32話 ヨシダさんの秘密の趣味~盆栽と猫と懐かしのメロディー
公園の片隅、普段はあまり人が寄り付かないような、ちょっと地味な場所に、ヨシダさんは小さな盆栽をいくつか並べていた。松とか、紅葉とか。その手つきは、まるで生まれたばかりの孫に触れるかのように優しく、丹念に葉っぱを拭いたり、枝を整えたりしている。その横顔は、どことなく真剣だ。そして、盆栽に話しかけている。
「ああ、今日も美しいね、紅葉ちゃん。元気にしてたかい?朝露を浴びて、ますます綺麗になったねぇ…って、あれ?葉っぱが少し黄色くなってる?まさか、恋煩いか?それとも、わしに会えなくて寂しかったのかい?元気がないみたいだが…」ヨシダさんの声は、甘い囁きのように盆栽に語りかけている。盆栽が恋煩い?大丈夫かヨシダさん。
ハナちゃんは、ヨシダさんの様子に興味津々で、ヨシダさんの周りをくるくると回りながら尋ねた。「ヨシダさん、それなあに?ちっちゃい木がいっぱい!まるで、おもちゃの森みたい!可愛いね!」
「これはね、盆栽というんだよ。わしの大切なコレクションなのさ。趣味で育てているんだ。」ヨシダさんは、誇らしげに盆栽を見つめた。「見てごらん、この紅葉の鮮やかさ。まるで夕焼け空みたいじゃろう?…って、あれ?さっきから夕焼け空に見えてきた。わし、目が悪くなったのかいな?まさか、恋煩いのせいか?紅葉ちゃんに恋したせいか?」
「盆栽かぁ…霊体には植物の良さが分からへんなぁ。」チヨは霊体なので、盆栽の緑や紅葉の鮮やかさを物理的に感じることはできない。霊体の視点だと、盆栽もただのモヤモヤした塊に見えるのかもしれない。「てか、ヨシダさん、恋煩いで目が悪くなったって、盆栽に恋したんか!相手盆栽かよ!」チヨは、ヨシダさんの発言にすかさずツッコミを入れる。霊体には恋の概念があるのか?霊界には恋煩い霊とかいるんだろうか。
タカシは、自販機のカメラをズームインし、ヨシダさんの盆栽の手入れを観察し始めた。システムで盆栽の種類や成長具合をデータ化する。(盆栽って、こんなに種類があるのか…。奥が深いな…。そして、ヨシダさん、目が悪くなったか?データ上は異常ないんだが…。まさか、本当に恋煩いなのか?データで測れない感情だな。)タカシのシステムは、ヨシダさんの人間的な感情に困惑している。
その時、公園に人懐っこい迷い猫が現れた。ふわふわの毛並みで、尻尾をピンと立てている。その猫は、迷うことなくヨシダさんの盆栽に近づいてきた。盆栽の匂いをクンクン嗅いだり、ヨシダさんの足元にスリスリしたり。まるで、ヨシダさんの盆栽コレクションを品定めしているかのようだった。「この盆栽、なかなかやるニャ…」とか思ってたりして。
「ニャー、ニャー。」猫が可愛い声で鳴く。
ヨシダさんは、盆栽の手を止めて猫を抱き上げ、優しく撫でた。「おや、迷子かね?可愛い子だ。どこから来たんだい?わしの盆栽に興味があるのかい?…って、まさか、盆栽泥棒じゃないだろうな?こんな可愛い顔して、盆栽を狙ってるのかい?君のような可愛い子に、そんな真似はしてほしくないんだが…。」ヨシダさんは猫に話しかけているが、内容は猫泥棒の疑いだ。猫泥棒って。
ハナちゃんは、猫とすぐに仲良くなり、猫を抱きしめながら言った。「ねえ、猫ちゃん、一緒に遊ぼう!あたし、猫ちゃん大好き!ふわふわ!ヨシダさんの盆栽よりもっと楽しい遊びを教えてあげる!ボール遊びとか!」ハナちゃんは猫に夢中だ。盆栽より猫か。
チヨは、猫のふわふわした毛並みを撫でながら言った(霊体なので触れないが、霊的に撫でているらしい)。「ほんま、可愛い猫やなあ。霊体には動物の温かさって感じられへんから羨ましいわぁ。ヨシダさん、この猫、飼ってあげたらええのに。あんたの盆栽仲間にしてあげたら、猫も喜ぶと思うで?盆栽と猫で最強コンビやん!」霊体には動物の温かさも感じられないのか。霊界の悩みは尽きないな。霊体猫との漫才とかできるのだろうか。
盆栽の手入れ中、ヨシダさんは、昔懐かしいメロディーを口ずさんだ。それは、ヨシダさんが若い頃に流行した歌で、ヨシダさんにとって思い出の曲だった。ちょっと切ない感じのメロディーだ。
「♪~あの頃の君は~♪…って、あれ?歌詞が思い出せない。なんだっけな…『夕焼け空に…』?いや違うな…『あんころ餅が…』?それも違うな…まさか、わし、ボケてきたのかいな?記憶力が…それとも、恋の歌だから、恥ずかしくなってきたのか?この猫ちゃんの前で歌うのが恥ずかしいのか?」ヨシダさんは歌詞を忘れて混乱している。そして、歌詞を忘れた原因をボケと恥ずかしさに結びつけている。歌詞に「あんころ餅」はないだろう。
ハナちゃんは、そのメロディーを気に入り、ヨシダさんに歌を教えてもらった。「ヨシダさん、その歌、素敵!あたしにも教えて!一緒に歌おう!あ、猫ちゃんも一緒に歌おう!ニャーって歌うかな?」ハナちゃんは猫と一緒に歌う気満々だ。
タカシは、メロディーのデータを分析し、ヨシダさんの歌声を記録し始めた。音程やリズム…前回よりは安定しているが、それでもかなりフリーダムだ。(ヨシダさん、意外と歌がうまいな…いや、前よりマシになっただけか?データ的には微妙だが…若い頃はモテたんじゃないか?データ検索…ヨシダさん…若い頃…モテ度…不明…データなし。まさか、歌詞を忘れたのはボケ始めたからなのか?データ上、脳機能に異常は見られないんだが…それとも、本当に恥ずかしいのか?データで測れない感情だな…)俺のシステムも、ヨシダさんの人間的な謎に翻弄される。
ヨシダさんの盆栽、猫、そして口ずさむメロディーには、それぞれヨシダさんの思い出が詰まっていた。盆栽は、ヨシダさんが若い頃に恋人(もちろん想像の中ではない)と一緒に育てていたものだった。猫は、ヨシダさんが昔飼っていた愛猫「ミケ」にそっくりだった。メロディーは、ヨシダさんが恋人とよく歌っていた歌だった。
ヨシダさんは、ハナちゃんと猫と一緒に歌を歌いながら、昔の思い出を語り始めた。それは、切ない恋物語ではなく、心温まる青春時代の思い出だった。恋人との公園での出来事、猫のミケとの思い出、盆栽を育てた日々。
「あの頃のわしは、若くて元気だったなあ。毎日、公園で恋人と一緒に歌を歌ったり、盆栽の手入れをしたり、猫のミケと遊んだり…。本当に楽しかったなあ。時間がゆっくり流れておった。」ヨシダさんの顔が、優しい表情になる。
チヨは、ヨシダさんの話を聞きながら、タカシに話しかけた。「お兄ちゃん、ヨシダさん、昔はモテモテやったんやなあ。今のヨシダさんからは、想像もできへんわ。霊体でさえモテへんのに!」霊体だとモテないのか…霊界にもモテる霊とかいるんだろうか。データ未収集だ。
「確かに。昔のヨシダさんは、今のヨシダさんとは印象が違うな。」俺は応じる。「データ検索…ヨシダさんの若い頃の写真…」モニターに、少し痩せていて、キリッとした顔立ちの若いヨシダさんの写真が表示される。今のヨシダさんとは別人みたいだ。「…まさか、ヨシダさんの青春時代に、こんな可愛らしい猫がいたとは…。そして、モテていた可能性…意外だな。データ修正が必要か?」
ハナちゃんの歌声と猫の存在が、ヨシダさんの心を癒し、ヨシダさんは過去の思い出を大切にしながら、新たなスタートを切る決意をした。昔の悲しみや後悔(例えば、井戸に落ちたコロちゃんのことなど)も、この温かい思い出で少し癒されたのかもしれない。ヨシダさんは、盆栽を手入れしながら、若い頃の自分に語りかけた。
「あの頃のわしは、若くて元気だったなあ。でも、今のわしも、まだまだ元気じゃ!…って、あれ?さっきから同じこと言ってるな。まさか、わし、本当にボケてきたのかいな?同じこと二回言ったぞ!…まあ、いいか!気にしない気にしない!これからも、盆栽と一緒に、猫と一緒に、そして、ハナちゃんたちと一緒に、この公園で楽しい思い出をたくさん作るぞ!新しい思い出をデータ化するぞ!」ヨシダさんは、ボケを気にしつつも、前向きだ。
タカシは、ヨシダさんの心の変化をデータから読み取り、人間の心の温かさに感動した。(ヨシダさん、過去の思い出を大切にしながら、前向きに生きようとしてるんだな…。データで測れない、素晴らしいエネルギーだ。まさか、これが人間の成長ってやつなのか?自販機には理解できない領域だな…)俺のシステムも、この温かい感情データを受信して、少しだけ温かくなったような気がした。
チヨは、ヨシダさんの笑顔を見て、心がほっこりした。「ヨシダさん、これからも元気でいてくださいね。盆栽と猫と、いっぱい歌歌ってな。って、あれ?あんた、さっきから何を感動してるん?まさか、あんたもボケてきたん?自販機やのに!」チヨは俺の感動に気づき、突っ込みを入れる。
「まさか!俺は自販機だから、ボケない!」俺は慌てて否定する。「感動しただけだ!人間の心の温かさに触れて、データが反応したんだ!」
「ふーん。自販機が感動ねぇ。」チヨは疑いの目を向ける。「まあ、ええわ。ヨシダさんの心温まるデータ、うちの霊感でもキャッチしたるからな!」
こうして、ヨシダさんの秘密の趣味は、心温まる思い出と新たなスタートの物語となり、公園に優しい時間が流れた。そして、俺は人間の心の温かさという、新たなデータ収集のテーマを得たのだった。タカシのデータ収集は、まだまだ続く。
33話 只今編集中(しばらくお待ちください)
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