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 見たことない出版社だと思ったら、あとがきに「本書は、フジサンケイグループの出版社である㈱扶桑社の教科書事業を継承するために、新しい出版社として誕生した㈱育鵬社の一般図書発行第一号として企画された」(p.202)と書かれていた。日本文化のポイントを押さえたい人には適書である。2008年11月初版。

 

 

【本書の執筆目的】
 日本人は謙虚な国民で、自己評価が極めて低い。だから、外国の文化を貪欲に取り入れたとも言えるが、日本文明自体、多くの外国人から高く評価されていることを当の日本人が知らないのは不幸なことである。日本文明の内実を知り、日本人の自己評価が少しでも高まれば、「グローバル化」に簡単に身を任せることもなくなるだろう。
 本書はある意味、このような極めて政治的な理由から書かれたものである。しかし、できるだけ多くの文献を紹介しながら、客観的に「日本文明」の内実を明らかにしようと努めた。(p.201-202)
 平均的な日本人であるチャンちゃんは、学生時代から長いこと日本文化に確信を持てない状態が続いていたものだったけれど、そんな状態が長いとロクなことはない。
 これから、日本や日本文化を語ろうとする若者たちは、早い段階で、『日本の個性』というこの本を読んでおけば、速やかに人文的な基本は殆ど学べるだろう。参考文献もたくさん記述されている。
 因みに、霊学的な著作に寄り付きやすかったチャンちゃんが、日本文化について確信を持てたのは下記リンクの書籍内にあった記述である。
   《参照》   『大創運』 深見東州 (たちばな出版) 《後編》
             【日本神霊界】

 

 

【タイトル解題】
 日本の歴史を振り返れば、ハンチントンらが指摘するように、日本は欧米とも中国ともはっきり違う文明を有した国であることは明らかである。そのことが政治リーダーや経済界の人たち、知識人、あるいは一般の国民に強く意識されているとはとても思えない。(p.5)
   《参照》   『いつまでも若く生きる』 竹村健一 太陽企画出版
             【日本のよさを見失った日本人】
 日本が今日のすさまじいグローバリゼーションの荒波の中で、これまで通り、独自の存在として生き残っていくためには、今、あらためて日本の「自画像」、言い換えれば、日本の「個性」を再認識する必要がある。(p.5-6)
 日本は「一国家一文明」という世界において極めてユニークな存在であることに、日本人は、もっともっと誇りを持とう。持つべきである。
 世界は今、大きく変革して行くタイミングに差し掛かっている。そんな時こそ、「一国家一文明」というユニークさがモノを言うのである。

 

 

【受け入れても支配されずに変容させて取り込んでしまう日本文明】
 周知のごとく、日本人は(多くの点から見て根本的に異なっている)近隣の国民から、征服による圧迫もないのに、その全道徳・倫理体系とともに、国語と文学を、かれらじしんのものとして採用した。それでいて、受容した文明に張り合う文明と、はっきりした国民性と、力強く発達した独立した精神とをもっている。こういう国民は、日本人だけだ。 (同右)  (p.42-43)
 (同右) とあるけれど、初代駐日公使となったイギリスの外交官ラザフォード・オールコックの著書、『大君の都 ―― 幕末日本滞在記』からの引用。
 日本は、中国や朝鮮からさまざまなものを受け入れた。しかし、受け入れることで中国や朝鮮に文化的に支配されるようになったのではなく、まったく別の文明をつくり上げた。こういうことができるのは、日本人だけだ。こう述べているのである。(p.43)
 この様な日本文明の特殊性の最終的な根源は、先にリンクして示した【日本神霊界】の特異性にあるのである。
 日本文化・日本文明は、「神道」を基としているけれど、この点を明確に押さえておかないと何も分からないだろう。
   《参照》   『宗教の自殺』 山折哲雄・梅原猛 PHP
             【外来のものを重層的に受け入れ底で支える神道】
   《参照》   『「森の思想』が人類を救う』 梅原猛 (小学館)
             【「森の思想」で終わってしまう神道ではない】

 

 

【職人たちの美意識】
 日本人の美意識に驚いたのは明治21(1888)年に華族女学校教師として来日したアメリカの女性教育者アリス・ベーコンである。ベーコンは「どうして、日本人は安物をこんなにも美しく作れるのかわかりません」と、人夫や車夫が使う手拭いの美しさに驚く。(p.50)
 王侯貴族が所有するような「高価な物で美しい」というのなら当然だろう。そうではなく、庶民が使う「安物なのに美しい」ことが、日本人の日常に備わっている“財とは無関係な純然たる美意識”の証明である。こういったことの証例はいくつもあるだろう。
   《参照》   『美しい日本の暮らし』 近藤富枝 (平凡社)
             【実用的なものに美をつけ加えるのは日本の特技】

 

 

【日本は東西両文明の博物館】
 先に日本は外来の文化・文明を、その国固有のものとしてではなく、「普遍的な物」「高度な文明」と知らず知らずのうちに理解して受け入れてきたということを指摘した。このような経緯を経て、今日、「日本文明」の中には東西のさまざまな文明に由来するものが存在するようになっている。
 しかも、もとの国では滅んでしまったようなものまで日本に存在している。この点について、経済史学者の川勝平太氏は「日本は東洋文明と西洋文明の生きた博物館である」と指摘する。(p.70)
 日本がそのようになったことの根源的な理由は、やはり先に示した【日本神霊界】の特殊性(霊徳)にあるのだろう。しかしながら「日本神霊界の構造」などという根拠は、今日の人文科学では根拠にならない。そこで博物館化した根拠として語り得るのは、「日本語」である。これは《後編》の【日本語の包容力】に書き出しておいた。

 

 

【日本は文化の変電所】
 西洋物質文明やアメリカ原産のポピュラー文化は、日本という「変電所」によって「普遍性」を得、無国籍化することで広く世界に広まっていった。日本文明にはそのような「変電所」の機能があり、アンペアを変え、日本化することにより、普遍性を持つに至る。その意味では「日本文明」自体に普遍性があるともいえる。日本一国の中でとどまるものではなく、広く他の国でも通用する普遍性さえ持っている。(p.74)
 他国文化を導入した「日本・変電所」は、それを無国籍化することで普遍性を持たせ、海外に逆輸出するという芸当をしている。日本文化自体が文化変電所という「打ち出の小槌」になっている。
 無国籍化してしまうだけでは日本文化が表に出ないけれど、無国籍化できるということ自体が日本固有の文化力なのである。また海外のそれぞれの文化には一般的にタブーがあるものだけれど、“日本文化はもともとタブーが少ない”ということが、無国籍化に寄与する重要な因子だろう。
   《参照》   『クール・ジャパン 世界が買いたがる日本』 杉山知之 (祥伝社) 《後編》
             【日本のオリジナリティー】
   《参照》   『クール・ジャパン 世界が買いたがる日本』 杉山知之 (祥伝社) 《前編》
             【日本マンガが海外で価値を持った理由:タブーのなさ】
             【タブーなきことの実例】

 「普遍性」を可能にする「無国籍」化を色で表現すれば「白」ないし「黒」になる。あらゆる色彩の光を合成すると「白」くなり、同様に絵具を混ぜると「黒」くなる。
 つまり、無国籍化を可能にする日本文化は、もともと重層性を備えた奥深い文化であることを意味しているのである。故に、日本人は「奥ゆかしさ」や「秘めやかさ」という精神性を尊ぶ気質を備えている。単色、原色の衣類を好む韓国をはじめとする殆どの海外諸文化とは、明らかに一線を画す文化なのである。