真が帰ってからもずっと、実桜は真のことを考えていた。

経験豊富な実桜には、一目惚れなんてありえない。それどころか、何度店に通おうが、客に恋することなど、プロとして絶対にない。

 キャストには、客と恋愛して結婚する女の子もいるし、今の彼氏が元はお客さんという女の子もいっぱいいる。

 しかし、一目ぼれなんてことはありえない。

キャバ嬢から見れば、客は金づるなのだ。商品に手を付ける商売人はいない。

男にとって冷たいようだが、それが、この世界なのだ。

 一部には、ただ贅沢したいだけや、高価なブランド物のバッグやアクセサリーや服がほしいがために、男を食い物にしている女性もいるだろうが、キャバクラやクラブで働いている女性の大半は、普通のサラリーマンよりも真面目に仕事に取り組んでいる。

 仕事や家庭に疲れた男を癒したい。

女性としての武器を最大限に活かして、もっと自分を磨きたい。

そう思って、この世界に飛び込む女性も多い。

 世間一般では、クラブやラウンジはまだしも、キャバクラに対しての印象はすこぶる悪い。

 馬鹿な女が簡単に金を稼ぐために、こんな店で働いているのだろう。そして、稼いだ金は、男に貢ぐか、ホストに入れあげるか、海外旅行やブランド品を買い漁っているに違いない。

そう思っている男共は多い。店へ来る客の大半が、そう思っているといっても、過言ではない。

 だから、キャストを見下したり、寝る対象としてしか見ない。

金さえだせば、簡単に男と寝ると思っているのだ。そして、そういった考えが最低だということには気付かないで、店では威張り散らしたり、口説きまくったりする。

 ところが、世の男が思うほど、この世界は甘いものではない。

 更衣室には成績のグラフが張られ、誰が一番売上を上げていて、誰が成績が悪いのか、一目瞭然になっている。

遅刻や欠勤をすれば、一日の給料以上のペナルティを課されるし、同伴ノルマや売上が達成できなければ、これまた多額のペナルティを取られる。

 お酒を飲みながら話をするだけで、楽に稼せいでいる思ったら大間違いなのだ。

 しかし、厳しいのはそれだけではない。

 夜遅くまで酔っ払いの相手をして、自分も多量のお酒を過ごさなければならないし、欲望を剥きだしにした男共をうまくかわし、次に繋げなければならない。いくら来てほしくない客であっても、そうしないといけない。

 彼女たちは、よほどでないと客を切ることはしない。

嫌な客を簡単に切っていたら、誰も残らないからだ。

それほど、キャバクラに来るような男には、ロクな奴がいない。

 成績と夜更かしと酒、それに、セクハラや自慢しい、威張りたがりの男たちを相手にしていては、身も心も壊れてゆく。

事実、実桜は、身体を壊して辞めていった者や、心を壊して自殺未遂をしたキャストを、何人も知っている。

 そこまでして、なぜ、この世界に止まるのか。

人には、それぞれ天職というものがある。 

特に夜の世界は、天職でないと長続きしない。

楽してお金を稼ぎたいとか、お金のために平気で客と寝るような女は、客とトラブルを起こしたり、客に恨みを買ったりで、ひとつの店には長くいられなくなり、いくつもの店を転々とする。

そんな理由から、この世界で、ひとつの店で長く務め、常に上位の成績を取り続けていこうと思えば、プロに徹しなければやっていけないのだ。

 しかし、いくらプロに徹していても、人間である以上、疲れもするし、嫌気が差すこともある。

実桜も、何度も心を壊し、その度に挫けかけた。

実桜を踏み止まらせ、支えてきたものは、幼い頃の体験と、悲惨な結婚生活、それに、多額の借金の返済。それらを背負って一人で生きていこうとする実桜にとって、そんなことで挫けてはおれなかった。

 

 

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