僕の住むマンションの一室を楽器部屋にしている。
その戸の脇に、使わない別室の戸を置いている。
楽器部屋の戸を開けるとき、この置き戸がつっかえて13.7cm以上開かない。
そのため、ちょっと置き戸を手前に動かして楽器部屋を開ける。
置き戸は外からしか触れないので、楽器部屋に入ってからは戸を閉めると13.7cm以上開かなくなる。
楽器部屋に入ってからは戸を閉めないように注意が必要だ。
以前一度、楽器部屋の内側から閉めてしまって閉じ込められたことがあったのだが、
その時は妻が在宅だったので出してもらえた。
独りだったら閉じ込められて飲食もできずトイレもなく
最悪の場合垂れ流しの末に餓死というバッドエンドが待っている。
それなのに、、、
今日、
見事自ら閉じ込めてしまった。
楽器部屋に9V電池の充電器がないか探しに入ったまではいい。
そのあとすぐ、誰か入ってこないように戸を閉めてしまったのだ。
(僕の他の人は誰もいないのに)
まず、どのくらい戸が開くか試した。手足は出るくらいの隙間だった。
その幅が、約13.7cm。
「日本人頭部寸法データベース2001」によると、成人男性の平均的な頭幅は16cmである。
さらに頭には耳があるので、脱出するにはもう2cmほど必要だ。
いま僕自身の頭のサイズを測ると、頭幅は耳込みで18cmほどだった。
また、zip WEBによると
日本の街中の男子の腰の厚みを調査すると平均は15.4センチ、
体の厚みがない「うすっぺら男子」の平均は14.3センチとのこと。
僕自身の腰の厚みを簡単に測ると、15cmほどだった。
13.7cmは、脱出できそうで、できないくらいの幅なのだ。
正規ルートから脱出できないなら、他のルートがないか考えた。
楽器部屋の窓からバルコニーに出ることはできる。
うちのバルコニーはかなり広い。
奥行が1mくらい、幅は10mくらいあり、居間と寝室に通じている。
楽器部屋の窓をあけて、バルコニーに出た。
裸足でバルコニーのコンクリートを歩く。
冷たくザラザラしている。
運よく居間か寝室の窓が開錠されていれば出られる。
外から居間のサッシに手をかけた。
…うん、施錠OK。これなら泥棒さんもおいそれと入ってこられない。
今度は、外から寝室のサッシに手をかけた。
…うん、施錠OK。基本的な防犯対策はOK!
バルコニーの柵から地上を見下ろした。
高さ15mくらいかな?
飛び降りるのは自殺行為だ。
ロープ的なものを吊るして降りられなくはない高さだ。
ガレージには牽引用のロープがある。あれがあれば、脱出できるだろう。
辺りを見回すがロープらしいものはない。
楽器部屋には100m以上のフロロカーボンラインや、20mのマイクケーブルがある。
最悪の場合、それらを束ねてバルコニーの柵と体に結んで降りられる。
最悪の場合ね。
ケーブルを傷めたくないし、普段使わないような結索技術では安全の保障はない。
もう一度13.7cmの隙間を観察した。
楽器部屋の戸は上から吊るされている。
そして戸の下は浮いていて隙間がある。
浮いている戸を手で押すと、若干前後に動く。
試しに13.7cmの隙間に体を通そうとしてみた。
肩は通る。
腰と胸板は、グイグイと押したり引いたりしてどうにか通りそう。
頭が、どうしても通らない。耳がつっかえる。
頭の一番短い距離は耳のある頭幅の部分だ。
頭を斜めにしたり前にしたり後ろにしたり色々試みたがどうしても頭が通らない。
頭は楽器部屋に残して、ひとまず体だけでも居間に脱出した。
居間から見たら、首無し人間がのたうち回っているような光景だ。
戸をどんなに押しても頭は通らなかった。
首から先だけ楽器部屋に残して、考えた。
居間にいるときは、置き戸を手で押して、つっかえを外して戸を開けることができる。
なんとか置き戸を足で押すことはできないか。
戸の隙間から置き戸までの距離は125cmほど。
僕の身長は156cm。
頭の長さが25cmくらい。差し引き130cmほど。
首から先を戸の向こうに残して、置き戸まで足先が届くかどうかの距離。
つま先が、置き戸に触れた。手前に引くが動かない。
置き戸の上の方が、楽器部屋の戸に引っかかっている。
いつもどうやって楽器部屋の戸を開いているか思い出す。
置き戸の上の方に手をかけて引いてから、楽器部屋の戸を開けていた。
エアロビクスのように、横たえた体のまま左足だけを上げて、
置き戸の上方を居間側に引っ張った。足ごたえあり。
…楽器部屋の戸が開いた。