音盤ながし -16ページ目

大沢在昌『絆回廊 新宿鮫X』

●大沢在昌『絆回廊 新宿鮫X』

 新宿鮫も登場時の凄味が薄れたなと感じて数作目、さて第十作目はどうだろうと読み始めた。
まあ悪くはない読後感。そして寂寥感。

 シリーズも長く続くと、新たな出会い(悪との嬉しくない)が毎回あるのは当然として、身近な人との別れは、物語として避けがたいようだ。すでに若くはない主人公に、別れが積み重なる。寂しいよなあ。

 まだ鮫島に肉体的な衰えはないようだけど、ここ数作の中で、作者大沢の暴力に対する飽きが見受けられたように感じた。残虐な暴力シーンは、書いてる方も消耗するんだろうか?暴力シーンが巧い船戸与一・花村萬月にも感じられた、暴力への飽き。彼等の小説にアクション・シーンはなくてはならないものだし、それがある種のカタルシスに繋がることもあった。俺が馳星周を読まなくなったのは、ある作品の中の救いようのない暴力シーンに嫌気がさしたことが原因だった。暴力シーンを格闘技のような描写で、残忍さを押さえた北方謙三などは、このへんほんとに巧いと思う。

 さて本作だけど、かつてのような凄味の効いた活劇感はなくなった。新宿歌舞伎町の街が、まるで生き物のようにのたうつ感じもない。トーンが変わったんだね。それでも、苦悩する鮫島を描いて、これはこれで面白い小説だった。
絆回廊 新宿鮫Ⅹ/大沢在昌
¥1,680
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ヒュー・ローリー『LET THEM TALK』

●HUGH LAURIE『LET THEM TALK』

 ヒュー・ローリーは英国人の俳優だそうだ。海外ドラマ『ドクター・ハウス』の主演俳優というから有名人なんだろうね。俺がわざわざ輸入盤買って聴いてるのは、このアルバムのプロデュースがジョー・ヘンリーだからだ。

 ジャケットやインナーのモノクロ写真など、ジョーの一連のアルバムに似た感じがあり、中身の音楽もまさにダーク・ビターなジョー・ヘンリー印となっている。アラン・トゥーサンをアレンジャーに、そしてDr.ジョンやアーマ・トーマスの参加で判るとおり、このアルバムの主調はニューオリンズだ。古いジャズ、ブルース、R&Bがここにある。歌い、ピアノを弾く主役のヒュー・ローリーもなかなか達者なもんだ。


 バックのメンバーはジェイ・ベルローズ(ds)、ケヴィン・ブレイト(g)、グレッグ・リーズ(g.stg)、デヴィッド・ピルチ(b)、パトリック・ウォーレン(kbds)といったジョー・ヘンリー組。だからサウンドも安定したジョー・ヘンリー・サウンドだ。もちろん悪くない。だけど、こうしたプロデュース作品をたくさん世に出して、いざ自分のアルバムを作る時、自身の個性がだせるのか?なんて考えてしまう。

 そこは才人ジョー・ヘンリーだから、こちらを「おおーっ!」と喜ばす音楽を準備してるのかもね。
Let Them Talk/Hugh Laurie
¥2,038
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デニス・レヘイン『ムーンライト・マイル』

●デニス・レヘイン『ムーンライト・マイル』

 デニス・レヘインの小説、最初に読んだのがパトリック&アンジー・シリーズの『雨に祈りを』だった。これが面白かったので、その後『ミスティック・リバー』『運命の日』などノン・シリーズでレヘインを楽しみ、そして久しぶりにパトリック&アンジーの本書が登場、なんとこれがシリーズ最終巻だったのでびっくり。シリーズ前作『雨に..』から11年ぶりということで、主人公達の加齢ぐあいも(笑)気になるところ。

 主人公の年齢が何故気になるかと言えば、探偵物であるからには伝統的に(笑)タフでなければ生きていけない、わけだ。探偵も若い頃だったら、盛大に殴り殴られ、拳銃ぶっぱなし、ハードリカーをがんがんあおり、タバコすぱすぱで、そんなでも活躍できたわけだ。もちろん女性とも疲れ知らずにヨロシクやってるのは言うまでもない。

 さてそんな探偵小説もシリーズ物ともなると、当然主人公は年をとるわけだ。ロバート・B・パーカーのスペンサー然り、ローレンス・ブロックのマット・スカダー然り。パーカーが亡くなったことで、スペンサーともおさらばするしかないが、このシリーズはけっこう最後までスペンサーもスーザンもホークも、身体を鍛えタフを持続し、そして相変わらず絶倫だったと思う。たしか50過ぎてるはずだが。スカダーは早い時期に酒の飲み過ぎで身体をこわし、精神も危なくなって、断酒会なんかに出席してるんだよね。近作を読んでいないから、現状は知らないんだけど。

 さてそこでパトリック&アンジー。作中でアンジーが42歳と話してることから、ふたりとも、そんな歳。スペンサーに比べたら若いし、俺の目から見ても(笑)42なんかまだまだ若い。ところがこの二人の間には娘ができていて、4歳の可愛い盛り。パトリックは生活のために大手調査会社の下請け仕事を甘んじ引き受け、正社員になることを願っている。血と暴力の世界とはおさらばしたいと思っているわけだ。

 そんなパトリックのもとに、過去に関わり合った人達と逃れることのできない事件がもたらされる。またあの血と暴力の世界に逆戻り。しかも相手はロシアン・マフィアなのだ。お~どうなるんだ。たしかに身体は若かったころのようにタフではない、しかし精神は眠りから覚めて闘争本能に火が付いた!さてさてどうなったかな?

 探偵さんのこうした幕引きもあってもいいかなと思い、それを許す自分がそもそも55歳だからなんだな、とも思う。人は誰でも歳を重ねて老年となって行くのだなあ。
ムーンライト・マイル (角川文庫)/デニス・レヘイン
¥900
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パティ・スミス・グループ『Wave』

 聴いたCDや読んだ本が溜まっちゃったので、ちゃちゃっとこの備忘録ブログやっつけないとね。

●パティ・スミス・グループ『Wave』

 パティ・スミス’79年のアルバムで、プロデューサー&エンジニアはトッド・ラングレン。パティとトッドの出会いは'70年に遡る。この年、トッドはザ・バンドの『ステージ・フライト』のエンジニアとしてウッドストックにいた。その現場を訪れたパティは当時まだ無名の詩人でパフォーマー?で音楽ライターだったという。ただその現場で、トッドとパティはウマが合ったのか、とてもうち解けた関係を築いたらしい。『トッド・ラングレンのスタジオ黄金狂時代』に出てくる話なんだけどね。


 その後パティは、音楽ライターとしてトッドのアルバムやその仕事に、好意的な評を書き続けたし、トッドはパティの発表に場によく顔を出した。お互いがその才能を認め合った関係だったわけだ。そして'75年にパティは『ホーセス』でデビュー、パンクの女王と呼ばれる存在となる。わけだ。

 アルバム4作目にしてプロデュースをトッドに依頼、というのが二人の関係から考えて遅すぎたのか当然の成り行きだったのかはともかく、パティとトッドはここで初めて音楽でタッグを組んだわけだ。

 この時期のパティは、フレッド・スミスとの愛のモードに入っていた。バンドやるより、フレッドとの愛の生活を優先させたかったという。そんな時期のパティだから、デビュー時のカミソリのような切れ味のヤサグレ感はない。でも安定感は抜群。トッドはそんなパティとバンドの状態を、無理なく掬い上げた。

 フレッドへのラブソング「Frederic」、続く「Dancing Barefoot」、そしてバーズの「Rock'n Roll Star」と続くあたま3曲で決まりって感じ。ポップな正統派ロック・バンドな感じで、こんなパティも好きですよ。

 そしてパティはこのアルバム発表後、いっさいの活動を止めてフレッドとの愛の巣で専業主婦となるのであります。復活は何年後だったか?'88年に新アルバムを出すまでの9年間、ファンは待たされたわけだ。
ウェイヴ/パティ・スミス・グループ
¥1,835
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五十嵐貴久『相棒』

●五十嵐貴久『相棒』
 時は幕末京の町。将軍慶喜は大政奉還を前に、西郷隆盛との秘密会談へ向かう途中、何者かに待ち伏せされ狙撃される。幸い弾は当たらず無事だったものの、狙撃犯を捕まえなければ大事である大政奉還が危うくなると判断した幕府重臣。そこで犯人捜しに抜擢されたのがな~んと!土方歳三と坂本龍馬。まさかの相棒誕生なのだ!(笑)


 まさに敵同士である土方と坂本が、ここで手を結ぶってのは、土方にしてみれば上役からの命令であるし、坂本にしてみれば、自分が言い出し根回しした大政奉還を潰すわけにいかないという動機があった。まあそんなことでこの珍コンビいや最強コンビが誕生したのだ。わくわく(笑)

 二人は犯人を捜すべく、西郷隆盛に会うわ、桂小五郎に会うわ、会津藩の秋月悌次郎に会うわ、先ずは怪しいとこに探りを入れる。その他中岡慎太郎、沖田総司、岩倉具視、伊藤甲子太郎、伊藤俊輔、井上聞多、新撰組の面々など出演者も豪華で賑やか。

 まあ歴史ミステリのような展開で物語は進行し、そして、、、犯人も知れるわけだが、、、。物語は意外な結末に(笑)後は読んでのお楽しみ。
相棒 (PHP文芸文庫)/五十嵐 貴久
¥780
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