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脇坂紀行(2006)『大欧州の時代―ブリュッセルからの報告』岩波新書

大欧州の時代―ブリュッセルからの報告 (岩波新書)/脇阪 紀行

¥777
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 朝日新聞社の記者としてブリュッセル支部に滞在していた経歴を持つ著者。その経験を基に、EUの諸機構を取り上げ、その意図、意味、意義について触れていく。かつて共産圏だった「東」の欧州と、「西」の欧州が合流したヨーロッパ。筆者はこれを「大欧州」と捉え、その論理と基本構造についての解釈を加えていく。
 あくまで教科書的ではあるが、EUについて概括的に学ぶことができる。「ブリュッセルからの報告」という副題が内容を非常に良く言い得ている。

花村萬月(2006)『百万遍 青の時代(上)』新潮文庫

百万遍 青の時代〈上〉 (新潮文庫)/花村 萬月

¥700
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 三島が死んだその日、惟朔は高校を辞め、教護院を飛び出る。その瞬間から始まる惟朔の「あてどない漂流」を描く本作。その上巻である。

 執拗な生々しさばかりが目に付いた。目を覆いたくなるような描写も幾度となく現れる。正直、不快だ。
 にもかかわらず本巻を読破できたのは、わたくしが主人公にどこか共感することができたからだ。彼の持つ幼さ、狡猾さ、愚かさ、汚さに自分を重ねることは、少なからず男性特有のロマンチシズムをくすぐるものだった。男には少なからず、こうした反社会的行為を礼賛する志向があるのだろう。
 もっとも筆者自身、自分の青春時代を自伝的に描いた本作を書き上げることで、自己陶酔に浸っていたに違いないし、実際にその自己陶酔を強く反映した作品であるように思う。それだけに非常に手応えのある作品に仕上がっているともいえよう。ただ、そのあまりの色の濃さは、読む人を選ぶことは必至だ。

 後編へと続く。

J・ケルアック(1997)『地下街の人びと』新潮文庫

地下街の人びと (新潮文庫)/ジャック ケルアック

¥460
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 アメリカ社会でも特に酒・ドラッグ・セックスの横行する「地下街」が作品の舞台。
 刹那的快楽、狂気的執着、薬物的狂信、歪んだ仲間意識。この混沌の中で美しい黒人女性、マードゥに痙攣的な愛を注ぐ「ぼく」の精神世界が描かれる。親友ユーリと、マードゥの関係に嫉妬心を持ち始めた「ぼく」は、以前にも増してマードゥに強い感情を抱いていく。
 筆者の実体験に基づく、妄信的な空想が直接的に書き起こされている。作中に飛び交う、若者の独特な言い草は50年代のカウンターカルチャーならではか。

阿部謹也(1995)『「世間」とは何か』講談社現代新書

「世間」とは何か (講談社現代新書)/阿部 謹也

¥777
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 わたくし自身にとって「世間」とはとても疎ましいもので、できることなら忌避すべきものである、と常日頃から考えていた。だが、本書を読み、その考え自体はひどく日本的で、普遍的なものである、ということを知った。
 あまのじゃくだと自認していた自分の、意外な凡庸さに気付き、複雑な感情に陥った。

司馬遼太郎(1997)『台湾紀行―街道をゆく40』朝日文庫

街道をゆく (40) (朝日文芸文庫)/司馬 遼太郎

¥630
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 本書は、著者が台湾を訪れ、台湾の人びとに接し記されたものである。
 筆者が国家権力に関し福澤の思想を用い、考えを説いたとき、李登輝はこう答えた。

 「シバさん、私は二十二歳まで日本人だったのですよ」

 この一連の応答から、国同士というのは、互いの長い歴史の中に交流や衝突があるだけでなく、そのそれぞれの存在が歴史そのものに埋め込まれ、育まれていくものだ、ということを少し考えた。この場合、日本という存在が台湾の歴史に、というふうに。
 以前、知り合いの韓国人が「韓国では、日本の大学は早稲田と立教が一番有名だよ」と教えてくれたこととも重なった。そのとき、なぜかと問うた。どうやら、戦後、韓国からの留学を特に積極的に受け入れたのがその両校であり、そのときの留学生たちが現在、韓国において政治経済の中核を担っているかららしい。つまりこの場合では、当時の日本の国情が、現在の韓国の世論に移行され、芽吹いていたのだ。

 他国に根付き、息づく日本とその歴史について改めて、意識した。