住職様と祖母
祖父の納骨にも入院で参列できなかった祖母は心底落ち込んでいた。そして、ホスピスに移ってからは自分の葬儀の話をしなくてはと、住職様とお話しすることを強く望んでいた。しかし、もう電話で話せる状態ではなかった。母は、住職様に会いに来てくれないかとお願いすると言った。父とおじは「そんなことできるのか?!お忙しいだろ?」「え?神父様は来てくれるよ?住職様も同じじゃない?」と私が言うと「神父様は、そんなこともしてくれるのか?」と驚いていた。そして数日後、住職様が会いに来てくださることに。とは言っても平日午前。みんな仕事だ。介護休暇中のおじと、午後から出勤だった私が同席することに。「車を置いてくるから、先に住職様を探してきてくれ。いつも早めにいらっしゃるから、もう到着しているかもしれない」ロビーに着くと一発で見つかった。やたら姿勢の良い坊主頭が見えたからだ。紺色の作務衣のような、初めて見る衣装姿の住職様。混んでいるのに住職様の周りには誰も座らない。「住職様、孫の2トンです。本日はありがとうございます」え、住職?なんで坊さんが?などの声が聞こえた。住職様、視線を感じで居づらかっただろうな。「ああ!良かった。早く到着してしまいまして。ここは病院ですから、正装で来るのはいかがなものかと思いまして…私はこの格好で良いのでしょうか。一応袈裟も持ってきておりますが、周りの方も驚くかと思いまして」合流したおじと相談し、袈裟は無しでこのまま会ってもらうことに。面会申請書の「続柄」のところに何と書けば良いのか分からず、「おじちゃん。えっと、住職様は住職様なので、住職と書けばいいのかな?」「そうだな。住職と書こう」息子、孫、住職…?なんか違う…のか?そんなアホなやり取りを見ていた住職様。「いえ、友人と書きましょう」なんとも美しい文字で住職様が名前の隣に友人と書いた。私とおじの残念な字が、さらに際立つ。受付に出すと、なんとも不思議な視線を浴びる。「わたくし、友人でございます」「え、あ、はい。ハンコ押します。どうぞ」続いてナースステーションに申請書を出す。「えっと…?」「わたくし、友人でございます」「「母の(祖母の)友人です」」「友人…」神父様が良くて、住職様がダメなんてことは絶対ない。というか、友人(と、おっしゃってくれている)の職業がなんであろうと、面会できない理由にはならない。面会時間は30分と決められている。早く行かないともったいない。「住職様、祖母はこちらにおります」「…え?!住職?!」廊下を歩きながら、「住職様、申し訳ないです。ロビーから何から、不愉快な思いをさせてしまいました」「とんでもない。ここは病院ですよ」穏やかにおっしゃる。「母、もう話せないんですが、耳は聞こえています。何かお話をしてくださると、母も喜びます」「承知しました」祖母は寝ていた。「母さん、住職様が来てくださったよ」「おばあちゃん、2トンも来たよ。住職様がいらっしゃったよ」うっすらと目を開け、手を上げた。「身体を起こしてみよう。2トン、ベッドの背もたれ動かして」背もたれを上げると、祖母が懸命に話し出した。久しぶりに声を聞いた。「あ〜これはこれは、ありがたい」と話しながら手を合わせたのだ。「どうも、◯◯寺の住職です」目の前にいるのが、自分の住職様だと認知できなかったようで「◯◯寺の住職様をご存知だか??夫がお世話になって、本当にいいお寺で、大して良くしてくれる住職様なんだ」「母さん、そこの住職様だぞ」「あや、見えなかったもんで。そうであったか。ありがたい、ありがたい」信じられないほど話すじゃないか。「住職です。お久しぶりに会えましたね。身体の痛みはいかがですか?」「それがね、まったく痛くないの。痛くないのに、身体がしんどいんだ」「そうでしたか。痛みがないと聞いて安心しましたよ。私に何かできることはありますか?」「お願いがあります。私が死んだ後、どこにいるかを、どこへ拝むかを、どうかひ孫たちに住職様から教えてあげてもらえないかと。父さん(祖父)と一緒にいるから何も心配いらないのだと、ひ孫たちに教えてほしい」「分かりました。必ずお伝えします。安心なさってくださいね」「ありがたい、ありがたい」「母は、父と同じくすい臓がんでした。痛みが無く、珍しいケースだと先生から聞きました。痛みが無いため、発見が遅くなりました」「旦那様と同じでしたか…それはそれは」「仲良しなもんですよね、本当に。残り時間10分だな…。母さん、せっかくだから住職様に何かありがたいお話をしていただこうか?お願いできますか住職様」住職様、一体何を語るのだろうか。「では、わたくしたちの教えについてお話いたします」