・4. スズ(tin)Sn
来 歴
スズは古代から人類に利用されている金属のひとつである。
空気中、水中で腐食されず、展延性に富み、かつ他の金属と合金を造りやすい性質があることからその用途は広い。
銅との合金である青銅は5000年以上の歴史を持つ。
スズは地殻中に0.001%と比較的微量である。
主鉱石は天然の酸化スズ(Ⅳ)であるスズ石が重要である。
スズの主要産出国はマレーシア、インドネシア、ボリビア、タイ、ロシア、中国、ブラジルである。またアメリカではスズの再利用を進めている。
主な用途は、無機スズでは活字用合金、軸受用合金、錫箔、スズ器、鋳造用ブリタニアメタル、歯科用アマルガム、ガラスの強化、触媒、タイルやセラミック製品の顔料としても使われる。
有機スズは、1950年代以降に合成が盛んとなり用途も増した。触媒、殺生物剤などがある。
缶詰のメッキとして使用されている。
スズによるメッキはを施されたものは白缶といわれる。
白缶は果実缶詰などに主として使用されているが、その還元力により、褐変を防ぐ、特にビタミンCの分解を防ぐなどの理由で使用される。
中毒症状・毒性
無機スズ化合物の急性中毒は、缶ジュースや缶詰フルーツに高濃度のスズが含まれていたことによる症例が世界各地にある。
主な症状と徴候は、吐き気、嘔吐、下痢、疲労感および頭痛である。
缶詰中の食品が高濃度のスズを含む原因の多くは、硝酸肥料を施した土壌で生育された作物が高濃度の硝酸根を含有したり、何らかの理由で缶のメッキが腐食されたことによる。
有機スズ化合物は、一般式RnSnX4-nで示されるが、Rの種類と数により毒性は大きく異なる。
そして無機スズ化合物よりはるかに強い。
トリアルキルスズ、中でもトリメチルおよびトリエチル化合物の毒性が強い。
トリ体は脳血管関門を通過するので中枢神経系の障害、脳浮腫の原因となることがある。
トリ体の中毒症状としては四肢の脱力・麻痺、全身の振戦などである。
経皮、吸入曝露ともに重症例では激しい頭痛、強い嘔吐、心窩部痛を訴え失神状態に至る。
モノ体の毒性は、ジ体およびトリ体に比べ低毒性である。
ジ体は皮膚、粘膜に対して刺激作用がある。テトラ体では一般にトリ体類似の作用があるが、これは生体内で脱アルキルされ、トリ体の型になるためと考えられている。
有機スズ化合物の慢性中毒では、ブチルスズ化合物製造従事者が、曝露16ヶ月目に味覚の減退を訴え、その後8ヶ月間症状は進行した。
その他の症状は後頭部の頭痛、鼻血、倦怠感、肩こりなどである。
代 謝
無機、有機スズともに経口摂取では腸管吸収率は低く、無機スズは胆汁へ排泄され糞便として体外へ、有機スズでは糞便中へ直接排泄される。また尿中からも排泄される。
食品衛生上の注意点
食品衛生法によるスズの規格は150.0ppm以下である。
スズは白缶の内面塗装に使用されているが、現在の缶にはスズが一定以上溶出しないように工夫されており、購入後に開缶後、そのまま冷蔵庫等に保存すると急激にスズが溶出する。
したがって、開缶後に保存する場合には、内容物を綺麗なガラスの容器に保存することが必要である。
食中毒事例
トマトジュース缶詰による中毒、柑橘ジュースによる食中毒が発生したことがある。これらはいづれも亜硝酸によるものであった。
前者は未熟の原料を使用したことによる。後者は地下水の中に亜硝酸イオンが入っていたことによる。
この事件を契機に食品、特に缶詰に使用する地下水についてはイオン交換処理をおこなうようになった。
スズが10ppm以上含まれる食品