キャシー・ヤン監督、マーゴット・ロビー、ユアン・マクレガー、エラ・ジェイ・バスコ、ジャーニー・スモレット=ベル、ロージー・ペレス、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、クリス・メッシーナほか出演の『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』。PG12。

 

“ゴッサム・シティの犯罪王子”ことジョーカーと別れたハーリーン・クインゼル、またの名を“ハーレイ・クイン”(マーゴット・ロビー)は、もはや彼女にジョーカーの後ろ盾がないと知った街のならず者たちから早速命を狙われる。そこでハーレイ・クインは、犯罪組織のボス、ブラックマスクことローマン・シオニス(ユアン・マクレガー)がマフィアのバーティネリ家から奪ったダイヤを偶然手に入れたスリが得意の少女カサンドラ(エラ・ジェイ・バスコ)を捜す代わりに、自身の身の安全をローマンに求める。

 

2016年公開の『スーサイド・スクワッド』で、もっともキャラが立っていたといえるマーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインを主役にしたスピンオフ作品については結構前から聞いていたので楽しみにしていたんですが、いざ制作されてみると日本での公開前から評判はイマイチのようで、日本では今年の2月末に公開された(僕は未鑑賞ですが)チャーリーズ・エンジェル』の新作同様に“ガールズ・ヒーロー映画”の失敗作、といった烙印を押されている模様。それは残念だなぁ、と。

 

だから過剰な期待はせずに臨んで、実際その冗長さやメリハリのなさから作品がウケなかったのも無理はないと思うんですが、でも、マーゴット・ロビーの太ももが最高なハーレイ・クインの暴れっぷりは気持ちいいし、ちょっと90年代に観た『タンク・ガール』を思わせるパンクなノリも楽しかった。

 

 

 

 

フェミニズム的なある種の“堅苦しさ”がない一方で、ガツンとクるものも特にないという、そういう意味では先述の『タンク・ガール』のユルさに限りなく近い。

 

だからこそこの作品が好き、という人もいるかもしれませんが。

 

いろんなタイプのアクション物があっていいと思うし、その中にはこういうガールズ・チーム物だってあった方がヴァラエティに富んでいて面白いでしょうし。

 

ちなみに『スーサイド・スクワッド』ではジャレッド・レトが演じた“ミスターJ”=ジョーカーはこの映画では出てきません。ハーレイ・クイン誕生の回想シーンで後ろ姿はチラッと映ったかもしれないけど、顔は映らない。その名前は何度も繰り返し登場人物たちによって口にされるにもかかわらず、ジョーカーは不在のまま物語が進む。

 

そのことを残念がってる感想も目にしたけど、これは意図的なものでしょう。

 

僕はこの映画、ヒロインのハーレイ・クインが“ミスターJ”=“プリンちゃん”=ジョーカーへの依存から抜け出して自立することを決意=覚醒するまでが描かれたものだと解釈しました。

 

ハーレイ・クインはそれまでは“ジョーカーの女”だったからこそ、他の悪党(ヴィラン)たちは彼女に手を出すことはなかったが、プリンちゃんと別れたことが知れた瞬間に、これまで狂った道化師の名前のおかげで「庇護されていた立場」から、たった独りで並み居る敵たちと戦わなければならなくなる。

 

だから、この映画でユアン・マクレガーが演じるブラックマスクなる悪役(『エージェント・マロリー』でもそうだったけど、この人はほんとに悪役が似合わない、というか様にならないな^_^;)は本当の敵ではなくて、ハーレイ・クインが戦いを挑むべき真の敵はジョーカーその人なんだな。

 

 

 

つまり、かつて医師だったハーリーン・クインゼルを暴力によってハーレイ・クインへと変貌させたジョーカーというのは、世の中の“女性たち”を支配しようとする者のメタファーなんだろう。

 

もしもさらなる続篇があるならジョーカーの登場も期待できるかもしれないけど、残念ながらこの『BIRDS OF PREY』はアメリカではヒットしてなくて酷評を浴びているようだから、なかなか厳しそうかな。

 

ワンダーウーマン』のように興行的に成功していたら面白い展開だったのにね(日本では新型コロナウイルスの影響で他の新作が公開延期になってることもあって、健闘しているようですが)。

 

ともあれ、このスピンオフであえてジョーカーを出さなかったことは賢明だったと思う。だって、ジョーカーのおかげでお客さんが来てくれるなら、それは作品の狙いから大きくハズれてしまうことになるから。ハーレイ・クインの活躍をみんなが観にきてくれなきゃ意味がないもの。

 

『スーサイド・スクワッド』はかなり微妙な作品だったけど、その中でハーレイ・クインとジョーカーは印象に残ったし、とりわけマーゴット・ロビーのハーレイ・クインは最高だった。だからこそ、こうやって彼女を主役にしたスピンオフも実現したわけだけど、ただ、あの映画ではハーレイ・クインがあくまでもジョーカーのカノジョ、ジョーカーあっての存在のような扱いなのが不満ではあった。

 

映画の中では彼女は充分目立ってて独立した存在感を放ってはいたんだけど、その誕生そのものがジョーカーの手によって成されたものである以上、そしてハーレイ・クインがジョーカーのカノジョである限りは、いつまで経っても彼女はジョーカーの呪縛から逃れられない。

 

僕は原作コミックを読んでいないので、映画がそれにどれほど忠実なのか、あるいはどんな改変が施されているのかわからないし(そもそも、“バーズ・オブ・プレイ”はハーレイ・クインのチームではないようだし)、マーゴット・ロビーがこの映画『BIRDS OF PREY』の設定やストーリーにどこまで関与しているのかも知らないけれど、製作も務める彼女が当たり役で自身の分身のようなハーレイ・クインがただの“ジョーカーの女”扱いなのに不満を持ったとしても不思議じゃないと思う。

 

マーゴット・ロビーという女優さんは男を振り回すような役を演じることもあるし、ちょっと目尻が上がった顔立ちがいかにも悪女っぽい感じなので勘違いされそうだけど、彼女のフィルモグラフィ(『アイ, トーニャ』や『メアリーとエリザベス』、『スキャンダル』など)を見るとフェミニスティックな考えの持ち主なんではないかと思う。要するに、男に媚びたい人ではまったくない。この『BIRDS OF PREY』だって、女性刑事モントーヤは同性愛者という設定らしいしハーレイ・クインが飼ってるのはメスのハイエナで、他にも女性キャラクターが何人も出てくるけど男性客を喜ばせるようなエロの要素は全然なくて、色気よりも“元気”の方で映画を成り立たせている。

 

 

 

 

それは予想がついてたから、僕もその“元気”の方を期待して観にいったし、アクションで楽しませてほしいと思っていた。

 

『スーサイド・スクワッド』がゾンビを銃撃したり魔女が超常的な技を使ったりするアクションだったのに対して、『BIRDS OF PREY』はとにかく殴ったり蹴ったり走ったりとハーレイ・クインの肉体の躍動を見せることに多くの時間を割いている。それが僕は単純に気持ちよかったんですよね。

 

あと、ハーレイ・クインが食いたがってたチーズバーガーがめっちゃ旨そうだった!(^o^)

 

ハーレイ・クインとともに戦うことになる“バーズ・オブ・プレイ”の一員のブラックキャナリー(ジャーニー・スモレット=ベル)がクライマックスで口から超音波のようなものを出して物を破壊したりもするんだけど、基本、この映画では肉弾戦がメイン。だからジャスティス・リーグのような超人たちの闘いではなくて、登場キャラクターたちはハーレイ・クインも含めてみんな生身の人間っぽいんですね。

 

ブラックマスクの最期なんてほんとに笑っちゃうほどあっけないし(実際あれは笑う場面なんだと思うが。元ジェダイがこんなにあっけなく情けない死に方するのかよ、とw)、だいたい、あいつがなんであんな仰々しいマスクをかぶってたのかもよくわかんない。もしかして、あの無意味な仮面はスター・ウォーズのカ○ロ・レンを皮肉ってるのか?と思ってしまったほど。

 

一方で、ハーレイ・クインを除く“バーズ・オブ・プレイ”の面子に華がない、という意見には確かに同意してしまうところもあって、色気を武器にする必要はないとはいえ、もうちょっと美形がいてもいいんじゃないか、とは思った。

 

物語の鍵を握る千秋実似の少女カサンドラ(エラ・ジェイ・バスコ)のあの仏頂ヅラと盗癖など、彼女の家庭環境をしのばせるし、ある意味リアルなんですけどね。あのぽっちゃりな女の子のことが映画の終わり頃には好きになってる、って作りはどこか『カールじいさんの空飛ぶ家』のあのアジア系の男の子を思わせたりもするし。

 

 

 

どうでもいいことだけど、ハリウッド映画に出てくるアジア系の子役はなんでブサイ…ユニークな顔の子が多いのだろう。子役に限らず、ハリウッド映画のアジア系の俳優には「なんでこの顔と体型?」と思うことが多い(スター・ウォーズの“ローズちゃん”もそうだけど、わざとやってるんだろうか)。もちろん、重要なのは演技力であって、ことさら美形かどうかを云々するのは俳優を外見だけで判断することになるので発言は慎重に行ないたいですが。

 

ただ不思議なんですよ。だって世の中にはいろんな肌の色の美少年や美少女がいるし、ハリウッド映画にはそれこそ天使みたいな顔立ちの白人の子役がいっぱい出ているのに、その中でハッとするようなアジア系の美形を目にすることが滅多にないのはなんでだろう、と。

 

女性刑事モントーヤを演じるロージー・ペレスはプエルトリコ系でかつては『ペルディータ』(1997)でセクシーな悪女系のヒロインを演じていた人だけど、さすがにちょっとオアシズの大久保さんに似てき過ぎてないか、とか、ハントレスを演じるメアリー・エリザベス・ウィンステッドはタランティーノの『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)でチアリーダーのコスプレしたりしてた美形の女優さんだけど、この映画ではその美しさを封印されている。

 

作り手はそんなつもりはないのかもしれないけど、結果的にマーゴット・ロビーを目立たせるために脇を地味にしたんじゃないかと勘繰ってしまいそうになる。

 

この映画の監督さんはアジア系の女性だし、マイノリティであることを意識していかにもな美人をあえて選ばなかったのかもしれないですが、だとしたら、もっとそれぞれのキャラを立たせてほしかった。彼女たちをもっと面白い女子軍団にできたと思う。

 

『デス・プルーフ』は、女子たちの無駄話が「いつまで続くんだ、このどーでもいい会話」って感じだったんだけど、たとえばこの『BIRDS OF PREY』でも、一見たわいない女子バナの中にフェミニズム的な「あるあるネタ」をいっぱいぶち込んで、元気な女子たちの暴走を描きながら、女子たちの女子たちによる女子たちのためのアクション映画に仕立てることはできただろうし、作り手の狙いもそうだったんでしょう。

 

もっともっと溜飲が下がってちょっと考えさせられもして最高にかっこいい!映画にできたはずなんだよなぁ。でもやっぱり途中は少々かったるかったのよね。これは実にもったいない。

 

まぁ、前述の『タンク・ガール』だって別に傑作ではなかったし、今では知る人ぞ知る、みたいな作品ですが。だからその路線を狙ったんなら図に当たったということだけど、せっかくならワンダーウーマン級のヒットを目指してほしかった。

 

…そんなわけで、推しまくりたくなるほど面白かったわけではないし、それは鑑賞前からある程度は覚悟していたことなのでガッカリというほどでもないのだけれど、新生『チャリエン』もうまくいってないようだし、不発が続いてしまうと「これだからガールズ・アクションはイマイチなんだ」というレッテルを貼られて今後こういう企画が通りづらくもなってしまいかねないから、そこは踏ん張ってもう少し、ってゆーかもっともっと!頑張ってもらえませんかねぇ。面白かったらみんな観にいくんだからさ。ドリュー・バリモアたちが出てたチャリエンみたいに。それはひとえに作り手の腕にかかっている。

 

『スーサイド・スクワッド』は早くもリブートされるそうだから(続篇じゃなくて?)、これからもマーゴット・ロビーが演じるハーレイ・クインを見られるのは嬉しい。

 

そして、いずれはぜひ、この映画のリヴェンジもしてほしいです。

 

 

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