夕方、見積りを作成している真のパソコンに、メールの着信を知らせる音が鳴った。

 仕事関係だと思って、なにげに開くと、実桜からだった。 

「きのうはありがと

楽しかった

またあいたいな」

 それだけの短い文章だったが、なぜか真の心は躍った。

 営業メールだとわかっているのに、真は嬉しかったのだ。

 これまで、そんなメールはことごとく無視してきた真だったが、このときばかりは、思わず返信してしまった。

「こちらこそ楽しかった」

 さすがに、また会いたいというような文面は控えた。

送信してしまった直後に、返さねばよかったと、真は後悔した。

 一度返してしまうと、向こうも脈ありとみて、しつこくメール攻撃をしてくる可能性があるからだ。

 だが、実桜の携帯は、パソコンからのメールを拒否しているのか、真の打ったメールは宛先不明で返ってきた。

 最近の携帯やスマホは、迷惑メール防止のため、パソコンからのメールは拒否していることが多い。

 届かなくてよかったと安堵した真だったが、気が付くと、自分の携帯から、同じ文面を送ってしまっていた。

 なぜ、そうしたのかわからない。半ば無意識にやっていたのだ。

 が、今度はあまり後悔しなかった。

 直ぐに、実桜から返信がきた。

 真は、SNSにはまったく興味がないので、電話の利便性を考えて、未だに携帯を使っている。

「うれしい❤ 

ほんとうに またあいたいな」

 真は、我知らず笑みを浮かべてしまった。が、直ぐに、自分の愚かさ加減に気付いて、自嘲の笑みに変わった。

 これ以上深入りしない方がいいと、必死で心に言い聞かせて、その日は返信することをしなかった。

 家へ帰ると、ネットで「キャバ嬢のメール」というようなワードで、検索をかけてみた。

驚くほど多くのサイトがある。

多くは、キャバ嬢のメールは、客を導くための色恋だから、騙されるんじゃないとか書いてある。

それは当然だろうと、真は思った。

自分たち営業だって、同じようなことをしているのだ。

最初からわかっていたことなのに、俺は一体なにをしてるんだ。

またもや真が、自嘲の笑みを浮かべる。

 サイトを見ていて真が驚いたことは、キャバ嬢の口説き方や、キャバ嬢の落とし方などのサイトも数多くあったことだ。

 ひとつふたつ覗いてみると、そこには、いかに少ない回数、言い換えれば、お金を使わずに、お目当てのキャバ嬢を落とせるかなんてことが、得意げに、もっともらしく書いてあった。

少し粘って駄目だったら、別の店に行って、新しいキャバ嬢を探せとか、新人の嬢は落としやすいとかが書いてある。

 こういったサイトを起ち上げる奴や、それを真剣に読む奴は、一体なにを考えているんだ。

 キャバクラに、なにを求めて、なにをしに行くんだろう。

 男の卑しい欲望をまざまざと見せつけられて、自分も男だということが、生まれて初めて嫌になった。

 普段、真面目に仕事をしていようが、どれだけいい人でいようが、こんな下卑た欲望を持った奴なんて、世の中にはごまんといるんだろうな。

 確かに、真にも欲望がないわけではない。しかし、女性と関係を持つということは、真にとって、その女性のことを本当に好きでなければできないことだ。

 好きでもない女と関係を持つなんて、マスターベーションと変わらないではないか。

 女とやれるなら誰でもいいと思っている馬鹿な男共は多い。そして、それを求めて、男共はキャバクラに行く。高い金を払っているのだからやらせてくれてもいいじゃないかという勝手な理屈をつけて、キャストに迫る。

 真は、改めて、実桜の仕事の大変さを痛感した。

 そんな欲望剥きだしの男共を毎日相手にしている実桜に、自分なんか手のひらで転がされるであろうことは、想像に難くないとも思った。

 それでも、真の脳裏から、実桜が消えることはなかった。

 

 

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