メラニー・ロラン監督、ベン・フォスター、エル・ファニング、アニストン・プリンス、ティンスレイ・プリンス、ロバート・アラマヨ、アデペロ・オデュイエ、マリア・ヴァルヴェルデ、リリー・ラインハート、ジェフリー・グローヴァー、ボー・ブリッジスほか出演の『ガルヴェストン』。2018年作品。PG12。

 

原作はニック・ピゾラットの小説「逃亡のガルヴェストン」。

 

1988年。裏稼業の男ロイ(ベン・フォスター)はボスのスタン(ボー・ブリッジス)にハメられて彼の手下に命を狙われるが、逆に相手を殺して囚われていた少女ロッキー(エル・ファニング)を助け出す。そして、ロッキーと彼女の幼い妹ティファニー(アニストン・プリンス、ティンスレイ・プリンス)と3人で逃避行することに。ロッキーは頼りがいのあるロイに心を許すが、肺の病気が進行しているロイは彼女に距離を置きながらその命を二人の少女たちに捧げようと決意する。

 

エル・ファニングの出演映画ということ以外、何も知らないまま鑑賞。

 

てっきり彼女が主演だと思っていたら、主演はベン・フォスターでした。

 

 

 

映画を観ながら「どこかで見たことある男優さんだな」と思っていたんだけど、あとで確認したら『X-MEN:ファイナル・ディシジョン』(2006)で羽の生えたミュータント“エンジェル”を演じてた人だった。

 

髭ヅラでそこそこ歳いってそうに見えるけど、まだ30代後半。ずいぶんとおっさんになったなぁ。

 

病いを抱えた男と心に傷を負った少女のロードムーヴィー。

 

 

 

“ガルヴェストン”とはテキサス州の都市の名前。主人公の思い出の町。2008年には「ハリケーン・アイク」に見舞われている。

 

作品の冒頭で「1988年」と年数が出るので、「あれ?実話系?」と思ったが、その後すぐに銃撃シーンが始まるんでそれも揺らぐ。なんであえて80年代を舞台にしたのかわからなかったんだけど、最後の展開で一応その理由は描かれる。

 

主人公は場合によっては人殺しもやってのけるアウトサイダーだが、単純なアクション映画ではなくて等身大の人間を描いたドラマ。

 

なかなかよくて見入ったんだけど、また後述しますがラストがとても残念で非常にもったいなかった。終わり方次第では僕の今年のランキングでも上位にきただろうから。

 

エル・ファニングは去年公開の主演映画『メアリーの総て』が見応えがあったので、ちょっと気になる女優さんなんですよね。

 

今年10月に続篇が公開予定の『マレフィセント』のようなメジャー作品にも出ているけれど、姉のダコタ・ファニングと同様にインディーズ系とか小規模な作品への出演が目立っていて、着実に女優としての実力をつけてきているなぁ、と。子役の頃からその演技力は高く評価されてたわけですが、いわゆる子役上がりの俳優にありがちな勘違いセレブ化することもなくスキャンダルとも無縁なところが信頼できる。

 

出演作の評価は各作品ごとにさまざまだろうけど、作品を選ぶ基準に確かな目を感じる。ご本人の判断力の賜物かそれとも優れたエージェントがついているからなのかわかりませんが、どういう路線でやっていくのか方針がハッキリしている。だから彼女の出演作をこれからも観たいと思わせてくれるんですね。

 

この『ガルヴェストン』の主演はあくまでもベン・フォスターなのでエル・ファニングは助演という立場だけど、今風の娘らしさとその屈託のない笑顔の裏にどこか儚さも漂わせていてとてもいい。

 

そもそも、なぜ『イングロリアス・バスターズ』や『オーケストラ!』『グランド・イリュージョン』などに出演した女優のメラニー・ロランがこの映画を撮ることになったのか不思議なんですが。

 

僕は知りませんでしたが、彼女はこれまで何本も監督しているんですね。

 

やはり監督作品があるソンドラ・ロックにちょっと顔が似ているし、同様に監督でもあるサラ・ポーリーも思わせる。

 

原作者のニック・ピゾラットはアントワーン・フークア監督の『マグニフィセント・セブン』やマシュー・マコノヒー主演のTVドラマ「トゥルー・ディテクティブ」の脚本も書いているそうだけど、僕は後者は未視聴。映画版『ガルヴェストン』も原作者自らが脚本化したが、ロラン監督が手を加えたためにピゾラットは自分の名前の表記を拒否して脚本家の名前は架空のものにされたのだとか。僕は原作の方は読んでいないので、映画版でどこがどのように変更されているのかわかりませんが。

 

それでは、これ以降は内容に触れますのでご注意ください。

 

 

ロイとロッキーたちがしばらく泊まるモーテルには、ちょうど『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』や『運び屋』で描かれたように貧しかったりわけありの者たちが一時的に滞在していて、時にそこで犯罪も起きる。

 

若い男トレイ(ロバート・アラマヨ)はロイが追われる身であることを新聞で知って、半ば脅すように盗みの仕事を持ちかけるがあっけなく彼に殺される。

 

この展開がほんとに意表を突かれるというか、あまりにあっちゃりヤラれちゃうんでちょっと「う~ん」と。もう少しそこから何か物語が転がっていくのかと思ったんだけど。

 

この映画には、そういうそっけない場面がたまにある。先が読めない、ということでは効果を上げているかもしれないけれど、ロイとロッキー以外の登場人物たちが出てきてはすぐ消えてそれからは二度と現われない、というのの繰り返しが続くのでストーリーテリングの面白さはあまり感じられない。

 

しかも、なんとなくロイの言動が首尾一貫していないので腑に落ちなくて、いちいち引っかかるんだよね。

 

やむなく相手を殺す、というのではなくてこんなあっさり人の命を奪うロイがロッキーに向かって真顔で「君は人殺しだ」などと責めても、なんの説得力もない。いや、ついさっきお前も殺してるじゃん、と。ロッキーの場合はティファニーを守るために(そして復讐のためもあったんだろう)義父を殺したわけで。

 

ロイはロッキーがあからさまに媚態を見せていつでも身を任せるような態度を取っても彼女に指一本触れないので、僕はもしかしたら彼は同性愛者なのかと思ったんだけど、ロッキーに「気にしなくていいから」と言われたロイは「俺を不能だと思ってるのか?」とキレる。

 

その後、彼は元恋人のロレイン(アデペロ・オデュイエ)に未練があってそのために彼女の家に立ち寄るが、しかしロイはロレインへの接近を禁じられていることがわかる。結局のところ、ロイはろくでなしだった。医者を電話で脅す時の卑劣な口ぶりなどは、完全な悪役のそれだ。

 

そのろくでなしの男が、最期にひとりの娘を救おう、と考えた、という話。

 

そこに至るまでのロイの逡巡の様子はとてもよく伝わったし、だから最初に書いたように「ラストさえよければ」結構お気に入りの作品になったと思う。

 

だが、ロッキーと夕食を取りともにダンスした夜、ロイは追っ手に捕まり無残にもロッキーはレイプされたのちに殺される。ロイもまた拷問を受け、組織の女カルメン(マリア・ヴァルヴェルデ)の手引きで命からがらアジトから逃げ出す。

 

病院で手当を受けたロイは、自分の病気が治ることを医師から知らされる。

 

そして数々の罪状で彼は収監される。

 

それから20年。…エッ。

 

なんかつい最近もそういう時間の飛び方をする映画を観たばかりですが^_^;

 

遠からず死ぬと思い込んでいた自分が生き残り、守ろうとした命が奪われてしまったという皮肉な結末を迎えたわけで、その哀しみと切なさ、虚しさを描いてるのはわかるんだけど、だとしても映画としては主人公に落とし前をつけさせるべきで、だから僕はてっきり歳取ったロイがロッキーの仇のスタンに復讐するものとばかり思っていたんですよね。いよいよクライマックスが来る、と。

 

折りしもガルヴェストンの町をハリケーン・アイクが襲おうとしていた。嵐の予兆。

 

なるほど、だから最初、時代が1988年だったわけか。

 

出所したロイのところに成長したティファニー(リリー・ラインハート)が訪ねてくる。幼い頃にロッキーを失った彼女は姉のことをほとんど覚えていなかったが、ロイが彼女たちのために戦ってくれたことを感謝している。

 

 

 

ロイはティファニーに、ロッキーが彼女の姉ではなく“母親”だったことを告げる。ティファニーはロッキーと義父との間の子だった。

 

そのショッキングな事実はロッキーが義父を殺した時にわかったけど、もしかしてこれはオチのつもりだったのだろうか。

 

で、さぁ、これから60歳になったロイが嵐に紛れて『イコライザー2』のデンゼル・ワシントン並みに大暴れするんだろうと期待して観ていると、かつて20年前にロッキーとともに訪れた浜辺にたたずむロイを映して、なんと映画はそのまま終わってしまう。

 

 

 

 

…えっ!復讐劇は?やられっぱなしで終劇!?

 

呆気にとられてしまった。

 

いやいや、それはないでしょ。こんな後味の悪い、あまりにも尻切れトンボな終わり方。

 

わざわざほんとにあったハリケーンまで出してるのに、これではなんの意味もないじゃないか。

 

ここは少女を殺したボスと組織の連中を血祭りにあげて孤独に一人去っていくロイの姿で〆ないと!!

 

「ラストがとても残念」というのはそういうことです。

 

現実の世界ではヒーローのように女の子を助けて一人で敵をやっつけることなんてできない。

 

ロイはヒーローなんかではなくて、ただのならず者だ。そんなことはわかっている。

 

でも、大切に守るべきだった存在を失ってしまった時点で主人公はもう充分罰を受けているんだし、別にこれは実録物じゃないんだから、そこは映画として観客にカタルシスをもたらせてくれなきゃ。

 

もしもそうしていたら、『タクシードライバー』や『レオン』みたいな名作にだってなり得たかもしれないのに。

 

それともメラニー・ロラン監督は、60~70年代のアメリカン・ニューシネマみたいなのを狙ったんだろうか。それにしてもなぁ…。

 

せっかく出演者の演技はよかったし演出だって悪くはなかったのに、ラストのこの放置プレイみたいな処理で映画への満足感が吹っ飛んでしまった。

 

本当にもったいない(だからこの感想も尻切れトンボ)。

 

 

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