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 10人の男性との対談が掲載されている。書き出したのはその内の5人の一部。2002年7月初版。

 

 

【日本の崩壊状況】
 漫画家の 小林よしのりさんとの対談から。
小林  わしも今でこそ『ゴーマニズム宣言』という漫画で自分の名前が知られるようになったしまったんだけど、以前は『おぼっちゃまくん』とか『東大一直線』というギャグ漫画を描いていて、内容が非常に不道徳だとか、言葉遣いが乱れているとか、破廉恥だとか、PTAのお母さん方をはじめ世の親御さんたちから、“不道徳の代表”として一斉攻撃を受けるような存在だった(笑)。わしはそれに抗弁していた人間のはずなのに、10年ほど前から状況がずいぶんと変わってきてしまった。それまでだめだと言っていた大人たちが妙に理解ある態度になって、不道徳だとか、下品だとか、叱ってくれなくなったんですね。
金  だいたい物わかりのいい大人ばかりが増えると、世の中の箍が緩むんです(笑)。
小林 漫画の中でしか描かれなかった破廉恥な行為や残酷な行為が現実に行われるようになってきつつある。・・・(中略)・・・。人としてのモラルなり、規範がきちっとあればこそ、それを茶化すギャグとか、一種の虚無的な芸術みたいなものが成り立っていたのに、ここまでの崩壊が来ると、もうギャグにならない。ホントに恐ろしいことになってきてると思う。(p.40-41)
 かつて漫画は“社会風刺”のためにこそ用いられ、新聞などに掲載されていたものなのだろうけど、現実が荒み過ぎると風刺が効かなくなってしまう。ホント、シャレにもギャクにもならない。
 でも、風刺から離れて漫画を描いている日本人のアーティストさん達は、けっこうイカシタ作品を世界に送り出してきた。世に言うクール・ジャパンは、それ故にこそ世界を席巻しているのである。
 日本の社会状況を嘆いていても沈滞するだけだから、光の側を見るようにしよう。
   《参照》   『クール・ジャパン 世界が買いたがる日本』 杉山知之 (祥伝社)

 

 

【年齢につれて変わってゆく結婚観】
 宇宙飛行士になった向井千秋さんの旦那さんである向井万起男さんとの対談。
向井  私の体験から言うと、「なんでそんな、奥さんがアメリカに行ったっきりの結婚したんですか?」とネガティブなことを私に言う人と、「いいですね、頑張ってください」と応援してくれる人がいる。否定的なことを言うのは圧倒的に若い人なんです。お年を召した方のほうがポジティブ思考。
 意外でしょう? でもつまりエイジング、年をとることで人はどんな人でも分け隔てなく、みんな賢くなるんですよ。わずかな例外はあるかもしれない。でも「世の中、結局何でもいい、本人が幸せなら何だってある」そう思える賢さをみんな身につけていくんだろうと思う。
 私は、若い人が進歩的だなんて思っていません。若い人ほど「愛とは」とか「結婚とは」とか、観念的に縛られてしまう傾向がある。愛にはいろいろあるとか、結婚にはいろんなパターンがあるという柔軟な考えを持ちにくいですね。まあ、私も若いころはそうでしたけど。(p.83)
 年齢につれて拘りが薄れてゆくのは事実だろう。拘りの希薄化を「成熟」というのである。
   《参照》   『宇宙戦争 ソリトンの鍵』 光悠白峰 (明窓出版) 《後編》
             【魂が成熟していなければ、結婚してはいけません】

 

 

【魂こそが教育の対象】
 医療人類学的研究者の立場から「癒し」の視点で発言している上田紀行さんとの対談。
上田  親の期待感で、子供の自由な魂を縛る。こういう親はおうおうにして、しつけの部分をちゃんと教えず自由にしている。子供が本当に欲望していること、魂の部分で自由にすることが真の自由主義教育だと思うんですけどね、しつけをルーズにすることだと誤解している。
金  そういうまったく逆の教育の結果、癒しを必要とする人間が増えたと。
上田  そうだと思います。そこのところにそろそろ本当に気がつかないと。(p.116)
 魂を縛りつけて躾をしなかったら、出来るのは間違いなく怪物か魔物だろう。後でビビっても遅い。
 「愛ある厳しさ」というのは、躾の厳しさによって魂まで委縮させてしまわないために、“絶対外せない安全装置”である。ところが未熟な大人たちは、自己愛を起点に“管理のまなざし”を向けるのである。そうでなければ親子ともども癒着したまま成長が止まっている。
   《参照》   『なにも願わない手を合わせる』 藤原新也 (東京書籍)
             【まなざしの聖杯】

 

 

【本当の意味の癒し】
上田  本当の意味でいう癒しとは、自分自身が悩んでいるということを、ちゃんと自分で引き受けて人生に立ち向かって、その中で成果を出していく、その過程だと思いますよ。 ・・・(中略)・・・ 。
金  今あなたが言った「引き受ける」という言葉。これを私もいつも言う。 ・・・(中略)・・・ 引き受けた上で、自分が何をしたいのかを真剣に考えるという、それ以外にまっとうな癒しというのはないと思う。(p.119)
 「癒し」と聞くと、暖かな肌触りとか、幼児返りとか、母体回帰とかの感覚を持ちやすいけれど、そこを目指してしまったのでは何も本質的なことは変わらない。それどころかそれは退嬰であり退化であって、自立の反対側である。「癒し」は困難を「引き受け」、自立のために進化する姿勢の中にこそあると言っている。
上田  金さんを見ていると、うちの母親のことを思い出します。うちはずっと母一人子一人で来たんですが、これが凄く強い母親で。翻訳家をやっていたんですが、がんがんものを言う。それでぼくが高校生の時に、嫌になっちゃって「あんたと別れるためなら人も殺す!」ってぶつけちゃったら、それがショックだったらしくて、20歳になったときに「家族解散しましょう」と言ってさっさとニューヨークに移住しちゃったんです。
金  かっこいい! (p.119)
 ほんと、金さんといい勝負。
   《参照》   『日本は世界で一番夢も希望もある国です』 金美齢 (PHP)
             【子育ての具体例】

 「家族解散」で思い出したけれど、『ホームレス中学生』も「解散宣言」によって、世間にほっぽり出されたのだった。未熟な親と一緒に生活しているよりズットいいだろう。
   《参照》   『ホームレス中学生』 田村裕 ワニブックス
             【解散】

 

 

【ケンブリッジの卒業条件】
 『炎熱商人』などで有名な作家の深田祐介さんとの対談から。 
金  ケンブリッジの学則をめくってみると、何単位とればいい、ということじゃないんですね。どれだけの時間ケンブリッジに滞在したかなんです。大学を中心にして、直径何キロの中に、一年のうち何日いたか、というのが、卒業の必須条件なんですね。
深田  ほう。
金  これを見た時、ああ、ケンブリッジというのは誇り高いというか、ものすごい自信をもっているなと思いましたね。つまり、ここにある期間いれば、間違いなくあなたはアカデミックな人間になれる。なんとも言えない自信を感じて、ああ、すごいなあと思った。
深田  ケンブリッジの空気を吸えば、知的になれると(笑)。 (p.140-141)
 アカデミックな場所は、アカデミックな人々の思念が集積しているから、こういうことはありうることである。
 家ではなかなか進まない読書も、図書館に行けばけっこう進むけれど、これも場の持つエネルギーが影響している事例である。
 ケンブリッジは小さな町だから、観光で行っても一日で歩けるけれど、そのたった一日の間だって、キャンパスの中に入り、講堂内のピカピカに光った木製の手すりに触れ椅子に座ってみたら、誰だって何となくここで学んでみたいと思ってしまうんじゃないだろうか。

 

 

【『多桑』という映画】
金  1994年台湾で大ヒットして、外国の映画祭でたくさん賞をとった台湾映画に『多桑』というのがあるんです。中国語でトーサンと読むんですけど、つまり「父さん」という意味ですね。これがまた、一生日本に憧れ続けた男の話なんです。監督の父親が、モデルなんですが、自分のことを「父さん」と呼ばせて、年齢を聞かれると「昭和4年生まれ」と答えるんです。日本製品が世界で一番すぐれているからと、何でも日本製を欲しがって、台湾と日本のスポーツの試合があると、いつも日本を応援する。
深田  ああ、知ってます。皇居と富士山をみるのが夢だ、というんでしょ。宮城で礼拝することを夢みつつ死んだ父親の話。
金  そう。その夢が実現することなく、彼は死ぬわけです。息子が遺骨を抱いて日本に来るんですが、「この日東京は初雪。父さんは無言だった」で終わるわけ。
深田  あれには参りました。
金  私に言わせると、この男性は、日本の本当の姿を知らないまま、美しい夢を見たまま、死んでしまったということなんですけどね。
深田  こんななさけない日本にね。まったく恥ずかしいですよ。台湾に対して恥ずかしい。(p.131-132)
 今日の台湾の教育現場には、まだマトモだった頃の日本の教育法が残っているのに、現在の日本はかなり悲惨な状況である。「父さん」が憧れていた「日本精神」は、今日の日本においてはかなり希薄である。
   《参照》   『日本は世界で一番夢も希望もある国です』 金美齢 (PHP)
             【敬業精神】
   《参照》   『日本よ、台湾よ』 金美齢・周英明 (扶桑社)
             【日本に求められる 「日本精神」 】

 かつての日本と台湾の関係を知ることのできる映画は、『多桑』の他に、『悲情城市』や『海角七号』がある。
   《参照》   『私は、なぜ日本国民となったのか』
             【『海角七号』】

 

 

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