セクシーキャットへ行った翌日も、真は、まだ実桜のことが気になっていた。
これまで、キャバクラやクラブで接した女性で、これほど気になった女性はいない。
適当に面白おかしくおしゃべりをして、それで終わりだった。
さすがに、接待で何度も行っているお店の女の子の何人かは顔を覚えているが、初めて着いた女性などは、次の日どころか、電車に乗った頃には忘れている。
根が正直で一本気な真は、どこまでが本気で、どこまでが嘘かわからない、夜の女性は苦手だった。
前述したように、真は、夜の世界で働く女性に偏見を持っているわけではない。
真は、夜の世界で働く女性でなくても、女という生き物が、多かれ少なかれ嘘をつくのはわかっている。それは、一般に言われる嘘とは、違う次元のものだ。
まして、夜の世界では、平気で嘘をつくのも仕事の一環だ。
客を騙そうとするのではない。自分を守るためにも嘘をつくし、客をいい気分にさせるためにも嘘をつく。
毎回のように訊かれる、「彼氏いるの?」、「結婚してるんじゃないの?」なんてくだらない質問に正直に答える義務はないし、気持ちの悪い客に、「あんた気持ちが悪いのよ」なんて言っては、商売にならない。
真も営業だから、その辺りのことは心得ている。
真が苦手とするのは、色恋に関する嘘だ。
たとえ嘘だとわかっていても、真剣な顔をして、あなたのことが好きなのと言われれば、真にはどう対処してよいかわからない。
遊び慣れた男なら、適当に流すか、そんな会話を楽しんだりするのだろうが、自分だと、真顔で否定しそうな気がする。
そうなると、相手も振り上げた拳を下すすことができなくなり、へたをすれば、傷つけてしまうかもしれないという危惧があった。
相手も、そんなことには慣れているだろうから、なにも気にすることはないのだが、年齢の割には初心(うぶ)なところがある真は、たとえ夜の世界で働いていても、女性を傷付けるのが、凄く怖い。
彼女たちだって、真剣に頑張っている。へたをすれば、いや、へたをしなくても、昼間の仕事よりきつい。神経も肉体もすり減らす職業だ。
真は、そう思っている。
それは、一部には、男を食い物にしている性悪な女もいるだろうが、実桜がそうだとは、真には思えなかった。
真の見るところ、実桜はプロだ。
どんな世界でも、プロというものは凄まじい。
プロとは、仕事の対価として、正当な報酬を得る者のことだ。
当たり前のことだが、これが、なかなか難しい。
大抵の人間は、自分が受け取る報酬より、自分の働きの方が勝っていると考える。そのくせ、少し体調が悪いと会社を休んだり、働く者の権利ばかりを主張したりする。
そんなのは、プロとはいえない。
どんなに長年同じ仕事をしていようが、自分は使われている身、或いは、働いてやっているんだという意識を持っている限り、その人の伸び代はたがが知れている。
そういった人達は、ただのサラリーマン、いわゆる給与取得者で、プロではない。
プロというものは、強烈なプライドを持っている。
常に、仕事を第一とし、己を律し、体調管理もしっかりする。たとえ体調が悪くても、少々のことでは休まない。
自分のやったことに誇りと責任を持ち、その対価として報酬を受け取る。一旦引き受けた仕事は、どんなことでも泣き言を言わず、必ずやり遂げる。
それが、プロだ。
昨日、実桜と話をしていて、実桜の強烈な自意識を、真は感じ取っていた。
夜の世界のプロ。
これほど、自分と合わない女性はいない。
真は、どんな女性を相手にしても、ど素人だからだ。
そうは思っているのだが、なぜか、実桜のことが気になって仕方がなかった。
派手な服装と化粧。
これも、真にとって、苦手なことだった。
すべてが真の好みと真逆のはずなのに、ずっと実桜のことが、頭から離れない。
これまで、こんなことがなかった真にとって、自分はどうしちまったんだという戸惑いが、実桜への想いと共に付きまとっていた。
そんな想いを振り払うように、真は朝から仕事に没頭した。
だが、営業回りをしていても、資料を作成していても、頭の片隅には、常に実桜の顔があった。
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