リチャード・カーティス監督、ドーナル・グリーソンレイチェル・マクアダムスビル・ナイリディア・ウィルソントム・ホランダーマーゴット・ロビーリンゼイ・ダンカン出演の『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』。2013年作品。



イギリスのコーンウォール。若手弁護士のティム(ドーナル・グリーソン)は好意を持った女性になかなか想いが届かず、モヤモヤした毎日を送っている。ある日、父親(ビル・ナイ)から自分たちの家系について重大な事実を伝えられる。彼らにはタイムトラベルの能力が備わっていて、自分が生まれたあとの過去に戻れるという。やがて職場の同僚と参加した飛び込みの合コンでメアリー(レイチェル・マクアダムス)と知りあいイイ感じになるティムだったが、ある理由でタイムトラベルをしたためにせっかくの出会いがなかったことになってしまう。


ちまたで評判がいいので気になっていたものの上映しているTOHOシネマズが遠いのでDVDを待つつもりでいたんですが、たまたま「新・午前十時の映画祭」のために訪れたんで(『オズの魔法使』を鑑賞)観てきました。

レイチェル・マクアダムスがヒロインを演じてることは知っていたんだけど、主人公が『FRANK -フランク-』のドーナル・グリーソンだったのは映画を観て初めて知りました。

なんだろう、今、一見イケてなさげなイギリス人青年役とかで引っ張りだこだったりするんだろうか。

個人的には『スター・ウォーズ エピソード7 The Force Awakens (原題)』で彼がどんなキャラを演じるのか気になってますが。

『FRANK -フランク-』でもそうだったけど、今回も大金持ちじゃないけど中流以上のそこそこいい家の息子で仕事もあり生活には困ってなくて、でも女性に対しては若干奥手気味、みたいな役柄。

ただし、女性に奥手といっても完全なるドーテー野郎というよりはあちらの男性としてはちょっと冴えないところがある程度で、実はやることはしっかりやる奴だったりする。

その辺も日本人の「真性モテね男」としては彼の姿や行動に自分を重ねることはできなくて、なんかほんのちょっと上のリア充を見てるようでイラッとくるところも。

僕はこの映画がどんな内容なのか事前にまったくといっていいほど予備知識がなかったので、どういう展開になるのかわからない状態で観ていたんですが、最初のうちはグリーソンが演じる主人公ティムの立場がなんだか日本の漫画とかアニメのそれみたいに思えて仕方なかった。

だって家族はけっこうデカいお屋敷に住んでて、妹はダサい兄貴には似ても似つかないマセた可愛い子でしょっちゅうじゃれてくる。しかも夏休みにはその妹のこれまた美人の友人が家に泊まったりする。

そんで芝生に寝そべって「背中にクリーム塗って」とか言ってくるのだ。悶々とする兄貴。

…もうアニヲタの安い妄想みたいな設定だもの。

このあたりで観る映画を間違えたんじゃないかと思って後悔した。

ところがティムは父親に呼び出されて、実は自分にはタイムトラベルができるのだということを知らされる。

半信半疑で試してみると、父親の言ったとおり望んだ過去に戻ることができたのだった。

ただし未来には行けない。

また戻れるのはせいぜい自分が思い出せる過去だけ。

で、ティムがまずやるのは、妹のキット・カット(リディア・ウィルソン)の美人の友人シャーロット(マーゴット・ロビー)に上手く想いを告げて彼女の気持ちをつかむこと。

もうそのために涙ぐましいほど何度も何度もタイムトラベルを繰り返す。

しかし、ちょっとしたタイミングのズレで毎回シャーロットの心はティムの手をすり抜けていく。

シャーロットを演じているマーゴット・ロビーは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』ではディカプリオを手玉に取ってたけど、こういう振りまわし系の美女役ハマってるなぁ。

 


この、どうあがいてもそもそも縁のない相手とはけっして結ばれることはない、という哀しい事実には妙にリアリティを感じたのだった。

まぁフラれることには年季が入ってるもんだから。

それでティムは合コンでメアリーと出会うというわけ。

なんだかんだいってうまいこといくんじゃねぇかよ、と思ったけど、でもタイムトラベルを絡めた恋の顛末に興味をそそられてだんだん面白くなってきた。

それでは、これ以降さらにストーリーについて述べますので、未見のかたはご注意ください。



メアリーと意気投合して連絡先を交換したティムだったが、間借りしている家の家主の劇作家ハリー(トム・ホランダー)が書いた戯曲の公演がヴェテラン俳優の台詞のド忘れのために*大失敗に終わり劇評も散々だったことを知り、前夜に戻って問題を解決。お芝居を大成功に導く。


*台詞をド忘れする前にティムに忠告されて憎まれ口叩きながら台本を確認するヴェテラン舞台俳優を「ハリー・ポッター」シリーズで意地悪なおじさん役だったリチャード・グリフィスが演じている。彼はこの映画の撮影後、2013年3月に死去。ご冥福をお祈りいたします。


ところが、そのせいでティムは合コンに行かなかったことになり、メアリーとの出会いはリセット。スマホに登録した彼女の連絡先も消えてしまった。

それからのティムの粘りがこれまたスゴい。

メアリーがケイト・モスのファンだったことを憶えていたティムは、ケイト・モスの写真展に連日通いつめてメアリーがやってくるのをひたすら待ち続ける。

そしてようやくメアリーと再会できたのだが、彼女にとってはティムは初対面なのでキモがられ、しかも彼女はすでにパーティで知り合った別の男とつきあっていることが判明。

ティムはここでもタイムトラベルでパーティの当日に戻り、メアリーとチャラ男との出会いを阻止する。

 


そんで彼女の家に上がりこみ「合体!♂♀」までいくという快挙を成し遂げたティムは、ここでも何度かタイムトラベル能力を利用。“ティムティム”が気持ちよすぎて何度も時間を巻き戻してヤりまくるとことか笑った。タイムトラベルするとアソコの元気も戻るのだろうかw

このあたりもテンポよくて面白いんだけど、一方でまたしても僕の中の「モテね男」のひがみがフツフツと沸いてきたのだった。

だってさー、こんなふうにちょっとしたタイミングで出会ったり出会わなかったり、つきあったりつきあわなかったりすんのって、現実はそういうもんかもしれないけど、僕みたいに経験が伴わず恋愛に夢ばかり見てる男には、「運命の女性」に感じられた人がひょいひょいとつまんない男(映画ではそう描かれてる)と簡単にくっついて主人公に冷ややかな態度とったりすんのって、う~ん…って思っちゃうんだよな。

この映画はティムの視点で描かれてるから、彼が恋してやがて結婚することになるメアリーがさまざまな場面で何を考えどう感じてるのか、ちょっとよくわかんなかったりもする。

彼女の視点から描いたら、同じ場面でもまた違う意味合いが出てくると思うんだけど。

結婚することになったら急に仕切りだす、みたいなのはちょっとありそうでしたが。

いや、そもそも「運命の女性」なんてのはあとになってそう感じるんであって幻想なのは重々承知してるし、現実の男女の出会いなんてタイミング一つだよ、というのもわかるんですけどね。

メアリー役のレイチェル・マクアダムスは『シャーロック・ホームズ』のヒロインやウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』でアレン似の主人公ととことん趣味が合わない恋人役などで見たけど、わりとマイペースな女性を演じることが多い人なのかな。大きな口と下がり眉になるあの笑顔がとても魅力的。

 


今回も彼氏にクラシックコンサートに誘われても家で寝てたりする。

で、そのコンサートでティムは以前フラれた妹の友人シャーロットと偶然再会、なんと彼女からティムを誘ってくる。

僕は経験ないですが、万事うまくいってる時ってこういうことあるんですかね。

完璧にヤれちゃうチャンスにティムはきびすを返して家に帰り、そのまま恋人のメアリーにプロポーズする(バンドを呼んでバックで演奏してもらってたら彼女がサプライズ嫌いと知って撤収させるのが可笑しい)。

恋愛経験豊富な友人たちの話を聞いてても、出会いはタイミングが大きいんだなぁ、って思うし、彼らはいつでもアンテナを注意深く張ってる。何よりもモテる男はとにかく“マメ”なんですよね。

それはこの映画のティムもそうで、映画観てるうちに「こんだけ努力してマメに女の子にアプローチを続けてるんなら、そりゃいい出会いもあるだろうしうまく進展もするだろうな」と次第に納得してしまうのだ。

ティムはもともとケイト・モスにはなんの興味もなかったんだけど、メアリーがファンだというんで一所懸命話題を合わせようとする。

こういう人たちは、好きになった人と会話を弾ませるためにその人が好きなものを研究する努力を惜しまない。

映画の冒頭あたりでは女の子に「背中にクリーム塗って」と言われて妹に笑われながらドギマギしてる童貞臭い男子が、ストーリーが進んでいくとともに徐々に女性との接し方を学習していくんである。

タイムトラベルで何度もやり直しが可能、というチートすぎる能力があるとはいえ、それでもティムはちゃんと失敗から学んで得た知識を駆使して、屁理屈こねるんじゃなくて実践によって恋人を得ている。

学習能力がなければ何万回フラれたって次もまたフラれるのは目に見えている(ツラい…)。

この映画のティムに、いつしか僕は友人たちを重ねていた(自分ではないのが本当に哀しい)。

主演のドーナル・グリーソンは、この「一見イケてない青年」という役柄が実に説得力のある俳優さんで、でもこの『アバウト・タイム』の劇中で彼は恋人を得て彼女と結婚し、映画の終盤ではいっぱしのお父さんであり、実にまっとうな社会人となっている。

タイムトラベルという“魔法”のおかげで幸せを手に入れたズルい男は、もはやそんな能力を使う必要などない、今この一瞬一瞬をかけがえのないものとして味わうことに無上の喜びを感じるまでになっていた。

冴えないモテね男が超能力を使っていかにカノジョをゲットするか、というライトなラヴコメに思えたこの映画は、中盤以降「家族」についての物語に変貌する。

妻と子というあらたな家族を得たティムが抱える問題はすでに彼自身のことではなく、「家族」。愛する妹のことだった。

明るく健康的なエロスを発散していた妹のキット・カットは、しかし男運がハンパなく悪く、つきあう男という男がろくでもないために精神的にも肉体的にも無理をきたして、成長していく兄とは対照的にいつまで経っても幸せをつかめない焦りもあって自暴自棄になっていく。

なんとか妹を救いたいティムは、キット・カットに一族の特殊能力の秘密を打ち明け、彼女とともに過去に戻る。

まだ彼女が元気だったあの頃へ。




さて、僕はビル・ナイ演じる父親にティムがタイムトラベルの方法を教わってから、彼らはタイムトラベルで「過去にしか行けない」ので、一度過去に行ったら再度同じ時間を繰り返さなければならないはずだと思っていたんだけど、どうやらこの映画でのルールではタイムトラベルを開始した時点には一瞬で戻れるらしく、映画を観ていて「ん、ん…?」という場面がいくつかあったのだった。

最大の「?」ポイントは、ティムがキット・カットにまっとうな人生を送らせるためにまだメアリーと出会う前にタイムトラベルするシーン。

僕は、これは最愛の妻との出会いを犠牲にして妹を救う、という究極の選択を描いたものだと思っていたんだけど、無事キット・カットが更生してもメアリーとの出会いはしっかりそのまま継続されてて「え?」ってなってしまって。

だって、ちょっとしたタイミングのズレで自分の子どもが性別も変わり見ず知らずの姿になってたぐらいなのに、これだけ何度もタイムトラベル繰り返してもメアリーとの出会い自体は変わらないんだ、とちょっと肩すかし食らったような気分に。

なんていうんですかね。独り身の哀しさというか、つまらん男の妬みで、途中からこの映画は最後にティムはすべてを失ってまた独りきりになるのでは、と予想していたんです。

愛する妻も我が子も、最後の選択ですべて無に帰す。

主人公のそんな壮絶に寂しい結末を期待、していたんですね。

でもメアリーはティムの前から姿を消さず、彼は失敗を繰り返す妹のために何度もタイムトラベルを試みて、ついに彼女を救い出す。

妻も子どもたちも無事だ。

その代わりというか、彼にタイムトラベルの秘密を教えてくれた父親との別れが描かれる。

これまたこの映画独自のルールで、なんかよくわかんなかったけど、ティムの3人目の子どもが生まれると入れ替わりに父親とは二度とタイムトラベルで会えなくなるらしい。

父は自分がガンであることを知り、それからというもの息子と同じく過去へのタイムトラベルを繰り返していたのだった。

息子と卓球を楽しむ父は、すでに自らの命の終焉の時を知っていた。

それで残された時間を好きな読書や家族との団らんに費やしてきた。

そして今、父の時間が尽きようとしている。

このあたりの映画内ルールは、ちょうど先日観た『インターステラー』の“ウラシマ効果”同様に僕にはちょっとわかりづらかったんですが、勝手に自分の解釈を加えさせてもらうと、父親というのはいつまでも元気でいるわけではないし、孫どころか自分の子どもの結婚した姿さえも見ないまま今生の別れになることだってある。

だからティムの父親が息子の3人目の子どもを見ずして天に召されるというのは、現実の世の中でいくらでもあることだ。

新しい命と入れ替わるように親は去っていく。

最後に父と息子が一緒に過去に戻り浜辺で遊ぶ場面は、父親とのよき想い出がある世の息子たちには涙なくしては見られない光景。

父親役のビル・ナイは『パイレーツ・オブ・カリビアン』の2作目と3作目でイカ船長を演じてた人で他にも吸血鬼とか悪役で見る機会が多かった俳優さんだけど、この映画では上品で可愛くちょっと疲れた風情の学者風の初老のお父さんを好演している。

 


この映画で僕がもっとも腑に落ちたのは、ティムが語った「自分は未来から来たつもりになって、今この時をじっくりと味わおう」という言葉。

今、こうして愛する人たちとともにいる瞬間がどれほどありがたいか。

なんでもないような一日だって、それは貴重な一瞬なのだ。

そう思って生きなければ、人生はあっというまに「無意味」なまま終わってしまう。


クドいですが、僕はこの映画が主人公ティムが最後にすべてを失う、というものだったら、多分映画館の席から立てなくなるほど号泣していたと思います。

愛する妹を救おうとしたら、代わりに彼自身は孤独な人生を歩まなければならないかもしれない。何もかも手に入れることなんてできないんだからさ。それが人生というものでしょう。

でもこの映画はそういう自己憐憫に堕しかねない結末ではなく、あくまでも現実を肯定していくというものでした。

僕はたとえば『ある日どこかで』や『時をかける少女』のような、現実にはありえない時空を超えた愛の物語に深く心打たれるところがあります。

そしてこの『アバウト・タイム』にはそういう要素が確かにあったから、タイムトラベルという現実には起こりえない現象によってもたらされる切ない物語にはやっぱり惹かれるのです。

タイムトラベルという荒唐無稽な現象を介して「今」が愛おしく感じられてくる不思議。

これはいつか、好きな女性と一緒に観たいなぁ。未来にはタイムトラベルできないから、それがこの先も実現するかどうか確かめようがないけれど。



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