音盤ながし -18ページ目

フジロック 7/31

 7月31日、今回のフジロックで一番印象に残ったのは加藤登紀子だった。すでにポピュラー・シーンでキャリアを積んだ有名なシンガーがフジロックのステージに立つことに少し驚いたが、でも'60年代後半にキャリアをスタートさせ、メッセージ性の高い歌も歌ってきた加藤登紀子とフジロックは相性が良かったと感じた。数あるヒット曲は歌わなかった。歌われたのは「イマジン」であり「パワー・トゥ・ザ・ピープル」であり、目に前にいる若者達に伝えたいメッセージが溢れていた。あなた方ひとひとりの未来は、あなた方ひとりひとりが勝ち取るものだ、と彼女はメッセージを放ったはずだ。加藤登紀子は、逞しく美しかった。バックバンドにはセンチメンタル・シティ・ロマンスの中野と細井そしてベース君が参加、キャリアに裏打ちされた流石の演奏でお登紀さんをサポートしていた。

 シオンの荒ぶるロック魂を支えたバンドは、グルーヴァーズの藤井一彦がギター、井上富雄がベース、
池畑潤二がドラムといった強力な布陣。重心の低いヤサグレたロックをやらせたら、こいつらピカイチだね。聴き応えあったよ。

 砂漠のブルース、北アフリカのティナリウェンはチラ見チラ聴き。移動しちゃビール飲み、移動しちゃビール飲みで、胃も身体も疲れ始めた頃に日も落ちて、せっかくここまで来たんだからYMOも見ておこうってことで最大会場グリーンステージへ。

 YMO、正直今のYMOに興味があるわけじゃないんだけど、導師ホソノがそこで演奏しているのに、素通りなんかできないでしょ(笑)。テクノというよりエレクトロニカっていうらしいサウンド、大きなビジョンも効果的に使い、もう貫禄の演奏。あの広いフィールドが満員御礼で、やはり人気は高いよね。

 そして今回のお目当てウィルコの登場は夜の10時20分。もうそうとう疲れていた。それでもここまで来て見ないわけにはいかないのだ。ギターのネルズ・クライン!ひとりアブナイ空気を身に纏わり付かせて、そりゃもうかっこよかった。バンドは安定感たっぷりのアメリカン・ロック。音はデカイし、とくにベース音がこっちの身体にずんずん突き刺さる。しかし演奏半ばで相棒の帰る時間が来てしまい、
残念ながらフジロックを後にした。
 やはり、フジロックは体力だ。とは毎回思うことなんだけどね。

髙田郁『今朝の春〜みをつくし料理帖 四』

●髙田郁『今朝の春~みをつくし料理帖 四』
 本屋さんに並ぶのが待ち遠しいシリーズも、はや四巻目。ヒロインお澪ちゃんにも、料理人としての自信と落ち着きが伺えるようになったみたい。元飯田町の料理屋つる屋、そして澪達の住む長屋を主な舞台とした江戸市井物であり、また創作料理に燃える女料理人澪の成長物語、もちろん巻末にレシピまで載せてあるように、たんに料理を楽しむ物語としても、とても素敵な『みをつくし料理帖』なのであります(笑)。ほんと好きなんだよ、これ。
 本作では、季節は師走。料理の素材も冬の物が出てきて、さあそれで澪がどんな料理を食べさせてくれるのかが楽しみ。澪が秘かに慕う謎の浪人小松原の素性も、すこしづつ見えてくる。
吉原の料理人又次の燻し銀ぶりも好きだな。ドラマ化されたら又次役は遠藤憲一だねぜったい(笑)。
 真夏に冬を舞台の物語もまたオツなもので、じつにいい歌が出てくる。「白雪の色わきがたき梅が枝に友待つ雪ぞ消え残りたる」という歌。「友待つ雪」とは、後から降る雪を待って、まだ消え残っている雪のこと」。きれいな風情というか、歌った人のきれいな心持ちが伝わってきて、う~んと唸ってしまった。
今朝の春―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-4 時代小説文庫)/高田 郁
¥620
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シュギー・オーティス『INSPIRATION INFORMATION』

●SHUGGIE OTIS『INSPIRATION INFORMATION』
 シュギー・オーティス'74年作品。シュギーと言えば、プロデューサーそしてバンド・リーダーとしてR&Bの大立者ジョニー・オーティスの息子。父の元で、凄いブルース・ギターを弾く少年シュギーのイメージが、俺には強くある。またアル・クーパーの『クーパーセッション』への参加で、オールド・ロック・ファンにはお馴染みなギタリストですね。
 そんなシュギー・オーティスのソロ・アルバムだから、ブルースを期待しちゃうけど、そこはやはり当時の若者シュギー君、これはソウル~ファンクなアルバムなんですね。しかも管弦楽器以外すべての楽器を自分で演奏している。歌はメロウな感じで、バックは以外と機械的にクールにファンクしていて、どこかスライ・ストーンを思わせる。
 思うにこのアルバム、当時はほとんど話題の上らなかったはず。俺もぜんぜん知らなかった。まあ、早すぎた感じはあるね。今聴いて、とても新鮮でぜんぜん古びてないもの。いかしたBGMとして聴けるかっこよさがあるね。
Inspiration Information/Shuggie Otis
¥1,618
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山田太一『空也上人がいた』

●山田太一『空也上人がいた』
 てっきり空也上人のお話しかと思っていた。口から小さな6体の仏像を吐き出したかのような空也上人立像ってあるでしょ、あの印象が強烈で、いつか空也上人さんを調べてみたいと思っていたからね。
 さてこの小説、主人公は27歳の介護士中津草介。そしてその上司にあたる女性ケア・マネージャー重光雅美46歳。介護される吉崎征次郎は80歳をちょっとでたあたり。この3人で物語が廻る。
一人暮らしの吉崎老人がなかなか突飛な人で、中津青年は服とカバンを買い与えられ、自分の代わりに京都へ行ってくれと指示される。京都に着いてからは、携帯で行き先の指示が来る。この京都旅行のモクヒョウが空也上人立像と出会うこと、なんだよね。だからって、空也上人そのひとのお話しにはならない。これは27歳青年と46歳未婚女性の恋愛小説なんですね。19歳の年齢差カップル。どうなるんだいったい?ってことです。
 山田太一はその昔、長身女性と低身長男性の恋愛を描いた『君を見上げて』を書いているけど、こっちはもっと深刻かつ唐突。でも重光さんのカラッとした性格のためか、また飄々とした吉崎老人のせいか、ユーモラスで明るい感じがこの小説には感じられた。読後感良好。
 あと、活字が大きくて読みやすかった、とも付け加えておこう(笑)。
空也上人がいた (朝日新聞出版特別書き下ろし作品)/山田太一
¥1,260
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マニュエル・ゲッチング『INVENTIONS FOR ELECTRIC GUITAR』

●マニュエル・ゲッチング『INVENTIONS FOR ELECTRIC GUITAR』
 70年代初め頃だったか、NHK教育で現代音楽の演奏を見た。そこで印象に残ったのが、アフリカのマリンバというかバラフォンのような木琴を二人の奏者が延々と繰り返しの旋律を叩く演奏だった。ライヒかライリーの作品だったと思う。
 これが所謂ミニマルってやつだったわけだが、このアルバムで聴かれる音楽は、そのミニマル・ミュージックを思わせる。と同時に、90年代によく聴いたケン・イシイのテクノ・ミュージックにも似ているように感じた。
 僕がマニュエル・ゲッチングの名を知ったのは、ジャーマン・プログレの本を読んでのことで、だから凄くプログレっぽいドラマチックな演奏が得意なギタリストかと想像していた。想像していただけで、なかなか聴く機会がなかったんだけど、ひょんなことから本盤を手に入れた。そして聴いてびっくり、プログレというよりはテクノ~エレクトロニカ
って感じで、しかも'74年にこんな音楽を作っていたってことに、ふふふと嬉しくなった。いつの世にも、こんな早すぎた才能の人っているんだね。
 このアルバムは使われている楽器はマニュエル・ゲッチングの弾くエレキ・ギターだけ。それをティアックのテープレコーダーのピンポン録音(懐かしい)により多重録音し制作されたようだ。所謂人力シーケンサーと化して、ギターのエコーを駆使してミニマルな音響を作り出している。これはなかなか快感だ。もともとこうしたサウンドが好きってのもあるけどね。タンジェリン・ドリームよりクラフトワークの方が好きだし。
 ループする音響に乗って時折聴かれる彼のギター・ソロは、ブルース・ロックな感じのフレージングで、やはり彼も、この時代のエレキ・ギタリストなんだなと思わせ、それもちょっと嬉しいね。
インヴェンションズ・フォー・エレクトリック・ギター/アシュ・ラ・テンペル
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