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高木桂蔵(1991)『客家―中国の内なる異邦人』講談社現代新書

客家(ハッカ)―中国の内なる異邦人 (講談社現代新書)/高木 桂蔵

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 昨夏、客家族の女性に出会った。
 とても、幸せそうに日々を過ごしているようにみえた彼女だったが、話をしていて、あることが気になった。彼女は、驚くほど勤勉なのだ。平日は貿易関係の仕事に携わり、週末は大学に通い、毎朝早朝から語学のトレーニング。そして夜の仕事もほぼ毎晩。なぜそんなに働くのか、というわたくしの問いに対し、彼女は一言「客家の女は、勤勉なのよ」と、こたえた。それ以来、わたくしは彼女たちの価値観・労働観、ひいては文化・歴史に強く興味を持ち、それが本書を手に取ったきっかけともなった。
 「客家」とは、文字通り「客の人々」という意味で、とどのつまり「土着でなく、他所からやってきた人々」という意味を持っている。要は「よそもの」というわけである。このことからも分かる通り、客家族は、政治的・経済的理由により、歴史的に生活の場を転々としてきたのだ。本書にはそうした彼らの歴史、民族を代表する著名な政治家について記されている。
 その歴史的経緯から、彼らは民族特有のある文化・精神を形成した。それを万金油で著名な胡文虎は、「刻苦耐労」「剛健引毅」「創業勤勉」「団結奮闘」の精神と表現している。この精神は、先述した女性が述べていた言葉そのものだった。客家族の多くは現在の彼らの経済的発展を支えた彼ら特有のこの価値観に対して、強く誇りを持っている。だから、彼らは強く、逞しい。その彼ら(わたくしの中では客家のイメージ、それすなわち彼女のことに過ぎないのだが)にわたくしは如何にして立ち向かえばよいのか。そう考えるだけで、胸の疼きが収まらなくなった。

ウィリアム・パウンドストーン(2003)『ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?』

山崎豊子(1994)『大地の子(四)』文春文庫

大地の子〈4〉 (文春文庫)/山崎 豊子

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 物語は終盤。
 「宝華製鉄」の完成を持って、長きに渡ったこの一大プロジェクトも一つの区切りを迎えた。様々な複雑な経緯を辿った双方だったが、火の点った「鋼鉄の巨人」を前に両者の感情は融和していく。これぞ、汗水たらして造り上げる男の仕事ならでは、といったところである。感慨深く、憧れる。
 本作では珍しく、他の作品のような醜い利権闘争は陰を潜めていた点が、非常に心地良かった。本巻での馮長幸の意地汚い行動もご愛嬌、といったところである。

山崎豊子(1994)『大地の子(三)』文春文庫

大地の子〈3〉 (文春文庫)/山崎 豊子

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 松本は、戦争孤児として中国に遺してしまった子供らの消息を辿り、中国を訪れる。

 戦争の「後始末」をまざまざと見せ付けられている気分になった。
 わたくしはこれまで三十年戦争とか、薔薇戦争といった歴史とは、一つ一つの殺し合いの大局的な経緯であるとぼんやり思っていた。しかしそこに生ける人々にとっての現実は、そうではないようだ。戦争の結果として起きた様々な劇的変化。その物理的・精神的「後始末」。その中で培われていく価値観・感情を含めて、人々は歴史を形成するのだろう。
 教科書に載っている一つ一つの歴史のすべてにこうした「後始末」が含まれるのかと考えると、これから歴史に目を向けることが恐ろしくなってしまう。

山崎豊子(1994)『大地の子(二)』文春文庫

大地の子〈2〉 (文春文庫)/山崎 豊子

¥610
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 日本人には、中国にどこかで償わねばならない気持ちがある。その想いを形として示した出来事。それが、日中共同の一大プロジェクト、「宝華製鉄建設」である。一見美談として片付けられそうなこの話だが、現場レヴェルではこうした協力のときでさえも日中間で激しいせめぎ合いが繰り広げられていた。それが今回の小説の舞台である。その交渉の場でついに中国側に陸一心、日本側に一心の実父、松本耕次が立ち、偶然の再会を果たすことになるのである。
 日中間における国家的プロジェクトの歴史的意義、そしてそこに生きる人々の生き様、感情、猥雑さが併存して描かれている。その雄大さと生々しさを同時に体感できるのが、本作の醍醐味といえるのかもしれない。
 また、正に「鉄は国家なり」という価値観が尊ばれた社会・時代における、重工業の社会的・国家的重要性を改めて認識することができたことが、有意義であった。