― 夕方が、まだ少しだけ店に残っている時間
あの日、
皿の端に黒が残りました。
甘いところだけが、
先に減っていった夕方。
今日は、プリンの続きです。
火と蒸気の距離を、
もう一度だけ確かめました。
強くしない。
弱くもしない。
「火加減は嘘をつかない。」
プリンは、前より静かに皿へ落ちます。
カラメルは、黒にしきらない。
深い琥珀で、止めました。
今日は、
横に少しだけ甘さを置きます。
ホイップは山にしない。
みかんは隙間に。
バナナは、斜め。
さくらんぼは、光りすぎない位置へ。
主役は、あくまでプリン。
小さな足音がして、
いつもの椅子が引かれます。
「今日は、ちょっと豪華やな。」
クゥーが奥から言います。
スプーンが入る。
ぷるん。
今日は、甘いところだけをすくいません。
カラメルと、ホイップと、一緒に持ち上げます。
ひと口。
間。
「……ちょっと苦い。」
それから、
「でも、これならええ。」
皿の端は、今日は空きません。
黒は、真ん中を通って、
甘さと並びました。
ロクはうなずきません。
ただ、皿を拭く手が、
あの日より少しだけ早い。
苦さは、追い出すものじゃない。
甘さの横に置くものです。
夕方は、今日も店に残っています。
焦らなくていい。
甘さも、苦さも、
同じ皿に乗る日が来ます。
営業前の店は、ゆっくり呼吸しています。
今日は、
ちゃんと“アラモード”でした。
⸻
【本日の注意書き】
・営業日は風まかせです(開いていたら、少し運がいい日)
・プリンは急ぎません(夕方はまだ残っています)
・黒は敵ではありません(今日は少し近づいただけです)
・ホイップは飾りすぎません(主役は火と卵)
・クレームはクゥーが一度受け取り、棚の奥で熟成させます(すぐには返りません)
次回
25皿目 肉厚厚揚げ豆腐(梅の気配)
― 割ると、春が少しだけほどける ―」
