配偶者や親戚がした借金の返済義務
借金の返済は本人だけでなく、往々にして妻や夫、あるいは親子関係にまで及んでしまいます。パートナーが内緒で借りていた、両親の借金を突然知らされた、このようなケースは決して珍しいものではありません。
そんな時、自身に返済義務は存在するのか、それぞれのパターンを解説します。
保証人にならない限り返済義務はありません!
昔は消費者金融が、親や兄弟などの親戚縁者が借りたお金を返してくれないからと、資金力がある(と思われる)人に返済の協力を求めるケースはよくある話でした。最近では大手消費者金融が突然、(保証契約等の法的根拠がないにも関わらず)このような返済の要求を行う事はほぼありませんが、一部の中小消費者金融などではまだまだ行われている点が実情です。
保証契約が無い限り返済する義務はないのですが、業者はいかにも返済する義務があるかのように語る事も多く、うっかり惑わされてしまいがちです。
こういった請求が行われた時に、必ず覚えておきたいポイントが、保証契約の有無です。
文字通り保証人や連帯保証人である事を決める契約になりますが、原則としてこの保証契約を締結していない限りは、たとえ債務を有している人がご自身の親子や兄弟、妻や夫であろうと借金を返済する義務はないのです。
従って、そのような請求が来ても道徳的な話は別として、法律的には1円たりとも返済する必要はありません。
もし見に覚えのない保証契約を締結されたら?
文章の上でこういったトラブルを理解するならば、保証人にならない限り返済義務はないと覚えておけば十分です。しかし、実務上のトラブルはもう少し込み入ったケースも珍しくありません。
特に、お金を借りようと親戚縁者が印鑑を無断で持ち出す等をして、保証契約をするはずの本人に内緒で勝手に締結したケースなどは数多く、実際に大きなトラブルを招いています。
この場合、本人の立場としては、見に覚えは無いとは言え契約書に自分の印鑑が押されていますし、いかにも返済義務があるかのように感じてしまいがちです。
ですが、この点に関しては、保証契約の性質を理解しておくと返済義務がない事を確認する事ができます。
法的に保証契約は、お金を借りる金銭消費貸借とは別の契約であると解釈されています。
お金を借ろり契約は資金需要者である親戚縁者と消費者金融の契約ですが、保証契約は保証人となる貴方自身と消費者金融の契約です。
従って、消費者金融は貴方に保証契約を説明する義務がありますし、本人の同意を得て行った契約でなければ権利がないのに代理人として捺印した(無権代理と言います)と見なされ、追認(後で良いよと本人が認める行為)が無い限りは無効であると解釈されているのです。
実際このような場面で突然請求されると支払ってしまいそうになる方も多いのですが、そこはなんとか冷静になり、間違っても安易に支払いを行わないよう、注意が必要です。
こんな場合はアウト!恐怖の例外規定
先ほど述べたように、原則として保証人にならない限り借金の返済を行う義務は、原則としてありません。ですが、原則ありきところには例外ありと言ったもので、民法の規定によりいくつかのケースでは例外とされ、債務を負わなくてはなりません。
今回は、その中でも特に問題になりやすい「表見代理」「日常家事債務」「相続」3つの事例のうち、表見代理を除く2つの事例を取り上げます(※1)。
ケース1:夫婦の「日常の家事」における借金
1つ目の例外ケースは、民法761条(※2)において規定されている日常家事債務と呼ばれる借金の返済義務です。夫婦のうち一方が行った借金であっても、この「日常の家事」に該当してしまった場合は、たとえ保証契約を締結していなくとも返済を行う義務が発生してしまいます。
この制度を理解する上で最も大きな問題点は、ここで言う日常の家事の範囲は現在においても必ずしも基準が明確にされているとは言えない事に尽きます。
従って、日本の裁判制度上過去の例を見て推察するしかないのですが、過去範囲としてこの家事債務として認められたものには、「テレビの受信料」「電子レンジ購入代金」などがあります。
また、本人に収入がある場合の判例では「高額教材の購入費」も日常家事債務として連帯を認めた裁判例もありますから、金額が高ければ必ず安全というものでもありません。
反面、日常家事債務として認められなかったケースには、「旅行代金10万円の借金」「太陽熱による温水器の費用41万円」「高級布団の購入費用21万円」などが挙げられます。
この規定に関して特に消費者金融に絞って考察すると、過去の協議例では日常家事債務を業者が信じるに足ると認められる為には、本人に対して電話確認等を求めていますので、通常の商品購入代金の債務などと比べて成立は厳しいものとなる傾向にあります(※3)。
ケース2:配偶者や親、兄弟姉妹の財産を「相続」した場合の借金
もう1点誤解されがちな例外ケースとして、相続に関する事例が挙げられます。相続とは現金や不動産それに債権といったプラスの財産だけでなく、マイナスとなる債務も相続対象となっている事はあまり知られていません。
その為、両親の逝去などを機に単純承認を行った結果、財産を貰い受けたはいいものの、被相続人である両親が子供に隠していた借金があり、ある日突然消費者金融からお金を請求され返済しなければならなくなる、なんてこともあるのです。
このようなケースでは、保証人でなくともその債務を負担して返済しなければならず、今後の人生に大きな影響を与えてしまう恐れがあります。
こういったトラブルを防ぐ為には、迂闊に財産を分けてしまうのではなく、借金が無い事を事前に調査する事が一番です。
相続にはプラスもマイナスも全て引き受ける単純承認、被相続人が有する財産を限度に負債を返済して残ったお金を引き受ける限定承認、最初から全ての財産を放棄してしまう相続放棄の3種類がありますから、調査結果に基づいて適切な対処を選択すると良いでしょう。
限定承認はデメリットが無いように見えますが、相続人全員の同意が必要である点と、財産によっては負担しなければならない税金が大幅に増えてしまう点は要注意です。
なお、相続の事実がある事を知った時から3ヶ月以内に何らかの対応を行わない場合、単純承認したと見なされてしまうので、場合によっては専門家への相談も必要となります。
まとめ
繰り返し述べた事ですが、原則として夫婦間や親戚縁者であっても保証人で無い限りは返済を行う必要はありません。ですが、無権代理行為を追認してしまったり、日常家事債務に該当する借金、或いは相続時に知らなかった借金などは返済義務が発生する可能性が存在します。
お金に関する事は決して安易に考えず、慎重に判断する事が大切です。
参考
※1 表見代理は別記事に記載している為、そちらに譲ります。
※2 民法761条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。
ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
※3 昭和63年3月民事裁判資料第177号93頁
借金の時効と時効の援用
「消費者金融からの借金はずっと知らんふりしていれば、時効が来て返済しなくても済むよ」とうそぶく人がいます。確かに、法律には時効と言う制度があり、消費者金融からの借金は5年で時効が成立します。
ここで言う時効というのは「消滅時効」のことであり、債権と言うのは永久的に保有できるのではなく、一定期間、権利を行使しないとその権利が消滅することを示しています。
法律は権利の上に胡坐をかくことを許しません。
なお、個人間での金銭の貸し借りは民法の規定によって10年で時効を迎えますが、商取引における債権の時効は商法によって5年と定められています。
ところで、時効の開始日がいつかによって期限が違ってきますが、法律では「権利を行使することができる時」となっており、返済期日の翌日から時効がスタートします。
例えば、5月5日が返済期日だった場合は、5月6日から時効が始まります。
また、分割払いの場合で5月5日は返済され、6月5日の返済期日から返済されていない時は、6月6日が時効の開始日になります。
つまり、最後に返済した日の翌日から時効の進行が開始します。
そして、返済を無視したまま5年が経てば自然と時効になる、などと簡単なものではありません。
法律には「時効の中断」という制度もあり、経過してきた時効期間をゼロに戻すことができます。
中断と言っても、ストップするだけではありません。
一旦リセットされて、再度ゼロからスタートするのです。
例えば、昨日までに3年間時効期間が過ぎていたとしても、今日時効が中断すると、また明日から1日目が始まります。
時効の中断方法には裁判所に訴訟を起こすことがありますが、ただ、訴訟となるとお金も手間もかかるため、よほどの債権でもない限り利用されることは滅多にありません。
そこで、一般的に行われているのが裁判所による「支払督促」です。
支払督促と言うのは裁判所による債務者への支払命令のことです。
支払督促が債務者に届いた時点で時効が「一時的」に中断します。
ただ、支払督促は債権者の申立によって一方的に発付されるため、債務者は異議申し立てができるようになっています。
債務者が異議申し立てを行うと支払督促は無効となり、訴訟手続に移ります。
そして、裁判所は債権者の請求内容の可否の審理を開始します。
しかし、債務者が支払督促の届いた日から2週間以内に異議申し立てを行わないと、次に、「仮執行宣言付支払督促」が送られます。
この時点で、時効は「完全」に中断します。
ところで、消費者金融が債務者に対して督促状(内容証明郵便)を送ることがありますが、この場合は「催告」と言って時効が6ヶ月間延長されます。
ただし、延長できるのは1回切りであり、何度送付したとしても送付の度に期間が延長されることはありません。
そして、債務者が債権者に対して借金の存在を認めた場合も時効は中断します。
例えば、返済予定書類などへ署名したり、借金の一部を返済したりすれば債務の存在を認めたことになります。
ちなみに、時効期間が過ぎたとしても、借金が自動的に帳消しになることはありません。
時効期間が過ぎても債権者は請求ができますし、支払督促が来ることもあります。
つまり、債務者が「消滅時効の援用」を行わない限り、返済義務が残ると言うことです。
消滅時効の援用とは債権者に対して「時効が成立したから借金は返済しない」と通達することです。
これを行わない限り、信用情報には「延滞」という情報が永久的に残り続けます。
消滅時効の援用は、主に内容証明郵便で行いますが、やり方等が良く分からなければ司法書士等に相談してみましょう。
なお、時効期間が満了した後でも債務の存在を認めれば、改めて時効をやり直すことになります。
消費者金融からの借金を「踏み倒す」のは不可能と思った方が賢明です。