こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。
広瀬シスターズの姉の方に肩入れしたので、バランスを取って妹すずちゃん出演作品に言及してみたい。って誰に何のために気ぃ遣ってるんだよって話ですよねw
殺人事件で懲役刑を経験した三隅(役所広司)が、またもや殺人の疑いで起訴された。弁護士の重盛(福山雅治)が担当となり、死刑を免れて無期懲役に持ち込めるように策動する。しかし、金目当てと言っていたのが被害者の妻(斉藤由貴)に依頼されたと供述が変わり、自分は殺していないとまで主張し始める。おまけに三隅と被害者の娘(広瀬すず)との交友が明らかになる。三隅は本当に殺人を犯したのか否か。困惑する重盛だが裁判員裁判で死刑が求刑される。
二時間余り終始一貫重苦しい雰囲気に包まれている。法廷シーンは最小限にとどめられ、福山雅治、吉田鋼太郎、満島真之介のチームが被告人の刑を出来得る限り抑えるべく地道に奮闘する姿が描かれる。
その法廷戦術の立て方などはリアルに描かれ、裁判は“真実”とは別次元の世界であることがあからさまに示される。
年若い満島に福山は言う。被告人を理解しようとする必要はない、と。
弁護人は、被告の最大の利益を求めて働くのみ、というわけだ。ここでいう“最大の利益”とは、刑の減刑である。
なので、金銭目当ての殺人と、怨恨による殺人の刑の重さの違いやその理由などが開陳されたりする。
知ってる人には当然の話だろうが、皆さんはどちらが重いと考えるだろうか。
それは金銭目当ての方。
そんなことから、弁護側は被告が職場を解雇されたことで社長を恨んでの犯行。というストーリーを仕立てる。このあたりの作業はちょっと興味を惹く。
弁護側にとってはさほど難しい案件ではなさそうだった。淡々と手続きを進めるのみ。
だがしかし、被告人の供述が変調を来たし始める。翻弄される弁護チーム。
被害者は河川敷で殺害され、その後被告人が走って10分あまりの会社からガソリンを運び、それでもって遺体を焼いたという。
目撃者が皆無で、被告人の自白のみが頼りなのである。それが二転三転することで、被告人がどこまで事実を証言し、どこまで隠蔽し、どこまで虚偽を話しているのか分からなくなるのは我々も同じ。
しまいには、自分は河川敷に行っていない。殺していない。となるとお手上げである。
ただ、被告人が身辺整理をきちんとしたうえで犯行に及んだのではなかろうか。との状況証拠が揃う。
さらに、被害者の娘との交流も浮上し、もしや彼女のための犯行か?との疑念も生ずる。だが決定打には至らない。
まるで『羅生門』(50)の世界である。事実or真実は藪の中。
死刑求刑で裁判は幕を下ろすが、弁護側も我々も消化不良感ハンパない。
これは万人受けする作品ではまったくない。観る人を選ぶ作品である。モヤモヤを面白がれる人には受けるだろう。
ただ一点、我々に考えさせることを強いるフィルム、ということだけは確かである。
自分としては、長尺にもかかわらず吸引力のある力強い映画だとは感じたが、さほど感心するものでもなかったかな、と思う。
福山の夢のような心象風景はいかにも思わせぶりで、リアルな世界観から逸脱している。
広瀬すずに、人を裁くのは誰か。という手垢にまみれた問いを発せさせるのも一見陳腐である。
色々なサインを随所に散りばめて工夫していることはよく分かるが、それらがヒントとなりつつも謎を深める作用を強化しているようで、却って心細くなってくる。
それでも、全体的にドラマチックな法廷場面などの見せ場を排除して、演技者の芝居にすべてを賭けるような演出・脚本には好感した。
被告人を理解する必要なし、と嘯いていた福山が、徐々に役所が演じる被告人の黒い沼にハマっていくさまは不気味である。『羊たちの沈黙』(91)の人喰いレクターとクラリスの対話を連想させる。
仕切りの透明板に重なり映る福山と役所の顔と顔。まるで仕切り版が溶解し二人の人格までが合一していくかのような気味悪さ。我々は息をひそめて観続けるしかない。目を逸らすこと不可避な状況に追いやられる。
これはもうミステリーを超えたサイコスリラーだ。
事程左様に全編通して福山と役所の抑制された演技は見事である。
脇を固める吉田鋼太郎の時に軽妙な芝居も巧みなアクセント。満島真之介と斉藤由貴も好演。
そして市川実日子がいかにもなはまり役で佳し。『シン・ゴジラ』(16)などに引き継がれるキャラクターだ。
では、すずちゃんはどうか。DVDのパッケージを見ると、まるで主役のように思えるが然に非じ。惑わされてはいけない。藪の中のキーパースンではあるが完全に脇役。
『海街diary』(15)に次ぐ是枝裕和監督作だが、それ以上にシリアスな演技を貫いており、単に彼女観たさに鑑賞したなら落胆するはず。女優としての彼女の力量を観る、というスタンスが求められよう。
ただ、あえてのことだろうが表情も所作動作もほぼ一本調子で変化に乏しいゆえ評価が難しい。そんな中、奥深い闇を抱える女子を共演者同様抑制された演技で十分魅せたと思う。
しかし、個人的には多動症的快活なjk役よりもこんな感じの、なにか蟠りあるような屈託ある役柄の広瀬すずほうが好きである。ので、評価されなかったドラマ『anone』のすずちゃんには激しく好感する。
最後に、積雪の景色や有利に進める法廷戦術やすずちゃんと父親との関係などが、漠然と『スウィートヒアアフター』(97)を連想させる呼び水となった。これも陰鬱だが今も心に残る映画である。
『三度目の殺人』も20年後まで脳裏に刻まれるフィルム足り得るだろうか。
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