「この楽しき日々」
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
谷口由美子:訳
ガース・ウィリアムズ:画
岩波少年文庫
1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズの第8巻。
15歳で教員免許を取得したローラは、家から20キロほど離れた場所にある学校で教えることになった。期間は2カ月。その間はブルースター家に下宿しながら学校に通う。
初めて家を出てホームシックになったローラを、アルマンゾが毎週そりで送り迎えしてくれた。
教師の任期が終わってローラが自宅に戻った後も、アルマンゾはローラをそりや馬車のドライブに連れ出した。
15歳で教師になり、18歳で結婚するまでの日々を描いた物語。
★★★〈自分が読んだ動機〉★★★
子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。
★★★〈こんな人におすすめ〉★★★
・自給自足の生活を読みたい人。
・1800年代後半のアメリカの暮らしに興味がある人。
・恋愛小説が好きな人
★★★〈登場人物〉★★★
登場人物(インガルス一家)
ローラ:主人公。活発で行動力のある、インガルス家の次女。
メアリ:長女。盲人の大学に入学した。
キャリー:三女
グレイス:四女
とうさん(チャールズ)
かあさん(キャロライン)
アルマンゾ・ワイルダー:町の近くに農地を持ち、兄ロイヤルと飼料店を営む青年。
★★★〈あらすじ〉★★★
第1章:ローラ、家を離れる
第2章:初めての授業
第3章:一週間
ローラは町から20km離れた学校で教えることになった。期間は2か月で、生徒は5人。
下宿したブルースター家の奥さんはいつも不機嫌で、夫婦で言い争いをすることも多く、家の中は重苦しい雰囲気だった。人に教えることへの不安と居心地の悪さから、ローラはホームシックになってしまう。
第4章:そりの鈴の音
金曜日、アルマンゾがそりでローラを迎えに来てくれた。金曜から日曜まで家で過ごし、日曜日の午後、アルマンゾはブルースター家までローラを送ってくれた。
第5章:くちびるをかみしめて
第6章:クラスをどうにか切りまわす
勉強の教え方も生徒の扱い方も、どうしていいのか分からないローラは途方に暮れる。しかし母さんの助言で、どうにか授業を進めた。
第7章:暗闇に光る包丁
夜中、ブルースターの奥さんが肉切り包丁を振りかざしてブルースターさんにわめき散らしているのを見てしまう。
第8章:厳寒のドライブ
バケツの水もお弁当も凍ってしまうほど寒い金曜日、零下40度の寒さの中でも、アルマンゾはローラを迎えに来てくれた。そりを出すのは危険だとブルースターさんは言ったが、2人はそりで町へ向かう。
あまりの寒さにローラは眠気に襲われ、ひとりで歩くこともできない程凍えてしまうが、無地にわが家に帰ることができた。
第9章:教育長の訪問
ローラの教師の仕事ぶりを確認するため、教育長が学校を訪れた。
第10章:アルマンゾが「さようなら」といった
とうとう最後の授業が終わった。生徒たちはローラにお礼を言い、贈り物をくれた。
アルマンゾは、「日曜日の午後にまた会いましょう」と言わず、「さようなら」と言った。
第11章:ジングル・ベル
家に帰ってきた翌日、ずっと家にいられると思うとローラは幸せだった。
町の通りは、何そりに乗った若いカップルが何組も行きかっていた。友人もローラの家に遊びに来ずにそりで遊んでいて、ローラは自分が忘れられた気持ちになる。
日曜日の午後、アルマンゾがやってきてローラをそりのドライブに誘った。
第12章:どこよりもわが家がいちばん
再び学校に通い始めたローラは、毎週土曜日、マッキー夫人の仕立て屋で縫い物の仕事を手伝うことになった。日曜の午前中には日曜学校と教会があり、天気のいい午後にはアルマンゾとそり遊びをするが、それでも一番居心地が良いのは、わが家で過ごすことだった。
第13章:春のおとずれ
4月、すっかり雪の溶けた日曜日の午後、アルマンゾが来て、ローラを春一番の馬車ドライブに誘った。
第14章:払い下げ農地を守っていくこと
マッキー夫人は娘と2人で町から農地へ引っ越すことになった。寂しい農地の小屋で暮らすことを不安に思ったマッキー夫人は、週に1ドル払うかわりにローラに一緒に暮らしてほしい、と言った。メアリが大学から帰ってくるまでの約2カ月、ローラはマッキー親子と一緒に暮らした。
第15章:メアリが帰ってきた
メアリが大学から帰ってきた。目が見えなくても自分のことができるよう教育を受けたメアリは自身に満ちていて、少女の頃のように元気で朗らかになっていた。
第16章:夏の日々
ローラは町に新しくできたベルさんの仕立て屋で働くことになった。8月最後の週にメアリが大学へ帰ってしまうまで、家族そろって楽しく過ごした。
第17章:子馬を馴らす
10月になり、ローラ達一家は農地から町の家へ引っ越した。
アルマンゾがローラをそりのドライブに誘った。ひどく暴れる馬だったがローラは楽しみ、毎週日曜にアルマンゾとドライブするようになった。
クリスマスの日、町に新しくできた教会にクリスマスツリーが飾られ、ローラにもプレゼントがあった。プレゼントの贈り主はアルマンゾだった。
第18章:ペリー学校
3月、教員免許試験を受けたローラは2級免許状を取得し、インガルス家の農地のすぐ近くに新しくできたペリー学校で教えることになった。
第19章:茶色のポプリン
ローラは再びベルさんの仕立て屋で働き始め、美しい帽子と茶色のポプリン生地を買い、かあさんはその生地でローラのドレスを縫ってくれた。
日曜日、仕上がったばかりのドレスと新しい帽子で教会へ行った日の午後、ローラをドライブに誘ったアルマンゾは、新しい軽装馬車に乗っていた。
第20章:ネリー・オルソン
日曜日にアルマンゾがやってきたが、馬車にはネリー・オルソンが乗っていた。またドライブに行こうと言ったアルマンゾに、ネリーを連れていくなら自分を迎えに来ないで、とローラは言った。アルマンゾはきっとネリーを連れ出すだろうとローラは思ったが、次の日曜日アルマンゾはローラを迎えに来た。
第21章:バーナムとスキップ
第22章:歌の学校
第23章:バーナムが歩いた
アルマンゾは新しい馬、バーナムとスキップを手に入れたが、ひどい暴れ馬だった。
金曜日の夜に開かれる歌の学校に、ローラはアルマンゾと一緒に参加し、その帰りにローラは初めてひとりでバーナムの手綱を取って馬車を走らせた。
歌の学校が終わった後、アルマンゾはローラに婚約指輪を贈った。
第24章:アルマンゾ、旅に出る
第25章:クリスマスのまえの晩
アルマンゾはミネソタ州にいる家族と冬を過ごすため、兄ロイヤルとミネソタ州へ旅立った。春まで戻ってこないと思っていたが、クリスマスの前の晩に、ローラへのクリスマスプレゼントを持って戻ってきた。
第26章:教員免許試験
第27章:学校生活がおわった
3月の教員免許試験を受けたローラは二級免許状を取得し、ウィルキンス学校で教えることになった。
第28章:クリーム色の帽子
結婚生活にむけて、ローラはかあさんとドレスや肌着、シーツや枕カバーを作るための生地を買い、とうさんが買ってくれたミシンでドレスを縫い上げた。
第29章:夏の嵐
暑い夏の日、ローラとアルマンゾがドライブしていると嵐の雲が近づいてきて、竜巻が発生した。2人は無事に家に帰り着いたが、町では竜巻の被害がでていた。
第30章:丘の上の夕暮れ
メアリが大学へ帰る日の前日、ローラはメアリと暮れを見に行った。いつまでも変わらずにあると思っていた家がどんどんと変わっていくことに、2人は寂しさと希望を抱く。
第31章:結婚式のしたく
第32章:結婚式はいそぐもの
ローラとかあさんは新生活に必要なシーツなどを縫う。かあさんは「女性なら黒いドレスを持っているべき」と、黒いカシミヤのドレスの制作に取りかかった時、アルマンゾが家に来て、すぐにでも結婚できないか、と言った。
アルマンゾの母と姉が、2人のために教会で大きな結婚式を挙げるつもりで、式を取り仕切るためにこちらへやってくると言う。そんな費用はとても出せない、だから母と姉が来る前に結婚したい、と言う。
2人は、ローラのカシミヤのドレスと、アルマンゾが建てている家が完成したらすぐに結婚することに決める。
第33章:西部の小さな灰色のわが家
ローラとアルマンゾはブラウン牧師の家へ行き、静かな結婚式を挙げた。家でかあさんのごちそうを食べた後、2人はアルマンゾが建てた新しい家へ向かう。
★★★〈社会人になったローラ〉★★★
前作「大草原の小さな町」が学生ローラの青春を描いたものに対し、本作は若い社会人のローラの物語です。
教師となり学校で教えることになったローラは、初めて家を出て働き始めます。
ローラは縫物が上手なので、教師の仕事がないときには自宅から針子の仕事に通ってお金を稼ぐようになります。
当時の教師の仕事も、現在と大きく異なっています。
当時の教師は、毎年教員免許試験を受けて、一年間有効の免許を取っていたようです。
3年間毎年違う学校で教鞭をとったローラですが、教師の任期は1つの学校につき2~3ヶ月なので、当時の教師は短期間の任期を繰り返す、短期雇用の仕事だったようです。
学校では何年生という分け方をせずに全員で一つの教室を使い、それぞれの勉強の進み具合に合った内容を教えます。人口の多い町ではまた事情が違うかもしれませんが、今とは違う学校の様子も興味深いです。
★★★〈アルマンゾと過ごす日々〉★★★
アルマンゾとの交際も本格的に始まります。
ローラの下宿先と自宅を毎週そりで送り迎えしてくれたアルマンゾは、ローラが家に帰ってからもそり遊びや馬車のドライブに誘い、やがて馬車で町の周りの大草原や湖へ遠出することが日曜日の日課となります。
初めはなぜ自分を家まで送り迎えしてくれるのか分かっていなかったローラですが、回数を重ねるうちに毎週のドライブを楽しみにするようになり、次第にアルマンゾとも打ち解けて親密な関係になっていきます。
若者のデートの定番がドライブというのは、今も昔も変わらないんだなと思いました。
★★★〈華やかな衣装〉★★★
本作は今までの巻と比べて、料理や農作業、家づくりや生活用品の手作りなどの生活の描写が少なくなる一方で、ローラの服装の描写がとても多くなります。
教師や針子の仕事で稼げるようになったローラは、ドレスを作る生地や、ドレスに合う帽子を買えるようなり、今まで以上におしゃれを楽しむようになります。
ローラが着るドレスや帽子の描写がとても素敵です。
ローラが買った帽子は、
・灰緑色の麦わらで粗目に編んだ、青い絹の裏地と青いリボンがついた、つばが大きく前に突き出したボンネット。
・つばがせまく両側がめくれ上がった形で、麦わらより少し濃い色のサテンリボンが巻いてあり、ダチョウの羽が三本さしてあるクリーム色の麦わら帽子。
ドレスの描写もとても細かく、たっぷりのギャザーやタック、何枚はぎかのフレアスカート、フリルやひだ飾り、無地の絹の縁取り、何枚も重ねたペティコート、フープ、体の線にぴったり合ったポロネーズというコートドレス。など華やかで凝ったデザインの描写が続きます。当時の衣装や、ローラが着たドレスを見てみたいと思いました。
ドレスはローラと母さんの手作りです。
ドレスを仕立てるため、小花と薄緑色の葉が散った模様の上品なピンクのローン地や、すかし縞模様が入った茶色のポプリン地など、生地を9m(!)も買っています。
凝ったデザインのドレスを作るには、これだけ生地がいるのか・・・と驚きました。そしてそれを手縫いで作り上げる女性達には敬服するばかりです。(後半では当時高価だったミシンが登場しますが、ミシンを使ってもドレス作りは大変だと思います・・・)
★★★〈アルマンゾを狙うネリーとの攻防〉★★★
同じ学校に通う宿敵、ネリー・オルソンは、前作「大草原の小さな町」からアルマンゾを狙っていると公言していて、この巻でもアルマンゾにアプローチしてきます。
ローラと違って賑やかにしゃべるネリーがアルマンゾに絡む様子は、同性から見るとかなり鬱陶しい場面ですが、アルマンゾはネリーになびくことはありませんでした。
アルマンゾがローラのどこに惹かれたのかは書かれていませんが、おそらく聡明で、暴れ馬のドライブを楽しむ剛胆で行動力のあるところに惹かれたのではないかと思います。
ネリーのことは最初から眼中になかった様子なので、アルマンゾもローラ一筋だったようです。
結果的にアルマンゾがローラを選んだことがはっきり分かったので、2人の仲が進展したのはネリーのおかげと言えるでしょう。
ネリーのように露骨に誘う態度をとらず、かといってやられっ放しでもなく、わざと馬を驚かせて暴走させたり、ぬかるんだ道を選んで、しれっとネリーを立腹させるローラは相変わらず見事な返し方です。
★★★〈成長し、自立していくローラ〉★★★
働き始める、家を離れて下宿する、そしてアルマンゾとの交際、と家を離れることの多くなったローラは段々と成長し、自分の人生を切り開いていきます。
アルマンゾの腕を信じて暴れ馬の曳く馬車でドライブしたり、稼ぐために針子の仕事に就いたり、もっと給料のいい学校で教えたいと勉強を頑張ったり、アルマンゾと話し合って結婚を早めるなど、時にはかあさんと違う意見を持つこともあります。
ローラが馬の手綱を1人で取って馬車を走らせるようになったのも、アルマンゾが手綱を握らせてくれたから。とうさんはローラに手綱を取らせなかったのです。
教師としても著しく成長します
最初はうまく教えられるのか、クラスを切り回せるのか、不安でいっぱいで手探りしていましたが、教師の仕事が3年目になる時には、どんな問題もてきぱき片付けられるようになり、学校での毎日を本当に楽しく思えるようになっています、
ローラの周囲でも、姉メアリーは盲人の大学に入って家を離れ、学校の友人達も仕事に就いたり新しい恋人ができたり婚約したり、皆それぞれの道を歩んでいきます。
「あたしたちは、知らず知らずに運命を切り開いていくんだわ」(353ページ)
人として成長し、仕事で稼いでおしゃれも楽しみ、そして頼れるパートナーと新しい生活を始めるというローラの著しい成長がみられる物語です。
★★★〈町の様子から見る、西部で生きていくことの難しさ〉★★★
次々に人が移住して人口が増えていくデ・スメットですが、出て行く人も多くいます。
土地を譲り渡してさらに西部へ行ったり、家族がここで暮らせないと言って仕方なく農地を売って東部へ戻ったり。
ネリー・オルソンも、東部へ戻っていきます。
「プラム・クリークの土手で」では雑貨店を営む裕福な家だったオルソン家は、どういうわけか財産を失って、「大草原の小さな町」でデ・スメットの近くの農地を申請して移住してきたのですが、「この楽しき日々」で東部へ戻っていきます。理由は書かれていませんが、東部の親戚と暮らすと言って帰っていったので、おそらく西部で生活していくことが難しかったのでしょう。
ローラの宿敵があっさり退場したことに拍子抜けした感もありますが、西部に移住して生計を立てていくことの難しさを感じました。それと比べると、何度も危機を乗り越えて西部で生きてきたローラのとうさんは本当にすごい人だと思います。
★★★〈自分の意志を持った人間〉★★★
印象的だったのが、ローラが結婚式で「あなたに従います」と言わないことを、事前にアルマンゾと決めたこと。言わない理由は、「自分がいいと思うことに反してまで、人に従うことは、たとえ努力してもできないと思うの」、というもの。
誓いの言葉を知っているアルマンゾも、「それは女に人が口で言うだけのものだよ」と言い、「そんなことをきみにしてもらおうとは思ってないよ」と快諾します。
たとえ結婚式の常套句だとしても「あなたに従います」と言わなかったこと、それを事前にアルマンゾに伝えたこと。そのことから、ローラが自分の意志をはっきり持った女性であることと、物事を1人で決めずにパートナーと話し合って決める女性であることが伝わってきました。アルマンゾはローラのそんなところにも惹かれたのではないかと思います。
(ネリーだったら、男受けを狙って「あなたに従います」と言いそうです・・・)
★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★
多くの出版社から刊行されている「インガルス一家の物語」シリーズで、私が一番物語に合ってえると思う挿絵、ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がついているのは以下のとおりです。
1・大きな森の小さな家
2・大草原の小さな家
3・プラム・クリークの土手で
4・シルバー・レイクの岸辺で
5・農場の少年
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
恩地三保子:訳
福音館書店
----------------------------------------------------
6・長い冬
7・大草原の小さな町
8・この楽しき日々
9・はじめの四年間
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
岩波少年文庫
谷口由美子:訳
★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★
「わが家への道」
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
谷口由美子:訳
岩波少年文庫
「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」
ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ
ウィリアム・アンダーソン:文
レスリー・A・ケリー:写真
岩波少年文庫
谷口由美子:訳
求龍堂