音盤ながし -14ページ目

二階堂和美『にじみ』

●二階堂和美『にじみ』

 二階堂和美の歌には、いきなり耳を引っ張られて(暴力的ではないんだけどw)、「どうよ?この歌」って聴かされてしまう強さを感じるなあ。声高ではないけど存在感の強い歌が多いからかな。


 ♪歌はいらない、、、歌よ だまって、、、「歌はいらない」 と歌われる歌には、静かな力強さがある。♪ああ~あなたが好きでした~「女はつらいよ」 と思いっきり歌謡曲っぽく歌われる通俗性には確信犯なしたたかさもある。確信犯的と言えば、なりきり都はるみの「説教節」のウナリも痛快。たしかに二階堂和美は芸達者なのだ。


 芸達者で歌謡曲で、だけどぜんぜん安っぽくない、へたに触るとヤケドするぜ!と意気軒昂、全曲作詞作曲でセルフ・プロデュース。俺にとって二階堂は相変わらず不思議少女(不思議な魅力ってこと)なんだけど、先ずはこの新作アルバムは傑作ですと言っておく。

にじみ/二階堂和美
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角田光代『ロック母』

●角田光代『ロック母』

 角田さんはロック好きなんだねきっと。「
予定日はジミー・ペイジ」とか「イギー・ポップを聴いていますか」なんていう小説(なのかな?)も書いてるし。この文庫本『ロック母』は短編集で、'92年から2006年の間に書かれたもの。作者自身、今読んでみて、初期の作品には拙い部分や気に入らない箇所もあるけど、それでもこの時間差を”迷える足跡”として楽しんでもらえたら、という気持ちもあるようだ。俺なんかが読めば、それぞれの面白さやシリアスさがあり、やっぱり角田光代は巧いやってことになるんだけど。

 ここでは最初期の作品であり、芥川賞候補にもなった『ゆうべの神様』。家族や世間と折り合いが付かず、すべてがツマラナイと思えてしまう高校生。よく小説に取り上げられる題材だと思うけど、角田が描く彼や彼女はピュアで瑞々しい。とても印象に残る描き方をしていると思う。取り巻く親やオトナ達の醜さと理解のなさに、同じオトナ世代として居心地の悪さを感じ、オトナってだんだん厚顔無恥になって行くものだと気付かされる。
 角田光代はイジワルでもあるのだ。そうなんだ。

 「ロック母」の主人公は、はらぼて姿で大嫌いだったはずの田舎の家に戻る。シングルマザーとなるべく。十年ぶりの我が家では、家事を放棄した母親が部屋に引きこもり、家を揺るがす大音量でニルヴァーナを聴いている。やむなく頼ろうとした親達がまったく頼りにならないような、、、どうすんだ!?
 映画にでもなれば、面白そうな話しだよね。
ロック母 (講談社文庫)/角田 光代
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ベイルート『The Rip Tide 』『The Flying Club Cup』

●Beirut 『The Rip Tide 』
      『The Flying Club Cup』

 この1曲目を聴いて即「ムーンライダーズそっくり」って思った。ふんわりしたトランペットの音色と打ち込みっぽいシンプルなリズム、メランコリックなメロディーそしてクルーナーな歌声は、ひと頃のライダーズそっくりだ。アコーディオンとヴァイオリンとラッパがヨーロッパ風に鳴り響くロックを聴いてると、ここにも才人がいた!と嬉しくなる。

 その才人はザック・コンドン、ベイルートは彼のユニット名らしい。ザックは'86年米国ニューメキシコ州サンタフェ生まれ、高校中退し引きこもりになっていた時にエミール・クリストリッツァーの映画の音楽に牽かれるようにヨーロッパ放浪の旅に出たとある。もしかして映画は『アンダーグラウンド』  で、音楽はノー・スモーキング・オーケストラじゃないのかな、あれはけっこう衝撃的だった。旧ユーゴ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)のバンドで、バルカン・ブラスとスカ・パンクが合体したような音楽だったかな。ま、そんなことで眠りから覚めたザック・コンドン青年は、曲を作り出しトランペットやウクレレを使い自宅録音を始めたそうだ。それがN.Yのインディーズに認められ'06年にデビュー。'07年にはセカンド『ザ・フライング・クラブ・カップ』を発表。この辺から俺の目にとまる(笑)


 『ザ・フライング・クラブ・カップ』は'20年代フランス文化の影響をモロに受けたアルバムで、もちろんそこにはシャンソンがあり、そして哀愁と退廃が官能美と化している。まあ、風変わりな音楽だったけど、これがけっこうな評価を得た。

 非ロック系楽器を使ったロック楽団として、俺はこのベイルートが好きなんだけど、その思いを強く持ったのが『ザ・リップ・タイド』を聴いた時だ。つまりそれに気付いたわけだ。前作に比べてバンド感が強く出ているせいかと思う。メロディーがゆる~くループするようなサウンドは古くさいのか新しいのか判らなくなるが、とにかく心地よい。エキゾティックでメランコリックで、そしてイマジネイションをぬめっと刺激してくれるベイルートの音楽に、只今ハマっているのである。
ザ・リップ・タイド/ベイルート
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Flying Club Cup/Beirut
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ライ・クーダー『Pull Up Some Dust And Sit Down』

●Ry Cooder『Pull Up Some Dust And Sit Down』

 『チャヴェス・ラヴィーン』(2005年)に始まったカリフォルニア(ロスアンジェルス)三部作に続く作品だと思う。失われたアメリカ、忘れられた都市生活者を歌ってきたライの視線の確かさを感じさせる骨太な音楽だ。デビュー当時から大不況時代('30年代)の歌を現代の歌として歌い演奏してきたライなので、一貫した路線ではあるわけだ。

 LA三部作を全て輸入盤で買ってしまい、その重要かつ面白そうな英文ライナーが読めなかったので、今回は早く聴きたいのを我慢して日本盤発売まで待った。甲斐あって、五十嵐正による解説と曲目解説、そして訳詞もあり、ライの音楽をより楽しめることとなった。

 本盤は全曲ライの自作だ。秀逸なカバー曲を多く送り出してきたライだけど、ライ自身の言葉による音楽も味わい深い。これらはプロテスト・ソングなんだと思う。ただ声高に政治性を前面に出すことなく、生活者の語りとして歌われる。この辺がじつに巧いと思う。年季が違うって感じだよね。「ジョン・リー・フッカーを大統領に」はなかなか痛快でニヤリとさせられる。フット・ストンピングに始まり、なりきりジョン・リーぶりがいかしてる。

 演奏はライの様々な音色を駆使したギター/スライド・ギターを中心に、息子のヨアキムとこの親子が基本セット。そこにフラーコ・ヒメネスのアコーディオンが加わったり、テリー・エヴァンス達のコーラス、マリアッチのストリングス、そして1曲盟友ジム・ケルトナーがドラムを叩いている。リラックスした中に逞しさを感じさせる音楽が素晴らしい。


プル・アップ・サム・ダスト・アンド・シット・ダウン/ライ・クーダー
¥2,680
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ドン・ウィンズロウ『サトリ』

●ドン・ウィンズロウ『サトリ』黒原敏行訳

 エンタメ界の三割打者(もっと高率だけど)ドン・ウィンズロウ!本書も流石の面白さです。トレヴェニアンの傑作冒険小説『シブミ』の続編として挑んだ作品であり、その整合性はお見事。また活劇性は更に向上されて、エンタメ小説としては、単純に言ってこっちの方が面白かった。


 日本人の心を持つ孤高の暗殺者ニコライ・ヘルの物語。『シブミ』では触れられなかった暗殺者としての現役時代、その最初の仕事というべき中国は北京での暗殺、そしてラオス~ベトナムへの大冒険逃避行が語られる。登場人物それぞれアクの強く、その人物造形がじつに巧い。ヘルは囲碁の達人であり、その戦況を棋譜に置き換え行動する。暗殺者ヘルの武器は銃でもナイフでもなく、空手に似た体術であり、その技の行使は静けさの中にありながら描写はスリリングだ。


 エンタメ小説に美女はつきもの。ヘルが愛するソランジュがまた素敵だ。実物に会えたら卒倒するかな(笑)。一見クールな哲学者のようなヘルだけど、じつは女好き。それは『シブミ』を読めばわかる。ただの好色ではない。様々な面で達人なヘルは性技も達人であり、そんじょそこらの女では相手にならないのだ(憧れる~)。セックスの達人ヘルを知りたければ『シブミ』をどうぞ。


 そんなことで、面白さ満載、スリル満点な冒険活劇小説『サトリ』。もう流石!とうなるばかり。
サトリ(上) (ハヤカワ・ノヴェルズ)/ドン・ウィンズロウ
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サトリ(下) (ハヤカワ・ノヴェルズ)/ドン・ウィンズロウ
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