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岡本太郎(2002)『芸術と青春』光文社知恵の森文庫

芸術と青春 (知恵の森文庫)/岡本 太郎

¥540
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母ほど純粋な人を私は知らない。

 漫画家岡本一平と歌人岡本かの子の間に生まれた、岡本太郎。三位一体を想起させられる、この家族図。しかしこの一家の場合、かの子自身が「今の私は実家の父母の間から生まれたかの子ではない。岡本と私との間から生まれたかの子だ」といっているように、「子」はかの子であったように思う。かの子がこの家の全てであり、全ての愛はかの子に向けられていたのだ。例えば、かの子が若き文学青年を自分の家に入れて共に住まわせた。そんなことも許された。父自身、それを「かの女と私は肉親の同胞同裔化してゐた」と記している。これは愛とは違う、もし愛ならば何らかの欠落があるとしか思えない。本書に触れて、わたくしはどうしようもない未曾有の感情に襲われた。

G・ガルシア=マルケス(1997)『予告された殺人の記録』新潮文庫

山崎豊子(2001)『沈まぬ太陽(二)』新潮文庫

沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下) (新潮文庫)/山崎 豊子

¥700
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 アフリカという地に少なからず憧れを抱いている者の想いを粉砕していく、そういう一冊である。
 恩地は、この地に住まう邦人の様々な生に触れていく。志をもった若き獣医。ウガンダに骨を埋める覚悟をしたワイシャツ製造の工場長。アフリカ人と結婚し子を宿した「月見草」。彼らと接し感じた孤独感を仕事に充てることができない恩地は、狩りの魅力に捕らわれていくこととなる。
 その恩地の姿に一人の人間としてわたくしは、美しさを感じた。恩地の息子たちはその父に姿に怯え戸惑いを見せていたが、わたくしには一人の人間の生き様として決して恥ずべきではない、我々の本能に訴えかけるような生き方であると感じた。ちょうど、仙人が釣りをこよなく愛すようなものだろう。
 本巻の後半より徐々に描かれ始める、筆者特有の「破」への誘いが相変わらず心地よい。

山崎豊子(2001)『沈まぬ太陽(一)』新潮文庫

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)/山崎 豊子

¥620
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 試されているのは、恩地の意思。しかし強大な組織・広大な自然の前では、所詮それもちっぽけなものかもしれない。だからこそ、そんな「自分」という存在の儚さを気軽に楽しみながら生きることも意外と、大切なのだ。本作では、そんなちっぽけな人間と、それを食い物にして生きている人間の両者が生々しく描かれている。
 この、劇中の演出としか思えないほどの生々しさに信憑性を感じるほうが無理というものだ。どこからが真実で、どこからが演出なのか、わたくしには判別し得なかった。その危うさにわたくしは初めて、筆者の作品からおぞましさを感じてしまった。

福翁自伝

福沢諭吉著作集〈第12巻〉福翁自伝・福沢全集緒言/福沢 諭吉

¥3,360
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 入学記念として配られて以来、後生大事に持っていた福翁自伝を開く日がついにやってきた。私がこの本を通してまず痛烈に感じたことは、福澤諭吉の感情の豊かさである。私にとって、福澤諭吉は一万円札の顔であり、創立150年近い慶応義塾の創設者であるというある意味、「化石化」した偉人であった。そんな福澤諭吉がどんな境遇に生まれ、何に触発・反発し、何を感じていったのかということを私は今までまったく想像することができなかった。しかし、福翁自伝で語られる福澤諭吉はなんと生き生きと描かれていることだろうか。下級士族の息子として育てられた幼少期に抱いた、故郷への無頓着さ・憤り。大阪・適塾時代、仲間たちと学生生活を満喫する中で、学問において一心不乱に切磋琢磨し、見付けた学ぶことへの喜び。欧米渡航によって得た様々な驚き・発見。両親への尊敬の念。こういった幼少期から青年期にかけての思い・経験が「福澤諭吉」を築きあげたのだろう。だからこそたとえ国内情勢によって自らの命が狙われることなっても、確固たる自分を貫くことができたのではないか。
 また、福翁自伝の中でも私が特に印象に残ったのは、福澤諭吉が適塾時代に「目的なし」に勉強するということがいかに大事かということを感じた話である。「目的なし」とは今後の自身の立身出世のことばかり考えて勉強に励むのではなく、「おのずから静かに」真正面からその学問に向き合うということだろう。これは、現代の大学が就職予備校化・資格予備校化へと進み、大学生の間においても実利的な志向が高まるばかりの昨今において、右往左往している私自身への大きな示唆となった。大学入学後にみた様々な現実に戸惑っていた私に対してこの言葉は、どっしり腰を据えて、力を蓄えるべく心置きなく真正面から学問へとぶつかっていけと背中を押してくれたように感じた。
 ようやく、この本が入学時に全学生へと配られる意味に少し気付けたような気がする。