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山崎豊子(1983)『不毛地帯(三)』新潮文庫

不毛地帯 (3)/山崎 豊子

¥820
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 報われない商戦が続く。そして物語はついに最後の不毛地帯、中東石油開発へ。壱岐は最後まで「不毛地帯」から抜け出せないのだろうか。


 本作での壱岐の属する近畿商事と、鮫島率いる東京商事との対立軸は、他作に比べ明快でわかりやすい。それゆえか、つい壱岐に肩入れしてしまう。それが読者としては快感でもある反面、少し不毛でもある。

 壱岐は商社マンとして大きく成長した。だが、壱岐の加入により、近畿商事という組織のいったい何が変わったのだろうか。大門は何を意図し、壱岐に何を見ていたのか。それがここまで描かれていない。むしろ壱岐自体が歪んだ体制支配の中へと取り込まれていっているようにみえる。筆者は壱岐を描くために、なぜこの舞台を用意したのだろうか。

立花隆『ぼくの血となり肉となった五〇〇冊 そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊』文藝春秋

ぼくの血となり肉となった五〇〇冊 そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊/立花 隆

¥1,890
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 文系人、ここに極めり。

 筆者の人生は東大仏文科を出、文芸春秋社に入社するものの、「本を読む時間がない」との思いで退社、その後再度東大哲学科に入学、という破天荒な幕開けだ。

 高校卒業までにはドストエフスキーなどは全て読み終わっていたという。筆者の青年時代からの桁違いの読書量は何ゆえかと問い質したくなってしまった。

 本書の主題は、書物の紹介。あらゆる分野の本が、淡々と紹介されていく。
 とりあえず、今の自分にはこういった本を読破・網羅して「マップ」を作ることが肝要だ。せっかくのすばらしい図書館が宝の持ち腐れになってしまってはいかんのだ。

藤原正彦(1984)『数学者の言葉では』新潮文庫

数学者の言葉では/藤原 正彦

¥460
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 前出の『若き数学者のアメリカ』を再構成、さらに新たなテーマが加えられた内容。相変わらず、筆者の描く人物描写は、機知に富み愉快だ。数学と文学という一見、相反するようにみえるこのテーマに関して、その同質性を見出す下りも興味深かった。

 「そんなヒッピーみたいな髪をしていて、数学の勉強はちゃんとしているのか」
という父、新田次郎の言葉に始まる父子二人のかけ合いも面白かった。

許光俊(2005)『世界最高の日本文学―こんなにすごい小説があった』光文社新書

世界最高の日本文学 こんなにすごい小説があった/許 光俊

¥735
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 世界最高とまではいかないが、良い日本文学を読みたいと考えている人は沢山いると思う。だが、それを実際に読むには諸々の事情からかなり敷居が高いので、諦めてしまう人が殆どだろう。筆者は、その「ハードル」それ自体を引き下げようと画策してくれている。

 紹介された作品には、いつの世にも変わらない人の心の葛藤、悲しみが描かれているものが多かった。それらから少し、普遍的な価値が垣間見れた気がする。

 確かだと思えることや、長続きしそうなものが稀な今の世の中、そうしたものを発見できたときの喜びは何物にも代え難く、尊く思える。ただそれに縋って生きていくのも、あんまり良くないのかもしれない。その判断を間違えると取り返しが付かないからだ。だが、きちんと自分なりの普遍的なモノを見付けて良い関係を築けている人は素晴らしいと思う。

 結局、様々なものの影響下に身をおきながら作りあげる、モノと自分との絶対的な距離感こそが、自分らしさなのかもしれない。

川上弘美(2004)『センセイの鞄』文春文庫

センセイの鞄 (文春文庫)/川上 弘美

¥560
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 「まぐろ納豆。蓮根のきんぴら。塩らっきょう」

 食べものが登場する。お酒が登場する。居酒屋が登場する。そんな、中年の恋愛が描かれた作品。


 作品内のどこまでもゆったりと進む時間、そして酒とつまみが心地よく、美味です。