患者Tさんは、5年前に再発性の性器ヘルペスに罹患してから、ヘルペスが生じる月経前後になると両足の坐骨神経痛に悩まされるようになったそうです(この期間を過ぎると神経痛は自然に消失する)。漢方を試したり、鍼灸治療やアロマ・整体なども受診したそうですがこの神経痛が再発を繰り返す悪循環は改善しなかったそうです。今回はその性器ヘルペスの治療と併行して、本症も治療することになりました。
・神経痛の部位は左右とも同じ部位で、それは「臀部の下方と大腿の後面」だそうです。性状はピリピリとしたしびれ様の痛み感で、姿勢による変化は無いそうです。水泡などの皮膚症状も出たことは無いそうです。
・ヘルペスが生じる部位は外陰部左右で、複数出来て少し痛むそうです。月経前後の10日間に出来ることが多く、それが過ぎると改善するケースが多いそうです(月経数日前にヘルペスが生じて月経が終わるころに消失する)。
・微熱・発熱や咳などは無く、全身の健康状態は良好だそうで、直近の人間ドックでの血液検査・画像検査でも、本症以外の特段の異常は無かったそうです。血圧は98/58mmHgだそうです。
・気管は正中にあり、甲状腺の腫脹・腫瘤・萎縮はありませんでした。肩から首にかけての凝り性で、特に頸部は前後左右の筋肉群が緊張(やや腫脹気味)し、圧痛がありました。
・橈骨動脈の左右差はありませんでしたが、しかしその拍動は減弱していて、爪圧迫テストは左右ともほぼ2秒かかりました。頸椎の伸展による失神所見はありませんでした。
・7年前にお腹の激痛に見舞われ(☚クラミジア腹症の診断結果)、数日ほど入院していたそうです。
・月経周期は28日タイプで、月経期間は7日前後だそうです。月経血の量も普通位いで、塊様のものはほとんど出ないそうです。
・基礎体温は正常に高温相と低温相がハッキリとあるそうです。
・排卵痛は無いそうですが、生理痛は強いそうです(下腹部と会陰部)。生理痛に関してはずっと漢方薬を服用しているそうです。
・排便は毎日あるそうですが軟便だそうです。
・オリモノに特段の異常はないそうです。不正出血も無いそうです。
・排尿痛・頻尿や尿の混濁等は無いそうです。
・左右の臀部と左右の足先及び手指に冷え性があるそうです。
・頭顔部の浮腫みは無く、頚胸部聴診上も呼吸音の異常や血管雑音はありませんでした。
・腹部聴診上、血管雑音は確認できませんでした。グル音はやや弱く聴取出来ました。ハム音は確認できませんでした。
・腹部触診上、臍の左右付近と左右鼠径部の内側付近に著名な緊張と圧痛がありました。肝脾腫や腫瘤感はありませんでした。
・下肢の神経学検査で異常は無く、歩行もスムーズに出来ていました。
⑴ 後大腿皮神経-下殿皮神経の絞扼を解放する
⑵ 消化管間隙に癒着性に残存していると推定される炎症産物(☚内膜組織を含む)が除去されやすい環境を作る
・後大腿皮神経-下殿皮神経解放テクニック
・平滑筋テクニック(内膜癒着解放テクニック)
・3診目治療後に月経があったそうですが、軽度の神経痛が数分から1時間程度の間隔で生じたり生じなかったりしていたそうです。生理痛も普段よりはかなり軽かったそうです。
・4診目治療後に二度目の月経がありましたが、今回は神経痛が生じず(生理痛も違和感程度に軽減)、Tさんの本来の主訴であった「性器ヘルペス」も治癒傾向が維持できていたので、とりあえず今回の治療を終了し、様子を見ていただくことにしました。
・Tさんの「月経前後の約10日間に生じ、その期間が過ぎると自然消失する」といった病歴から凡そ推測されるように、このTさんの坐骨神経痛は「月経や生殖に関する骨盤臓器の解剖生理学的影響=下記注1参照」が直接的に関与している可能性が高いと思われます。
・また、坐骨神経痛の部位=臀部の下方と大腿の後面=はデルマトーム領域では当てはまりにくく、末梢神経領域に当てはめると「後大腿皮神経-下殿皮神経」の領域であることが容易に分かります。
・そして、この二つの事実を整合して出てくるTさんの坐骨神経痛発症の要件は下記の様になると思います。
●「後大腿皮神経が仙骨神経叢から枝神経として分岐して出てくる部位=S3~4と坐骨棘を結ぶライン=で逆流月経血や性感染症由来の老廃物-炎症産物(瘢痕)などにより刺激され続け、同神経の閾値が低下している可能性(☚知覚過敏状態)」
です(梨状筋、内閉鎖筋や上・下双子筋による絞扼も考えられますが、、、)。
・この様に考えれば、月経前後に知覚過敏状態にある同神経が少しでも刺激されると閾値を超え(☚例えば子宮から分泌されるプロスタグランジン分泌による閾値低下や月経血の逆流による刺激、あるいはプロゲステロン-エストロゲン減少による腹腔内内膜組織の溶解による刺激など)、同神経が支配している部位=臀部の下半分と大腿後面=の神経痛様所見となって現れる可能性、そして月経が終了して左記刺激が減弱すると自然に消失する説明が素直につくのではないか、と思います。
・実際Tさんは「月経や生殖に関する骨盤臓器の解剖生理学的影響=下記注1参照」の影響か、再発性の性器ヘルペスや臀部の冷え性及び生理痛など、骨盤臓器関連の愁訴が重なっていますし、7年前の「クラミジア腹症」などで腹腔に大きなダメージが後遺障害的にも残存している可能性も否定できず、それらを考え合わせると上記仮説がさらに有力になってくると思いました。
・そこで性器ヘルペスや冷え性の治療と並行して本症も治療可能ではないか、と考え、③「治療目標と整体治療」の仮説を軸にした整体治療を実施した訳です。結果的にそれが著効を示したので、上記仮説が概ね妥当であったのでは、と思います。
1. 腹腔内に逆流する「月経血と内膜組織」
2. 腹腔内に漏出する「卵胞液」
3. 経腟性に腹腔内に進入する「細菌」
女性は男性と異なり、これらの「月経血と内膜組織」「卵胞液」「細菌」などの老廃物や異物により腹腔内で炎症が生じやすくなり、その炎症産物としての血種や膿などが瘢痕・癒着あるいは二次的な炎症の原因となって骨盤臓器(☚子宮、卵管、卵巣、大小腸、膀胱、尿管、動静脈、神経、腹膜etc)に生理痛や不妊・下痢・腹痛・神経痛などの様々な悪影響=愁訴=を引き起こします。
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