● 日本に定着している韓国の食品 (「キムチ」と「JINRO」) ●
 「キムチ」 はいうまでもありません。しかし、韓国人の中には 「日本のキムチは、キムチじゃない」 と言う人もいます。日本人にとって、韓国の本場のキムチは “辛過ぎ” るのです。そんなに辛かったら、キムチは日本に定着しなかったでしょう。
 「JINRO」、漢字で書けば 「真露」 です。こちらは最近、ソラク山のコマーシャルで韓国の焼酎であったことを知った日本人が多いと思います。20年以上前、日本の鹿島酒造販売という会社が、「韓国で80%もシェアのある焼酎なのだから日本でも売れるだろう」 と考え輸入したのですが、なかなか売れませんでした。韓国では辛い食品が多いので真露は甘口でした。日本の食品は韓国に比べてそれほど辛くはないので、甘さをおさえたら次第に売れるようになり、日本に定着したのだそうです。
 日本の食品会社が海外に進出する場合、国内で成功した食品であっても、必ず進出先の国・地域の市場調査を行い、そこに住む人々の味覚に合った味に作り変えています。企業経営者は、 「味覚に世界標準はない」 という当たり前のことを知っているからです。
 外国で生活している皆さんは、味覚と同様に 「文化に世界標準はない」 という当たり前のことを自覚して、「自国の文化に誇りを持ちつつ、他国の文化を尊重する態度」 を心がけた方がいいでしょう。そうすれば、滞在先の国々でより多くのことが、より深く学べるからです。

 

 

● 食文化あれこれ ( 美味しさ優先の韓国 ・ 美しさも大切な日本 ) ●
 牛丼を掻き混ぜて食べている女の子に出会うことがあります。そんな時、周辺の日本人の男性はやや怪訝な表情で女の子を見ていることがあるのですが、その女の子はそのことに気付いていないようです。
 韓国にはビビンバのように、大きなお皿の中で豪快に掻き混ぜて食べる料理がたくさんあります。しかし、日本には掻き混ぜて食べる料理はそれほどありません。故に男性でも怪訝に思う人がいるのです。
 特に日本の女性は混ぜることを忌避する傾向が強いようです。その理由は、混ぜることをやや “ 下品な仕草 ” のように思ってしまうからです。日本人の女性に、本場韓国の最高に美味しいビビンバの食べ方を教えても、混ぜたがらない人もいるでしょう。「実益(味)」よりも「美意識(見た目・仕草)」を大切にする傾向があるのが日本人です。良し悪しでは計れない、こんな違いも知っておいてください。
 日本の旅館に宿泊すれば、幾つものお皿に少しずつの料理が盛られて出てきます。日本人は 「味」 と同様に 「視覚的な美しさ」 を大切にしています。そして高級な旅館なら、季節感も大切にしています。味以外に、料理とお皿の色合わせ、盛付け方にも注意を向けて見てください。
 資生堂という化粧品会社の研修に来ていた海外からのある研修生は、並べられた日本料理を前にして、「食べるのがもったいない。暫らく見ていていいですか」 と言って日本人のスタッフを多いに喜ばせたそうです。その研修生は、現在、台湾・資生堂の最高責任者として活躍しているそうです。
 純和食と言われる日本料理の基本は、「素材の味をそのまま活かすこと」 だそうです。もてなす側は、「自然は神なり」 という日本文化の基本に則して料理し、もてなされる側は、料理に表現された自然を感得できるだけの繊細な感性があることを前提としています。高級料亭には 「お品書き(メニュー)」 はありません。季節の素材で料理を作るからです。

 

 

● 世界は日本化する? ( 世界史からみた文化の流れ )  ●
 文化は何を媒介として伝播するのでしょうか? 政治力? 軍事力? 経済力? 産業力? それともこれらの総合力でしょうか? 無形の 「文化」 は、有形の 「物」 を媒介として伝播して行くように思われます。“優れた物をつくる産業力” が文化の流れを定めているようです。
 19世紀以降で、世界の文化的中心になった国は、最初に産業革命を成し遂げたイギリスでした。それから、2度の世界戦争で被害を受けることなく国力を高めたアメリカでした。いずれも、その時代にあって、世界一の経済力を持った国でしたが、同時に最も優れた物を生産した国でもありました。
 現在の世界で、最も優れた物作り国家は日本のようです。高品質な工業製品は言うまでもなく、「アニメ」や「PCゲーム」では、絵の美しさだけではなく、むしろそれ以外の、ストーリー展開などに顕れている日本人の感性が世界中の若者や子供達を魅了しているようです。日本が世界の文化の中心となりうる最有力候補であることは間違いないようです。
  韓国の留学生から、「韓国は文化解放をして日本の文化を受け入れているのだから、日本は中年のオバサンばかりではなく、若者達がもっと韓国の文化を受け入れるべきだ」 という意見を聞いたことがあります。上記で説明してきたように、文化は政治力によって広まるものではありません。韓国が日本より優れた物を生産するようにならなければ、韓国から日本への文化の流れは自然発生しないのです。
 『冬のソナタ』 は、今から40年ほど昔、日本で流行っていた 『君の名は』 というドラマのような “美しい純愛” を描いていた故に、日本人のオバサン達を中心に爆発的なヒットとなったのだそうです。

 

 

●モラルの流れ●
 「物」 以外に見逃してはならないことがあります。西洋には 「ノブレス・オブリージェ」 という言葉があります。「高貴さに伴う義務」 という意味です。この言葉の根本には、義務というよりモラルがあります。 産業を営む人々によって継承された英・米・日を繋ぐモラルの流れがあります。
 ヨーロッパでは、ジェームズ・アレンというイギリス人の著者の本が、聖書に継ぐベストセラーとしてよく知られています。彼と同時代(イギリス産業革命の頃)の作家サミュエル・スマイルズが書いた 「Self Help」 は、1900年代の初頭、「西国立志伝(自助論)」 というタイトルで翻訳出版され、殆どの日本人の大人達が読んだといわれるほどの出版部数を記録したのだそうです。アメリカが繁栄を築きつつあった頃、カーネギーの書いた 「道は開ける」 や、ナポレオン・ヒルやオグ・マンディーノの数々の著作は、アメリカや日本で自己啓発書のロングセラーとなっています。
 これらは、いずれも “人生の意味と、モラルに裏打ちされた人生のあり方” を語る内容の著作です。「物」 が文化を媒介するとはいっても、そこに “モラル” や “美しさ” が無い場合は、むしろ軽蔑の対象になってしまうことに注意しなければなりません。

 

 日本は戦後60年間、過去の反省の上に立ち、一貫して不戦と国際貢献を続けてきました。国際社会はこのことをよく知っています。物作りの高度な技術と、深く秘めやかな感性、そして60年間、国家として行為で示し続けてきた高い徳性。いずれの点においても、日本に比肩しうる国は無いでしょう。 
 
<了>