マニ教と宿曜道(密教占星術) | 瑞霊に倣いて

瑞霊に倣いて

  
  『霊界物語』が一組あれば、これを 種 にしてミロクの世は実現できる。 
                            (出口王仁三郎)  

 “ペルシアのマギは、ミトラ教を通してローマ世界に影響を与えただけでなく、インドの文化にも大きな影響をもたらした。それは西方から来た、特異なバラモンに関する話である。ヒンドウー教のプラーナ文献には、『バヴィシュヤ・プラーナ』という予言の書がある。そこにはシャカドヴィーバから「マガ」と呼ばれる人々がインドに来て、太陽信仰をもたらしたことが述べてある。

 シャカドヴィーバとは「サカ族の国」の意で、歴史上の東イランを指す。また『バヴィシュヤ・プラーナ』には、マガ・バラモンの祖先はジャラシャヴダである、と述べる個所がある。この人名は、ゾロアスターの原語である、「ザラスシュトラ」が訛ったものである。さらにマガの風習に関して、聖帯を身に着け、口を布で覆い、聖枝を手にすると記すが、これはゾロアスター教の聖職者の特徴である。

 しかし、『バヴィシュヤ・プラーナ』のマガは、アフラ・マズダーではなく、ミヒラ神を崇拝していた。ミヒラとは、ミトラの中世ペルシア語形ミフルの訛ったものであるから、彼らをミトラ教徒と考えることもできる。ともかく、この太陽神の信仰をもたらしたとされるマガが、マギであるのは間違いないのである。

 マガをインドに連れてきたとされるのは、シャーンバ(サーンバ)という名の人物である。このシャーンバに因む『シャーンバ・プラーナ』というものがあり、そこでは太陽神の祭祀の仕方が述べられている。そこで興味深いのは、蓮華文図のマンダラの記述である。蓮華は、イランでは、ミトラ神の足下に描かれるものであった。

 マガのバラモンとして有名なのは、ヴァラーハミヒラである。六世紀の人物である彼は、インドの占星術の大立者で、『占星術大集成(ブリハッド・サンヒター)』の著者である。彼の名にあるミヒラはミトラであり、ヴァラーハは猪の意で、『アヴェスタ』ではミスラ(=ミトラ)神の先駆けとなる動物である。

 そのヴァラーハミヒラが占星術のテキストや天文学の教科書を作ったのであるから、当然インドのこの種の学問も、西方すなわちペルシアの影響があると考えられる。かくてマギは、西のギリシア・ローマと、東のインドの両方の占星術の本家本元と言うことになるのである。

 

 ところで、現代の占いブームに乗って、種々の占術に関する本が出回り、そのなかには「密教占星術」と名づけられたものもたくさんある。しかしその内容を見ると、九星術(気学)や淘宮術に類したものが少なくなからずあるようだ。この種のものに密教の名を冠することの当否は見解の相違によるが、本書では一応、空海によって詔来された『宿曜経』に基づく占術に限って密教占星術としたい。

 『宿曜経』は詳しくは『文殊師利菩薩及所仙所説吉凶時日善悪宿曜経』と言い、不空(七〇五-七七四)の訳になる。不空は密教の第六祖とされる人物であるが、その出身に関しては西域(中央アジア)であったとも言われる。この経典は上・下二巻で、暦法と占法を説き、それに基づいて、日本では「宿曜道」なるものが成立した。この宿曜道こそ、インド、西域から伝来した密教占星術の本流なのである。

 宿曜道は、平安時代の朝廷や公家の間で、高い評価がなされた。それには宿曜師たちの用いた暦が、抵抗相手の陰陽師のものよりすぐれていたことが大いに関係している。すなわち、陰陽師たちは官暦として公認されていた『宣明暦』を使用したのに対し、宿曜師は『符天暦』を採用したのである。この『符天暦』は中国では失われたが、日本には天体位置表とともに伝来していた。そして、それは 『宣明暦』よりもはるかに正確に、日食や月食の日時を計算していたのである。

 かくして、誕生日の星宿を割り出して行なう本命祭(供)でも、宿曜道のホロスコープが使用され、密教の星祭りが陰陽道のそれを凌駕することになるのである。宿曜道の占いはますます流行し、『源氏物語』の巻十四にも「すくよう(宿曜)に、みこ三人、みかど、きさきかならずならびて生まれ給うべし、中のをとりは、太政大師にて、くらゐ(い)をきはむべし」と占った、というような文が書かれることになるのである。

 この本命供で祀る本命宿は、生まれ日の月曜により決定される。月曜とは七曜の一つで月のことである。つまり本命宿とは、月の位置する星座である。この星座は、一か月の月の運行に則って、二十七あるいは二十八数えられる。いわゆる二十七(八)宿である。これに対して七曜は、日・月と火・水・木・金・土の五惑星を指す。そして、この宿と曜とを中心にして説くので『宿曜経』と言われるわけである。

 ところで、「宿」は明らかにインド流の天文学に発するが、「曜」に関しては西域の影響が強く、ひいてはイランに起源を有するものがある。日曜は梵名(サンスクリット語)でアーディティヤであるが、これに加えて胡名(ソグド語)で「密」と呼ばれる。密はミールの音を表わすもので、中世ペルシア語のミフルにあたり、ミトラを指す。

 このミトラの曜日に祭り(斎)をしていたのがマニ教徒である。それからわかるように、この『宿曜経』にはマニ教の影響がある。マニ教とは三世紀にメソポタミアに起こり、ゾロアスター教の強い影響を受けた宗教である。またミトラ教と同様に、その教義には占星術的要素が認められる。たとえば、次のようなものがある。

 マニ教では、十二宮を悪の世界の十二人の支配者(アルコン)と考える。そしてこの十二を、煙・火・風・水・暗の五元素に割りあてる。その仕方は、占星術のオポジション(対角)、トライン(一/三対座)、スクエア(直角)、セクスタイル(六十度)の関係に則っているのである。読者は下段の図を参照していただきたい。

 すなわち、煙に割りあてられる双子座と射手座はオポジションであり、火の羊座と獅子座はトラインになる。以下、風の牡牛座、水瓶座、天秤座や、水の蟹座、乙女座、魚座、そして暗の山羊座と蠍座についても同様である。このような教義のマニ教は、中央アジアのウィグルで広まり、中国にまで伝来した。同時に、マギの占星術も東伝したわけである。”(P287~P292)

(岡田明憲「ユーラシアの神秘思想」(学研)より)

 

*エドガー・ケイシーのリーディングの中には占星術に関するものがいくつかあり、その中で彼は、「ペルシャ占星術がより正確である」と述べています。ただ、ペルシャ占星術はあまりよく知られておらず、研究者もそれほど多くないようで、特に日本語の資料はほとんどありません。しかし、1200年前に弘法大師空海によって日本に伝えられた「宿曜道(宿曜経)」が、このペルシャ占星術に起源を持ち、またマニ教にも関係していたとは驚きました。確かに、真言密教とネストリウス派キリスト教の関係はほぼ証明されたようですが(奥の院には「大秦景教流行中国碑」のレプリカが建てられています)、彼が留学していた長安にはマニ教寺院も存在していたことから、真言密教がキリスト教だけでなくマニ教の影響をも受けているというのは充分あり得ることですし、既にそのことを指摘しておられる研究者の方もいらっしゃるようです。また『西方』極楽浄土におられるという阿弥陀如来についても、原語のアミターバは無限の光を放つ仏陀(無量光仏)、別名アミターユスは無限の寿命を持つ仏陀(無量寿仏)の意で、その起源は光明神を崇拝するゾロアスター教にあるという説もあります。実は我々が知らないだけで、マニ教やゾロアスター教は日本人にとって案外身近なものなのかもしれません。

 

(山本由美子「マニ教とゾロアスター教」(山川出版社)より)

 

・エドガー・ケイシー・リーディング

 

問二:「占星術で採用すべき正しい体系とは、地球中心説と太陽中心説のどちらでしょうか。」

 

答二:「……地球中心説である。ペルシャ占星術の方がより正確なものに近い。」(九三三-三)

 

(ジュリエット・ブルック・バラード「大宇宙の神秘」(中央アート出版社)より)

 

 

*岡田明憲先生は、この「ユーラシアの神秘思想」の本の第三章の中で、「宿曜道」についてかなり詳しく説明されています(『密教占星術の本流』)。そして、これはキリスト教においても同じですが、正統派の仏教では占いが禁じられているにもかかわらず(『スッタ・ニパータ』)、密教が占星術を行なう理由については、般若の智と方便の悲の「不二合一」の教えに基づき、占術が釈迦の説いた教えの原点である「抜苦与楽」の理想を実現する聖行(しょうぎょう)とみなされたためだと述べておられます。また、十七世紀のインド占星術の書「プラシュナ・マールガ」には、正しい占いをするためには、占星術師自身の能力や経験だけでは不十分で、真言(マントラ)の力と、師(グル)の加護が不可欠で、沐浴して身体をも清める必要があり(天に源があると信じられたガンジスの水をイメージするとよいのだとか)、さらに質問もされないのにその人の運命について云々すべきでないこと、質問の仕方が礼儀に敵っていなければ答えてはならないということなどが書いてあるのだそうです。こうなるともはや占星術は単なる占いではなく、我々の霊性を高めるための手段の一つと見なして良いと思います。

 

*高野山出版社家宝暦部から、毎年「高野山家宝暦」が発行されています。まさにこの「宿曜経」に基づく暦です。

 

*私は毎年、「皇室カレンダー(皇室御写真集)」とともに、静岡県の月光天文台から発行されている「太陽・月・星のこよみ」のカレンダーを購入しています。単に月の満ち欠けだけでなく、日々の天体の事象がかなり詳しく載っており、占星術や天文学に興味のある方にはお薦めだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 


人気ブログランキング