ポール・フェイグ監督、クリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズ、クリス・ヘムズワース出演の『ゴーストバスターズ』。



大学で終身雇用を目指していたエリン(クリステン・ウィグ)は、過去に胡散臭い心霊現象についての著書があることがバレてしまう。その本を無断でAmazonに出品した共同執筆者のアビー(メリッサ・マッカーシー)の研究室を訪ねたエリンは、アビーとともにゴースト退治の仕事を始めようとしているジリアン・ホルツマン(ケイト・マッキノン)と3人で幽霊屋敷へ乗り込むことになる。


2D字幕版を鑑賞。

1984年の『ゴーストバスターズ』、続く89年の『ゴーストバスターズ2』から長らく続篇が作られず、主演のビル・マーレイがゴネたとかどうとかで制作が難航している間に4人のバスターズのうちの一人、イゴン・スペングラー博士役のハロルド・ライミスが亡くなってしまったため企画自体が立ち消えてしまって、オリジナルメンバーたちが揃っての最新作は永久に作られることはなくなったんだけど、今年になってYouTubeで新作の予告篇を観て、完全にリブートされることを知ったのでした。

監督は『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』のポール・フェイグ、そして主演もやはり『ブライズメイズ』のクリステン・ウィグ、共演も同作に出演していたメリッサ・マッカーシーということで、この面子なら絶対に面白いものになるだろうとは思ったんですが、でも最初に観た予告篇は正直いまいちテンションが上がらない出来のもので、しかもかなり長い間第2弾が流れずに最初のヴァージョンのままだったので、「大丈夫かな」と不安にもなっていました。

このリブート版には『マイティ・ソー』のカミナリ様でお馴染みクリス・ヘムズワースが出演することがわかってたし、劇中でケイト・マッキノンが演じたホルツマンのキャラが大人気、といったニュース、そしてオリジナル版『GB』の熱狂的なファンによる公開前からのバッシング、出演者の一人でアフリカ系のレスリー・ジョーンズがレイシストたちから人種差別的なツイート攻撃に遭って一時Twitterから遠ざかったことが報じられて、これは個人的に応援したいな、と。

日本ではそんなに騒がれてないけど、アメリカでの自称“オリジナル版のファン”たちの暴走、そして人種差別主義者、性差別主義者どもの出演者へのいわれのない誹謗中傷など、映画を差別の道具にするような輩たちなど蹴散らしてこの夏一番の大ヒット作になればいいな、と心から願っていた。

一足先に試写で観た人たちにもすこぶる評判がいいので、これは夏の本命がキタか?と。






さて、この映画の感想に移る前に、まず84年のオリジナル版の想い出から書いていきます。

またしても長ったらしい前置きですので、興味のないかたは飛ばしていただければ。

実をいうと僕は1984年のオリジナル版は公開時に映画館では観ていなくて、何年後かにTVで放映されたもので初めて観ました。

今のようにまだDVDとかブルーレイ、どころかVHSのヴィデオによる映像ソフトも気軽に入手できるような時代じゃなかったので(まだレンタル店もそんなになかった)、リアルタイムで映画館で観ていなかったらTVで放送されるまでお預けだったんですよね。



字幕翻訳家の戸田奈津子さんが「ややや、ケッタイな!」と訳していたレイ・パーカー・Jr.による84年版主題歌



で、最初にTV放映版をヴィデオで録画して何度も観たのは、主演のビル・マーレイの声をなぜか舞台演出家で俳優の野田秀樹がアテたフジテレビの「ゴールデン洋画劇場」ヴァージョン。

なんでハリウッドのSFX大作の主役の声に当時は劇団「夢の遊眠社」を主宰していた演劇人の野田秀樹を抜擢したのか謎すぎますが。野田さんの頭のてっぺんから出てるような若干耳障りな甲高い声はビル・マーレイ本人の声とは似ても似つかないのに(ゴーストの“オニオン・ヘッド(スライマー)”に襲われそうになって叫ぶ声は似ていた)。

ただ、当時は僕はビル・マーレイの地声を知らなかったし、彼が演じたピーター・ヴェンクマン博士の軽薄な感じと野田秀樹の薄っぺらい声が妙にマッチしていて、個人的にはこのヴァージョンは結構お気に入りなんですよね。

台詞もその後の吹替版の穏当な言い回しとは違って、ぶしつけで乱暴な感じ(ヴェンクマン「僕は何かに取り憑かれた女とは“おセックス”はしない主義で」など)がイイ味出してたし。

他の声のキャストたちもみんな好演。

特にビルの同じ階に住むシガニー・ウィーヴァー演じるデイナに好意を持ちながらまったく相手にされてないルイス役のリック・モラニスの声を「良い子悪い子普通の子」の“よしお”こと山口良一がアテていて、彼のふやけたようなヘタレ声が冴えない風貌のモラニスに最高にハマっていた。

テレ朝(「日曜洋画劇場」)版の故・富山敬さんは『ミクロキッズ』でもモラニスの声を担当していたのでそちらに馴染みがあるかたも多いでしょうが、僕は断然、山口良一Ver.派だなぁ。

さて、このオリジナル版『ゴーストバスターズ』、同じ年にスピルバーグ製作の『グレムリン』や東宝の『ゴジラ』なども公開されて、当時は「3G映画」なんて呼ばれてもいました。

さらに5年後の1989年の『ゴーストバスターズ2』の時にもまた、これも5年ぶりの新作『ゴジラvsビオランテ』が公開されたりして、そしてさらにその27年後の今年にそれぞれインターヴァルを挟んだ(日本版のゴジラは12年ぶり)最新作が公開されるという三たびに渡る偶然のバッティング。

直接カラんだことは一切ないのに、なぜか妙に縁のあるゴーストバスターズとゴジラなのでした。
※追記:しかも2021年にはハリウッド・ゴジラの最新作『ゴジラvsコング』とゴーストバスターズの最新作『ゴーストバスターズ/アフターライフ』が公開予定。四度目w
※さらに追記:その後、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の日本公開は2022年に延期。

先日、最新作の公開に合わせてこのオリジナル版が日テレの「金曜ロードSHOW!」で放送されてましたが(吹き替えは安原義人がビル・マーレイの声をアテたソフト版だった)、やっぱ面白かったなぁ。

昔の映画って、よく「今観るとたいしたことない」とか「思い出補正」みたいなこと言われがちですが、そして確かに世の中にはそういう作品もなくはないんだけど、でも同時期に公開されてた『グレムリン』にしても『グーニーズ』にしても、あるいは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にしたって、やっぱりよくできてるんですよ。

たわいない内容だったり別にテーマもへったくれもない、単なるポップコーン・ムーヴィーだとしても、ハリウッド式の基本的なシナリオの型に則っているから作りが手堅いんですね。

中にはデヴィッド・リンチの撮った『砂の惑星』みたいな底抜け超大作(僕は好きですが)もあるけど、当時は今よりもこういう作品の本数自体が限られていたし、SFX(特殊効果。特殊撮影。特撮。“視覚効果”を意味するVFXという呼称は日本ではまだ一般的ではなかった)も技術的、予算的に今の映画ほどたくさん用いれないので、ここぞというところに使って、ドラマ部分で観客の興味を惹くようにいろいろ工夫していた。

オリジナル版『GB』も特撮を使っていない人間たちのドラマパートでは、ビル・マーレイとダン・エイクロイドの掛け合い、ちっちゃい身体でちょこまかと動き回ってドタバタを繰り広げるリック・モラニスなど、大爆笑というわけじゃないけど常になんだか可笑しくて、上映時間も100分ぐらいなので退屈する暇もない。

エルマー・バーンスタイン作曲の劇伴が場面のユーモアを増幅させ、迫力ある場面はより一層かっこよく感じられる。

2作目もまぁ似たような作りで、でも1作目ほどヒットしなかったのと主演のビル・マーレイが結構めんどくさい人で(彼はのちに『チャーリーズ・エンジェル』の続篇も降板している)、他のキャストたちはみんなやる気あるのに彼のせいで3作目が実現しなかった。




今だったら、あれだけ人気のシリーズなら2年おきぐらいに続篇が作られそうですが。

まぁ、キューピーみたいな頭のハゲかけたおっさんが主人公の映画がハリポタ並みに長期人気シリーズになるはずもないけど(いや、ハゲマッチョのアクションシリーズはわんさかありますが)。

だからあの2本の映画は、今となっては貴重な作品だということですよね(現在までにビル・マーレイが続篇に出演したのはこのシリーズのみ)。

ちなみに、この「GB」シリーズに限らず、80年代の映画でそんなに延々と続篇が作られてる作品ってほとんどない。

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズも3本で完結、スピルバーグの「インディ・ジョーンズ」シリーズだって現在までに4本だけだし、「グレムリン」は2本、「グーニーズ」に至っては続篇の企画はいまだに実現していない。

「007」シリーズなんかは例外だけど、今みたいに十何年以上にも渡って何本もの続篇が作られる方が特殊な事態なのだ。やはり2000年代以降の「ハリポタ」や「ロード・オブ・ザ・リング」の成功以降の傾向ですね。

そして、続篇の制作までに時間がかかったからって、必ずしも出来上がった作品が名作や傑作になるとは限らないのが難しいところ。

そんなわけで、これまでの書き方からなんとなくお察しのかたもいらっしゃるでしょうが、残念ながらリブート版『GB』を僕はあまり楽しめませんでした。大いに楽しむ気でいたんですが。

また、昔のオリジナル版と比較して最新作の方を批判するとすぐに「懐古厨」呼ばわりされかねませんが、僕はリメイクやリブートだからダメだとか思ってるんじゃないし(だったら最初から観にいったりしない)、先ほど述べたようにできることならこの最新作を応援したい気持ちだったんですよね。

理屈も何もいらない、ただ「面白ければオッケー」なんで、そのつもりで臨んだんですが。

今回はネタバレというほどのものはありませんが、この映画が好きなかた、「面白かった!」と満足されたかたは正反対の感想が書かれていますのでご注意を。



…う~~んと、困ったな。本気でこの夏一番の期待作だったんだが。

最初の幽霊屋敷の場面あたりから、すでにちょっと嫌な予感はしていた。

昔、大きな屋敷の令嬢が召使いたちを惨殺して父親に部屋に幽閉されて、やがて死んでいるのが見つかった、という話をガイドがするんだけど、なんかただもう陰惨なだけでどこにも笑いどころがないんだよね。

そして、そういう状態が結構長く続く。

オリジナル版の最初の方の、図書館で老婆の幽霊が出現する場面と比べてみればよくわかる。あの場面にはどこかとぼけた味わいがあったでしょう。オリジナル版は全篇にユーモラスな雰囲気が漂っていて、本気で怖がったり気味悪がる必要がないことを観客に伝えていた。

でも、このリブート版には何か笑えない雰囲気があって、たとえば子どもの頃に周囲から「オバケ女」と呼ばれて苛められていたエリンのエピソードや、今回の敵である頭を病んだ男のガチのキモさなど、先ほどの令嬢の幽霊同様に笑いの要素が皆無なので、こっちは笑う気マンマンで来てるのに、なんだろう、この変な空気、といった違和感がずっとついて回った。

不要にサスペンスフルというか。ユルいコメディになってないんですよ。

端的に言ってギャグのほぼすべてがスベっている。そもそもギャグがそんなにない。

パトリック・スウェイジの映画や『エクソシスト』のネタなんかもあるけど、だから何?といった感じで。

ワンタンのネタ引っ張りすぎだし^_^; そんなに面白いギャグじゃないから。

せっかく中華料理屋の2階が事務所なんだったらもうちょっといろいろできたんじゃないの?

昔のジャッキー・チェンの映画みたいに食べ物ネタを連打するとかさ。今そういうのが笑えるかどうかは別として。

オリジナル版のあの消防署を改装した事務所は、けっしてそんなに長く映ってるわけではないのに愉快だったじゃないですか。「この食事が最後の晩餐だ」とかさ。

クリス・ヘムズワース演じる、受付担当のおバカなケヴィンはその脳筋ぶりが笑えるんだけど、ちょっとあまりに役立たず過ぎて^_^; ゴーストに簡単に操られて、その後まったく活躍しないし。

 


たとえば、ホルツマンのキャラでもっと遊べたと思うんだよね。踊りまくっておどけまくる彼女はとても魅力的だったんだから。でもクライマックスのキメキメな戦い以外に彼女自身のエピソードがほとんどないので、もったいないなぁ、と。ホルツマンのノリはちょっと80年代の映画のキャラっぽくて好きだったんだけどな。

 


パティ役のレスリー・ジョーンズは初めに書いたように人種差別的なツイート攻撃に晒されて気の毒だったけど、今年のアカデミー賞の授賞式で流れた『レヴェナント』のパロディ映像の中でグリズリーの代わりにディカプリオをぶん回してた人で、YouTubeで検索すると彼女のコントがいくつか観られるけど、言葉がわかんなくても笑えるんだよね。

もうコスプレして立ってるだけで可笑しい。破壊力がありすぎてw




そういうレスリー・ジョーンズのコメディエンヌとしての面白さを活かせていないのも残念。

それは『ブライズメイズ』ではおいしい役だったメリッサ・マッカーシーも同じ。

とにかくシナリオがいいかげんすぎる。

ユルいコメディだからシナリオも適当でいいわけじゃなくて、むしろいちいち観客にツッコませずに映画に没入させるにはシナリオの構成ってシリアスなドラマ以上に重要でしょう。

オリジナル版の3作目がなかなか実現しなかったのも、シナリオが難航したからなんだし。

そもそも主人公エリンのキャラがまったく立っていない。おとなしすぎる。

だから彼女がクライマックス前に市長(アンディ・ガルシア)の前で町の危機を訴えて暴れる場面が唐突に感じられてしまう。もっともっと最初からぶっ飛ばすキャラでよかったのでは?

女性版ビル・マーレイとまではいかなくても、もうちょっと羽目を外せたんではないだろうか。

『ブライズメイズ』ではクリステン・ウィグ演じるヒロインは暴走しまくってたのに。

オリジナル版の『GB』は、主人公のピーターが真っ先に動く役で、相棒的なレイ(ダン・エイクロイド)はそんなピーターに引っ張られ気味のちょっとお人好し(でも夢中になると頑張っちゃう)、イゴンは冷静沈着(でも受付嬢とちょっとイイ感じになる)、新しく入った4人目のメンバー、ウィンストン(アーニー・ハドソン)は僕たち観客の視点、といった感じで役割分担がハッキリしていた。誰一人として似たようなキャラはいない。

一方、今回のリブート版では主役のエリンが抑え役で、それ以外の女性たちはみんなそれなりに自己主張が激しいキャラになっている。アビーは強引、パティは豪快、ホルツマンは“やんちゃ”。

どっかみんなキャラがカブってんだよね。

だからそれぞれの特徴が見えづらくなっている。

エリンのキャラがブレすぎてて、どういう人なのかよくわかんないのもマズい。

捕まえたゴーストをいきなり解き放って、ビル・マーレイ演じる批判的な科学者を殺害したのも彼女だし。ブラックなギャグのつもりだったのかもしれないけど、全然笑えないよ。

やっぱりファミリー向けということで、ポール・フェイグ監督がお得意らしい下ネタを封印されてしまったことが敗因なのかなぁ。

やたらと“おもらし”を台詞の中で繰り返してたけど、やはりサムいだけで笑えず。観客は幼稚園児扱いか。

オリジナル版のキャストたちのカメオ出演も、笑えるわけでもないし、なんかもうほんとにテキトーに出しといた、みたいな手抜き加減。もうちょっと物語にちゃんとカラませてあげてほしかったよ。

ユルいギャグでもない、やりすぎでもない、中途半端で消化不良な「コメディのなり損ない」みたいな映画だった。

VFX映像にもまったく魅力を感じず。

最新の技術でCGを駆使して描かれたゴーストたちよりも、作り物の人形のオニオン・ヘッド(スライマー)がソーセージを頬張ったり、ぬいぐるみ製のマシュマロ・マンがミニチュアの町をノシノシ歩いてたオリジナル版の方が今でもよっぽど楽しい。

それはただの“懐古趣味”によるものではなく、やはり作り手が作品に込めた「愛」、手作りの温もりを感じられるからだと思う。リブート版にはそれがなかった。

出演者にではなく、これを良しとした監督さんにガッカリ。

宇多丸さんが「『ゴーストバスターズ2』よりはマシ」とか言ってたけど、冗談じゃないですよ。この映画に比べればスライムが踊って自由の女神が歩いてたあの2作目の方が断然面白いわっ。

この映画、僕にとってはガッカリ度は『シン・ゴジラ』以上でしたね。クライマックスでウトウトしちゃったもんなぁ。

27年ぶりの最新作がこれなのか、というなんともいえない寂しさが。

だから時間をかけたからってイイものができるとは限らないんだよな。


ほんとはオリジナル版とリブート版をもっといろいろ細かく比較して、時代の違いについても考えてみたかったんですけどね。でも映画そのものにノれなかったのでそういう気分も失せてしまった。すでにリブート版のクライマックスあたりの展開よく覚えてないし。

主要キャストを敢えて男性から女性たちに替えたことに意味を見出そうともしてみたけど、特に深い意味はなかったな。

…う~~んと、別にもうこれ以上言うことない^_^;

今回はこれぐらいで切り上げましょうかね。



追記:

その後、懲りずにIMAX3D字幕版を鑑賞。

3Dでゴーストの吐くゲロやバスターズの面々が放つプロトンビーム、マシュマロ・マンの気球などがいつもよりほんのちょっと多めに飛び出て見えたり、バスターズのトレードマークのゴーストが巨大化して暴れるクライマックスが「怪獣映画」していて、そのへんは楽しかったです。そこまでが長いんだけど。



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