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TITLE:
俺の魂を返せ。
SUBTITLE:
~ The Kleptocracy. ~
Written by BlueCat

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::「アラトさん、その《人類未到産物(レッドボックス)》を信用しすぎるのはおやめになって。コントロールされています」
「リョウもそう言ってたけど、僕はそこまでチョロくないよ」
 彼女は、売り言葉に買い言葉になるのを避けるために、反論を静かに飲み込んだ。すぐにアラトのほうが、会話が止まってしまったことに耐えられなくなった。
「確かに僕はチョロいよ。認めるけれど、それなりに考えてるから」
「人が良いにもほどがあるでしょう」
 紫織でさえ彼の扱い方がわかる。しかも相手は《人類未到産物》なのだ。
 
 
 

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220425
 
 専業主夫なので不労所得者である。
 誰がって僕が。
 
 いや家事労働は就労であり、賃金換算すると年間いくらだよ、という話も分からないではない。僕の一人暮らしは人生の半分を超えているし、家事なら(料理が主だが)人生の4/5以上を費やしている。
 しかし何でもお金に換算するのは如何なものか。家事は無償で提供される愛情の形態だ。
 愛情を換金するのは勝手だけれど、その価値観を押しつけるのはやめて欲しい。これでも過去に一度、酷い思いをしているのだ。
 
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 弟子との電話で「猫さん、これまでの人生で一番ドン引きしたことって何かありますか」と問われ、答えて曰く。
「結婚することで合意した相手に、合意からひと月もしないうちに『お金の話とか、ちゃんとしたい。年金受給額とか』って言われたときかなぁ。この人、そういうの目当てなのか。それなら他にもっといい物件があるだろうに、と思ったよ」
 
 無論、相手が僕より有能 ── たとえば奥様(仮想)のように ── であればまったく問題はないが、算数もろくにできず、家計簿を付けているくらいのことで「自分はちゃんとしている」と勘違いする程度のけっこう致命的な有能さだったので、結果は惨憺たるものだった。
 
 一人暮らしはしているが、納税を含め親の扶養に入ったままの、いわば上京してきた大学生程度の「一人暮らしエキスパート」である彼女によると、彼女の職場に持ち込まれる夫婦間の問題 ── そういう探偵みたいな職業もあるのだ。カウンセリングの事務所だけれど ── の最たる火種がそれ(つまり経済)だと語っていた。
 
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 職務経験 ── 。
 
 ところで今の僕の本業は思想家(自称)である。
 自称しないと自分でも忘れてしまうことがあるからときどき書いておこうかな。
 経済効果をまったく生んでいない(僕の思想は1円にもならない)ので職業とは言いがたい。誰かの役に立っている覚えもない。きっと役に立っていないだろう。
 コスプレ以下 ── 全力で趣味に打ち込んでいる人たちを引き合いに出すのが申し訳ないほど ── の本業である。
 
 実世界では広義のエンジニアだったり、金融業(主に保険販売)をしていたが、未だにあの業界は好きではないし、15年以上の業務経験を誇りにも思っていない。嫌な仕事だったが、だからこそ押し売りをしないで済んだと自負している。
 
 職務経験というのは結局のところ「換金可能な能力やサービスを提供することで蓄積された経験」に過ぎない。
 僕の場合は「益体もないことを考えるのが好き」という能力と「保険を売りたがらない保険売り」というサービスが一部のお客様にウケてしまったので、それらが換金されていた。
 そこから得られた知識や経験がなかったとは言わないが、僕に必要だったのは換金可能な能力を使う経験ではなくて「一般的な人としての振る舞い」の方だった。
 
 いかんせん人生がエキセントリック(偏心)しているので、一事が万事(は言い過ぎだと思うゾ)、一般から遠い価値観であることを30代半ばにして気づいたのである。
 ゆえにただ自然体で、他の人と接しているだけで、相手にはかなり面白がられた。
 
 ちょっと高そうなスーツを着て、きわめて真面目そうで優しげな風貌のセールスマンが実は変人で、論理立てて金融商品の無用性について語るのである。
 話の節々で ── 通常なら ── 「万が一」なんてぼかした表現にするところを「コロッと死んじゃったとき」と言ってみたり、「『不慮の事故』なんて言いますけれど、予期できたり意図されたものだとしたらそれは事故じゃなくて事件ですよね」と言ってみたり。
 
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 ちなみに今だから話せるが、民間の保険会社の代理店だったのに、僕の鞄には必ずと言っていいほど県民共済とこくみん共済のパンフレットが入っていて、ついでに他社商品のパンフレットもときどき持っていた。
 比較して「うちの保険に!」というのではなく「まず県民共済で下積みの補償をしてですね」なんて始める。
 損害保険/共済(自動車/火災/地震/賠償責任)は重ね掛けすることができない(しても意味がない場合が多い)が、生命保険/共済は重ね掛けすることができる。
 
 民間保険にも共済保険にもそれぞれメリット/デメリットはあるが、それを踏まえて説明 ── 「一般論」以上の説明をすることは保険業法で禁止されていたはずなので「一般論」しか言っていなかった ── し、相手の要望に合わせて(特段の要望がないなら、まずは共済に加入してもらった上で)自社の保険を紹介していた。
 他社商品のパンフレットも「こちらの方がいい商品なのですが、僕から説明したり販売することができません。どうかこの会社に連絡して加入してください」という使い方をしていた。
 
── 自分の会社の商品売れよ俺。
 
 しかし僕にとってはそれが「お客様ファースト」の体現であり、少々過剰な気はしたが知識を持っている者の責務としてそのくらいがいいだろうと感じていたので、法に抵触しない範囲で ── しかし会社側としては問題のある ── 行動をしていた。あとよく油を売っていた。べつにガソリンスタンドでバイトをしていたわけではないからね。
 
 気に入る人は気に入ってくれたし、他社の商品(加入済みも含む)についての率直な感想を求められることもあり、ときに電卓で掛け金累積と保険金額や返戻金を比較して見せながら一緒に考えたりする時間は楽しかった。
 結局そういう人たちは、多少掛け金が高くても僕の会社の保険に加入してしまう。
 僕としてはリスクヘッジをして欲しいから、他の会社や代理店にも入ることを勧めるのだが、これがだいたい逆効果だった。
(これは職務だけでなく僕がモテることにまで利用され、結果、僕は異性にモテた。大事な人だからこそリスクヘッジの選択肢を与えているのに、相手はリスクヘッジの選択肢を放棄して僕にべったりになってしまって本末転倒になる。理屈は理解しているが今回は説明しない)
 
 いずれにせよ僕は経済至上主義が大嫌いではある。
 経済そのものには罪がないから嫌いではないが、経済至上主義というのは価値観であり概念であり理念であり人間の作ったものである。だから嫌いになってもいいし僕はそれを嫌う。あいつらを許すな(今月5度目の呪詛)。
 
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 ともあれ彼女の職場が「様々なトラブルを抱える人がやって来る場所」であったことは職務上事実であったのだが、彼女自身は専門家としてのスタッフではなく、アシスタント(有り体に言えば雑用)だったわけで、トラブルにおけるメカニズムの根底を知っているわけではないし、そもそもそういう場所にやって来る人というのはある程度限定された特性の持ち主ではあるのだ。
 
 たとえば僕ならトラブルをアウトソースすることは少ない。大抵のことは自己解決する。
 誰かとの人間関係でトラブルが発生した場合も、余計な人間や価値観を含めて多数決的な解を導くよりも、お互いの価値観をすり合わせることでバイパスを作ろうと考える。
 つまり僕からすると「トラブルをアウトソースする程度にはデリカシィや知性に欠け、第三者がいることによってフェアな係争が可能になると勘違いしている多数決主義的 ── つまりは常識的 ── なぶん少々愚かな人」が、トラブルを抱えてやって来て、そのトラブルや人間関係を見続けていたことをして「職務経験」と彼女は言っていたわけだ。憶測だけれど一般論からこの程度は導くことができる。僕はこれでも思想家(笑)だからな。
 
 そしてその「狭い範囲に観察された人間たち」のうち、夫婦でトラブルを持ち込んでくるケースについて、何らかの形で「お金の問題」が絡んでいるという場面を多く見ていたと。
 
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 僕自身の経験から言っても、職務経験なんてその程度のきわめて狭量なものであって、他人に自慢するような経験をしている人なんてほとんど居ないだろうし、自慢できるような経験をした人ほどそういうことは黙っているものだと思う。
 実社会では引退を待たずして自身の経歴をひけらかす輩に事欠かないが、己の住む世界が全てだと思える単細胞さが羨ましいくらいだ。
 ましてその極めて限定的な経験から一般論を展開して、それだけでなく他人に押し付けるというのは、今から考えるとアタマオカシイのだけれど当時の僕は気付かなかった。
 おそらく、自分に害為す人間だとは思っていなかったのだろう。
 
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 それで彼女は思いついたように ── あるいは念頭にあってか ── 「お金の問題」と言い出したものの、当時の彼女は半分無職であるし、前述の通り親の扶養で暮らしているし、僕は自力で家計管理をしていた(でなければ一人暮らしはできない)。
 しかしそれでも「家計管理は妻の仕事」というこだわりがあったのだろう。
 そこで何となく「年金受給額」について閃いたのかもしれない。
 年金なんて若い頃からまったくアテにしていない ── ために人生のリミットを最長で65歳に設定してある ── 僕にとってみれば「自分で税金も払ったことのない人が(いやだからこそ、か)何だかなぁ」とは思ったのだ。
(あるいは今思えば、最初から単なる打算と損得勘定で近づいてきたのかもしれない。)
 
 ただ僕は結婚生活を送ったことがないし、もっといえば家族という組織に属していなかったので、それが機能している姿を見ていない。よってその機能を知らない。家族や夫婦というものを僕は知らないのだ。
 彼女は幸いにして ── おそらくいくつか問題はあったにせよ ── 家族が揃っていたし、その機能も(少々過剰だったようだが)動作していた。
 
 家族や家庭環境という機能を経験することについては彼女に一日の長があったわけだ。
 もちろん家庭や家族環境に長く浴していた人というのは、それをひな形として自身の作る家庭に当てはめがちであることは僕も理解していたが、ひとつ間違えれば幼児虐待などを平気でしかねない自分の性格 ── というより一部の禍根による価値観 ── を知り、危惧してもいたので、概ね彼女の言うとおりにあれこれすることにはなった。
 
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 結果からいうと、彼女は自殺未遂までして僕をコントロール ── つまりは言いなりに ── しようとした。
 それまでの時点で携帯電話やWebに届くメールは転送させられ、不在時に過去の紙媒体の日記を勝手に読まれ、さらに何らかの「証拠」を探そうと書架の本をすべて漁ったのだろう、ある日突然、書架の本が整理されてしまった。
 友達を含めた連絡先を遮断され、15年以上勤めた会社を辞めることを示唆され、ついで無職であることを非難され、そうやって次々と僕を孤立させ、その日常を支配下に置いていった。
 ときどきいる異常な人(DVをする人や、サイコパスと呼ばれる分類の人たち)の支配パターンであるが、これも彼女の「職務経験」がもたらした技術だろうか。
 
 もちろん、僕に全くの非がないわけではない。
 結婚に合意した時点では、僕にはまだたくさんの人間型の恋人がいたから。
 また当時は負債もあったし ── 今のほうが桁違いにあるのだが ── 、他にも叩けば埃が出るのが僕の人生だ。叩きたい奴は叩けばいい(むせるのはお前だゾ)。
 
 崩壊した貧しい家庭に育って、20代から一人で生きている人間なら多少の泥水は呑むものだろうけれど、それをいちいち「僕って苦労しているんです」なんて語るような阿呆が嫌いなので基本的には黙っている。
(ちなみに最近泊まりに行って知ったのだが、僕の2番目の姉は ── 当時17歳だったのに ── 家を追い出され、自力で暮らしていた。センパイすげぇな、って思った)
 
 オカネモチーになったらなおさら、過去の苦労話なんてしたくない。
 苦労は人を育てるかもしれないが、苦労を得意げに語る奴がそののち成長するのは見たことがない。
 これは本質的に、下り坂に差し掛かっている証だからだ。
 
 上り坂を上っている人間は、その坂が急であればあるほど言葉もなく歩を進めるものだ。愚痴を言う余地も、体力もない。
 愚図々々言っている人間は、つまりそれだけ緩い坂を上っているというわけだ。
 だから「泥水を呑んだ」くらいの表現が僕の妥協点であり、その内容については乗り越えた今でも語りたくないし、思い出したくもない。
 今振り返れば「泥水を呑む」に至った理由も、自身の経験や能力が足りなかったからだと考えられる部分があるからなおさらだ。
 
多くの人が泣いたという『おしん』の幼女時代も、私には少しも泣けなかった。それはきっと、私が苦学力行とか苦節十年とかが、あまり好きではないからだろうと思う。それどころか、そういう人は偉いとは感心はするけれど、成功後のそういう人たちの言葉や行ないの端はしに、なにかしらゆがんだり貧乏くさかったりするところを見出すことがあって、そのたびに、できるならば人間、陽の当たる道を進むにこしたことなし、と思ったりするのだ。
 なにひとつ苦労のない人生を、良しとするわけではない。ただ、人間には、運に恵まれる人と恵まれない人がいる、と思うだけである。
 
── 「男たちへ」(著作:塩野 七生 / 発行:文春文庫)
 
 以来、僕は強い人間不信に駆られ、女性という女性が僕の ── 雀の涙にも満たない ── 年金をアテにしているのではないかと疑心暗鬼に駆られ(さすがにそれは言い過ぎだが(笑)、いわゆる婚活市場は経済市場原理で動いているように観察している)、オフラインで日記を書くことが心底恐ろしくなり(叩けばいくらでも埃が出るんだ)、結婚はおろか恋人を増やす(←表現が悪い)気持ちもなくなった。
 
 最終的にその恋人は、僕を思い通りにすることに失敗した。
 僕にはあまりにも足枷が多く、また癖も強い(その程度の自覚はある)から、僕より頭の良い人でなければ制御できないだろうと自分では思っている。
 
 申し訳ないと思うのは、当時、急に結婚を決意したことで別れることを宣言された恋人たち(まことに複数形)に対してである。
「私以外にも誰かいそうだなぁ」と思っていたとしても、そんなことをいちいち確認したり指摘したりせず、僕の日々を楽しくしてくれていたのは他ならぬ恋人たち(たびたび複数形)だったのだから。
 
 もっとも数年してから「猫クン元気〜?」なんて、しれっと電話を掛けてきて、結婚していないことを知るや「じゃ、こんどちょっとお出かけしようよ! 露天風呂とか!」とお風呂デートに誘ってくるガールがいたかと思えば、数年に一度しかやりとりしない恋人に至っては、僕の結婚話なんてまったく知らなかった(こちらも別れ話を持ちかけ忘れていた)ので、人間社会って面白いなぁ、と思っている。
 
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 一度書いたことがあったかもしれないが、その、結婚しようと思った恋人は、直前まで千葉県あたりで生活していた人なのだが、どういうわけか僕の前に付き合っていた恋人(もっとありていに言えばセックスフレンド、あるいはSMの相手。いずれにしても同じ千葉県にいるはずの人)が、気付けば僕の住んでいる街の隣の市に暮らしていた。
 自殺未遂をした彼女を病院に運んだ直後、その人に身元を預けた。
 アタマオカシイ人たちは、アタマオカシイ人たちでコミュニティを形成すればいい。
 僕は加害者になろうとも被害者になるつもりはないし、ぐちゃぐちゃにされた日常に疲れきっていた。
 
 彼女は当時、性風俗のバイトをしていて、にもかかわらず「結婚はしなくてもいいから子供が欲しい」などと言い出すので結婚しようと思ったのだったか。
 
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 失踪している3番目の姉は、やはり性風俗の仕事をして何度となく結婚と(出産と)離婚を繰り返した ── 僕が一人暮らしをすることになったきっかけは、その姉が出戻って僕の部屋を占拠したことによる ── が、つまるところ性風俗をしている女性の一部には、そうした少し歪んだ自己実現のセオリィが生まれてしまうのかもしれない。
 
 他にも性風俗をしていた友人(恋人ではない)がいて、よく話を聞いたが、換金するためのサービスとして身体や(一時的にであれ)価値観や精神を切り売りするのは、相当に神経をすり減らす。
 いかんせん相手は、多く身体も大きく力も強い男であり「仕事」をする場所は、密室なのだ。
 アタマのおかしいサービス(たとえば持参したタッパーに大便をしてほしい、とか)を要求されることもあると言っていた。およそまともな世界には思えないが、そういう人間もいるということだ。
 
 いやなに、特殊な(あるいは異常な)性癖があったとしても、それを恋人や配偶者に求められない人だっているだろう。性癖が異常だからといって、一概にその人格が異常者だとは限らないように思える。それをお金で解決しようとするのは、ある意味で現実的な大人の対応だろう。
 
 しかしそうした「他人のちょっと異常な側面」に接し続ける仕事が、人間の価値観ひいては人格に影響を及ぼさないようには思えない。
 実際に、僕の知るその3人の性風俗をしていた人(恋人、友人、姉)は、もれなくプライドが高く、もれなく自己愛が甚だしく、もれなく愛されることを心の底で欲していて、そしてもれなく精神的に破綻していた。
 
 失踪した姉がそうであったように、その友人も最終的に生活保護を受けて暮らしていたが、僕の猫を譲り受けた挙げ句に突き返してきて以来、僕から連絡を絶った。
 
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 かつて姉がそうだったように、虚無のような闇をたたえた目をして、婚約者が僕を見ることがあった。
 今はそれが、支配したくて、愛されたくて、しかしそれをカタチにできない狂気の表情だと分かる。
 
 本人に自覚はないのだろう。あの仕事はよほどの才がない限り、表情を失うのだ。
(僕が性風俗も、接待飲食風俗も利用しない、一番の理由はそれだ。ゆっくりと目の前の人間が腐ってゆくのだとして、それを傍観して楽しめるほど、僕は強くはない)
 
 ためにときどき性風俗業で成功し「この仕事は楽しい」と言っている人を見ると、僕は少し安心する。
 もれなく従事者を不幸にするような仕事なんて、ない方がいいと思うからだ。
 少なくとも性風俗を天職だと思い、人間の異常な側面に侵されない人格の持ち主が一人でも従事しているというのなら、それは少なくとも僕にとって十分に救いがある。
 
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 見ようによって、僕はその恋人を、救おうとして救えなかった。おそらくそれは事実だろう。
 その点について、僕は無能だったと思う。
 しかしそれで良かったとも思う。
 僕がそのまま支配されることによって彼女を幸せな気持ちにしたところで、それは一時的なもので、おそらく今度は僕が虚無のような闇を瞳にたたえることになるのだ。
 
 おそらく僕が自分をなるべく変えないように ── そして同時に変えようと ── しているように、彼女のような永劫の飢餓を抱えた人間は、自らそれを満たせない限り、満たされることがない。
 
 彼女は最終的にある日突然家を出て、泥酔した状態で電話を掛けてきて「どこにいるのか分からない」と言ってきた。
 それから1週間ほどして、荷物をまとめて黙って出て行った。
 
 僕は酒に酔っても自我や自制を失ったことがなかった ── 記憶を失ったことはあるのだが、それでもなお、倒れるまで静かに飲んでいたらしい ── ので、彼女の酒癖の悪さには辟易していた。
 しかも目の前で一緒に呑むならいいが、僕のいない間に隠れて飲むのである。
 それ以外にもよく下手な嘘をつき(前述のセックスフレンドの家にたびたび出かけていたことも含め)、そのたびに目が泳ぐ、嘘の下手な人だった。
 
 自殺未遂をして倒れているのを発見したときも、酩酊状態だった。
 分からない。
 そういう弱い人間は、本人の弱さによるものなのか、あるいは環境が醸成した弱さなのか。
 
 僕は彼女のその弱さを見捨て、自分を助けた。
 もう他に、助ける人はいなかった。
 他の、本当に助けるべき人について、僕はすでに手放していたからだ。
 
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 以来、誰かを助けようとは思わなくなった。
 僕には弱い人間を助ける能力もないのだと、つくづく思い知ったので。
 
 僕は誰もが見られる環境にしか日記を書かなくなり、本を読まなくなり ── そうこうするうち目が悪くなり(笑) ── 、人を信じなくなり、人を近づけなくなった。
 死んだ叔母が、僕を支配しようとしていたとき ── ああ、これを俺は知ってるな。 ── と思ったものだ。
 だから僕はそれをうまく切り抜けた。
 自分たちの介護をする甥(40歳を超えている社会人)が煙草を吸ったくらいで追い出すだろうか。
 つまり叔母もまた(性風俗こそしていなかったが)支配できないと愛されている気持ちになれない人間だったのだろう。
 しかし、対象を支配したって愛されることはない。なぜそんな簡単なメカニズムが分からないのだろう。
 愛することは支配されることではないし、支配することでもない。
 愛されることだって同様だろう。
 だから僕は、そうした連中を、アタマオカシイと断ずるのだ。
 
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 仕事をしなくても暮らせる程度のオカネモチーに今はなったが、経済というのは結局、経済でしかない。
 人間どもにとって、これがそれほどまで大事だというなら、そのまま誰かにくれてやる。
 しかし僕は自分の魂を ── すでにひとつ悪魔に売っているが ── 誰かに明け渡したりはしない。
 
<多分しないと思う。しないんじゃないかなぁ。ま、ちょっと覚悟はしておけ>
 
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::いや家事労働は就労であり、賃金換算すると年間いくらだよ、という話も分からないではない。僕の一人暮らしは人生の半分を超えているし、家事なら(料理が主だが)人生の4/5以上を費やしている。
 しかし何でもお金に換算するのは如何なものか。家事は無償で提供される愛情の形態だ。
 愛情を換金するのは勝手だけれど、その価値観を押しつけるのはやめて欲しい。これでも過去に一度、酷い思いをしているのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 

// ----- >>* Escort Division *<< //
 
 
::「兄と比べられて自信をなくしていると、父に諭されたものですわ。お前に、【何も持たないかのように振る舞えと言う者】を疑いなさいって。勝負のテーブルにつかず、資産を死蔵していてもらいたい者は常にいて、お前を誘導しているんだって」
 
 
 

// ----- >>* List of Cite Division *<< //
[出典]
~ List of Cite ~
文頭文末の引用は、
「BEATLESS」(著作:長谷 敏司 / 発行:角川書店)
によりました。
 
なお、引用文中のルビ文字は『()小括弧』にて、傍点強調は『【】墨付き括弧』にて記述しています。
 

// ----- >>* Junction Division *<< //
[NEXUS]
~ Junction Box ~
[ Traffics ]
 
[ Cross Link ]
// ----- >>* Tag Division *<< //
[Engineer]
  :青猫α:青猫β:黒猫:赤猫:
 
[InterMethod]
  -Algorithm-Blood-Convergence-Darkness-Ecology-Interface-Mechanics-Recollect-Stand_Alone-Style-
 
[Module]
  -Condencer-Generator-Resistor-
 
[Object]
  -Human-Koban-Memory-
 
// ----- >>* Categorize Division *<< //
[Cat-Ego-Lies]
  :ひとになったゆめをみる:
 
 
 
//EOF