「モカシン靴のシンデレラ」

中沢新一・作

牧野千穂・絵

マガジンハウス

 

 

北米インディアンのミクマク族が、ヨーロッパのシンデレラ物語に手を加えて作り上げた、ミクマク族のシンデレラ物語。

 

 

 

 

 

★★★〈あらすじ〉★★★

ある大きなインディアンの村のはずれの立派なウィグワム(テント小屋)に、「見えない人」が住んでいた。この人は霊会の王者であるヘラジカに守られている立派な狩人で、普通の人にはその姿が見えなかった。

ただ一緒に暮らしているかしこい妹だけは、彼の姿が見えていた。

村では「見えない人」の姿を見ることのできる少女なら誰でもこの人と結婚できる、と言われていて、多くの少女が彼の姿を見ようとしたが、成功した人はいなかった。

 

この村にはある少女が住んでいた。少女は三人姉妹の末娘で、姉二人は美しく成長したが、少女は体が小さく、すぐに病気になってしまう体の弱い子だった。

一番上の姉は、少女にたくさんの仕事をいいつけたり、少女のちょっとした失敗に腹を立て、焼けた炭を押し当てて大やけどをさせるなど、なにかとつらくあたっていた。そのせいで少女の髪は焦げてちりぢりで、体は傷跡だらけだった。

 

村に住む少女たちと同じく、姉二人も「見えない人」を見ようとしたが、二人とも姿を見ることはできなかった。

 

その後、少女の心の中に変化が起こり、自分の運命を試す決心をする。

 

あくる日、いつもボロを纏っている少女は「おめかし」をして、「見えない人」のウィグワムへ向かう。

その姿は、白樺の皮でこしらえた上着とペチコート、ぶかぶかのガウンと帽子にぶかぶかのモカシン靴を履くという、人が見たら吹き出してしまうようなへんてこな恰好。

 

しかし「見えない人」の妹は、へんてこな恰好の少女が清らかな魂を持っていることを見抜いていた。

そして「見えない人」の妹と一緒に湖のほとりに立った少女は、狩りから帰ってくる「見えない人」がはっきりと見ることができたのだった。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・シンデレラストーリーが好きな人

・ハッピーエンドが好きな人。

・絵が美しい絵本が好きな人

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

牧野千穂さんの絵が好きで、牧野さんが絵を担当した絵本を探して出会いました。

 

 

★★★〈やわらかいタッチの美しい絵〉★★★

霞がかかったような、やわらかい光に包まれているような、やわらかいタッチの美しい絵です。温かみがあり静謐さが漂う、独特の雰囲気が魅力的です。

 

 

★★★〈神秘的な「見えない人」〉★★★

普通の人には姿が見えない、ヘラジカに守られた偉大な狩人というファンタジックな設定で、牧瀬さんの絵が添えられることで、より神秘性が感じられます。

 

 

★★★〈内面の美しさを重視するミクマク族〉★★★

ミクマク族がヨーロッパのシンデレラ物語を聞いたとき、「西洋のシンデレラが王子と結婚できたのは、美しい容姿と衣装のおかげで、王子は外見でしか判断していない」と、外見だけ飾って人の内面の美しさを見ようしないことに違和感を覚えそうです。

そこで女の美しさは魂の美しさ・清らかさによってもたらされるという彼らの価値観を反映させてアレンジしたのが「モカシン靴のシンデレラ」です。

 

偉大な人の妻に選ばれたのは、おしゃれをした美しい娘ではなく、奇妙な恰好をしたボロボロの外見の小さな女の子。選ばれた理由は、外見ではなく内面の美しさことでした。

大切なことは心を美しく成長させること、というメッセージが伝わってくる物語です。

 

 

★★★〈最も大切なのは内面の美しさ。ですが・・・〉★★★

大切なのは外見よりも内面の美しさであることは非常に同意します。内面が外見に表れるのも確かだと思います。

 

しかし「見えない人」の妹が結婚の準備をしてくれる場面。

妹が少女の体を洗うと傷やかさぶたや汚れが消え、髪をとかすと長く伸びて艶やかに輝きだし、この世に2人といないのではないかと思えるくらい美しい少女になるのです。

 

・・・結局美人になるんかい!と突っ込みました。

「中身が同じなら美人の方がいい」という本音が聞こえた気がしました。

 

 

★★★〈終わりに〉★★★

大切なのは内面の美しさ、と言うミクマク族の価値観が反映された物語ですが、「理想は内面も外見も美しいこと」という人間の本音が滲み出ていると思いました。

確かに外見が美しいに越したことはありませんし、内面が美しいからといって肌や髪まで美しくなるものではありません。

「美しい人」になるには、内面を磨くだけではなく、物理的手段をもって外見を磨くことも必要なんだなと思いました。