしに設定されています。これは、LP時代もそうでしたから、オーマンディの意思と見るべきでしょう。そして、少なくともこういう解釈をしているのは、ストコフスキーのロイヤルフィルとの最後の録音とメータのロスフィルとの録音が有るだけの様な気がします。この効果は絶大で、本当に物語が展開されているような感じになります。ちなみにオーマンディ/フィラデルフィアの「シェエラザード」は映像でも記録が残っており、1978年にユニテルが残した映像作品はこの1楽章と2楽章の間はオーマンディは腕を降ろさず、ほとんどそのままノーマン・キャロルに向かってソロの入りを指示しています。そういう意味では、これは貴重な録音なのです。

 

 第1楽章の最後の盛り上がりの部分もそうでしたが、第2楽章でも、これまた一番最後の部分のトランペットにトレモロをかけさせています。この部分は1978年のRCA盤でも行なっている改訂ですが、このCBS盤はオーマンディ節が炸裂しています。

 

 炸裂ついでに、次の第3楽章ではストコフスキーばりの大胆なカットがあります。場所は3楽章の終わり何小節かのところで復帰するまで、約40小節にわたってのカットで、独奏ヴァイオリンのアルペッジオに乗ってオーボエ、ホルンが主題を奏で、それから独奏ヴァイオリンがもう一度旋律を奏でてからテュッティになり、ハープがかなり派手にアルペジオを演奏する直後からです。これはもう、オーマンディの「アラビアンナイトの世界」といってもいいものです。これはCBS盤の特徴といっていいでしょう。

 

 このオーマンディの「シェエラザード」は物語を楽しむ演奏です。コンマスがしっかりしているので弦は上手いし、金管はオーマンディの棒に的確に応えるヒビットな響きを聴かせてくれるし、パーカッションに至るまで実にクリアな音色です。CBSは良いプロデューサー、エンジニアを抱えていました。トランペットのギルバート・ジョンソン、ホルンのメイソン・ジョーンズ等々みんな良い仕事しています。ソニーはBMGと合体しても、こういう昔の音源の再発には積極的ではありません。RCA盤の1978年録音ばかりが復刻されますが、この1962年盤こそオーマンディの個性が感じられる「シェエラザード」です。

 

 そうは言っても、映像で残っているのは晩年のものしかありません。ここではアンシェル・ブルシロウのソロの「シェエラザード」を聴いてみますか。
 

 

 

 オーマンディの「スペイン奇想曲」のステレオ録音はこれが唯一のものです。こちらも、オケの音色が明るいのでこのコンビニはもってこいの演奏です。テンポはどちらかと言うと遅く、16分以上をかけて演奏しています。特に第2部のファンダンゴになってからはまさしく自由自在な演奏で、オーマンディもこの曲では名手の多かったオーケストラの個人技を前面に出しての演奏をしています。そういうところが他の指揮者の演奏と違うところでしょうか。

 

 

 最後に収録されているシベリウスの「フィンランディア」はCBSには二度目の録音となるもので、この演奏にはコーラスは使用されていません。後のRCA盤の録音もコーラスを入れていますから、そういう意味ではこれは純粋な「フィンランディア」の唯一のステレオ録音ということが出来ます。ただ、RCAへの録音には合唱の無いCDも発売されていますから、この辺のディコグラフィは当てに出来ません。この辺のところはストコフスキーの「水上の音楽」の花火入りと無しの状況と似ています。でも、オーマンディの「フィンランディア」というとコーラスが入っているイメージがあるのでこの演奏はやや意外です。これも、オーケストラの個人芸を聴いているような演奏です。しかし、そこは名手揃い、シベリウス音楽の理解者としてのオーマンディの手綱さばきのもとこの通俗名曲をびしっと決めています。

 

 ただし、この合唱抜きのフィンランディアは音源がアップされていません。めずらしいですなぁ。