タイカ・ワイティティ監督、ミヒャエル・ファスベンダー、オスカー・ナイトリー(タビタ)、カイマナ(ジャイヤ)、デヴィッド・フェイン(エース)、レイチェル・ハウス(タビタの妻・ルース)、ビューラ・コアレ(タビタの息子・ダル)、エリザベス・モス、ウィル・アーネット(アレックス)、セム・フィリポ(ランボー)、ウリ・ラトゥケフ(ニッキー・サラプ)、ケイトリン・デヴァー(トーマスの娘・ニコル)ほか出演の『ネクスト・ゴール・ウィンズ』。2023年作品。

 

米領サモアのサッカー代表チームは、2001年に対オーストラリア戦でワールドカップ予選史上最悪となる0対31の大敗を喫して以来、1ゴールも決められずにいた。それから10年後、次の予選が迫る中、型破りな性格のためアメリカを追われた鬼コーチ、トーマス・ロンゲン(ミヒャエル・ファスベンダー)が監督に就任し、チームの立て直しを図る​。(映画.comのあらすじに一部加筆)

 

ジョジョ・ラビット』のタイカ・ワイティティ監督の最新作。

 

 

実話をもとにした物語。

 

映画館で最初に予告篇を観た時から「これ、絶対面白いヤツ~(^^♪」と思っていました。

 

で、実際、予告で感じた通りに普通に面白かったし、幅広い客層に受け入れられやすいタイプの映画でしたね。

 

客席には年配のご夫婦の姿も結構あった。上映中にみなさん、わりとウケてたし。

 

僕は個人的にサッカーだけでなくスポーツ全般に興味がなくて(それからゲームやギャンブルなど勝負事にも)普段スポーツの試合を観賞する習慣もないんですが、たまたま前日の夜にTVで女子サッカーの日本対北朝鮮をやっていて、なんとなく観るとはなしに観ていました。

 

翌日に映画を観にいくから途中で寝ましたが、何かを懸命にやってる人たちというのは素直に打たれるものがあるし、だからたまに映画でスポーツを扱った作品を観ることはある。

 

 

 

勝ち負けで盛り上がることにどうしても抵抗があるんだけど、映画は登場人物たちのドラマを描くものだから、その「勝ち負け」に至るまでの部分にこそ面白味がある。

 

この『ネクスト・ゴール・ウィンズ』も実話系の映画だし、だからスポーツを通して勝敗以外の何が描かれるのか、そこんとこを見たいと思った。

 

予告篇のコメディっぽい雰囲気からも、僕はちょっと『クール・ランニング』(1993年作品。日本公開94年)を連想したんですが、そしてあの映画は僕は結構好きだったんだけど(リヴァイヴァル上映やってくれないかなぁ)、「実話の映画化」と喧伝されていたものの、あちらはジャマイカのボブスレーチームの存在は事実ながらも映画のストーリーや登場人物はフィクションでした。

 

 

 

それに比べると、こちらの『ネクスト~』の方はもっと史実に忠実のようで。

 

ネタバレを含みますので、これからご覧になるかたは鑑賞後にお読みください。

 

ミヒャエル・ファスベンダー演じるトーマス・ロンゲンはこれまで務めていたチームのコーチを解任されて、失業とどちらを選ぶか、という選択肢で米領サモアのコーチを引き受けることになる。

 
しかし、彼らは公式戦で一勝したこともなく、それどころか試合で得点したことすらない最弱チーム。

 

都落ち気分でふてくされ気味に着任したトーマスは、選手たちやサッカー協会CEOのタビタらのマイペースぶりに苛立ち、途中でコーチを辞めることも考えるほど。

 

一方のチームのみんなは新しいコーチに“白人の救世主”=『マトリックス』のネオを期待するが…残念!マグニートーでした。

 

それでもなんとか彼らはコーチとチームの関係を保ち続けて、ついに…というお話。

 

僕は観ていませんが、彼ら米領サモアのサッカーチームは『ネクスト・ゴール!世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦』(2013年作品。日本公開2014年)というドキュメンタリー映画にもなっているんですね。公開からちょうど10年目に劇映画化されたというのも面白いな。

 

 

 

僕は無知なためにポリネシア系の人たちがサッカーやラグビーの試合の前に行なう“ウォークライ(ウォーダンス)”というのは「ハカ」と呼ぶのだと思い込んでいたんですが、ハカはニュージーランドのマオリ族のウォークライで(ちなみにタイカ・ワイティティ監督はニュージーランド出身)、サモアのそれは「シヴァタウ」というんですね。それぞれの国や民族でダンスは異なるとのこと。

 

 

 

 

サモアを含むポリネシアの島々は『モアナと伝説の海』の舞台となる島のモデルでもあって、またドウェイン・ジョンソンもサモアにルーツを持つ。「ワイスピ」シリーズで彼が踊っていたのはシヴァタウだったんだな。

 

↓こちらの記事で教えていただきました。

 

 

劇中ではシヴァタウについての説明は特にされないので、そこんとこは記事で解説していただいてありがたかった(劇場パンフは未購入なので、詳しいことは知らないんですが)。

 

ウォークライ(鬨の声)というのはポリネシアの人々にとってアイデンティティにかかわるものなのだろうし、それは民族の歴史と文化の一部なのだから、とても大切なんでしょう。

 

島の人々のほとんどはキリスト教の信者で、毎日、合図が鳴ると全員が動きを止めて目をつぶりお祈りを始める。

 

試合まであと3週間しかないのに練習中でも呑気に座って祈りを捧げ始める選手たちにトーマスは呆れるが、サッカー協会CEOのタビタは「相手を尊重するが、自分たちの伝統も否定しない」と答える。それは誇りに溢れた宣言だ。

 

↑タビタ (右) は予告観た時には顔にタトゥー入れてるのかと思ったら、油性マジックでおっぱいを描かれていたのだったw


そして、彼の店を訪れたトーマスに前菜を提供しながらタビタが言う「あなたもマリネされてみては?」という言葉は汎用性がありそうですよね(^o^) これからいろんなとこで使わせてもらいたいな。

 

世の中にはいろんな人々がいるのだから、その多様性をマリアージュしてみればいい。

 

チームの選手の一人で「ファファフィネ(第三の性)」のジャイヤ(カイマナ)は、仲間たちから彼女のありのままを受け入れられている。

 

 

 

 

いつも遅刻してくるジャイヤをトーマスは、わざと彼女の出生名で呼ぶ。

 

それは「デッドネーミング」と言ってトランスジェンダーに対してやってはいけないことで、ジャイヤは怒ってトーマスに掴みかかる。

 

ジャイヤがいつも遅れてきたのは仕事があるからだし、他の選手たちも生活のために仕事をしていて、タビタはいくつもの仕事を掛け持ちして(TV局のキャメラマンまでやっている)そこで稼いだ金をチームの運営に充てている。小さな国の弱小チームだし、スポンサーがつかないからなんですね。

 

みんな、やる気がないんじゃなくて、やれることを精一杯やっている。

 

トーマスがなぜ荒れていたのかも映画の終盤で明らかになる。

 

それぞれの事情がわかって、ぶつかり合っていた者たちが理解し合う。

 

サモア人の選手たちと白人のコーチ。トランスジェンダーの選手。

 

いろんな人がいて、彼らがともに手を取り合って試合に臨む。

 

 

パパイヤ鈴木みたいな頭の人と、予告篇でボール蹴ろうとして相手チームに取られちゃう人は別人だった。

 

この映画には『ベスト・キッド』オマージュが散りばめられているようですが、実は僕はラルフ・マッチオが主演していたオリジナル版の『ベスト・キッド』(1984) はちゃんと観たことがなくて(ジャッキーが出てた方は観た)、だからトーマスが岩の上で両手を挙げてポーズをキメてジャンプキックしてるとこやミヤギ(演:パット・モリタ)の名前の入ったTシャツを着るとこぐらいしかネタがわかりませんでした。

 

 

 

あと、オリヴァー・ストーン監督のアメフト映画『エニイ・ギブン・サンデー』(1999年作品。日本公開2000年)のアル・パチーノも一瞬TV画面に映っていた。

 

 

 

僕は同じ日に、この『ネクスト~』の前にたまたま「午前十時の映画祭13」で上映中のアル・パチーノ主演の映画『スケアクロウ』(1973) を観たので、ちょっと面白かったですが。こんなとこでアル・パチーノ繋がりになるとは、とw

 

このあたりの映画ネタは、ワイティティ監督の趣味なんでしょうかね。

 

ここで重要なのは、白人のコーチが一方的に自分のやり方を選手たちに押しつけるのではなくて、彼らのやり方を尊重すること。

 

それでもコーチの熱意は選手たちにしっかりと伝わって、まさしく両者が「マリネされる」ことで勝利はもたらされる。

 

まぁ、非常にわかりやすいメッセージではあるし、劇中でトーマスがキレてコーチを辞めようとするタイミングや思いとどまるきっかけなどがわりと唐突に感じられたんですが。

 

あんな情緒不安定で言ってることがコロコロ変わる指導者なんて、俺が選手だったら願い下げですけどね。

 

まるでDVと謝罪を繰り返す奴みたいじゃん。

 

…ただ、トーマスの心がいつもどこかここにあらずだった理由がわかるくだりで、彼は彼で悔いと自分への怒りに圧し潰されそうになりながら耐え続けていたんだな、と思ったら、その苦しみが想像できて、最後には素直に感動できたのでした。

 

最初はケータイの電波も繋がらなかったので電話できないのかと思っていたら、別居中の妻・ゲイル(エリザベス・モス)とはそのあと普通に電話で会話していたから、なぜ何度も何度も電話がかかってくる大学生の娘・ニコル(ケイトリン・デヴァー)からの留守電をトーマスが無視しているのか不可解だったんだけど、そういうことだったのか、と。

 

(トーマス・ロンゲンさんの詳しいプロフィールを知らないので、彼が本当に娘さんを事故で亡くされたのか、それともこれは映画の中のフィクションなのか確認できないのですが)傷を負っている者たちが肩を組みともに戦う、という構図は純粋に美しい。

 

では、米領サモアの選手たちがどこに傷を負っているかというと、アメリカ領、とあるようにもともと独立していた国が欧米の侵略によって今のような状態になったんですね。サモアは独立している西サモアと米領サモアに分けられている。

 

飛行機でわずか35分ほどの距離の国が分断されているという事実。

 

劇中ではサモアの人々ののどかで呑気な感じがユーモラスなんだけど、たとえば沖縄もそうですが、暖かい地域というのは人々の気質が似てくるのかな。

 

だけど、彼らはこれまでの歴史の中で外からやってきた人間たちの侵略に晒されてきたんだよね。沖縄がそうだったように。

 

サモアの人々が信仰するキリスト教だって、西洋からもたらされたもの。島にキリスト教の教えが行き渡るまでにさまざまな出来事があったんでしょう。

 

多くの屈辱的な歴史があって、今がある。そのうえでのあの明るさなんだよな。

 

数えきれないほどの苦労があったからこそ、いろんなものを受け入れることもできる。

 

レゴバットマン ザ・ムービー』などでバットマンの声をアテてたウィル・アーネットがゲイルの現・恋人で嫌味な奴・アレックス(犬のたとえ話が毎回うっとーしいw)を演じてたけど、この映画では最後にトーマスが彼を見返したりはしない。

 

あと、トーマスは他の元サッカー選手の知人たちからもバカにされている。でも、それもそのままほったらかされてるんだよね。

 

90年代頃のハリウッド映画だったら、アレックスは間違いなく最後に主人公にぶん殴られてるし、あの嫌な連中たちもお仕置きされているだろう(笑) ゲイルはトーマスとヨリを戻してるはず。

 

そういうことをもうやらない、ってのも今の映画っぽいよなぁ。

 

トンガのチームの選手やコーチが嫌な奴らっぽく描かれてたけど、あれは事実なんだろうか。トンガの人たち怒んないか^_^;

 

「寓話」だった『ジョジョ・ラビット』と違って実話の映画化なので、映像的にもそんなにお遊びはやってなくて非現実的な場面はないのでとても観やすい半面、わりかし「普通」の映画になってるところはあって、だからガツンとくることはなかったんですが、でも面白かったですよサッカーランニング

 

 

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