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現在までに感想を書いた作品（作者名50音順）：
阿部智里先生「八咫烏」シリーズ／上橋菜穂子先生「守り人」シリーズ／羽海野チカ先生「ハチミツとクローバー」／小野不由美先生「十二国記」シリーズ「屍鬼」「残穢」「鬼談百景」／可歌まと先生「狼陛下の花嫁」／matoba先生「魔女の心臓」／緑川ゆき先生「夏目友人帳」／陽東太郎先生「遺書、公開。」

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16Jun
- 感想記事一覧
  感想記事一覧。作者名50音順です。★阿部智里先生八咫烏シリーズ「玉依姫」感想★上橋菜穂子先生精霊の守り人（小説版）感想闇の守り人感想★羽海野チカ先生ハチミツとクローバー１巻感想ハチミツとクローバー２巻感想ハチミツとクローバー３巻感想ハチミツとクローバー４巻感想ハチミツとクローバー５巻感想ハチミツとクローバー６巻感想ハチミツとクローバー７巻感想①ハチミツとクローバー７巻感想②ハチミツとクローバー８巻感想ハチミツとクローバー９巻感想ハチミツとクローバー１０巻感想★小野不由美先生魔性の子感想月の影影の海感想白銀の墟玄の月感想屍鬼（小説版）文庫一巻感想屍鬼（小説版）文庫二巻感想屍鬼（小説版）文庫三巻感想屍鬼（小説版）文庫四巻感想屍鬼（小説版）文庫五巻感想①屍鬼（小説版）文庫五巻感想②残穢（映画版）感想残穢（映画版）感想、ちょっとした追記鬼談百景感想★可歌まと先生狼陛下の花嫁感想★matoba先生魔女の心臓１巻感想①魔女の心臓１巻感想②魔女の心臓２巻感想魔女の心臓３巻感想魔女の心臓４巻感想魔女の心臓５巻感想魔女の心臓６巻感想①魔女の心臓６巻感想②魔女の心臓７巻感想魔女の心臓８巻感想★緑川ゆき先生アニメ夏目友人帳全話まとめ＆おすすめエピソード一覧夏目友人帳　第一話感想夏目友人帳　第二話感想夏目友人帳　第三話感想夏目友人帳　第四話感想夏目友人帳　第五話感想夏目友人帳　第六話感想夏目友人帳　第七話感想夏目友人帳　第八話感想夏目友人帳　第九話感想夏目友人帳　第十話感想夏目友人帳　第十一話感想夏目友人帳　第十二話感想夏目友人帳　第十三話感想続夏目友人帳　第一話感想続夏目友人帳　第二話感想続夏目友人帳　第三話感想続夏目友人帳　第四話感想続夏目友人帳　第五話感想続夏目友人帳　第六話感想続夏目友人帳　第七話感想夏目友人帳伍　第一話感想夏目友人帳伍　第二話感想夏目友人帳伍　第三話感想夏目友人帳伍　第四話感想夏目友人帳伍　第五話感想夏目友人帳伍　第六話感想夏目友人帳伍　第七話感想夏目友人帳伍　第八話感想夏目友人帳伍　第九話感想夏目友人帳伍　第十話感想夏目友人帳伍　第十一話感想夏目友人帳伍　特別編「一夜盃」感想夏目友人帳伍　特別編「遊戯の宴」感想夏目友人帳陸　第一話感想夏目友人帳陸　第二話感想夏目友人帳陸　第三話感想夏目友人帳陸　第四話感想夏目友人帳陸　第五話感想夏目友人帳陸　第六話感想夏目友人帳陸　第七話感想夏目友人帳陸　第八話感想夏目友人帳陸　第九話感想夏目友人帳陸　第十話感想夏目友人帳陸　第十一話感想夏目友人帳陸　特別編「鈴鳴るの切り株」感想夏目友人帳陸　特別編「夢幻のかけら」感想夏目友人帳～音劇の章2018～感想劇場版夏目友人帳～うつせみに結ぶ～感想劇場版夏目友人帳～うつせみに結ぶ～感想（ネタバレありVer.）★陽東太郎先生遺書、公開。感想
- 狼陛下の花嫁感想
  大好きな作品の再読記念に。作品を知ったきっかけは、夏目友人帳の付録か何かを目当てで買ったLaLa本誌で、たまたま見かけたことだったと思います。「あれ、このお話好みかも」と思ってコミックスを一気読みしたら……まぁ見事に引き込まれました。一言で紹介するなら、両片想いの甘々なじれったさを楽しむ、ザ・少女漫画です。一読して「これ好みかも」と思ったポイントもたぶんそこだったと思います。……が！ほんわかラブコメの皮をかぶりつつ、実際のところはがっつり骨太群像劇であり成長物語であり人間ドラマでもあります。いやほんと、夕鈴の働きかけで前を向いていく人たちの姿に何度泣かされたか！もうとにかくキャラたちが魅力的なんですよね！主人公サイドの人たちが魅力的なのは勿論のこと、よくいる悪役や当て馬として出てきたのかな～なんて思うような立ち位置のキャラでも、話が進むうちに大好きになってしまっている不思議！たぶんこれって、夕鈴のキャラクター性によるものが大きいと思うのですけど。夕鈴はとにかく性善説かつ正面突破な子で、狼陛下や王宮の人たち、そしておそらくは読者も「そういうものだ」で諦めてしまっているような人の悪意や確執にも、真っ向から向かって行く。そして、相手の本音にちゃんと光を当てて受けとめてしまうから、読んでいるこちらとしても、みんなを好きになっていってしまうんですよ。蘭瑤様までそんな風に化けてしまうとは……本当にもう脱帽するしかない。「夕鈴はすごいな」の台詞はまさにです。胸熱エピソードはたくさんあるのですけど、やっぱりバイト終了からのフリーダム潜入しまくり編と、周宰相との確執が語られる陛下の過去編は最高ですね。闇商人に対抗してかつての友人(?)たちの力が続々と結集していくくだりは快哉を叫びましたし、潜入先の妓館ではちあわせるシーンなんか思い出すだけで延々ニヤニヤできます。そして過去編。陛下……よくがんばったね……！がんばりすぎてがんじがらめになっているのは陛下も周りの人たちもたぶん一緒で、ちょっと触れるとその重さに竦んでしまうんですけど、夕鈴はそこで立ち止まらない。相変わらず相手を真っすぐに見つめて、すごくシンプルに核心をつく言葉で、色んなものをとっぱらってしまう。いやほんとすごいんですよ……。ラブコメだと思って読んでるとびっくりする……。陛下には家族と末永く幸せでいてほしいし、側近たちはそれを見てほっとしていてほしいし、方淵と水月はよきライバルとして成長していってほしいし、晏流公には陛下の右腕として辣腕を振るってほしいし、大先生になった紅珠には方淵と何か進展があるのかしら！？彼らのこれからの幸せを願わずにはいられない、そんな物語でした。★他の感想記事はこちら★
01Mar
- 遺書、公開。感想
  コミックスでずっと追っていた作品で、さきほど最終9巻を読了しました。ネタバレなしで楽しんでほしい作品なので、以下は読了済みの方のみお進みください。また、作品の感想というよりは、最終巻を読んで動揺した自分の気持ちの分析であり、要は自分語りです。悪しからず。******えっぐい。この漫画をどう捉えて良いのかわからない。というのが、読了直後の感想でした。読了してこんなえもいわれぬ気持ちになった漫画は久々だ……。最終巻の前巻、第8巻までは、ただただ楽しんでいたんですよ。もともと作者さんの前作である「鳥籠ノ番」が好きで、そこから読み始め。序列と2-Dの不気味さに引き込まれ、真相が徐々に明かされていくスリルを楽しみつつ。今思えば、「無自覚だった自分の加害を暴かれていく」クラスメートたちの動揺を、楽しんで見ていた部分も大きかったです（性格悪い）。そうやって油断して傍観者をやっていたところ、最終巻で急にこっちに向かってパンチが飛んできた。そんな印象です。だってめちゃくちゃ分かってしまうんだもの……廿日市さんの気持ちが。自分と関係ないサスペンスだったら、黒幕が共感できない悪だったら、楽しかった、怖かった、で終わっていたと思います。でもそうじゃなかった。読了直後の感情は、実はあまり良いものではありませんでした。思いもよらなかった驚きが待っているかと思ったら、真相はとてもよく知っている感情だった、という肩透かし感と、自分が消化できていない感情を理路整然と描写されてしまった、という抵抗感だったのだと思います。でもしばらく考え込んで、じわじわと沁みてきて、あぁ、大事にしたいお話だ、と思いました。押し付けられる人間の苦痛、私もわかるつもりです。特定の個人に苦しめられるのではない、自分を苦しめる人間はその辺にいくらでもいて、誰も悪意も自覚もなくて、だから糾弾もできなくて、しかも誰一人として助けてくれないから、直接関係がない「その他大勢」への失望も同時に育っていって。その結果として、「他人」全般に対して、広く浅く、ぼんやりとした恨みを抱えてしまう。周りの人々を「観察対象」として玩具にするのもそれゆえだろうし、でも達観しているように見えて、姫山さんの一言に地雷を踏みぬかれて（あれまじ地雷だった、私もうわっと思ってしまった）殺意（というよりは未必の故意か）を抱いてしまうくらいの、どろっとした熱さも残っている。わかる……わかってしまう……。前巻までは「純然たる被害者としての姫山さん」に肩入れしながらクラスメートたちの悪が暴かれていくのを楽しんでいて、最終巻では姫山さんにも加害者としての側面があったこと、それが黒幕の地雷だったゆえに高すぎる代償を払わされたことが明かされて。どちらに対しても「思い知ったか」みたいな感情があることは否定できない……いやだからといって殺すことないじゃん、とは思うけども。でもこの作品の上手いところは、廿日市さん（に共感する読者）の望むものをこれだけ克明に描いておきながら、廿日市さんがいかに歪な人間かがびしびし伝わってくることだと思うんです。結局、あの罪深いクラスメートたちの方が、普通だし、愛すべき人たちなんだよな……という、ちょっと諦めにも似た気持ち。でも、みんな捨てたもんじゃないし、結局前途多難で廿日市さんの掌の上だったとしても、そこであがいている方の人間にならねばなるまい、みたいな気持ちと。そんな考えさせられるぐるぐるはありつつ、でも声を大にして言いたいのは、「めちゃくちゃ面白かったです！！！！」完結お疲れ様でした。素晴らしい作品をありがとうございました。★他の感想記事はこちら★
12Nov
- 白銀の墟玄の月　感想
  ※ネタバレです。※十二国記の他作品のネタバレもちょいちょい出てきます。十八年待ってよかった、なんて簡単に言うにはあまりに犠牲が大きくて、でもやっぱり待ってよかったんだと思う。この物語にたどり着けて本当に良かったです。「黄昏の岸～」のラストシーン、泰麒と李斉と飛燕ととらの後ろ姿を、陽子と六太くんと一緒に見送って、そのまま時間が止まってしまって。でもこれで戴は救われるはずだ、いつかきっと、って漠然と思っていて……まさかそれが、こんな苦難の道で、こんな大きな犠牲が必要だなんて全然想像してなかったよね！？鄷都、朽桟、静之、厳趙、飛燕、……ああほんともう、飛燕！……生き残った人を数えるんでしたっけ？　いや、いやいやいや無理……。戴史乍書ではたった数行、きっとこれから長く続く歴史のほんの最初の1ページで、正当な王が簒奪者を討ってめでたしめでたし、という話なのかもしれない、……でもそれでは決して語りつくせない、歴史の中に埋もれてしまう、でも間違いなく歴史を形作っている一人一人の物語が、この大長編なんですよね。WH版「風の万里～」のあとがきで「ゆめお忘れなく」と書かれたそれに、こんなにも真正面から触れることができて、……うん、やっぱり、待っていて良かったです。泰麒麒麟が武器を持って人を殺傷する……これは本当に衝撃でした。読みながら変な声出た。以前にも塙麟が陽子の手を刺したりしてるんですけど、いやでも泰麒の場合、それを命じて責任を肩代わりしてくれる人はいない、自分の意志でそれを決めたっていう……そのとんでもなさは、ここまでシリーズを読んできたからこそですよね……。確かに、麒麟は殺生を嫌う、だから使令に代行させる、っていうロジックに、今まで欺瞞を感じなかったわけではないです。王のための流血の責は王にかかる、という話も繰り返し出てきますし。「東の海神～」で悧角が斡由を襲ったシーンとか、かなり直接的に殺生を命じているように見えますしね。だから「全ての麒麟は人を殺傷した経験がある、ただ、その自覚がないだけなのだ」、それは納得できるんですよ。でも麒麟はその欺瞞に甘えることが、天によって許されている――というよりむしろ命じられている、縛られている存在なわけで。泰麒はその、天の掌の外に出たんですよね。蓬莱で、自分のために人が死んでいくのを否応なく見続けた泰麒だからこそ、そしてそれを背負ってなお、自分の進むべき道を見失わない強さを持っていたからこそ、天から与えられた麒麟としての自分ではなく、あの海辺の街を故郷とする、戴の民としての自分で戦えたんだろうと思うんです。それは、そうするしかなかったって話で、決して泰麒にとって良いことではないんでしょうけど……でもそれがなければ戴を取り戻すことはできなかったし、驍宗が「よくやった。――もう良い」って言ってくれて、李斎が肯定して感謝して、共に背負うといってくれたのは本当に嬉しかったです。「ではおれは、尚隆がいいと言うまで、目を瞑っている……」六太がそうやって委ねるべきを委ねられたのとはまた違った形ですけど、その大きな責任を共に背負う相手が泰麒にはちゃんといるんだなって思うと、きっと戴の未来は暗いものじゃないって思えます。魔性の子……ホラー作品って、理不尽に人が死んでいくじゃないですか。だからこそ怖いんですけど、やっぱり悲しくて。でもそういうものだって呑みこんで……。それがここへきて！　刊行から29年が経って、こんな風に掬い上げてもらえるなんて思いもしませんでした。岩木くんも、同級生たちも、そして広瀬先生も（広瀬は生きてるけど）、泰麒の中にその存在を遺して、泰麒の力になってくれた。勿論それで彼らが戻ってくるわけでもないし、蓬莱の人にとっては戴がどうなろうが知りもしないことでしょうけど、何かが救われたような気がします。民のための戦い一・二巻を読んだ時に書いた感想がこちら。＊「黄昏～」での玄君の「自ら正されるのを待て」発言もそうだし、今回の泰麒の「この場で私を斬り捨てるのが一番なのです」っていうのもそうなんだけど、この泰麒の旅、「諦めればそれはそれでなんとかなる」っていうことが最初から示されているんですよね。むしろ天はその方が手っ取り早いと思っていて、確かに長期的な目で見れば、それでも戴はいつか復興するのかもしれない。でも「黄昏～」で李斎が「戴はそんなにはもちません」って言っていた通り、今この瞬間に戴で苦しんでいる民は、それでは救われない。言い換えれば、李斎や泰麒は今、本当にただ目の前にいる、今という瞬間を生きている人々のためだけに戦っているわけです。で、それがいかに大切で愛おしいものなのかっていうことが、旅路で出会う人々の描写からひしひしと伝わってくるんですよ。瑞雲観の人たちに神農たち、園糸と栗の親子、荒民だらけの浮丘院、白幟の母娘に土匪や鉱山の人々、供物を流す家族、銀川の人たちや、労安の人たち、白琅の葆葉さんエトセトラエトセトラ。正直、暮らしぶりが悲惨だったりもう色々限界だったり心が荒んでたりするし、こちらとしても誰が裏切ってもショックを受けないように予防線を張りながら読み進めているし（達姐とか松山みたいな例もあるしね）、だから決して前向きな描写には見えないんですけど。でもこれが戴の今で、今を生きる人たちで、みんな「生きたい」って願って頑張っているっていうのは分かるんですよね。だからやっぱり幸せになってほしいし、この人たちのために戴を救ってほしい。泰麒の帰還を瑞雲観の人たちがあんなにも喜んでくれたからこそ（同仁と一緒に泣きました）、その希望は絶対に形になってほしい。＊三・四巻でも、李斎たちが必死になって救おうとしている民たちは、決して美化されては描かれません。当然のように保身に走り、驍宗を罵倒し、石を投げようとまでします。でも、それでも、「こんな奴らを守るために」みたいな感情は、不思議と全然起こらないんですよ。それはきっと、そういう愚かさと、ひたむきさや温かさみたいなものが、地続きのものとして描かれているからなのかな、って思うんです。項梁が自分から離れるのを嘆いてしまう園糸の気持ちとか、供物を出そうか悩む父親の気持ち、葆葉さんのしたたかさ……民の暮らしってそんなものが寄り集まってできてるんだし、そういう中にあるキラキラしたものこそが人間にとって守るべきものなんだろう、ってそんな風に感じます。だからこそ、轍囲の民や葆葉さんが志を共にする仲間であってくれたことはすごく嬉しかったですし、……その分、仲間がどんどん減っていくあの喪失感は尋常じゃなかったです！いやもう本当、あんなどん底ある！？　葆葉さん……。でもこの物語の中で描かれるのは、彼らの死に様ではなくて生き様なんですよね。主公と定めた人のために生きる軍人の苛烈さ潔さも、自分たちのために生きる民たちの愛おしさも、しっかり目に焼き付けたいです。つらいけど。阿選阿選は何考えているのか本当ずっと何にもわからなくて、人間の心をどっかに置いてきて化け物になっちゃってるんじゃないか、くらいに思ってたんですけど……こんな大事やらかしたくせに、動機があまりにも人間くさくて。ショックでした。そんなことのために……？　って。そういえば、慶を道連れにしようとした塙王も、陽子に「そんなことのために」って言われてましたっけ……。「人はおろかだ。苦しければなお、おろかになるってことだな」それでも越えちゃいけない一線ってあると思うんですけど、阿選は越えてしまったんだなぁ。止めてくれる麾下も、たくさん持っていたはずなのに。……琅燦、は、でもやっぱり、あくまで最後の一押しでしかなかったんだろうな。「魔が差した」の「魔」の部分みたいなもので。どちらがよりましな人間かを競い続けてきた、驍宗と阿選。李斎を筆頭に驍宗サイドの戦いは、人に手を差し伸べ、助けたり助けられたりしながら縁をつないでいくことで。阿選の戦いは、そのつながりを断ち切っていくことで。二人の争いがそういう形になったのは、すごく象徴的なことだなぁと思います。驍宗驍宗様はひたすらかっこよかったです。強い。とにかく強い。気迫でもって騶虞を御すシーンは、泰麒の折伏シーンを彷彿とさせますね。羅睺と傲濫ってちょっと音が似てるし。実際に活躍するシーンはそんなに多くないんですけども、でも李斎や驍宗麾下の人たちの行動規範になり続け、戴の安寧を望む人々の希望であり続けていて。「お前は良い臣下を持っている」……それは驍宗が築いてきた功績で、彼の王としての器なんですよね。白銀の墟玄の月第一巻の表紙が発表された時、「玄の月」って泰麒のことかなぁと思ったんです。「乗月」には「月陰の朝」という言葉も出てきますが、王という太陽がいない夜を照らす、月のような存在ってことなのかなって。でも読み終わった今、もう少し広い意味を持っているんじゃないかなという気がしています。物語の中で、羅睺だったり玄管だったり、黒い色が希望の象徴のように出てくることが多くて……「玄の月」はそのまま、人々の心の中の希望なんじゃないのかな、と。王のいない、雪に閉ざされて荒廃した国を照らしていたもの。それは泰麒でもあり、道観や神農たちの想いであり、轍囲の民が大切にする恩義であり、土匪たちのつながりであり、供物に込められた願いなのかなぁと、そんなことを考えながら表紙を眺めています。その他の感想・恵棟が病んでしまった時の衝撃ったら本当…屍鬼ばりの絶望感と喪失感と八方ふさがり感でした。・正頼～～～！・六太と尚隆が相変わらず六太と尚隆で嬉しかったです。・賓満憑き、そんなに強いんですね。冗祐が憑いた時の陽子もそれくらい強いってことですよね……。・黄朱たちの思惑が！　知りたいです！・「風の万里～」や「青条の蘭」を呼んだ時にも思ったんだけど、冬の寒さが人を殺すリアリティがすごい。★十二国記感想：魔性の子/月の影影の海★★他の感想記事はこちら★
28Sep
- 続夏目友人帳　第七話「呼んではならぬ」感想
  第六話「少女の陣」の続き。前後編の後編です！前回でじっくり背景を描いたところで、今回はアクション満載、いよっアニメ！な回です。斑が陣に入ってくるシーンのかっこよさったら！現時点でのアニメ最新作、劇場版「うつせみに結ぶ」もそうなんですけど、夏目友人帳ってすごく優しくて丁寧で、心の深いところをじっくり描く作品でありながら、根っこのところは、ドキドキワクワクさせてくれるエンターテインメントなんですよね。ところで今回気づいたんですけど、2期オープニングアニメーションの多軌さん、名取さんとセットで登場しているんですね？今となっては多軌さんの立ち位置って「同級生」枠で、田沼くんや西村くんたちと一緒に夏目くんの日常を支える面が強いですけど、オープニングの登場の仕方を見ると「妖怪のことを共有できる」という属性が強調されているようで、その変化がちょっと面白いです。エンディングだと、もう同級生としての扱いになってますけども。以下、ネタバレ感想です。妖怪が見えない夏目くん今回の大事件は何といってもこれですね。夏目くん、妖怪に目玉を舐められて（！）妖怪が見えなくなってしまいます。ちなみに原作では「眼球」、アニメでは「目玉」と言っていますが、どっちにしても言葉のチョイスが独特だよ夏目くん……。このできごとは、額傷の妖怪に相対するにあたっての障害として機能するわけですが、同時に、夏目くんが妖怪の見えない世界を体験することで、先生はじめ妖怪たちとの関係を再確認するフックにもなっています。「妖怪が見えなくなったら……」という仮定は、1期八話、蛍のエピソードでも一度語られています。でもあの時はまだ、夏目くんはけっこう明確に「見えなくなる」ことを望んでいて、それに対して「本当に？」と問いかけるようなエピソードでした。……が！今回の夏目くんは、見えないことが静かでよい、みたいなことは一切匂わせもせずに、当たり前にこの先もずっとあるものとして受け入れています。成長した……っていう言い方ともちょっと違うのかな。夏目くんを取り巻く状況がすごく良くなっているんだな、というのを実感する変化です。それほどの変化をもたらしてくれた先生との繋がりも、見えなくなったら断たれてしまうんですよね……。見えない斑を呼び続けるシーンが切ないです。ところで、洗面所での突然の斑（イケボ）にびっくりしたんですけど、この回から夏目を見た人はこれが先生の声だってわかるんだろうか……。多軌さんとの関係妖怪のことを隠さずに話ができる人間の友人というと、今までに田沼くんと名取さんがいたわけですが、多軌さんとの関係はそのどちらとも違います。夏目くんと田沼くんとの間には、負い目や過保護や探り合いや意地の張り合いみたいな、あぁぁ青春！って感じのセンシティブな感情が横たわっていますし、名取さんは強いポリシーゆえに夏目くんと相容れない立場を取ることも多いですし。でも夏目くんと多軌さんは、お互いすごく素直ですよね。自分の弱さも、相手への気遣いも、力になりたい気持ちも隠さずに、対等にお互いがお互いの力になろうとしている。まるで戦友のような関係です。親族から妖にまつわる大事なものを継いでいる、という共通点も大きいのでしょうか。一緒にいれば大丈夫、みたいな、すごく安心して見ていられる二人です。多軌さんのニャンコ先生愛もほんと見ていて楽しいですよね……。先生が夏目くん以外の人と仲良くなっていくのも嬉しいです。それって、妖怪が見えるという夏目くんの秘密を、安心して共有できる場所が増えていくってことでもあると思うので。ところで……前回の頭ぽんぽんとか、多軌さんの帽子をくいっとか、さりげなく動作がプレイボーイ（死語）だよね夏目くん！どこで覚えたのかな！？でも夏目くん元々、誰かに手を差し伸べる時のぐいぐい加減はすごいんですよねぇ……。ちょびちょびは大物だって言いますけど、その大物さ加減を誰かのために発揮したことって、多分一回もない……ですよね？自分がただ自由でいるだけの大物って、なんか妖怪っぽくていいなぁって思います。「おっはよう♡夏目♡」が最高ですね……。そのほか・「じゃーん！魔封じの鏡～！」……ドラ○もんか。・「朝まで説教だ！」って先生に言われて素直に座る夏目くん可愛い。・「おヒゲ」に反応する塔子さん、息子の成長が気になるお母さんで可愛い。★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★他の感想記事はこちら★
26Sep
- 続夏目友人帳　第六話「少女の陣」感想
  多軌さんとちょびの初登回！そしてアニメ初の前後編エピソードです。1エピソードがコンパクトに楽しめる普段の回も良いですが、前後編になることで各シーンをじっくり見られるのもとても良いですね。前編である今回は、多軌さんの出会いを軸に据えて、穏やかな日常、守るべきものの大切さと覚悟が描かれます。以下ネタバレです。夏目くんの日常可愛い子を見に行く西村くん、相変わらず正しい男子高校生です。ずっと無言で話しかけても逃げちゃうって多軌さんの態度、下手したら反感を買ってしまってもおかしくないものだと思うんですけど、西村くんも北本くんも、全然そういう感情は持たないんですよね……。良い子。夏目くんの奇妙さに対してもそういうスタンスでいてくれてるんだよなぁと思うと、本当にありがたい二人です。そして塔子さん。いつも可愛いですけど、今回の塔子さんは特に可愛いが突き抜けてますね！夏目くんとの食卓は、多軌さんもこうやって楽しく喋りたいんだろうなぁ、っていう対比のシーンになっているわけですが……「おしゃべり大好きな女の子」全開なのも可愛いし、試食のウインナー全部食べちゃうのも可愛いです！あと本筋とは関係ないんですが、夏目くんが洗面台で歯を磨くシーンがぐっとくるんですよねぇ。「毎朝歯を磨く」みたいな日常を、こんなに自然体でできるくらいに、藤原家が自分の家なんだなぁって思うんです。多軌さんと夏目くん「あなた、妖怪が見えるんでしょう」妖怪が見えることで迫害されていた夏目くんにとってはきっとすごく怖い言葉で、実際「誰に」と問い返した声の硬さには緊張が見えて……。でも、第1期四話で笹田さんにそれを言われた時ほどの拒絶は、もう夏目くんにはないんですよ。もちろん、多軌さんの事情からくる必死さや、多軌さん自身が妖怪について知っているということもあるんでしょうけど……夏目くんが、妖怪が見える自分でも大丈夫だと、そう思える居場所を得られたというひとつの表れでもあるのかなぁと思います。夏目くん、先生に「育ててもらった覚えはないぞ」なんて言っていますけど。夏目くんがこんな風に変われたのは、多分に先生のおかげですよねぇ。ちょびちょび本当大好きです。画面にいるだけで面白いですし、喋るとなお面白いですし。もう台詞の一個一個が、なんでこんなに面白くできるの！？って感じなんですけども、私の今回のいちおしは、夏目くんの手を掴んで連れ出す時の「ね」です。押しの強さが最高。日常の温かさとコミカルな面白さに溢れた今回でしたが、ラストシーン、急転直下で次回に続きます。★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★他の感想記事はこちら★
19May
- 月の影影の海感想
  十二国記新刊発売決定、本当に本当にありがとうございます！！当時のレーベルだったホワイトハートの発売日のたびに、駅前の本屋さんで新刊チェックをしていた日々を思い出します。思えばあの頃、私はまだ高校生でした……今は三十路を超えましたけどずっとずっと大好きです。さて、新刊発売に合わせて行われている感想ツイートキャンペーンを知り、ぜひとも参加したい！　と思ってこの「月の影影の海」を読み直したわけなんですが、やっぱり抜群に面白いですね！前作である魔性の子は、人の怖さ悲しさを思い知らされながら深みに引きずられていく面白さがあったのですが、こちらはただもう先が気になってぐいぐい読まされてしまう、王道ファンタジーの面白さ。魔性の子の感想でも書きましたが、根本的にずいぶんテイストが違います。というか、しばらく読まない間に「上巻はとにかく陽子がつらい目にあっていて、下巻でそれが報われる」という固定観念ができてしまっていたのですが、久々に読み返してみたら必ずしもそうでもないのがまずびっくり。前半からずっと陽子の変化や成長が丹念に描かれており、自分の心と向き合って進み続ける陽子の姿が、一貫して痛快で心地良いお話、と今の私には読めました。以下、ネタバレありますのでご注意ください。蓬莱での陽子まずは旅の出発点、蓬莱での陽子が描かれるわけですが……いやほんと、ここの息苦しさはすごいですね！小さな悪意ややっかみに囲まれて、見栄を張ったり誤魔化したり嘘をついたり、そんなことが当たり前になっている人間関係。そんな中で担任教師は「分かってくれようとする人だなぁ」とも思ったりするのですが、だからと言って陽子はそれに感謝するでも、そこに突破口を見出すわけでもなく、ただ「卑怯で怠惰な生き方」を続けている……。王の器どころか、主人公としての爽快さすら感じられない、でもリアルで生々しくて、痛いほど共感できてしまうそんな場所から、物語は始まります。それにしても、景麒の説明の雑さったらないですね！風の海で泰麒と話してる時も大概でしたけど、もうちょっと……もうちょっと言い方あるだろ！　政治が生業なのに、なんでそんな口下手なんだよ！とはいえ、高貴な身分の麒麟が敵のただなかに（使令はいるにせよ）単身乗り込んで自ら王を救出しに行くなんて、十二国の常識から考えればとんでもない事態で、しかもそれをあの景麒がやるっていうのはそれだけでもうすこいことなのかも。陽子の変化、その一そんな陽子の変化は、景麒に連れ去られるところからもう始まっています。ずっと世間の目を気にして穏便に済ませてきた陽子が、連れ去ろうとする景麒に文句を言い、怒鳴りつけます。この時はまだ、周囲が（主に景麒が）なんとかしてくれることに期待して、自分が目の前の事態に対処することを拒否していますが、それでもなりふり構わず自分の気持ちに従えるようになって。それが、配浪から県城に護送される時にはもう、自分の頭と身体を最大限に使って生き延びるんだ、という覚悟を持っていて、その先でも、「生きる延びるためにやること」の幅を良くも悪くもどんどん広げていって……。立場としては苦境も苦境、それでも、「潮騒」というモチーフで描かれる「生きたい」という欲求をとことん貫く陽子の旅路には、強烈な痛快さがあります。「女の子は清楚で可愛いのが一番」そこに閉じ込められていた陽子の息苦しさがあまりに卑近だからこそ、そこから変わっていく強さが際立つのかもしれません。陽子の変化、その二生きたいという欲求に従って突き進む姿は、痛快である一方、自分本位の醜さが露わになっていく姿でもあります。「性根が据わってきたじゃねえか」――蒼猿にそう評されたように、生き延びる強さを手にした陽子。次のステップでは、その醜さと向き合い、その先にある強さを求めるようになります。陽子の変化の第二段階とでも言いましょうか。午寮の門前で楽俊を見捨ててからの一連のシーン、私がこの小説の中で一番好きで、一番のクライマックスだと思っているシーンなのですが、ここの、自分の醜さを真正面から見つめて、気持ちがどんどん裸になっていく流れの凄みですよ！楽俊に止めを刺す選択肢がよぎったこと。楽俊のところに戻ることで、見捨てたことを帳消しにしようとする狡さ。それを悔いてなお、自分が生き延びるという最大の目的は譲れないこと。その本音を誤魔化しなく容赦なく暴くからこそ、「生きたい」「諦めたくない」そして「強くなりたい」という陽子の願いが響くんですよね。自分の中の獣に正直に生き、そしてそれを見据え、越えていこうとする意志こそが、どこにでもいそうな女子高生だった陽子の中にある「王の器」なのかなぁ、なんて思います。功国で出逢った人たち「わたしは貧しい人間で、だから貧しい人間関係しか作ってこられなかった」陽子のこの言葉を、初読時中学生だった私は、いまいち理解できませんでした。物語の流れの中ではそうなんだろうなと思いつつ、「とりあえず自分のせいにしておけば良い」みたいな卑屈さを感じてしまっていたんです。でもそれなりに生きてきて、人間関係がそういうものだと分かった今となっては、すごく沁みる言葉です。達姐や松山は悪い人で、玉葉母娘や楽俊は良い人。良い人に出会ったから陽子は変わった――昔はそう思って読んでいたんですけど、そうじゃないんですよね。誰も「良い人」「悪い人」なんていうレッテルの中で生きているわけじゃなくて、田圃をだめにされてしまった配浪の人たちも、陽子を騙しながらも商品として大事にできる達姐さんも、異国で必死にやってきた松山さんも、それぞれの人生を一生懸命に生きていて、その中には優しい面も狡い面もあって、それが関わり方しだいで善人にも悪人にもなってしまう、それって人間関係の難しさで……もちろん相性や巡り合わせによるところも大きいんですし、じゃあ陽子が松山と良い関係を築ける道があったかっていうとう～んとはなってしまうんですけど、少なくともそれが人間関係である以上、自分自身の在り方を無視して築けないのは間違いないところで。「世界も他人も関係がない。胸を張って生きることができるように、強くなりたい」陽子がそうやって、他人の狡さ弱さに理由を求めず、まずは自分が立つという選択をしたことが、他人との関係を大きく変えていったんでしょう。「陽子が功国で出会った最後の人たち」――陽子をいいだけ扱き使って、でも手を差し伸べてくれた、良い人でも悪い人でもない彼らと、「ありがとう」の言葉とともに別れられたのは、象徴的だなぁと思います。（ところで達姐さん、正体を知ってから読むと名前がそのものずばりすぎて若干びびりますね）陽子の決断さあそして終盤、陽子の正体が判明してからの怒涛の展開はもう、これぞエンターテインメント！　です！今まで少しずつ見えてきていた世界の形がはっきり示される爽快感も楽しいですし、延主従はどこを切っても魅力の塊ですし。でも「強力な味方と先の見通しを得たから万事解決！」というわけではなく、あくまで陽子自身が決断を下さなければならない、というのが、やっぱりここまで物語を追ってきたからこそ嬉しい、引き込まれるポイントですよね。陽子の決断に際して、今までの軌跡がぶわーっと蘇ってくるのがね……醍醐味ですよ……。「あなたになら、できるでしょう」この冗祐の言葉は、読者の心の叫びだと思うんですよ。玄英宮で、人の愚かさと、支えてくれる人たちの温かさを再確認して、大きな責任を背負う覚悟を決めて。あれだけ願っていた「元の世界に帰る」ことを諦める道を、納得して祝福して本を閉じられるのは、そうさせられてしまう陽子の生き様の魅力ゆえであるように思います。そんなわけで十二国記は本当に大好きなシリーズで、本編第一作のこのお話だけとっても、世界の緻密さとリアリティ、そこにいる人たちの個性や感情、「おいらには三歩だ」をはじめとする名言の数々……とまだまだ語り切れていないことが山ほどあるのですが、ひとまずこれにて。10月の新刊、……泰麒と驍宗さまの行く末がちょっと怖い気持ちもありますが、楽しみに待っています！★他の感想記事はこちら★
05Jan
- 劇場版夏目友人帳～うつせみに結ぶ～感想（ネタバレありVer.）
  前回はネタバレなしVer.の感想を書きましたが、そろそろ上映からずいぶん経ちますので、今度はネタバレを気にしない感想を書きます。っていうか主に椋雄さん語りをします。ネタバレで魅力がなくなる作品では全くないと思っていますけど、やっぱり一回目は「？」って思いながら観てほしいのでこれから観る予定の方はネタバレなしVer.をどうぞ。ホノカゲいやもうこのエピソードの何が好きってホノカゲのキャラクターがめちゃくちゃ好きです。自分の薄さとか諦めとか、それでいて情が深いところとか、見た目が優男風のところとか（それはただの私の趣味）。でもホノカゲが引き起こす事態はすごく怖いんですよね。夏目くんの人間関係って、基本的には「辛い過去と幸せな現在」という対比で描かれることが多くて、藤原家や同級生たちというのは夏目くんにとって「安心できる居場所」なんですよ。それが脅かされる恐怖は想像以上でした。「お前、ニセモノだろ」のあのシーンはほんともう怖くて泣きそうでしたよ。（あとその直後の、夏目くんが2号をぎゅってするシーンね……もう先生こんな大事な時に何やってるんだよと）ホノカゲに悪意があるわけじゃなくて、どころかホノカゲ自身も被害者と言っていいような立場ですけど、でもやっぱり人間関係を作り変えてしまうという能力には間違いなく残酷さがあって。夏目くんはその残酷さや恐怖をいやというほど身をもって体感します。その夏目くんがホノカゲをかばうことの意味、ですよ。勿論「自分がされたことに対して尋常じゃなく無頓着」という、シリーズでもたびたび見られる夏目くんの特異性があってこそではあると思うんですけど、とはいえあれだけの恐怖を味わってなお、ホノカゲによって救われた人の存在やホノカゲ自身の悲しみにちゃんと寄り添える夏目くんは、やっぱり優しい子です。そして名取さん。名取さんのスタンスからするとホノカゲは本来見過ごせるものではないでしょうに、話が通じる相手だと認識して結局はほだされちゃう辺り、だいぶ夏目くんに影響されていますね。結べたかもしれない絆ご老体はどうしてホノカゲを追っていたんでしょうね。名取さんは、「祓うつもりだったとは限らない」とか言ってましたけど。そこにはもしかして結べたかもしれない絆があって、でもそれは結局結ばれずに終わってしまっています。そして最後に夏目くんと容莉枝さんが会話するシーン。ここでは、レイコさんと容莉枝さんの間にも、結べたかもしれない絆があったことが示唆されます。障りや嘘や勘違いに阻まれて、実らなかった可能性。その繰り返しによって自分を閉ざしてしまった、ホノカゲやレイコさん。それが切ないからこそ、結ばれずじまいになってしまった結城くんとの関係をもう一度結び直し、可能性を示してくれた夏目くんの前向きさが嬉しいんですよ。ホノカゲのあり方は決して善良なばかりのものではないし、結城くんのついた嘘も褒められたものではないかもしれない。でも夏目くんはそれを分かったうえで、それでもその中にある彼らの心を大切にしたいと「関係を結ぶ」選択肢を取りました。尺によっては結城くんのエピソードはカットされる可能性もあったとのことですが、いやいやいや本当に収まってくれて良かったですよ。夏目くんのこの選択があってこそ救われると思うんですこの話は。椋尾さんの怪しさで、椋雄さんの正体なんですが。ストーリー中盤の肝ともいうべきポイントな割に、劇場公開後に出た雑誌ではかなり無造作にネタバレされててびっくりしましたよ！　こういうもんなんだね！でもまぁ確かに、その話を伏せておくとなんにも語れないですしね。椋雄さんがどうも怪しい、という伏線というか引っかかりはあちこちに散りばめられていて、多分人によってはかなり序盤から疑いの目で見ていたんじゃないでしょうか。ちなみに私が最初に「？」と思ったのは「どこへも行けなくてね」の台詞、妖だと気づいたのは、先生から二回目に「妖ものの匂いをつけている」と言われたシーンです。正体を知った上で見返すと、「あれ、怪しい？」と思わせた直後に「いや、ただの天然さんかも」と思わせる、押したり引いたりのバランスが絶妙で、こういう細かい表現の積み重ねがキャラクターを「気になる存在」にしていくんだなぁと妙なところで感心してしまいました。なお、劇中で夏目くんが「椋雄さん」と呼ぶのは徹頭徹尾ホノカゲのことで、本物の椋雄さんは写真でちらっと写るほかには回想シーンにすら一切出てきません。なんだかそれが、失われてしまったものの遠さやどうしようもなさの表れのようで、仕方ないんですけどちょっと寂しくもありました。じゃあホノカゲには存在感があるのかというと、こちらはこちらで本来の姿を見せていません。クライマックスシーンでも……見えそうで見えない……！　円盤化したら思う存分一時停止しようとは思っていますけど……！唯一全身の姿がはっきり映るのは容莉枝さんの切り絵によってで、それも示唆的な話ですよね。結局は最後まで「椋雄さんとしてのホノカゲ」という、嘘によって出来上がった実体のない姿だけを見せ続けて、それでいて見る人に強い印象を残していく――そんなとらえどころのなさが、非常にホノカゲらしいなと思いました。ちょっと俗っぽい話をしますで、その椋雄さんを演じていらっしゃる高良さん。LaLaのインタビューで、俳優が声優をやる意味として「自然体の演技」を挙げていらっしゃいました。声優が本業ではない方を起用する目的って、言ってしまえばプロモーションのためですよね。実際、各種メディアでの舞台挨拶の取り上げられ方なんかを見れば、作品にとって大事なことなんだろうという実感はあります。とはいえ私も声優さんのファンなぞやっている身ですから、そういう知名度重視のキャスティングに思うところがないわけでもないですし、キャスティングされる方の葛藤も決して小さくはないんだろうと思います。そんな中で、インタビューで語られたように、広告塔としての役割に甘んじることなく技術の面で応えようとしてくださったことが作品ファンとしてはまず嬉しかったです。アニメにおける自然体って多分すごく難しくて、デフォルメされた絵の世界に現実世界の自然体を当てはめると、やっぱりちょっと浮くんですよね。でも椋雄さんはあえてそこが貫き通されていて、そのあるかないかの違和感が、どこか世界から浮いている椋雄の違和感になっていたようで、確かにこれは俳優さんがやったからこその空気感かもしれない、と思いました。なお舞台挨拶では容莉枝さん役の島本さんも「アニメアニメした声じゃなく」「自然体で」ということを仰っていまして、こちらは自然体でありながら完全に世界に溶け込む超絶技巧が素晴らしかったですね。好きな台詞は色々あるんですが、序盤で夏目くんを家に招いた時の「あらどうしたのかしら」の圧倒的な日常っぽさにまず感動させられてしまいました。その他・冒頭のシーン、夏目くんが忘れものをしたって言った時に田沼くんだけ険しい顔をしていて、でも何も言わない距離感がいかにもこの二人って感じです。・先生のしろねこ咀嚼音がなんだかすごく心地良いです。・先生が三匹になるシーン、夏目くんの中の塔子さん観が完全に天然で可愛い。・河童が「斑様のお姿になってみれば」って言った時、ちょっと期待したよね、ちっちゃい斑×3。・名取さんが式を開放するシーンが「名前を返す」ニュアンスになっているのが憎いなと思いました。・北本くん相変わらずの顔の広さ。・ウロの中の椋雄さんの目が光って羽が舞うシーンがかっこよくて好きです！★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★他の感想記事はこちら★
03Oct
- 劇場版夏目友人帳～うつせみに結ぶ～感想
  劇場版夏目友人帳、公開おめでとうございます！本当に本当に素晴らしい作品で、これを作ってくださったこと、リアルタイムで観られた巡りあわせに感謝しかありません。以下、ネタバレなし感想です。ネタバレありVer.は<こちら>。ざっくり印象劇場版の発表があった時、「うわすごい、嬉しい！　でも夏目で劇場版って想像つかないな」というのが最初の感想でした。オリジナルストーリーであるという情報にますますドキドキが増し、公開が近付くにつれインタビューなどで期待が高まり……いよいよ昨日観に行ってきましたよ！結果として本当に、徹頭徹尾いつも通りの、そしていつもより贅沢な夏目友人帳でした。ちょっと抽象的に言うならば、世界が見せる多面性の中で描かれる、優しい人たちの群像劇、という感じでしょうか。見えるものと見えないもの、見ようとするもの、嘘と本当。切り口によって世界は表情を変え、それぞれの見方と思惑を持った人々が関わりあうことで人の心が動いていく……その切なさと美しさが胸に沁みるお話でした。劇場版はたっぷりと時間がある分キャラクターたちの関係性が丁寧に描かれていて、そこに夏目くんの葛藤と成長が見えるのもTHE・夏目友人帳という感じ。夏目くんの居場所初めての人でも問題なく入り込める作りのお話ではありますが、アニメ六期を経てきていると、冒頭のシーンからぐっときます。こちらのリンクのロングトレーラーにも出てきますが、子供の頃の夏目くんは妖怪が見えるせいでおかしな言動をしてしまい、みんなから気味悪がられて疎外されてしまっているんですよね。それゆえにきっと人からの目を気にせざるを得なかった夏目くんが今、その頃の夢を見て友人の前で悲鳴を上げてしまっても、狼狽えたりしないんですよ。そこにあるのは恐怖ではなくどうやら恥ずかしさで、ちょっと顔を赤らめて、西村くんに正直に夢を見たと言ってしまえる、そんな居場所を得ている……。夏目くんの今を表す、すごく象徴的なシーンだなと思います。そんな安心感で始まりながら、その陰に実はずっとあるものが掘り下げられていくのも、今回のお話のみどころのひとつです。夏目くんの不安当たり前に見ていたものが当たり前じゃないかもしれない。あるいは、当たり前ではなくなってしまうかもしれない。そんな世界の不確かさが不意に突きつけられてはっとさせられるシーンが、劇中にいくつか出てきます。回想シーンではどきっとする美しさを伴って、そして中盤、異変が明らかになっていくパートでは、どうなってしまうんだろうという不安を伴って。この衝撃って多分、夏目くんがずっと向き合い続けてきたものなんですよね。「見えているものが、存在していないかもしれない。そんな不安定な世界をひとりで歩く恐さを、わかってくれる人は誰もいなかった」アニメ一期の第三話、「八ツ原の怪人」での夏目くんのモノローグです。そんな恐怖を乗り越える助けになってくれているのが、ずっとそばに寄り添って同じものを見てくれているニャンコ先生なわけです、が！　その先生が今回大変なことになってしまっています。可愛いけど。先生の助けを得られない中、ある夜のシーンで恐怖と向き合う夏目くんの姿は、もう本当に胸を締め付けられます。夏目くんの成長今回ちょっと新鮮だなと思ったシーンがありまして。それが、レイコさんが受けた仕打ちに対して、夏目くんがモヤモヤした気持ちを口にする場面です。なんかね、私の夏目くんのイメージとして、人に対して反感というか、「これはよくないことだ」って思う感性が抜け落ちている感じがあったんですよ。昔の夏目くんも、妖怪のことははっきり嫌いだって言ってるけど、人間に対してはそれすら思えないというか、何か嫌な目にあったとしても、それは普通になれない自分への諦めや失望になってしまうのかなって。悲しいとは思っても、悔しいとか腹立たしいとは思わない、仕方がないことだと受け止めてしまう……みたいな印象だったんです。でも今回、レイコさんに対する周囲の人の振る舞いに対して、けっこうはっきり、「嫌なことをされた」っていう認識を言葉にしているんですよね。小説版「たまゆらの家」の地の文でもそういう描写があって、実はその時はそれに違和感というか、引っかかりを感じたんですよ。でも今回はそれが、違和感ではなく夏目くんの成長なんじゃないかと思えるようになりました。周囲の人に対して抱いていた感情が、「諦め」から一足飛びに「理解」や「赦し」になるわけはなく、まずはちゃんと嫌だと思えることが第一歩なのかもしれない。そう考えると、モヤモヤを感じて、ちゃんと認識して、人と言葉を交わしながらそれをほどいていく。そういうことができるようになった夏目くんは、きっとしっかり成長しているんですよね。嘘と結末今回のお話で何といっても心を打つのは容莉枝さんと椋雄さんの関係であり、結城くんと夏目くんの関係であるわけなんですが……ネタバレなしで語れる気がしないのでそれはまたの機会に。ただ、「優しく、哀しい、嘘をついた」というコピーの通り決して綺麗な大団円にはなりえない悲しさはありながらも、とてもとても温かいお話でした。それは、クライマックスシーンで描かれる、物語にかかわった人々の表情だったり、見えないものを浮かび上がらせる切り絵の美しさだったり、ラストシーンの夏目くんであったり、タイトルが「うつせみに『結ぶ』」であることだったり――そんな、温かさを肯定する要素が随所にちりばめられているからこそなのかなぁと思います。先生そうやって琴線に触れる部分がたくさんありつつ、単純にめいっぱい楽しめるのも夏目のいいところですよね！　今回は何といってもちっちゃいニャンコ先生ですよ！　本当に可愛い！！普段の先生はどちらかというとおもしろかわいい方向ですけども、ちびニャンコはあざと可愛い……。犬の会とのどたばたパートなんかもう！　ちょっと痛そうだったけど！斑、いつもの先生、ちっちゃい先生と三者三様の可愛さはあるわけなんですが、ところでなんか今回、普通ニャンコ先生……太ってません？いや、期を重ねるごとに巨大化している疑惑は元々ありますけども、それにしても多軌さんにぎゅーってされてるところの大きさ、すごくなかった？？夏目初心者の方へこれはさっきも書きましたし色んなところで色んな人が言ってますけど、初めて見ても全然問題なく楽しめます。冒頭で描かれる、夏目くんのいつもの日常のちょっとしたアクシデントがありまして、それで大体のところは理解できるようになっていますので（でもそれがただの顔見せじゃなくて後半に生きてくるのは憎い構成です）。とはいえ！　夏目くんの軌跡を知っていた方がより楽しめるのは間違いないところで、映画を楽しむにあたって観ておくと良さそうな過去のおすすめエピソードをご紹介します。映画を観た後に、映画の中では詳しく語られなかったサイドストーリー、みたいなノリで観るのも良いと思いますよ！（ちなみにリンク先は以前に書いたネタバレ感想ですので平気な方のみ飛んでください）一期二話「露神の祠」：　人を見守り続け、情を寄せる妖を描いたお話。今回のゲスト妖怪の心情とも重なる部分があります。一期三話「八ツ原の怪人」：　この記事でもちょっと触れている、確かな世界を歩く恐さが語られるお話。一期四話「時雨と少女」：　劇中で触れられる、笹田さんと旧校舎の思い出。二期十二話「廃屋の少年」十三話「人と妖」：　人と妖、どちらの味方をするべきか迫られ葛藤する夏目くんのお話。名取さんとの向き合い方の難しさが見えます。三期三話「偽りの友人」：　劇中では名前のみ登場の柴田くんエピソード。夏目くんが過去の人間関係を繋ぎなおすお話。六期第四話「違える瞳」第五話「縛られしもの」：　祓い屋と式の絆。これを見ておくと、祓い屋や名取さんが何をしているのかが理解しやすいです。そのほか細かい感想・レイコさんならこんな簡単に捕まらないって言われた時の夏目くんの表情がめちゃくちゃ可愛いです。・ストーリーが緊迫してくる中、名取さんのテーマ曲が流れてきた時の安心感がすごかったです。なんかもう曲だけで笑える。・名取さんはギャグシーンもあり、締めるところはぐっと締めてくれて大変美味しい役どころでした。いつもは柊の陰に隠れがちな笹後と瓜姫も大活躍で嬉しかった。夏目友人帳贔屓を差し引いても、素晴らしい映画、素晴らしい時間でした。また何回でも観に行きます、ありがとうございました！！★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★他の感想記事はこちら★
16Aug
- 続夏目友人帳　第五話「約束の樹」感想
  お久しぶりですこんにちは。夏目、いよいよ映画公開を間近に控えて盛り上がっていますね！PVやらインタビュー動画を見る機会も増えて幸せな日々です。公開が楽しみだなぁ！！というわけで久々の感想記事です。今回のエピソードではレイコさんのいたずらとヒノエとの出会い、そして素直に人に頼れない夏目くんと周りの人たちの関係が描かれます。ここからネタバレです。霧葉今回のゲストはアニメオリジナルキャラの霧葉くん。思い出して声を掛けてもらえるのを待っていたのか、夏目くんの周りをウロウロしたりじぃっと見つめたり……その仕草や間、何より声が可愛くて、これはアニメだからこそ出せる魅力ですねぇ。ちょっと鬱陶しい感じから始まり、先生やヒノエとのコント、最後には自分で木登りして株を上げるまでの流れの綺麗さも含めて、とっても素敵な子でした。塔子さん「塔子さんには心配かけたくない」と言って風邪を言い出せない夏目くんが相変わらずです。そしてそんな夏目くんを見守る人々の様子が今回のみどころのひとつ。田沼くんの「一言言ってくれれば」に対して、塔子さんが返す「そうね」がさ、ほんとにこれ名台詞ですね！！塔子さんも、頼ってくれない夏目くんのあり方は心配していて、でもそれは「言ってくれればいいのに」って言えば済むだけの話ではなくて。黙っていたことを叱ることもできるけど、結局は夏目くんが「頼って大丈夫だ」って心から思えるようになるのを待つしかない、そんなもどかしさを抱えつつ、それでも見守り続ける大人の覚悟というかね、「そうね」の一言にそういうのが垣間見える気がするんですよ。田沼くん田沼くんは、人に頼ることを知っている人なんですよね。同じように妖怪を感じるという特殊性を抱えていたとしても、お父さんはずっと理解者であったようですし。今回も、西村・北本・笹田の同級生組に協力を頼んだのは田沼くんの様子。そういう田沼くんだからこその「一言言ってくれれば」なんでしょうし、そうやって他人と距離を縮められる人だからこそ、夏目くんに手を差し伸べることができるのかもしれません。ヒノエ塔子さんと同じように、なんだかんだで夏目くんなりの歩みを見守ってくれているのがヒノエです。「周りと付き合うのが下手なくせに、いざとなると誰かのために無茶をして」心配しつつも、ヒノエは夏目くんのそういうところがきっと好きなんですよね。そんなヒノエとレイコさんの出会いが、このエピソードでは語られています。出会い頭のレイコさんの敬語が新鮮です……！レイコさんも夏目くんも、人間には丁寧で妖にはぞんざいな口をきくのが基本のようで、妖たちは良くも悪くも、気を遣わなくて良い相手なのかもしれません。「預かってもらってる身で人様に迷惑かけたくないんだけど」行きずりの相手だからこそ話したのかもしれないレイコさんの言葉が切ないです。「妖が好きな人間なんていやしないさ」ヒノエは最初から、レイコさんに……というか人の子に好かれたかったんでしょうか。夏目くんに対しても、塔子さんが保護者目線であるのに対して、ヒノエは友人として同じ目線で小言を言ったり好意を示したりするように見えて。その純真さ、子供っぽさみたいなところが妖ならではなのかもしれません。その他・先生のようかんの丸のみ芸が豪快。・行くな？行くなよ？の先生まじ保護者。・塔子さんにお出かけですか？の中級が可愛いです。・ところで木の枝は成長しても上には移動しないよ！？★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★他の感想記事はこちら★
15Jan
- 改めてブログの趣旨を語ってみるなど
  もう一月も終わろうとしていますが、2018グッドスタートブロガー企画に便乗して今年の目標というか、ブログの方向性のようなものを改めてまとめてみようかと思います。このブログは、小説・漫画の感想記事を書く場所として作りました。読書自体は文字が読めるようになった頃からずっと好きで、子供の頃は健康を害するほどに読んでいましたが、それに対して感想を書こうと思うようになったのはごく最近の話です。小学校の宿題でよくある読書感想文には、何のモチベーションもありませんでした。読書はあくまで自分の娯楽で、ある種の聖域でもあったので、それについて何かを他人に訴える、しかも共感してくれるわけでもない大人に向けて……という発想がそもそもなかったんですよね。そんな子供だったのが今、感想を書くようになったきっかけはいくつかありまして、一つはネットが普及して、他の人の感想を目にする機会が増えてきたこと。15年くらい前の話でしょうか。自分が物語を読むというだけで完結していた世界に、体験した感動の意味を解釈したり膨らませたり、という新しい楽しみ方を発見しました。感想を書く目的は自分が物語をより楽しむためだということ、また、同じものが好きな人とはその感想を共有できるんだということに気づいたのは、ここからだろうと思います。さらに、これはぐっと最近になりますが、SNSで「制作側に感想や喜びの声を届けるのは大事だ」という話を知ったこと。このブログは自分の記録用で、声を直接届けているわけではないですが、そもそも私が作品の感想を書き始めたのは（ブログのタイトルではなく文字通りの）ファンレター用として、でした。そして最後に、そんな前提ができた上で、今も素晴らしい作品に出逢い続けていること。「感想を書くために作品を探す」という人はそんなに多くないと思います（それこそ宿題などで強制される読書感想文でない限りは）。大好きな作品があって、それが好きでたまらなくて、それのどこが好きかを何度も反芻して咀嚼するうちに、出てきた言葉を忘れないように書き留めたくなってくる……少なくとも私にとっての感想文というのはそういうものです。もちろん、その目的であれば自分だけが見られる日記でも良いですし、作者の方へのファンレターも実際に書くことはあります（ブログより格段に文章に気を遣うので、ブログほどの頻度では出せないのですが）。それをこうやって公開しているのは、どうせ書き留めておくなら、同じ作品が好きな人の目に留まって、「この作品を好きな人がここにもいるんだ！」というちょっとした喜びを与えられたら素敵なんじゃないか、と思ったからです。で、なぜわざわざこんなことを書いたかというと、ブログを書いているとすぐに自己顕示欲が顔を出してしまうからなんですよね。ついついアクセス数が気になって、「注目度が高いからこの作品の感想を書こう」とか「検索に引っかかりやすい単語を入れよう」とか考えてしまう……そういう気持ちは、私の中に間違いなくあります（この企画に参加するのだって間違いなくその手の欲求が大きいわけですし）。そして、それ自体が悪いことだとまでは私は思いません。承認欲求、大事です。でも、それがエスカレートしていったときに、大好きだったはずの作品たちが自分の承認欲求のための手段になってしまうんじゃないか、というのが、ブログを書いていて目下一番恐れていることなんですよ。だからあくまで、自分が作品を楽しむことが第一義。その初心を忘れないように自戒し続けることが、今年の、そしてこの先も持ち続けたい目標です。
07Jan
- 夏目友人帳～音劇の章2018～感想
  夏目友人帳の音楽朗読劇「SOUND THATRE　夏目友人帳～音劇の章2018～」に行ってきました。舞台の感想というのはこちらのブログでは初ですが、前の記事で話題にしたことでもありますし、折角なので書かせていただきます。いつもの通りレポではありませんのでご了承ください。内容が気になる方は、既に円盤発売が決定していますのでそちらをどうぞ。なんとイベント映像2回分も付くそうですよ！お得ですね！（ダイマ）～第一幕「悪戯な雨」～アニメでは5期第二話で放送されたこのエピソードを、夏目くんが田沼くんに語る、という形で進んでいきます。あのですね、タオルの少女妖怪がめちゃくちゃ可愛い大事なことなので二回言いますタオルの少女妖怪がめちゃくちゃ可愛い……以下、ネタバレ感想です。とはいえアニメ版の感想は既に書いているので、今回特に印象的だったシーンを中心に書いていきます。少女妖怪の回想シーン私、朗読劇って普段あまり鑑賞しないのですけど、アニメのように絵がない分、言葉に込められた感情がぐっと迫ってくる感じがするんです。（絵がないからそう聞こえるのか、絵がない分お芝居を変えているのかは分かりませんが）で、今回それが一番刺さったのが、ソウゴさんとの出会いと50年間を夏目くんに語る、少女妖怪のシーンでした。ソウゴさんに初めて会った時の戸惑い、雨の中でわざとらしくはしゃぐ声、そして、それら全てを愛おしい思い出として語る声音……。様々な感情の変幻自在さを目の前で見られるのはすごく贅沢で、役者さんがその場に立ってくださっている朗読劇の醍醐味なんでしょうねぇ。語りの中で少女妖怪は、自分が気付いてもらえない辛さを訴えようとはしていなくて、その分、たくさんの別れを見て心を揺らし続けている夏目くんの「それきり、か？」が沁みます。夏目くんとナナコさんのシーン嘘がばれた時の、ナナコさんの夏目くんへの怒りと不信感がもうすごくて（そりゃそうですけど！）、それが生々しく感じられるからこそ余計に、それをぶつけられて全く動じず、ソウゴさんの健在にほっとする夏目くんの、ある種異様さみたいなものが際立つんですよ。それは純粋さや正直さである一方で、そういう感情をぶつけられることを流してしまえる（たぶん慣れている）というところに、彼の歪みも見えたりして。でもそれがナナコさんの心を動かして二人を繋いだわけで、夏目くんだからこそできたことというのが「妖怪が見える」という特性そのもの以外にも実はけっこうあるんだよなぁと感慨深くなりました。少女妖怪の話を聞き終えて決然と走り始め、全力疾走からの、めいっぱい誠意を示そうとする名乗り、そして入院を聞いての「えぇぇ！？」……その思い入れと意志の強さ、そして、それによってナナコさんの気持ちがどんどんほどけていく一連の流れは、見事の一言でした。病室のシーンアニメでもものすごく美しくて切なかったシーン。少女妖怪に気付けずに雨を眺めるソウゴさんと、それを受け入れて区切りをつけてしまった少女妖怪の、一緒にいるのに一緒にいないどうしようもなさがもう！ちなみにこのシーンの直後に、少女妖怪と手を繋いであげられる夏目くんにちょっと救われます。少女妖怪がちゃんとそこにいて、それを分かって繋がり合える人間がいるんだっていうことに。でも少女妖怪が大事にしていたのはソウゴさんとの出会いで、夏目くんは勿論それを分かっていて。そして夏目くんは、つながり合えない二人を目の当たりにしても、諦めたりはせず、結果、ソウゴさんは偶然の成り行きではなく、明確に彼女のための贈り物を託してくれました。正直、別れは遠からず来ると思うんです。妖の寿命どころか、少女妖怪が待った50年と比べてもあっと言う間に。新しいタオルだって、またぼろぼろになってしまうんでしょう。でも、タオルをもらった事実を大事に持ち続けていた少女がいたことは確かにソウゴさんに伝わり、ソウゴさんは彼女のためにタオルを贈って、ただの偶然だったはずの縁を結び直すことができた、その事実はきっと少女妖怪の中で色あせないはずで、それは夏目くんの存在と意志と努力の賜物で……夏目くんがいてくれて本当に良かった。田沼くん冒頭にも書きましたが、音劇版では、夏目くんが田沼くんにエピソードを語る、という形式になっています。原作でもアニメでも、夏目友人帳の物語はほとんどが夏目くん視点で進んでいきます。ですから夏目くんの内心はモノローグ等でも結構語られるのですが、夏目くんが外からどう見えるのか、というのは読み手・視聴者に任せられている部分が大きい感じがあるんですよね。このエピソードも、原作・アニメでは当事者たちとニャンコ先生だけで完結してしまっていて、ニャンコ先生はああいう性格ですから何も言わないですし、そんな中で田沼くんが外からの視点で「良かった」って言ってくれて、夏目くんにそれを伝えてくれるというのがなんかものすごく嬉しかったです。第二幕の「人間の友人と同じように接している」って言葉もそう。そして最後の虹の演出、すごく綺麗でした！ちなみに原作単行本巻末の特別編では夏目くん視点以外のエピソードが色々語られていまして、私はそれがとても好きです。～幕間劇～中級コンビがアニメの犬の会関連エピソードを振り返っていくメタなくだりの後に、会場へのお年玉プレゼント！昼の部は出てくるだけで笑いを取っていて、そのまま最後まで笑いが絶えず、さすがは劇団中級でした。アニメ収録時にはお二人が相談してアドリブを入れているなんて話を聞きますけども、今回も昼の部と夜の部で導入が違って、ああこれが！と嬉しくなりました。5期最終話のあのモノローグを生で聴けたのもすごく嬉しかったです！でもやっぱり中級が真面目になるとちょっと吃驚するね！～第二幕「そこに響く音を」～ストーリーは、ざっくり言ってしまうと「犬の会メンバーと夏目くんが自分にとって大事な音を集めてくる」という非常にシンプルなものですが、音劇という形態を最大限に生かした、おそらく音劇でしか成り立たない物語で、これは文章では全然伝えられないのでぜひ観て聴いてほしいです。犬の会今回、三篠の一人語りがすごく新鮮でした。三篠って表情変わらないし、何を考えているのかよく分からなくて怖いところがあったんですけど、今回は山の上でカエル愛でちゃうし、夏目くんに「レイコの存在が大きい」なんて全然皮肉じゃなく優しいこと言っちゃうし、なんだかすごく愛おしかったです。ところで、黒田さんのお召し物がすごく……すごかったですね。大変お似合いだったのもまたすごい。他にもヒノエの色っぽさやら河童のかわいらしさやらも堪能できましたし、彼らが奔放に振る舞いながら夏目くんが大好きなのがまた素敵です。あと、先生が斑になった瞬間にまだちょっと酔っ払いテンションだったのが好きです。それから、先生に送ってほしい夏目くんの「頼むよ先生」が……とんでもなく可愛かったです……何その甘えた感じ。藤原家今回第一幕も含め、藤原家のシーンがたくさんあったのがとっても嬉しかったです。愛に溢れた塔子さんと頼れる滋さんは声聴くだけでもう嬉しくなりますし、食卓を囲みながらちゃんと今日の予定を話したりできる（多少の嘘はあるにせよ）夏目くん、本当に……良い家族になった。5期一話のことを思うと、それはただ時間の経過によってというわけじゃなく、三人それぞれの愛と意志があってこそなんだろうなぁと思います。あと、滋さんが塔子さんのこと「塔子さん」って呼ぶのにめちゃくちゃときめきました。音楽音楽の素晴らしさを語る語彙が私にないのが大変もどかしいのですが！素晴らしかったです！切なさの中に温かさがあって温かさの中に切なさがあって、透明感と優しさがあって、みたいなあの雰囲気って、夏目友人帳という作品の色そのものですよね。原作は漫画ですから勿論音はついていなくて、でもこうして音楽ができた時に「これは間違いなく夏目友人帳だ」って思えるの、すごいと思うんです。音楽にしても朗読にしてもそうなのですが、アニメではあくまで歯車のひとつとして存在していて単体では注目されにくいもので、それがこうして音劇になることでスポットライトが当たってその素晴らしさをじっくり堪能できる、本当に贅沢な空間でした。ちなみに、私は三篠の音石を聴く時の音楽が一番好きでした。あと幕間劇のラストの曲。音楽がお芝居をしている感じがすごく面白かったです。それからですね……夜の部、どじょうすくいを踊っていたお兄さんが踊り終えて速攻でほっかむりを外してバイオリンを構えたのが面白すぎました。柳原さんと仰るんですね。そういうの大好きです。以上！音劇の初回の時はまだ存在を知らず、再演はライブビューイングで拝見して、今回念願かなっての現地での観劇でしたが、期待以上の素晴らしい舞台でした！舞台を作ってくださった全ての皆様、本当にありがとうございました！★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★他の感想記事はこちら★
01Jan
- 続夏目友人帳　第四話「雛、孵る」感想
  夏目友人帳アニメ10周年、おめでとうございます！大好きな作品をそんなにも長い間作り続けてくださっている方々がいること、そのお陰で今でもリアルタイムに新しい作品を楽しめることが、本当に嬉しいです。ありがとうございます。これを書いているのは2018年の元日ですが、間もなく実施される音劇、そして劇場版もあって大変楽しみな夏目イヤーです！さて本題、1期四話の感想です。今回は妖を育てる夏目くんのお話。タマちゃんの可愛さ、親目線の優しい夏目くんを存分に楽しみながらも、親と離れて生きてきた夏目くんの切なさが沁みる回です。ここからネタバレ。卵を拾う夏目くん「卵を拾って内緒で育ててみる」という行動は、普段年の割に大人びている夏目くんからするといかにも子供らしくて、ちょっと微笑ましい気もします。でも多分、動機には親兄弟に置いて行かれてしまった卵への共感が多分にあるんでしょうし、その年で「軽率だったろうか」なんてそれを省みるのは、人や妖との関係性に悩み続けてきた夏目くんならではかもしれません。ところで、卵を取りに行くために夜に木登りする夏目くん。「なんでもないです」と相変わらず適当な夏目くんと「そう？」で済ませてしまう塔子さん、ほのぼのするところではありますが…。この時点では卵が妖だとは分かっていないわけで、妖がらみじゃなくてもそうやって誤魔化すようなこと言ってしまうというところに、前回の「嘘をつくのが癖になっている」を思い出してちょっと心配でもあります。磯月のネズミ磯月って、アサギとアカガネがいた場所と同じ名前ですね？それはそうとネズミさん、目的は相容れないものの別に悪いことをしているわけでもなくちゃんと話が通じそうな相手で、それだけに夏目くんが嘘をつくシーンはちょっとヒヤッとします。原作ではここまで明確に嘘をついた描写はなく、さらに最後にネズミと和解しているのですがアニメ版ではそれをカットしていて、その分夏目くんとタマの関係に焦点が絞られている感じがします。とはいえカッコいいですねネズミさん。渋くて強くて潔くて。仮親というわけで主眼になっているのがタマとの関係です。仮親に愛されたがるタマの気持ちに自分の気持ちを重ね、自分が仮親……藤原夫妻からもらった温かい気持ちを、今度はタマに与えようとします。自分の悲しみを人に話そうとしない夏目くんがタマには話した、本当の親を知らない悲しみ。それを聞いている先生の表情が何とも言えません。4期になると「あんまり悲しくなくなった」と言っていたその悲しみともう一度向き合うエピソードもあるのですが、ここではひとまず、悲しくなくなるほどに愛されていることを確信し、それを他者に与えようとする夏目くんの成長が温かいです。その他・マッチ棒と言われるのをやけに気にする夏目くん。お年頃だね。今までもっと酷い罵倒を山ほど投げられてきただろうけども、そのくらいで喧嘩できる先生との関係がちょっと嬉しい。・たびたび発揮される夏目くんの器用さ。今回はタマの服を作っています。……すごいな！？・前回、先生もともと陶器って言ってたけど、卵温めるだけの体温があるんだね？・タイ焼きの失敗作を隠す塔子さんが可愛い。★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★他の感想記事はこちら★
18Dec
- 続夏目友人帳　第三話「妖退治　湯けむり行」感想
  なんだそのタイトル。と突っ込みたくなりますが、夏目くんと名取さんが不器用に歩み寄る、大真面目なエピソードです。ちなみに原作（四巻収録）タイトルは「夏目、温泉へ行く」。ここからネタバレです。嘘つきこの回では、夏目くんのトラウマキーワード「嘘つき」がフィーチャーされています。嘘つきと罵られないために、嘘をつくのが習い性になってしまった夏目くん。「私たちなら、嘘をつかずに付き合っていけるかもしれないね」名取さんも夏目くんも、嘘をつかずに済む関係にあこがれつつ、それが一筋縄ではいかないことも嫌というほど分かっています。今回の旅行でも名取さんは夏目くんに隠し事をしていますが、それがばれた時に夏目くんが感じていたのは、嘘をつかれたショックではなく、嘘をついてしまうことへの理解と共感でした。それにしても、「嘘をつかずに付き合っていけるかもしれない」ってすごい台詞ですよね。お互いに嘘を使って人付き合いをしているのが……そして今はまだお互いの間にも嘘があるのが、前提なんですから。相変わらず絶妙な距離感の二人です。本当のことを言えるようになりたいという理想があって、まだそれができないという現状があって、現状をちゃんと受け入れながらも、理想を諦めずに成長を誓う夏目くん。名取さんも、自分の迷いや望みを隠さなくなってきたあたり、夏目くんにずいぶん感化されてきているなぁと思います。そんな、潔癖なくらいに悩んで抱えてしまう二人に対して、「隠しておけばいいじゃないか（意訳）」と軽くあしらう先生や「嘘のつもりじゃなかったんだよ（意訳）」とフォローを入れる柊がまた良い味出してますね。友人帳の秘密夏目くんの、名取さんに対する最大の隠し事である友人帳。この時点ではまだ友人帳の危うさや祓い屋のネットワークが明らかになっていないので、隠す動機はそれほど強くない様子です。結局話さない方向に落ち着きますが、それを夏目くんに納得させる先生の言葉がまた……夏目くんのこと分かって慮ってくれている感じが、もう完全に保護者です。ところで、夏目くんはこの先、妖怪の命を預かっている責任を強く感じるようになっていきますが、先生にはあまりそういう視点はないんですよね。自分が妖怪だから妖怪の味方をするというわけでもなく、自分や夏目くんの気持ちがどうかということだけを考えています。友人帳に名がある妖怪たちのことは、割と他人事。それは勿論、先生の性格もあるのでしょうが……この作品の色というか、世界観でもあるのなのかなぁとも思います。今回のお話でも、夏目くんを騙そうとする妖怪と、律義に恩を返す妖怪が出てきていますよね。「人間」とか「妖怪」とかいう属性で括るのではなく、それぞれが全く違う個々の存在として描かれている、その描き方が面白さであり、奥深さであるような気がします。温泉回「同じ風景が見える友人は君だけだよ」……そういうのにほだされやすいですよねぇ、夏目くん。塔子さんの「ゆっくり楽しんでいらっしゃい」に真正面から照れてしまうのも可愛いです。今回は温泉回なので、サービスシーン(笑)もしっかりあります。柊に見られてお約束の反応を見せる夏目くんも可愛いのですが、ここでは何より、先生が自分のこと「もともと陶器」と言ったのが衝撃でしたね。陶器なんだ……いやまぁ、確かにまねき猫ならそうなんでしょうけど。陶器か……。あと、夏目くんはやっぱり先生のこと猫だと思ってるんですね。その他・最初の小さい輿の妖怪たち、真っすぐにしか進もうとしないのが面白いです。確か沖縄に、魔物は直進するから門のところに壁を作る、みたいな話ありましたよね。・温泉シーンの直後、のんびりしたムードからの突然のぶら下がり。この絵面の容赦ない怖さも夏目らしいところです。・塔子さんの「うそつき」がものすごくグサッときます。・レイコさん、そんな凶悪そうな妖怪とも勝負してるの……？そして勝ったの……？★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★他の感想記事はこちら★
16Dec
- 続夏目友人帳　第二話「春に溶ける」感想
  ひとりだった夏目くんが、ひとりになった妖を助けてあげるお話。雪兎やうさ耳妖怪の愛らしさとは裏腹に、人に裏切られ、憎しみを背負ってしまった翠の苦しさと、ひとりになってしまった玄の悲しさが胸に沁みる回です。ここからネタバレ。玄の悲しみと夏目くん悪霊になりかけている玄を夏目くんが諭すシーンは、この回の大きな見せ場のひとつです。「ひとりは嫌だ」と嘆く玄に対して、夏目くんは「まだひとりではないだろう？」と言います。ひとりの悲しみをまだ夢に見るほど生々しく持ちながら、玄の悲しみに引きずられることなく、ひとりじゃない今を守るために前向きになる夏目くん。1期十話「アサギの琴」には「おれはいつまでここにいられるんだろう」というモノローグがあり、今の幸せを、いつか失ってしまうかもしれないものだと捉えている感じがあったんですよね。でもここでの夏目くんは、絆や希望を失いかけている玄に対して、努力でそれに抗うことを、全力を尽くすことを訴えているんです。「おれもここには、守りたいものがいっぱいあるんだ」「大切だと思ったことは大事にしていきたいんだ」幸せを、たまたま転がり込んできた分不相応なものではなく、大事にしたいもの、守るために努力したいものだと捉えるようになった、夏目くんの成長が見える台詞です。翠の恨みと夏目くん大事に思っていた人に裏切られて、悪霊になってしまった翠。玄の回想で出てくる優しい姿と、悪霊の姿のギャップが衝撃的です。夏目くんが直接会った翠は悪霊の姿でしたけど、それでも「たぶん、虹に願おうとしてくれた翠のことも」と、翠もまた理解の対象にしようとしています。人に裏切られた悲しみではなく、人の幸せを願っていた温かい気持ちに対して共感を示すのが、夏目くんの夏目くんらしいところですよね。玄に対してもそうでした。ひとりになった悲しみに共感することもできただろうに、夏目くんはそれをしません。マイナスの感情に共感しない、傷の舐め合いのような関係を作らない。そして、人を嫌っているであろう玄に対して、人として「おれは玄が好きだよ」と言うことができる夏目くんの強さが、かっこいいです。玄と翠「君の心がいつか癒えたら、また二人で虹を待とう」翠にとって、人の願いや幸せの象徴であった三色の虹。「虹を待とう」という言葉からは、翠が人を許す未来を望んでいる、玄の気持ちが見える気がします。玄は翠がいれば幸せで、翠は玄がいれば寒くなくて。悪霊として分かたれていたことを思えばそれだけでも充分なんでしょうけど、その上で、人との思い出を心穏やかに想えるようになったなら、こんなに嬉しいことはないですよね。そして、玄がそれを望めるようになったのが、夏目くんのお陰であったらいいな、と思います。そのほか・冒頭の窓から見ている妖怪、めっさ怖い。・なんだかんだ言って、翠を襲わないで夏目くんだけ咥えた斑が優しい。★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★他の感想記事はこちら★
28Oct
- 夏目友人帳陸　特別編「夢幻のかけら」感想
  夏目友人帳陸のBlue-ray/DVD第5巻に収録された特別編、「夢幻のかけら」の感想です。いつもの通り、円盤特典なのでネタバレなしで書いてはいますが、気になる方は視聴後にどうぞ。原作コミックスでは18巻収録です。夏目くんの立ち位置今回のエピソードは、たまたま妖怪に関わってしまった普通の女子高生の視点で進んでいくのですが……普通の子から見た夏目くんが新鮮！というか、完全に不思議の世界の住人です。夏目くんの立ち位置はけっこう妖怪に近いところにあって、本人もそれを当然のように受け入れているんだなぁと、普通の人間の視点が入ることでよりそれが際立ちます。でも、そうやって当たり前に妖怪と触れ合って落ち着いていられること自体、成長の証ですよね。どっぷり妖怪と関わっても、ニャンコ先生のおかげでそこまでひどいことにはなりにくくて、人の世界に帰れば確固たる居場所があって。「妖怪と関わる」ということが自分の居場所を揺るがすものではなくなったからこそ、こんなにも安心して、地に足をつけて妖怪と付き合っていけるようになったのかなと思います。過去の苦しみ今ではそうやって苦しみから解放されつつある夏目くんですが、今まで経験してきた苦労や悲しみはもちろん消えずに残っていて、女の子の話を聞くときの真剣な向き合い方だとか、奇異の目で見られるかもと案じるところだとかにそれが垣間見えます。でも、自分が辛い思いをしたことにこだわってはおらず、それをしっかり受け止めて、人への優しさに変えることができている……ずっと「優しくなりたい」と言っていた夏目くんが、その望みに一歩一歩近づいているのが嬉しくなります。曲げられぬ理叱ったり殴ったりつまみあげたりこき使ったり、先生に対して遠慮がない夏目くん。でもその一方で、先生にたしなめられて引くシーンでは、いかに先生に全幅の信頼を置いているのかが見て取れます。近づくことも分かろうとする努力もごく自然にしていて、でも「自分だけが分かっている」と驕らない。自分の気持ちを正直にぶつけるけれども、それが全てではないことも先生を信じて受け入れられる。そんなところもまた、夏目くんの凄さですよね。レイコさんレイコさんの回想シーンの会話が素敵です。妖怪相手に意地を張ったり素直になれなかったりのイメージが強いレイコさんですが、それだけに、こうして時々見える正直さが可愛いです。「憂さ晴らし」と表現されることも多いレイコさんの勝負行脚ですが、そんな中にも、こうやって共感したり理解し合ったりすることがきっと少なからずあったはずですよね。そのほか・冒頭のシーン、「慣れていない柏手」の打ち方がめちゃくちゃリアルです。・ニャンコ先生独り言大きすぎ問題。・つまみあげないでって言われて先生を持ち直す夏目くんの手つきが良い。・今回のゲスト妖怪、役割と責任と情に溢れたかっこいいやつでした。★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★夏目6期：一／二／三／四／五／六／七／八／九／十／十一／特別編①／特別編②★★他の感想記事はこちら★
12Oct
- 続夏目友人帳　第一話「奪われた友人帳」感想
  黒ニャンコ登場回。黒ニャンコってグッズ等でよく見かけるのですっかりお馴染みな感じになっていますが、このエピソードのみのゲストキャラです。ちなみに紅峰さんもここで初登場。ここからネタバレです。オープニング本編の感想の前に……私この、2期のオープニングがめちゃくちゃ好きなんですよ！曲もそうですし、何よりオープニングムービーが！冒頭のサビと最後の転調したサビの部分、同じ風景を妖怪が見えない視点／見える視点で描写する演出がすごく好き。妖が見えるのが「怖いこと」ではなく、風景がちょっと豊かになる、みたいな雰囲気で描かれているのが良いです。束の間の出会いと別れ人と妖怪、両方の言葉を聞けることを「力」だと言い切った夏目くん。強くなった……そして、人も妖怪も大切に思えるようになった証ですよね。そして、言葉が通じて交流を持ったからこそ、一緒にいる難しさも見えてきます。人の一生は短く、すぐに妖怪を置き去りにしてしまう。リオウ様の「だからもう、人里にはおりない」という言葉は、穏やかなだけに、大切なものを諦めざるをえない、どうしようもない切なさが感じられます。でも先生は、それを承知で夏目くんの傍にいる道を選んでくれています。先生だけではなく、中級たちやヒノエ、そして紅峰さんも。1期第四話「時雨と少女」の原作「旧校舎の怪」で、先生は誰かを見送ることについて「私はなれた」と言っています。リオウの「皆に阿呆だと言われた意味がわかった気がしたよ」を聞いている表情からしても、先生は別れの悲しさを十分に知っている……その上で、それを味わうことを分かっていて傍にいてくれるのが嬉しいです。……先生はヒマ潰しって言ってますけどね。相変わらずツンデレです。友人帳を預かる責任1期第一話の時点では、友人帳は夏目くんにとって、レイコさんとのつながりの象徴でした。友人帳を継ぐことを決めたのもそのため。でもこのエピソードでは「妖怪達の大切な名前を預かっているんだ」と、名前を預けた妖怪のために奔走します。それだけ、妖怪への情が深くなっているんですね。それにしても、紅峰さんの「肴になって頂く」に対して「構わない、頼みます」と即答する夏目くん、相変わらず保身というものを全く考えていません。その辺の自己愛の薄さに関しては、1期第十二話でヒノエに叱られてましたけど……まぁ、そうそうすぐには変われないですよね……。紅峰さんのキャラ紅峰さん良いキャラです。斑やリオウに対してはベタ褒めで、でもおべっかを使っている感じでは全然なくて、「そこが気に入ってるんですか？」ってからかうようなことも言ったりして。尊敬はあれど自分を飾ったりはしない、斑も別に見栄を張ったりしない、この古くからの友人な感じが素敵です。その他・滋さんが「こりゃ美味い」って料理を褒めるの、良い夫婦。・「強く殴りすぎたかなぁ」って言ってるそばからまた殴る夏目くんが本当に夏目くん。・紅峰さんと話す時に斑がぺたっと伏せているのが可愛い。子供と話す時に目線を合わせるのと同じようなことなのかな。・名前を返すシーンがとんでもなく美しいです……！・夏目くんとリオウ様の目の大きさの違いが、人と人でないものの違いを強調するようで面白いです。・「黒いニャンコってかわいいなぁ」……相変わらずてらいもなく可愛いもの好きな夏目くん。★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★他の感想記事はこちら★
30Sep
- 夏目友人帳陸　特別編「鈴鳴るの切り株」感想
  Blue-ray／DVD4巻に収録された特別編。妖と人の、約束と別れを描いた一編です。円盤特典なのでネタバレはないように書いていますが、気になる方は視聴後にどうぞ。夏目くん5・6期では、人と妖が関係を結ぶことの難しさと悲しさ、そしてそれでも縁を結ぶ覚悟と温かさが、繰り返しテーマになっていました。今の夏目くんの悩みと関心も、まさにそこにある様子。目の前の妖が消えゆく存在で、縁を結んだ先に別れが待っていることが分かっていても迷いなく関わり、そして結末をしっかりと受け止める夏目くん。たくさんの悲しい別れを目の当たりにしてきても、逃げず、でも割り切らずに正面から関わり続けるその姿勢に、強さと成長を感じます。約束と、お別れとこのお話の中には、複数の登場人物たちの約束とお別れが静かに描かれています。消えていくもの、見送るもの、懐かしく思い出すもの……。悲しいシーンもたくさんあるのにどこか温かいのは、それぞれが自分の人生に、そしてそれを受け渡すことや受け取ることに、とても誠実だからなのかなぁと思います。人と繋がっている妖今回の妖は木が本体なので、木としてですがたくさんの人に認識され、心の繋がりを持っています。その繋がりを結びなおす立ち位置に、夏目くんがいるというのも嬉しいところ。人と妖、両方の声が聴ける夏目くんだからこそできることで、以前は疎んじていたその性質を前向きに活用しているのが良いですね。藤原夫妻と一緒にその場所を訪ねるというのも、今までより一歩踏み込んだ感じがします。それにしてもこの妖、人に対する接し方が素直で温かくて、人のことが大好きなんだなぁというのが滲み出ています。人とともに生きてきたその出自ゆえでしょうかね。犬の会と夏目くんもそうですが、心のこもったお礼を言える関係性が素敵です。先生と夏目くん自分がなぜ妖に関わるのか、今どうしたいのか、それをそのまま言葉にできるニャンコ先生との距離の近さが絶妙ですね。先生は、やいやい口は挟むものの、夏目くんが決めたことは基本的には見守るスタンス。言葉に出さないことは多いですが表情には出ていて、今回も顔芸が多彩です。冒頭、妖に手助けを求められてアイコンタクトを交わし合うシーンから始まり、「まったく」「やれやれ」的な顔があったり……そしてなんといっても、ラストシーンの表情は秀逸です。というわけで綺麗で静かで悲しくて温かい、とっても素敵な物語。そんな中に、家族でお出かけする夏目くんや中級との仲良しシーン、先生との以心伝心シーンも楽しめて、何度も繰り返し味わいたいエピソードです。★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★夏目6期：一／二／三／四／五／六／七／八／九／十／十一／特別編①／特別編②★★他の感想記事はこちら★
28Sep
- アニメ夏目友人帳全話まとめ＆おすすめエピソード一覧
  アニメ夏目友人帳の放送が始まったのは2008年。今までに放送された話数は70話を超えます。見てみたいけれど、あらすじを把握するために過去話を全部おさらいするのは大変……。この記事ではそんな方向けに、一ファンの独断と偏見でおすすめエピソードをピックアップします。勿論、そんなものは無視して気になるところから見ていただいても大丈夫ですよ。基本は一話完結なので、どこから見ても楽しめると思います。そしてまんまとはまったら……全部見ましょう！★印：主要キャラの初登場回や人間関係のターニングポイントになるお話など、ストーリーやキャラクターを把握するうえで押さえておきたいエピソード☆印：単発の、これぞ夏目！なおすすめエピソード※リンク先はネタバレ感想ですので自己責任で飛んでください。夏目友人帳（第1期）　2008年放送話数／サブタイトルひとこと感想第一話「猫と友人帳」★ 夏目くんと先生との出会い、友人帳の登場、初めての名前の返還、夏目の過去やレイコさんのことなどが網羅されているので、これを見ればひとまず大枠は理解できるはず。第二話「露神の祠」☆ 祠を訪ねてくる女性への、妖の情を描いた一編。制作陣から「最も印象的なエピソード」として挙げられることも多い。第三話「八ツ原の怪人」★ 中級・三篠・田沼くんの初登場回。コミカルな展開ながら、妖や人とつながることに前向きになっていく夏目くんの変化が嬉しい。第四話「時雨と少女」肝試しに入った旧校舎での事件。こじれてしまった妖怪の心と真正面から向き合う夏目くんと笹田さんが素敵。第五話「心色の切符」アメザリさんをゲスト声優に迎えてのアニメオリジナルエピソード。さんと・みくりの凸凹コンビが可愛い。第六話「水底の燕」☆ アニメ化に先立ってドラマCD化もされている。燕のために全力を尽くす夏目と、それを助けるニャンコ先生の「情」が眩しいお話。第七話「子狐のぼうし」☆ 人気キャラ子狐の初登場回。自身の寂しさと向き合う子狐とそれを見ている夏目くん、それぞれのモノローグが印象的。第八話「儚い光」☆ 妖と人の悲恋。妖怪が見えなければいいのにと願ってきた夏目くんにとって、見えなくなった人の悲しみはどう見えたのか。第九話「あやかし祓い」★ 名取さんと柊の初登場回。「見える者」同士の価値観の違い、そしてそれを知った上でお互いを認め合う夏目くんと名取さんの距離感が興味深い。第十話「アサギの琴」妖怪の頼み事に振り回される夏目くんが相変わらずお人好し。アサギに憑依されて楽を奏でるシーンの美しさは必見。第十一話「ニャンコ徒然帳」夏目くんに叱られて藤原家を飛び出し、あちこちで騒ぎを起こすニャンコ先生。ツンデレな先生がこれでもかと楽しめる。第十二話「五日印」★ ヒノエの初登場あり、三篠の底知れなさありで、犬の会が気になるなら見てほしい一編。術を使う夏目くんが格好いい。第十三話「秋の夜宴」様々なキャラクターが一堂に会するお祭りエピソード。少しずつ分かり合おうとする夏目くんと田沼くんの関係が温かい。＜第1期感想まとめ＞1期の夏目くんは、妖怪は嫌いで人も好きではない、ちょっと苦しそうで儚げな少年です。3期以降を知った上で見ると吃驚するくらい。でもそこで「どうせあいつらなんて」「どうせ俺なんて」と拗ねずに自分のできることをした結果、妖怪との縁も悪くないのかもしれない、自分にも人と縁を結べるのかもしれない、と気づいていきます。今も色あせない名作エピソードが揃っているのも1期の魅力。「露神の祠」「水底の燕」「儚い光」は必見です！続夏目友人帳（第2期）　2009年放送話数／サブタイトルひとこと感想第一話「奪われた友人帳」☆ グッズ等でお馴染みの黒ニャンコ登場回。紅峰も初登場。人間を想う妖怪の情が、優しくも哀しい。第二話「春に溶ける」うさ耳妖怪の可愛らしさと、人を恨む妖怪の悲しさに翻弄されつつ、優しい気持ちを持ち続ける夏目くんに救われる。第三話「妖退治湯けむり行」★ 悪ノリなタイトルだが、名取さんと夏目くんがお互いの関係づくりに悩む、けっこう真面目なエピソード。第四話「雛、孵る」妖怪の雛を育てる夏目くんと先生。タマ可愛い。仮の親に愛されたいと願うタマに、夏目くんは自分を重ねている。第五話「約束の樹」人にも妖にも大事にされているのに、素直に頼れない夏目くんが切ない。レイコとヒノエの馴れ初めエピソードあり。第六話「少女の陣」★ 多軌さん初登場。初の前後編。人が妖怪と関わることの危険と、その危険を共有する夏目くん・多軌さんの覚悟が描かれる。夏目くん以外の人間と仲良くなっていく先生がなんだか楽しい。ちょびも初登場。第七話「呼んではならぬ」★ 第八話「不死の想い」誤解し合って傷つけあってしまった、人魚と人の物語。それぞれにとっての時間の流れの違いも印象的。第九話「桜並木の彼」好きな人を忘れられずに旅を続ける妖怪の話。花の描写がとにかく美しい。第十話「仮家」★ かつてレイコさんが守った家を、今度は夏目くんが守ろうとする。滋さんの夏目くんへの向き合い方が垣間見える一編。第十一話「呪術師の会」同じ境遇でも分かり合えるとは限らない人の度し難さを知り、それでもその中で強くありたいと願う夏目くんの成長が見える。3期6・7話の伏線あり。第十二話「廃屋の少年」☆ 前後編。仲良くなった妖怪とのすれ違いや、突きつけられる「人と妖怪のどちらを選ぶのか」という問いなど、妖怪への好意がそのままに認められない難しさと苦しさが描かれる。悲しい結末だがラストシーンに救われる。第十三話「人と妖」☆ ＜第2期感想まとめ＞1期に比べ、「自分に何ができるだろう」「強くなりたい」と、できることを積極的に模索している感じが強い2期。そうやって誰かを守ろうとすると、同時に、助けられている、守られていることにも気づくんですよね。六・七話の多軌さんのエピソードや十話「仮家」、そして十二・十三話のカイのエピソードでは、一人ではなくなりつつある夏目くんを実感できます。一方で、縁をつなぐことで否応なく生まれる、すれ違いや価値観の違いが浮かび上がってくるのが一筋縄ではいかないところです。夏目友人帳参（第3期）　2011年放送話数／サブタイトルひとこと感想第一話「妖しきものの名」レイコさんの優しい一面がクローズアップされている。「おばば」が良いキャラ。第二話「浮春の郷」美しいけれどどこか空恐ろしい浮春の郷。そこに行くことを拒んだ夏目くんと同じように、レイコさんにもこの世界への情があるんだと思える描写が嬉しい。第三話「偽りの友人」☆ かつて馴染めなかった同級生に頼られる夏目くん。人間とむき出しの感情をぶつけ合うのがなんだか新鮮。ちなみに柴田は6期で再登場する。第四話「幼き日々に」☆ 子供の頃につらい別れ方をした妖怪に、優しい声をかけられるようになった夏目くんの成長が眩しい。第五話「蔵にひそむもの」★ 夏目くんが、田沼くん・多軌さんと協力して妖に立ち向かう。協力し合える関係が嬉しいのと、ツンデレな妖たちが可愛い。第六話「人ならぬもの」★ 夏目友人帳のダークサイドとも言える、的場一門がらみのエピソード。的場さん初登場。人や妖の温かい関係を描き出す一方で、人間の悪意の描かれ方に容赦がないのがまたこの作品らしいところ。第七話「祓い屋」★ 第八話「子狐のとけい」子狐再登場。生きる時間の流れが違う、異種同士の触れ合いの辛さが示されるも、子狐の前向きさに救われる。第九話「秋風切って」☆ 文化祭エピソード。夏目くんが、手に入れた幸せをかみしめるようなお話。友人たちが夏目くんをどう思い、どう気遣っているのかが見えるのが嬉しい。第十話「割れた鏡」本音を打ち明けられずにすれ違ってしまった妖と、本音を伝えることにおびえる夏目くんが重ねられる。夏目くん・田沼くん・多軌さんの三人組のプチ冒険が楽しい。第十一話「映すもの」第十二話「帰る場所」★ 藤原夫妻が夏目くんを引き取るまでのエピソード。気持ちを押し殺していた夏目くんが藤原夫妻の前で涙を流すシーンは、シリーズ屈指の名場面。第十三話「夏目遊戯帳」犬の会結成！人の友人のもとに歩いて行きながら、妖たちに手を振るラストシーンは必見。あと藤原夫妻が可愛い。＜第3期感想まとめ＞田沼くん・多軌さんとの共闘や同級生たちとのエピソード、そして夏目くんの過去など、周囲の人たちとの関係の変化が多く描かれています。「幼き日々に」「帰る場所」は過去回。周囲に馴染めなかった寂しさ、そしてその対比で描かれる、現在の夏目くんが手に入れた人間関係の温かさの描写が鮮やかです。そんな中で的場一門の登場があり、妖怪との関わり方について見つめなおすきっかけにもなっています。夏目友人帳肆（第4期）　2012年放送話数／サブタイトルひとこと感想第一話「とらわれた夏目」祓い屋と妖怪の争いに巻き込まれる夏目くん。相変わらず優しい。犬の会を従えて夜空を掛けるシーンは賑やかで楽しくて美しくてかっこいい。第二話「東方の森」第三話「小さきもの」臆病で会話もままならないカルを相手にも愛情を注ぐ夏目くんと、それが届いていたことを知れるラストが美しい。第四話「代答」ゲストキャラはギャグ要員のような軽いノリの妖怪だが、話が進むにつれてその純情さに感動してしまう。第五話「過ぎし日の君に」中学生の夏目くんを知る女の子の回想。つらい中にも理解者がいて、優しい触れ合いがあったことを知れる一編。第六話「硝子のむこう」★ 夏目に化けたニャンコ先生の「どーよ！」が強烈。「妖のことを打ち明けると相手を危険にさらす」という事実を突きつけられ、それでも諦めずに手探りで進もうとする夏目くんとそれを支える田沼くんが愛おしい。第七話「人と妖の間で」★ 第八話「惑いし頃に」的場一門・七瀬さんの過去話。悩みながら色んなことを割り切ってきた七瀬さんの軌跡と、優しさを知れる回。第九話「月分祭」☆ ただ優しいというだけではなく、自分が望む結果をもたらすための力量や人とのつながりを作っていく夏目くんの頼もしさが光る。ゴージャスなコスプレが美麗。第十話「祀られた神様」☆ 第十一話「一枚の写真」★ 前中後編。夏目くんが、失ったことが悲しくて蓋をしていた実の家族の思い出と、もう一度向き合おうとする。実家を訪ねて涙するシーンと、戻ってきた夏目くんを迎える藤原夫妻のシーンには、これまでのシリーズを通して夏目くんを見守ってきたからこその感動がある。第十二話「記憶の扉」★ 第十三話「遠き家路」★ ＜第4期感想まとめ＞今までに得たものとそれによる変化を踏まえたうえで、自分のスタンスを見つめなおす……そんな長編エピソードが多いのがこの4期です。人と深く関わるようになったことで、今までに出会ったことのない悲しみや悩みに触れる夏目くん。その戸惑いと真正面から取っ組み合う姿が瑞々しいです。最終回、両親と暮らした家を訪ねるエピソードのクライマックスは静かなシーンながら秀逸で、これまで夏目を見てきてよかった、と思えます。OVA　2014年発売サブタイトルひとこと感想「いつかゆきのひに」 4期の最後で忘れていたものを見つめなおした夏目くんが、「温かいもの」を探す妖を手伝う。氷や雪の冷たい美しさと、人の心の温かさの対比が鮮やか。「ニャンコ先生とはじめてのおつかい」メインキャラ全員集合のドタバタ劇。子供に手を焼く犬の会メンバーたちと、面倒見の良いニャンコ先生が可愛い。夏目友人帳伍（第5期）　2016年放送話数／サブタイトルひとこと感想第一話「変わらぬ姿」夏目くんのレイコさんへの想い、田沼くんや藤原夫妻との関係など、周囲の人との関係性を見つめなおすようなエピソード。第二話「悪戯な雨」☆ 人と妖の関係のままならなさに心を揺らし、彼らのために力を尽くしながらも、受け入れるしかないものだと割り切ってもいる夏目くんの距離の取り方が絶妙。第三話「祓い屋からの手紙」★ 祓い屋の登場回では彼らとの対比で、夏目くんの妖怪とのつながり方があぶり出される。友人帳の危うさも明らかに。最初は怖かった的場さんだが、登場回を重ねるごとにだんだん魅力がわかるようになってきた印象。あと式夏目がかわいい。第四話「連鎖の陰」★ 第五話「結んではいけない」☆ 妖怪たちの心の動きも、絵も声も、とにかく美しい回。そんな中で、5期のテーマでもある夏目くんの孤独が描かれる。第六話「音無しの谷」レイコさんを慕い、待ち続けた妖怪との触れ合い。素直なレイコさんが嬉しい。夏目くんは友人帳を持つ責任についても考えている。第七話「遠い祭り火」☆ 第五話に対する返歌のようなお話。田沼くんのことを大事に思う妖の気持ちを秘密として抱えながら、柔らかい笑顔を見せる夏目くんが嬉しい。第八話「歪みなき世界」名取さん・的場さんの過去回。それぞれが祓い人として大切にしているものは何か？が垣間見える。第九話「険しきをゆく」しいたけ可愛い。違う世界に生きる者同士が、それを超えるために前向きに進もうとするお話。第十話「塔子と滋」★ 藤原夫妻が、夏目くんを引き取ることを決めるまで。愛情と前向きさに触れて、塔子さんが大好きになるエピソード。第十一話「儚き者へ」☆ 自分だけが見てしまう、知ってしまうという孤独を、夏目くんが前向きにとらえ、進んでいこうとしているのが伝わるお話。中級メイン回。特別編「一夜盃」長い時間を旅する妖怪の静かな覚悟と、それに心を揺らす夏目くんの若さ、そして両者の交流の微笑ましさが印象的。特別編「遊戯の宴」犬の会大活躍＆妖怪に誠意を持って相対する夏目くんの真っすぐさと強かさが眩しい回。台詞の妖艶さにも注目。＜第5期感想まとめ＞5期のテーマは、周囲との関係が深まることで表れてくる、かつてとはまた違う夏目くんの「孤独」とのこと。人間と妖怪の、生きる世界が違う故のままならない関係と、狭間でそれを見続ける夏目くんの苦しみと切なさが沁みる期です。それでも1期の頃のように「見えなければいいのに」とは言わなくなった、夏目くんの変化が嬉しいです。そして、友人帳の危うさが明らかになっていくのも大きな見どころです。夏目友人帳陸（第6期）　2017年放送話数／サブタイトルひとこと感想第一話「つきひぐい」☆ 妖の力で子供に戻り、つらかった時代のメンタルを持った状態の夏目くんが、田沼くんや多軌さん・ニャンコ先生の優しさに触れる。良かったねぇ、ちび夏目くん。第二話「明日咲く」「ひとりではなくなった」夏目くんが未来を想うお話。悲しい出来事を受け入れた石洗い師弟の前向きさが嬉しい。第三話「二体さま」柴田くん再登場。柴田くんの良い意味での遠慮のなさが、夏目くんを変えていってくれるのかも、と思わせるエピソード。第四話「違える瞳」★ 世界を違えてしまった祓い屋と式の切なさと、それでもお互いの間にある気持ちの温かさが感動的な回。一方で、妖怪とのつながり方を巡っての、夏目くんと名取さんの間の溝が顕在化していく。第五話「縛られしもの」★ 第六話「西村と北本」☆ 夏目くんが、西村くん・北本くんと仲良くなるきっかけになったエピソード。お互いが前向きに関係を作っていっているのが素敵。第七話「ゴモチの恩人」レイコさんが、妖怪と勝負し、妖怪と協力し、妖怪を助ける。レイコさんの日常、そして魅力と寂しさが垣間見える。第八話「いつかくる日」☆ 人と妖が縁をつなぐことには様々な苦しみ・悲しみがある。それでもそれを越えていこうとする強い気持ちが描かれる回。第九話「ながれゆくは」合宿中に起こった異変の不気味な恐さと、その陰にあった温かい物語のグラデーションが見事。第十話「閉ざされた部屋」★ 名取さんや柊と一緒に豪邸での探し物。箱崎氏の遺品に重ねる、夏目くんのレイコさんへの想いが温かい。友人帳をめぐる名取さんとの関係や、夏目くんの親族にも触れられる転機の回。第十一話「大切なモノ」★ 特別編「鈴鳴るの切り株」妖と人の約束と別れを描いた一編。そこに真っすぐ向き合う夏目くんと、悲しい別れの中にある美しさ・温かさが印象的。特別編「夢幻のかけら」普通の女の子から見た夏目くんが、奇妙で優しい。ひとときの出会いの中に見える情が温かいお話。＜第6期感想まとめ＞5期で焦点が当たった「ままならなさ」の、その先が描かれるエピソードが多い6期。いつかくる別れを承知で今を大切にすることや、別れの先にも存在する温かさなど、切ないながらもその中に意志や希望が示されるところが、夏目らしい素敵なところです。友人帳をめぐる名取さんとの関係に変化があるのも注目ポイントのひとつ。距離が縮まっても相容れなさを残し続けている、むしろ縮まったからこそ違いが浮き彫りになる、そんなところもまた、シリーズが長く続いたから見られる関係な気がします。劇場版　2018年公開サブタイトルひとこと感想「うつせみに結ぶ」ネタバレなし感想ネタバレあり感想嘘でつながる悲しさと温かさ、不安定な世界の恐さ、それでも前を向く人や妖の情が胸を打つお話。ちびニャンコ先生の可愛さは必見！ ★他の感想記事はこちら★
- 夏目友人帳　第十三話「秋の夜宴」感想
  第1期の最終回。「妖怪が見える」という夏目くんの秘密……その隠しごとと、近しい人との関係を掘り下げていく回。第十一話に続き、キャラクター総登場のお祭りエピソードとしても楽しめます。ここからネタバレです。田沼くんとの関係田沼くんに対して「妖怪が見える」という秘密は共有しているものの、具体的に何が見え、何に悩まされているのかは話そうとしない夏目くん。「話したくなきゃ、別にいいんだ」と言われて、話したくないと突っぱねるのも違う気がして、でもやっぱり隠していたいと思う、その理由はたぶん夏目くんの中でも整理されきっているわけではなくて。考え考え言葉にした本音は「普通に話したかった」「嫌な思いをさせたりとかは――」。「妖怪が見えると伝える」ことと、「それによって迷惑をかける」こと、「迷惑をかけるのを良しとする」ことはまた別の話。「妖怪の存在がわかる」という同士を初めて見つけたばかりの二人は、これから少しずつ手探りで、そういうステップを踏んでいかないといけないんですよね。その第一歩として、隠し事があること、それを話していいか悩んでいること……今の時点での正直な気持ちを伝えられたのが今回のエピソードで、結果、ニャンコ先生のファインプレーだったのかもしれません。池の魚の色や、妖怪のせいで花火が見えないこと、まずはそんな他愛のないことから少しずつ、隠さなくても良くなっていく。そうやって距離が近づいていくことが必ずしも良いことか分からないというのも、この先のエピソードでは示されていきますが……ひとまずここでは、田沼くんと少し心を通わせ合えた、その温かさが嬉しいです。藤原夫妻との関係「お互い気を遣い合ってるなんて、家族じゃないだろ」気を遣って隠し事をして……大好きな人たちを相手にも、どうしてもそんな風にしか振る舞えない夏目くん。彼を引き取ってくれたのが藤原夫妻で、本当に良かったなと思います。愛情をまっすぐぶつけてくれる塔子さんと、どっしり構えて夏目くんのありのままを受け入れてくれる滋さん、そして何より、それをちゃんと話し合える夫婦のあり方が素敵です。ニャンコ先生&笹田さん今回の先生は、先生と笹田さんがコンビを組んでのギャグ要員になっています。メインストーリーが夏目くんのすっぱり割り切れない悩みを描いているので、こういう軽妙なシーンが差し挟まれるのは楽しくて良いですね。その分、笹田さんの行動がぶっとんでしまっている感じもしますが。良いのか笹田さん、そのキャラで。先生の顔芸とアクションも振り切っていますね。冒頭、先生が田沼くんに突っ込んでいくシーンのダイナミックさがものすごいです。ところで「ニャンコ先生」という名前、……田沼くん的には「なんか恥ずかしい名前」なんですね。まぁ男子高校生からするとそうかもしれない。むしろ、そういう名前を平気で付けて呼んでしまえる、夏目くんの擦れていなさ加減が際立ちます。子狐&名取さん&柊子狐再登場ですよ！わーい待ってました！！可愛い！！！このエピソードは、妖怪がらみの隠し事をめぐる夏目くん・田沼くんの会話をメインに据え、勢いとギャグで突き進む先生・笹田さんの軸があり、そしてもう一つ、子狐の可愛い冒険に、名取さん・柊たちがからむ軸があります。なんかもうとにかく子狐が可愛くて、それに全部持っていかれそうになりますけどね！焼きもろこし食べるシーンなんかもう……！夏目知ってる？と子狐に尋ねられて、当然のように「知らない」と嘘をつく名取さん。でも、そうやって妖怪への警戒心が沁みついているのに、子狐を助けて気にしてあげる優しさもあったりして。色んなスタンスを自分の中で同居させる器用さは、さすが夏目くんに比べて年季が入っているなぁという感じです。柊に「気味悪がられるぞ」と忠告されて「構わないよ」と返す、目の前の相手に真っすぐ向き合う夏目くんとは好対照ですね。ちなみに、さらっと七瀬さんが初登場しています。最終話前話「五日印」のような話を最終話に持ってくるのもひとつの形だと思うのですが、原作の短編を膨らませたこの「秋の夜宴」が、記念すべき第1期の最終エピソードに選ばれました。夏目友人帳は一話完結のエピソードが基本で、一つの事件は一つの回で収束し、そこで出会った妖怪も、多くが夏目くんの前から姿を消してしまいます。でも、それを次々に見送る夏目くんの中には確実に蓄積されていくものがあって、第一話と最終話を見比べると、夏目くん自身も、周囲の人との関係性もかなり変わってきています。その緩やかで自然な変化……夏目くんの成長を見守れるのがこの作品の大きな魅力で、だからこそ、最終回にそれをしっかり振り返って反芻できるエピソードが入るのは、まさに夏目らしいと言えるのかもしれません。お話としては地味さもあるのですが、最終話に相応しい、大好きなエピソードのひとつです。★アニメ夏目友人帳全話感想＆おすすめエピソードはこちら★★夏目1期：一／二／三／四／五／六／七／八／九／十／十一／十二／十三／2期一話★★他の感想記事はこちら★

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