頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ― -12ページ目

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。



朝から、雨でした。

揚げるには、少しだけ静かすぎる日です。

油には、火を入れていません。

その代わりに、冷蔵庫を開けました。

「あの日のセレブ、まだおるで。」

クゥーが小さく言います。

ドバイチョコ。

揚げてもなお、セレブだったやつ。

あの日は、割らなかった。

今日は、割ります。

ロクが皿を置きます。

ナイフを入れる前に、少しだけ雨音を聞きました。

「いくで。」

刃が、衣に触れます。

サクッ。

静かな音。




衣の内側に、とろけきらなかったチョコ。

少しだけ温もりを残したピスタチオ。

カダイフは、思ったより素直です。

完璧ではない。

でも、悪くない。

クゥーがのぞき込みます。

「セレブ、ちょっと庶民なっとるな。」

ロクは断面を見つめたまま、

「揚げられたら、みんな一回は裸になる。」

とだけ言いました。

雨は、まだ降っています。

油は、今日は休みです。

あの日、募集したままの油は、

責めることもなく、冷えています。

また火を入れればいい。

今日は、断面だけで十分です。

本日の注意書き

・今日は揚げません(雨やし、油も寝とる)
・セレブも割ったら中身見えるで(キラキラは外側担当)
・断面に夢を見すぎ禁止(現実はわりと正直)
・冷えたチョコは怒ってません(たぶん)
・クレームはクゥーが半分聞いて、半分忘れます(便利な耳)
次回


― 鉄板の上で、少しだけ迷う ―


材料はこちら






パスタ。

ケチャップ。

玉ねぎ。

ベーコン。


特別なものは、なにもない。


今日の昼も、焼きパスタ。

太さだけ、少し変えてみる。



ジュワッ……





押して、待つ。


ロク

「油と対話しろ」


同じ火加減。

同じ時間。


それでも、音が少しだけ軽い。


鉄板の縁で、油が小さくはねる。


焼きパスタ定食風






味噌汁を添えると、

ちゃんと昼になる。


湯気が立つうちに、試食会。



年配のおねえさま

「これぐらいがちょうどええかも」


若い子

「焼きそばみたいで美味しいです♪

でも、もうちょっとしこしこでもいいかも」


ロク

「……ほう」


若い子

「ケチャップ味もいいですね♪」


ロク

「それは、まあ……」


少し、間。


ロク

「火加減は嘘をつかない。」


奥の席で、

息子が黙ってフォークを回している。

まだ、うまく巻けていない。


夕方の光が、

鉄板をやわらかくなぞる。


湯気が、ゆれる。


ロク

「ゆっくりで、ちょうどいい。」


店の外が、

少しだけ暗くなる。


ケチャップの赤が、

昼よりも深く見えた。


今日の注意書き


・営業日はだいたい気分と夕焼け次第です(暗くなってたら閉めてます)

・焼き色には個体差があります(それも含めて前夜です)

・ナポリタンかどうかは聞かないでください(まだ少し迷っています)

― 夕方が、少しだけ店に残っている時間


朝でも夜でもない、夕方の気配が店に残っていました。


まだ少しだけ、空気の奥に冷たさが残っています。


久しぶりに、プリンを作りました。


昔、手の中に残っていた感覚を、少しだけ思い出したくなりました。


火と蒸気の距離を確かめながら、ゆっくり時間を重ねました。


営業前の店は、少しだけ静かに呼吸しています。


カウンターの端にプリンを置いていたら、甥っ子が静かに顔を出しました。


「プリン、食べるか?」


そう聞くと、小さくうなずいて、椅子に座りました。


まずは一口。


スプーンが、プリンの表面をゆっくりとすくいます。





「どうや?」


そう聞くと、少しだけ間があって、


「……おいしい」


それだけ言いました。


プリンの上に乗ったカラメルを指さして、


「この黒いの、なに?」


と聞くので、


「カラメルや。少しだけ、大人の味がする」


と答えました。


甥っ子は少し考えてから、


「苦いから、嫌」


と言って、スプーンでカラメルを少しずつ削りながら食べていました。


削られていくカラメルを見ながら思いました。


子どもが静かに食べる料理は、少し優しすぎるのかもしれません。


味は悪くなかった。


ただ、蒸気と火の呼吸を、もう一度考えようと思いました。


甥っ子は味に正直です。


子どもが黙って食べる料理は、まだ伸びる余白がある証拠だと思っています。


「待っとけ。次は、もう少しだけうまくやる」


そう小さく呟いて、空になった皿を、ゆっくり拭きました。


夕方の光が、カウンターの上に、静かに時間を置いていました。


営業前の店は、少しだけゆっくり呼吸しています。

焦らなくても、プリンは逃げません。

カラメルの苦さは、ほんの少し大人の味です。



次回



油は、今日も静かに揺れている。

ある日のこと。

常連さんが、ぽつりと言った。

「ドバイチョコ、揚げられます?」

店内が一瞬、静まる。

ロクが止まる。
クゥーの目が光る。

クゥー:
「揚げたら全部うまい。」

ロク:
「値段知ってる?」

ドバイチョコ。
ピスタチオとカダイフを包んだ、あの高級チョコ。

それを――油に沈める。

正気か。

いや、正気じゃない。

でも。

揚げ物は、ドラマが起きる。

第20皿目、開幕。


■ 作戦会議

ロク:
「そのまま入れたら溶けるぞ。」

クゥー:
「溶けたらまた固まるやろ。」

ロク:
「チョコは揚げ戻らん。」

冷静に考える。

・常温 → 即崩壊
・冷凍 → 形キープ
・衣あり → 生存率UP

結論。

冷凍+薄衣作戦。

クゥー:
「セレブ、防具装着。」


■ 揚げの儀

170℃。

油が静かに揺れる。

クゥー:
「セレブ、入湯。」

ジュワァァァ…




小さな泡が、セレブを包む。

ロク:
「割れるなよ…」

衣が、ゆっくり色づく。

まだ断面は見せない。


■ 取り出し




見た目。

意外と――美しい。

ロク:
「…形、保ってるな。」

クゥー:
「ほらな。揚げは正義や。」

まだ、割らない。

今日は、守り切った姿を見せる。


■ 実食(描写のみ)

ナイフは入れない。

外側は、軽くカリッ。

中は、ほんのり温かい。

セレブは、まだ秘密を抱えたまま。


■ まとめ

・成功度:70%
・映え度:90%
・背徳度:120%

ドバイチョコは、揚げてもセレブか?

答えは――

少し庶民に寄った、無口なセレブ。


油は、まだ冷めていません。

次に沈むのは、何ですか?

揚げてほしいもの、募集します。


次回

― カリッの手応え、もちっと未来


昼ごはんをかねて、焼きパスタ試作1号機を作ってみた。

昨日は鍵に振り回され、今日はフライパンを振る。
バランスは取れている。たぶん。

材料はこちら↓




試作機なので作業工程は省略。
m(_ _ )m

ほぼ勘です。

そして出来上がりがこちら↓




今回は表記時間より1分早めに湯上げ。

いわゆるコックの勘。(少しドヤ顔)

焼き目をつけて押さえて待つ。

ジュワッ……カリッ。

見た目は少し焼きそば寄りだが、食べると違う。

外は軽くカリッと、
中はもちっとした食感。

パスタの弾力が残る分、焼きそばより少し上品な感じがする。(自分で言う)

今回は自宅にあった材料での試作。

本番はまだこれから。

次は店の食材で試作2号機を出動予定。

改良点はまだ多い。

焦げ目のつけ方、
水分量、
押し焼きの時間。

でも、このひと皿に、ちいさな誇りがある。

伸びしろはある。オンボロ食堂。

試作1号機。

なかなか、やるやん。



次回