音盤ながし -19ページ目

上林暁『星を撒いた街』

●上林暁『星を撒いた街』
 本を手にし、装幀にふれただけで、この本がいかに大切に刊行されたかが伝わり嬉しくなる。『昔日の客』もそうした本だった。そうです、この本好きにとってたまらない2冊は吉祥寺の出版社夏葉社のものです。

 関口良雄さんの随筆集『昔日の客』に度々登場した私小説作家上林暁、関口さんが敬愛したこの作家の短編小説集がこの『星を撒いた街』。小説の初出一覧によると昭和6年から昭和38年までの7編が収められている。戦争をまたぎ高度成長へと向かう時代だけど、小説からそんな大きな背景は伺えない。

 小説には作者の日常がすくいあげられている。庭の月見草であったり、近所に住む老文学者のことであったり、出版社での営業の日々であったり、精神を病み長期入院中の妻とのことであったり、諷詠詩人の話しであったり、訪ねていった旧友の住む貧しい印刷工場街での出来事であったり、そんな作者の日常が小説となっている。

 これらの小説には天真爛漫な明るさやハッピーエンドはない。どちらかといえば、暗い辛い難儀な話しである。しかし作者は、これらを大声で泣き叫ぶことはしないし、声高に表明しまた同情を得ようという態度は見せない。

 あくまでも静かに語るのである。その静かさの中から悲しみがにじみ出る。辛さの中からうっすらとした光明を感じ取る。
昭和の高度経済成長が始まる前の日本人の生活、大多数の日本人がまだ豊かだとはいえない時代の日本が、この小説の中に息づいている。そこには澄んだ貧しさがあり、貧しさが星屑のように肩寄せ合いキラキラと輝いている。
上林暁傑作小説集『星を撒いた街』/上林暁
¥2,310
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『関口良雄さんを憶う』『レンブラントの帽子』

●『関口良雄さんを憶う』
  バーナード・マラマッド『レンブラントの帽子』

 吉祥寺の出版社夏葉社の2冊。先日読んだ関口良雄さんの随筆集『昔日の客』(これも夏葉社)が、とても心温かくしてくれた読み物だったので、そんな関口さんへの追悼集である『関口良雄さんを憶う』も、どうしても読んでみたかった。
 関口さんは昭和28年に古本屋を始め、また私小説愛好家として上林暁、尾崎一雄の文学書目を自費出版、作家や学者とも付き合いが広く、俳句誌の同人であり、また話し好き酒好きで唄好き踊り好き、座を和ませる達人であった。そして昭和52年、還暦を目前59歳で他界。そんな関口さんを憶う追悼集だから、多くの作家や文学仲間が、愛情あふれる文を寄せている。
 なにが良いかって、その昔の人達の落ち着いた文章が良い。今のようになんでも携帯で用を済ますのと違い、手紙でいろんなやりとりをしてきた人達の文章、
テレビのない時代の書物がメディアの中心だった時代を生きた人達の文章には、こなれた落ち着きがあり、言葉そのものの持つ表現力が良く生かされているように思える。このような、今ではあまりお目にかかれない文章表現がとてもありがたく、読んでいて楽しいひと時を味わうことができた。

 バーナード・マラマッドはユダヤ系アメリカ人作家で、短編集『レンブラントの帽子』に収められた三作品は1968~1972年のものだ。アーウィン・ショー、ウィリアム・サローヤン、デイモン・ラニアンなどアメリカ人作家の短編はけっこう好きなのでコイツも期待大でしたが、う~ん神経症的というか過敏というか、そんな小説世界がちと辛かったかな。
 たとえば「レンブラントの帽子」。ストーリー的にはたわいのないものだが、些細なことにとにかく悩む。当事者にとっては些細なことではないということなのだが、
悩むことが小説になる。こうゆうのって、欧米人の社会の成り立ちと関係があるのかなと思えてしまう。些細な違いなんか玉虫色に解決してしまう日本人社会と、その違いを追求し是正しようと努める欧米人社会。日本人の外交下手、交渉下手って、こうした人間関係に対する精神構造と関係あるんじゃないかな、と思ってしまう。そう思えると、なかなか興味深い人間観察があるわけで、成る程小説家の仕掛けにはまったか、と楽しい思いがわき上がる。
関口良雄さんを憶う/岩波 蔵松
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レンブラントの帽子/著者不明
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いしばしゆみこ&サンセットレビュー LIVE !

 2011年6月26日、津南中等教育学校5学年行事に招かれました。
会場は津南町文化センターホール。まあ、俺達のバンド、メンバー4人の内3人は津南中等のPTAだし、まして石橋は前PTA会長ということで、呼ばれる要素はあったんだよね。

 プログラムには、先ずサッカー部のリフティング・ショー。見せるリフティングってやつで、俺(サッカー部OB)が現役の頃より上手いんだよねみんな。試合に強いかは別にして(笑)。思ったより楽しめたリフティング・ショーでしたよ。

 女子生徒の「ボカロオリジナルを踊ってみた」はとっても素敵でした。ボーカロイド、所謂初音ミクのようなものですか?おじさん詳しくないです(笑)そんな音楽に合わせて踊るんだけど、すらーっと手足が長くてスタイルの良いお嬢さんがミニのセーラー服で楽しそうに踊りました。よかったよ~♪

 バンドは2組登場。自分達が高校で初めてバンドやった頃を想い出し、心の中で「がんばれよ!」と声かけしながら、その演奏を楽しみました。俺達の頃より機材は良いし、上手いよね。

 俺達の前に演奏したのは、元のバンド仲間高橋直樹君。彼も中等のPTA。高橋君はベースの達人で、今回はソロ・ベース演奏を披露。エレキ・ベース1本であれだけの表現力は見事でした。

 さて俺達、今回のライブも自前のPA持ち込みで、つまり生徒バンドのPAもやってあげて、その上での演奏でした。もう本番前に疲れちゃって、五十過ぎると体力ないね(笑)。自分のことを言えば、体力不足から気力不足となり、ギター・ソロなんかさっさと短めに切り上げて、終演後の打ち上げのビールのことを考えながらの演奏でした。後で聴いてみたら、疲れから逆にリキみのない演奏となり、それなりに良かった気もします。そんな俺達の演奏の模様、画像は固定で見栄えはしないけど、初めてYouTubeにUPしてみたので、、、ですよ(笑)。

● いしばしゆみこ&サンセットレビュー、メンバーは石橋優美子(作詞作曲、歌、ピアノ)、貝沢伸一(g)、金井秀樹(b)、島田信宏(ds)


パンドラの箱


初めてのイヴ


SNOW FESTIVAL


大いなる海原へ


再 会


曇り空が好き


ランラララン


大空へ


忘れない

GILLIAN WELCH『The Harrow & The Harvest』

●GILLIAN WELCH『The Harrow & The Harvest』
 ギリアン・ウェルチの新作がまことに素晴らしい。シンプルで力強く、清涼な深みがある。
ギリアン・ウェルチとデイヴィッド・ローリングス二人だけのアコースティック・サウンド。ギター、バンジョー、ハーモニカ、手拍子足拍子を二人が使い分け、アメリカーナの世界を歌う。
 ギリアン・ウェルチというシンガーソングライター、名は知っていたし、誰かに客演して歌っているのを聴いた覚えはあった。けど、ソロ・アルバムできちんと聴くのは初めて。意志の強そうなキリッとした歌声、そして良い曲を書くひとなんだね。遡って聴いてみたい気がした。
 Twitterで誰かが書いていたけど、たしかにロンサム・ストリングス&中村まりの新作アルバムに似た感じで、つまりとても良いアルバムだってこと。
 8年ぶりの新作ってことは、つまりあまりヒットに恵まれたひとではないってことだし、ヒットチャートとは距離を置いた姿勢で音楽をやり続けているんだろうね。頼もしいし、へこたれずにこれからも素晴らしい音楽を届けて欲しい。応援するぞ!超微力ながら。

Harrow & the Harvest/Gillian Welch
¥1,276
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カズオ・イシグロ『日の名残り』

●カズオ・イシグロ『日の名残り』
 カズオ・イシグロがこの小説で
、世界的に権威のあるイギリスの文学賞「ブッカー賞」を受賞したことは、当時日本でも話題となった。長崎生まれで両親が日本人の英国作家ということでの話し。その頃の俺にとって、ブッカー賞はなんだか重い感じがして、難しい小説なんだろうな、と敬遠していた。ところがイシグロの『わたしを離さないで』を読んで、一躍彼のファンとなり、その作品を数冊読み、そして回り道ながらこの有名な小説を読むことができた。静かな、そして深い葛藤がにじみ出る、素晴らしい小説を堪能した。

 小説の舞台は第二次大戦前夜のイギリス。主人公のスティーブンスは執事として、英政界の名士ダーリントン卿に仕えている。この格式高い卿の御館に仕える執事スティーブンスを語り手とした小説となっているので、非常にもったいぶった格式張った語り口が、この小説のトーンを醸し出している。

 偉大なる執事とは、執事の品格とは、スティーブンスは常に心を砕く。それは主人への絶対的な忠誠心でもあるのだが、終章で彼はつぶやく「...私は選ばずに、信じたのです。私は卿の賢明な判断を信じました。卿にお仕えした何十年という間、私は自分が価値あることをしていると信じていただけなのです。自分の意志で過ちをおかしたとさえ言えません。そんな私のどこに品格などがございましょうか?」

 有能な執事を自認しながら主人ダーリントン卿の外交上の過ちに対し、執事の立場上、主人に意見することなどありえず、また自分に思いを寄せていた女中頭の恋心もわからない程、鈍い男だった、そんな後悔がラスト本人の口から吐き出される。

 夕方、海を望む桟橋のベンチで泣くスティーブンス。そんな時、ひとりの男が言う「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚をのばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」...そしてスティーブンスは、新たに自分の気持ちを奮い立たせる。新たな主人であるアメリカ人に、立派なジョークで対応して差し上げようと。

 大事な事を忘れていた。この小説はロード・ノベルでもあった。執事は新たな主人から休暇と旅行を勧められ、主人のフォードで、かつて一緒にダーリントン卿に仕えた女中頭ミス・ケントンの住む町をめざす。その旅をしながら、かつての日々を回想する、という構造になっていて、イギリスの田園風景や田舎町を旅し、そして過去と現在を行き来する小説の構造が、じつに自然で穏やかで、なんというか...巧いのだ。
日の名残り (ハヤカワepi文庫)/カズオ イシグロ
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