イメージ 1

 能力(脳力)開発のCDブック。たまにCD付きのこのような本が、古書店で105円で売られている。速聴のメカニズムに関しては、過去に何度も書き出しているけれど、復習を兼ねて書き出しておいた。
 この本で印象に残ったのは、脳力開発に関することではなく、CDに録音されているスマイルズの『自助論』に関する内容である。

 

 

【大人の右脳を鍛える】
 人は年を取ると、だんだん頭の動きがゆっくりしてきます。
 たとえば一般的に、年輩者はゆっくりしたリズムとテンポの音楽を好み、若者は早いリズムとテンポの音楽を好みますね。
 しかし、その若者達が老人になってからも速い曲を好みつづけるというわけではなく、年齢とともに、だんだんゆっくりとした曲を好むようになっていきます。
 それが、人間の脳の自然なしくみなのです。
 これは、若いときほど右脳が働きやすく、年を取るにつれて脳の働きが左脳に移行していくことを意味しています。(p.9)
 ポイントは、左脳は低速処理脳、右脳は高速処理脳であるということ。
 しかし、大人になったからといって左脳による低速処理しかできないというのではない。
 大人になったって、脳に限界はないのだから、右脳を鍛えれば高速処理脳を活性化できる。

 

 

【高速スピードの効果】
 このトレーニングは、2倍速、4倍速という超高速スピードの音声に合わせて、テキストを目で追いながら音読する訓練です。
「高速視・聴・読」をすると、それは左脳への入力ではなく、右脳への入力になります。
 どういうことかというと、左脳は低速リズムで動く脳なので、そのように速いスピードで入る情報には対応できません。
 そこで、右脳に対応を任せるので、右脳が活性化され、情報が右脳に入力される結果になるのです。
 このトレーニングを続けていると、頭は自動的に左脳から右脳に切り換えて対応するようになります。(p.12)
 高速スピードの効果とは、左脳から右脳へのスイッチングにある。
 2倍速4倍速を聞いたところで「速すぎて、全然わからない」と思って止めてしまうのでは全然意味がない。「分からない」というのは左脳の機能が追い付かないということで、最初はそれこそが正に目的なのである。
 くり返し聴くうちに、右脳は速いスピードの聴覚刺激に反応して、モードが左脳から右脳へシフトします。
 スムーズに右脳への転換がはかられるようになれば、苦にならなくなります。(p.48)
 “頭の切れる人”というのは、「論理脳・言語脳」といわれる「左脳」だけが鋭敏に反応する人というのではなく、「ひらめき脳・直感脳」といわれる「右脳」の高速処理に「左脳」が牽引されているからこそ“頭の切れる人”なのだろう。
    《参照》   『速読の教科書』 斉藤英治 (三笠書房)
              【速聴によるシフトチェンジ】

 

 

【右脳教育法】
 右脳には、入力されたものを元に自動的に情報を加工して、編集して出力する機能があります。
 つまり、右脳は暗記したものを材料に考え、個性的に概念の組み合わせを行い、創造性、個性を発揮するのです。
 暗記によって蓄積されたものが多いほど、個性や創造性が出てきます。
 右脳教育法とは、理解を求めず、大量に暗記させる教育方法です。
 ノーベル賞受賞者を多く輩出しているユダヤ人の教育は、記憶学習が中心で、反復音読を大切にしています。
 日本でも、江戸時代には寺子屋で子ども達に『論語』の素読をさせました。(p.23)
 蓄えられた材料がいっぱいあればいろんな組み合わせ方を思いつくだろうということは、誰でも察しが付く。材料が少なかったら誰だって創造性や個性に秀でた凄いものなど考え付くわけがない。
    《参照》   『天才論』 茂木健一郎 (朝日新聞社)
              【総合的な知性】
              【創造性】

 

 

【顕教と密教:愛と智慧】
 この手の脳力開発の書籍を手にするたびに、宗教をやっている人々のことを思ってしまう。
 宗教は、「顕教」と「密教」に2分類されるけれど、七田さんの著作の中で、空海の求聞持聡明法のことがしばしば言及されているように、人間改造のテクニックとして脳力開発を儀軌の中に取り込んでいるのは「密教」。故に「密教」は自己救済的な「智慧」の宗教という側面が表に出やすい。それに対して「顕教」は積徳を基とする他者救済的な「愛」の宗教という側面が表に出てくる。
 密教系の人には「愛」が足りないし、顕教系の人には「智慧」が足りない傾向がある。「愛」を基として祈ることに専心していながら「智慧」を生む脳力に秀でていることは、何ら矛盾することではなく、むしろ同じ大きさの両輪となってまっすぐ前進すべきものなのだけれど、長年宗教を実践しながら、低速で内容も表現力もない会話しかできない人々に接すると、“この人のやっている宗教は本物だろうか?”と思うことがある。
 機敏な身体動作と瞬時の判断力を必要とするスポーツ選手でも、上級者は高速な右脳の処理脳力に牽引されて、少ない時間でも本など読めるのだから、左脳の言語能力も発達しているはずである。床運動で4回転ひねりを決めて金メダルを取ったシライ選手は、高校生なのにハキハキした受け答えをしている。本当の脳力が備わっていれば、当然そうなるはず。将来有望と言われてインタヴューを受けている選手がいるけれど、あまりの言語表現力になさにビックリすることがある。そのような選手なら将来的な伸びシロはそれほどないだろう。
 本当の“能力”とは、畢竟するに「高速処理の右脳に牽引されて左脳ですら煌めく“脳力”」なのだから。

 

 

【フランスの政治家アレキシス・ド・トクビル】
 サミュエル・スマイルズの『自助論』の中にある記述から。
 彼はとても裕福な家に生まれた。彼の父親はフランスの名門貴族で、母親も有名な政治家であったマルゼブルの孫娘である。このような家柄のため、彼は21歳の若さでベルサイユの陪審判事に任命された。しかし、彼は自分の地位が、自分の功績によって得られたものではないと考え、自分からこの職を辞めてしまった。そして自分自身の力で人生を切り拓く決意をしたのである。
 「バカな選択をした」という人もあるだろう。
 しかし、トクビルは勇敢にも、自分の意志を貫いたのだった。
 役職を退いたあと、トクビルはフランスを離れ、アメリカ合衆国を旅して回った。この旅行が、彼の名著として名高い『アメリカの民主制』を生んだ。
 トクビルの友人で、アメリカを一緒に旅して回ったギュスター・ド・ボーモンは、旅行中のトクビルのあくなき勉強意欲について、次のように述べた。
「彼の性格は、怠惰とはまったく正反対のものでした。旅を続けているときも休息を取っている時も、心はいつも研究の仕事に向けられていました。・・・中略・・・」 (p.93-95)
 親や親族の七光りで地位を得ても、その後、それとは無関係に活躍をする人だって勿論いるだろうけど、たいていの人は怠惰に安住するのであるし、酷いのになると親の威光を笠に着て他者を軽んじたりする。知力のない人ほど、そんな傾向があるだろう。
 裕福な家に生まれることが、必ずしもその後の人生にとってよいことだとはいえません。反対に、逆境の中で育つことこそが、後の人生の成功には必要なことかもしれないと、スマイルズは述べています。
 問題は、自分自身の力で、生き抜く力を身につけることが出来るかどうかです。(p.147)
 だからこそ、Self Help.

 

 

【自助論のすすめ】
 第4章では、ハイブロー武蔵さんが『自助論』の解説を書いている。
 サミュエル・スマイルズの『自助論』は、人類が長い年月を経て学び得た真理を多く含んでいます。
 それは本書を一読するとすぐに理解できるでしょう。(p.116)
 正直なところ、自助論の文書を読みながら、自分自身の心の堤防があちらこちらで決壊しかかっていることを指摘されているようで恥じ入ってしまった。決壊カ所をばらす勇気はないから、これ以上、逐一ここに書き出さない。
 決壊を食い止めるために、チャンちゃんも『自助論』を繰り返し読まなくてはいけない。
 この本には、『自助論』が、日本語と英語で録音されている。
    《参照》   『ラディカルな日本国家論』 渡部昇一 (徳間書店)
              【中村敬宇の『自助論』】
    《参照》   『明治という国家[下]』 司馬遼太郎 (日本放送出版協会)
              【明治時代を象徴する本『西国立志編(自助論)』】
    《参照》   日本と韓国 〈文化に関する雑記〉
              ●モラルの流れ●
 

 

<了>